錬金の勇者
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プロローグ
真っ青な大空に、ぽっかりと浮かぶ黒銀の巨城。名は浮遊城《アインクラッド》。
酔狂な職人プレイヤーの集団が数カ月かけて測定したところ、なんと基部フロアの直径は世田谷区を丸ごと飲み込むほどあったという。
城内には森林や岩場、湖までもが存在し、プレイヤー達は様々なスキルを駆使して生活している。
全百層からなる巨大は浮遊城は、数千に昇るプレイヤーたちを飲み込んで浮かびつづけてきた。
長きにわたってゆっくりと攻略されてきた浮遊城。現在の最前線は七十四層。
この世界のまたの名は―――――《ソードアート・オンライン》。
*+*+*+*+*
空まで高く伸びる塔。
アインクラッド七十三層、主街区、雲上都市《ホーリーメイト》より東へ三十分ほど歩いたところにある、この層にいくつも存在する塔型ダンジョンの一つだ。
出現するモンスターは飛行する者からしない物まで、人型、非人型問わずに多種多様。攻撃の方法もまた、遠隔から近接、間接に至るまでで、武器も多種多様。麻痺毒などの状態以上を駆使してくるモンスターもいる。この層のダンジョンの多くはたった一人で攻略するのにはあまりにも危険すぎだ。
そんなダンジョンを、たった一人で歩く影が一つ。
黒銀色の長めの髪の毛を垂らした男性プレイヤーだ。その背中にも腰にも、一切の武器は身につけられていない。
確かにSAOには武器を必要としない戦い方も存在する。主に《体術》やその派生スキル《アクロバット》《曲芸》などのスキルがそれだ。
しかしそれらはあくまでも補助用の戦闘スキルなわけであり、それらをメインに据えて戦うプレイヤーは相当の物好きにすぎない。そんなプレイヤーの多くがこの様な最前線近くの階層に来るわけもない。
しかしそのプレイヤーからは一切の気負いも感じられなかった。堂々とした足取りで、輝きに満ち溢れた回廊を歩いていく。
しばらくすると、回廊が途切れ、急に開けた場所が現れた。中央には、さもとって下さいとばかりに豪奢な剣が置かれている。
プレイヤーはそれを手に取るべく、広間に足を踏み入れた。
――――その時。
ビィ―――!ビィ―――!ビィ―――!と、騒音が部屋中に響き渡った。そして、どこからともなく異形達が湧出し始める。その数、ゆうに百を超えるだろうか。
ダンジョン内で出会うトラップでは最悪と言われるトラップ……《アラームトラップ》による《モンスター・ハウス》の出現だ。
丸腰のプレイヤーにとってこれほどまでの危機はないはずだ。しかし、男は全く臆する様子もなく、ただ一言
「……来たか」
と呟いただけだった。
モンスターの一体、ガーゴイルと呼ばれる蝙蝠型のそれが飛び掛かってくる。右手には歪な形の蛮刀を握っている。ガーゴイル系統モンスター、《ガーゴイル・ウォーリアー》だ。その蛮刀の刀身が鈍く光り輝き、攻撃のスピードが格段に変化する。
《ソードスキル》……。この世界をこの世界たらしめている秘技。無限に近い数設定されたそれは、いわば必殺技とでもいうべき存在だった。
ガーゴイルの戦士の斬撃……曲刀系ソードスキル《リーバー》が、プレイヤーに迫り………
カキン、という小さな音と共に、静止した。
「!?」
ガーゴイルが驚く。本来単純なアルゴリズムでしか動かないモンスターも、時折このような感情を見せることがあった。
「もらうぞ」
男はガーゴイルに向かって、剣を抑えていない左の拳を振りぬく。その拳はガーゴイルの人によく似た顔面にめり込み、その肉体を吹き飛ばす。
そして男の右手には、先ほどの蛮刀だけが握られていた。
「ふむ……優先度はレベル六十クラスか……多くてレベル三十片手剣四つだな……」
湧出したモンスターたちを見回すと、
「よかろう。―――――《等価交換》」
直後。男に右手に握られた蛮刀が融解した。融解した蛮刀は形を変え、四本の白銀の片手用直剣に姿を変える。
本来ならば有り得ない光景だ。ソードアート・オンラインの順当なスキルに、このようなスキルは存在していなかった。
ブン、と男が手をふるうと、四本の片手剣は周囲にいたバードマンの腕を切り払い、それぞれの持っていた武器――――槍だった――――を腕ごと地面に落下させた。
すぐさま地面を蹴ってそれらを回収した男は、先ほどと同じ言葉を唱える。
すると、四本の槍が融解し、新たに六本の白銀の片手剣が作成される。そして男の号令と共にそれらもまた飛翔し、先ほどの四本と共にモンスターの腕を、そこに握られていた武器を切り落とし、男がまたそれを別の武器へと変換する。
それをただただ繰り返す。その度に作成される武器は数を増し、武器を持つ腕を切り取るだけでなく、モンスターたちの肉体をも切り刻み始めた。
銀の燐光がきらめく。切り裂かれた異形達のポリゴン片が舞う。フロアはいつの間にか、氷の結晶の様な輝きで覆われていた。
いつの間にか、フロアを埋め尽くしていた異形達は跡形もなく消え去っていた。出現から消滅まで、わずか二十分足らず。ちりちりと頭上から銀色の輝きが降り注いでくる。
百に上る異形達が駆逐され終った時、そこに残っていたモンスターは一体。しかしそのモンスターは、他のモンスターとは外見も、纏う雰囲気も異なっていた。
四枚の翼をもった獣。胴体は獅子、顔は鷲……伝説上の生物、《グリフォン》。宝を集め、たからを守るとされる守護獣だ。
纏う雰囲気から察して、この異形の守護獣こそが、この塔を守る《ネームドモンスター》……俗にいう《ボスモンスター》というやつだ。
「ボスモンスターのお出ましか。いいだろう」
男は今や二百を超えた白銀の刀剣たちを自らの周りにまとわせた。そして呟く。
「《等価交換》」
二百超の刀剣達が、一斉に融解する。それらは一つに練り上げられ、凝縮されていく。生成が終わった時、そこにあったのは、一本の美麗な長剣だった。
白銀の刀身は今までの剣となんら変わるところはない。しかし、その剣に施された豪奢な彫刻は今まで無尽蔵に作られてきた剣たちとは明らかに一線を画す壮麗さだ。
男は長剣の柄を両手で握ると、腰だめに構え――――一気に突進した。同時に、グリフォンも前足を高々と掲げて、弾丸のように突進してくる。両者は広間の中央で激突し、突風が吹き荒れ、閃光が炸裂した。
果たして――――――立っていたのは、男の方だった。真っ二つに引き裂かれたグリフォンは地面に崩れ落ちると、無数のポリゴン片へと爆散し、消滅した。同時に、白銀の長剣も、白い光となって男の手から消失する。
フロアには、男と、部屋に安置されていた美麗な長剣が残るのみだった。おそらく先ほどのグリフォンは、この長剣を守るために設置されたモンスターだったのだろう。
「レベル九十クラスの剣か……?こんな辺鄙なダンジョンにあるにしては珍しい代物だな……。いいだろう、もらってやる」
男は長剣に手を伸ばすと、一思いにそれを引き抜いた。思いのほか重量のあるそれを持ちあげると、タップしてウィンドウを呼び出す。優先度は『レベル96』。最前線で戦っている攻略組が保持する、最強クラスの装備に匹敵するアイテムだ。銘は《Boundary sword empty》――――《空の境界の剣》。
「なるほど、なかなかいいじゃないか」
男はそれを構えると、呟いた。
「《等価交換:魔法鉱石》」
瞬時に流麗な長剣は、こぶし大のサイズの、透き通るような青い宝石へと変貌した。男はストレージにそれを収納すると、フロアを見渡す。ほかには何もない。
ならばもう、ここにいる必要はない。
「……帰るか」
男は、入ってきた回廊とは反対側に位置する、フロアの外に続く回廊に向かって足を進めた。
後書き
初めまして、トリスメギストスです。『錬金の勇者』、いかがでしたでしょうか。小説初心者による駄作ですが、これからも応援していただけると嬉しいです。
執筆に関するアドバイスや、物語への感想などをお待ちしています。
どうか以降もよろしくお願いします。
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