ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~
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一周年記念コラボ
Cross story The end of world...
4人の異端者達―Heretics ―
「………っ、また知らないところか?」
助かったのはまあ良いとして、土地勘の無い場所(先程も大差ないが)に移されたとしたら洒落にならない。と、その時。
「……そこに居るのは誰だ?」
「…………っ!?」
振り向くとそこに居たのは長身の青年、さらにその後方にも2人、大分年下(多分)の少年と同年代っぽい、男だ。
「……えっとだな。誰かと言われても、『水城螢』と答えるしか無いが……」
「……俺は、『鈴木燐』です」
「ん。で、後ろのお2人は……?」
長身の青年――燐が眉をピク、と動かして後ろを振り返る。どうやら彼も気がついていなかったようだ。
「僕は『小日向蓮』だよ!」
「……えっと、『如月優』だ」
やたら元気なちっこい少年とまだ警戒している様子の同い年位の男。ちなみに、このシュチレーションの場合、正しい態度は後者だ。皆さん、心掛けましょう。
「オッケー。……でだ、誰かこの状況分からない………みたいだな」
全員が全員困惑した表情をしていたので、俺はすぐに話を変える。何よりも大切な事、すなわち、どうやったら帰れるか。
「ちなみに、こんな世界に来てしまった原因に心当たりは?」
「……鏡に吸い込まれた」
「……同じく」
「鏡にさわった」
「なーる。俺も『鏡』に触れたらこんな事になった。……つまりはその『鏡』が原因か」
4人の共通した『原因』は見つかった。
しかし、それではまだ弱い。足りない部品は、俺達を呼び寄せた『因子』とSFにお決まりの『目的』だ。
自分が持っている情報に手がかりは無し、さっきの様子では他3人に答えを求めても不安を煽るだけだ。考え込んで思考の海に沈みそうになった瞬間、背後の物陰に気配が『湧いた』。
「「「誰だ」」」
「んー、誰~?」
またしても1名ほどリアクションがおかしいが、それがこの子のパーソナリティーなのかもしれない。
現れたのは、意外を通り越して誰も予測出来なかった人物。
「お前は……!!」
「久しぶりだね」
現れたのは深紅の鎧に身を包んだ、白髪長身の男―――聖騎士《ヒースクリフ》
ヒースクリフは固まったままの俺達を一別し、あの感情の読めない不思議な笑みを浮かべる。
「私は全員を知っているが、自己紹介は済んだかい?」
「……どうゆう事だ」
低く、脅すような口調で声を上げたのは『如月優』と名乗った俺と同年代らしき男。
「言った通りだよ、『ゲツガ』君。私は―――いや、こう言った方が適切だな『私達』は君達の世界に居た『茅場晶彦』。その統合思念体だ」
『君達の世界』―――まさか?
「全員至ったようだね。そう、君達は異なる世界の住人で、決して同時に存在し得ない『異端者』達だ」
「待て待て。要するに数多のパラレルワールドにそれぞれ居た俺達が一堂に会してしまったのは分かった。『異端者』って何だ」
不遜なその物言いに気分を若干害した俺は不機嫌に言葉を返す。
「他の世界と違って唯一『ソードスキル』の製作者が違い、またそれを作り上げた、第100層《紅玉宮》の門番《反逆者》、《紅き死神・レイ》こと水城螢。
本来重複することの無いスキル《二刀流》の2人目の使い手にしてその非凡な戦闘技術で《英雄》を導いた《黒き導き手・リン》こと鈴木燐。
彼の世界最年少ながら『六王』の一角を占め、数多の強敵を葬り続け、遂には禁断の《心意システム》、《ブレインバースト・プログラム》を手懐けた《冥王・レンホウ》こと小日向蓮。
筋力一極型ながら高い機動力と奇抜な発想により《システム外武器・弓》を開発し、更には謎のウイルスプログラムの《異能》を操る《ホワイトバレット・ゲツガ》こと如月優。
―――この4人を《異端者》と呼ばずして何と言う?」
「「「「………………」」」」
話の流れからしてパラレルワールドでは全員元SAOプレイヤーで、中々やんちゃな人達だったらしい。
納得した様子の俺達にヒースクリフは1つ頷くと単刀直入に言った。
「では、本題に入ろう。単刀直入に言う、ここは4つの未来が混ざった世界。君達の4つの世界が入り交じった反動で地球の各地帯で未曾有の災害が起き、人類はほぼ滅んでしまった。『現在』、地球は異世界よりやって来た《魔物》が徘徊する場所になり、荒廃した土地しか無い。未来を救い、君達それぞれの『過去』に戻る方法はただ1つ。《刻の塔》に住む《魔女》に時間の核である《アカシック・レコード》を起動させ、元の世界に戻してもらうことだ」
そう言ってヒースクリフが取り出したのは厚さ5cm、直径10cmの歯車。投げられたそれを俺が手のひらで受けとると、そのまま静かに消えた。
「おい……消えたぞ」
「心配する事はない。《ストレージ》に格納されただけだ」
「は?」
無表情のままヒースクリフは左手を持ち上げ、広げた掌から黄金の光を放った。あまりの眩さに一瞬目を瞑って開けると自分の姿が変わっていた。
黒い革製の防具に深紅のフードマントさらに髪の毛は銀髪に変化ていた。この調子だと目も紅くなっているかもしれない。その姿は正しくSAO時代の俺《レイ》だった。
まさかと思って辺りを見回すと、他の3人も姿を変えていた。
俺と同じく黒の革防具、そしてその上に黒衣を纏った燐はどこかキリトを想起させるものだ。
目線を下に落とすと、俺のマントより鮮やかな紅、血色フードコートに顔の半分を覆う漆黒のロングマフラー姿に変化した蓮。驚きのあまり見開かれたその目は血色で俺よりよっぽど死神らしい。
最後に優はここまでどちらかと言えばドきつい色を目にしていたので若干新鮮だった。例に漏れず革防具だが、そのコンセプトは白。元々の顔立ちもあってどこかの貴公子のようだ。
「生身で戦うよりかはましだろう。君達の身体能力及び特殊な技はSAO最終データに基づいて上書きされた。ダメージはHP減少に還元され、ゼロになれば死亡。なお、部位欠損レベルのダメージは還元されず、修復も出来ないのですぐ止血するように。何か質問はあるかな?」
……簡単に解釈するとすれば、『ルール』はSAOとほぼ同じだが大ケガだけは出来ない、という事か。状況を丸のみして納得しているのは俺……と後、蓮ぐらいなものか。
残りの慎重派2人は予想を裏切らず、それぞれ質問した。
「そもそも、なぜあんたがこんなこと出来るんだ?」
と、燐。
「辺りをうろうろしている魔物以外の敵はいるのか?」
と、優。
この質問が出るのも無理もないだろう。あのゲームに囚われ、おそらく全員がその事後のALO事件にも関わるという異常事態を経験したとはいえ、コレは現実を逸脱し過ぎている。
燐と優が至った疑問に残りの2人、螢と蓮が至らなかった理由は至極単純。
『そうゆうものか』と、即座に納得してしまうほど異常事態に慣れすぎている、所謂『歳不相応』な経験を有している。
あるいは『難しいこと考えないで取り合えず殺っちゃえばいいよね』という野獣の理論を有しているからだ。
断じて2人が馬鹿な訳ではない。
ヒースクリフは優秀な生徒の質問に答えるように微妙に微笑みながら応じた。
「君達が目指す『刻の塔』は全部で3階層あり、1・2層にはその層を守護する魔物がいる。3層には君達が会うべき塔の主である魔女が住んでいるのだ。……彼女は気分屋でね。場合によっては力ずくで説得する必要があるかもしれないな」
ヒースクリフはそこで一旦言葉を切ると、少し考えた末に今度は笑みの質をあの何か意味深なものに変えた。
「リン君の質問は最上階の魔女が知っているだろう。機嫌が良かったら訊いてみるといい。………そろそろ限界のようだな」
ヒースクリフは突如笑みを引っ込めると、健闘を祈ると言って姿を消した。
「おい……!!」
優がそれを止めようとするが、その手は空を切る。沈黙がその場を支配した。
「………ん?」
突如としてツンとした刺激臭が鼻を突き、体を強ばらせる。辺りを五感と《索敵》スキルで見渡すが、これといった危険は潜んで居ない。
「どうした?」
「あ、いや……」
急に辺りを警戒し始めた俺に不信感を感じたのか、燐が誰何を飛ばしてくる。おかしな臭いを指摘しようと、適当な言葉を探すが、言葉が出てくる前に脳内でその臭いに対する警鐘が鳴った。
「全員、息を止めろ!!皮膚をなるべく覆って外へ!!」
「何?」
「後で説明する!!」
ヒースクリフが消えた方とは別の方向に瓦礫の隙間を発見すると、そこから外へ飛び出す。灰色の空の下、俺達が出てきた建物の数十メートル先からその臭いはしていた。
臭いがはっきりした所で、その正体を確信する。
「何、あの液体……?」
「臭いの原因さ。離れるぞ、アレは猛毒だ」
俺の次に出てきた蓮の頭を押して逆方向に走り出す。さらに数十メートル離れた所で歩調を歩きに変え、目線に促されて説明を始める。
「あの臭いはサルファマスタード―――日本語で硫化クロロジエチル。皮膚に触れると激しい炎症をおこす毒ガスだ。アレは液体だったが、気化した気体も同じ性質を持ってる。何でそんなものがここで湧いてるのかは知らんが、おかげで一部の魔物の正体が分かった」
「硫化クロロジエチル……確か『人為突然変異』の誘導物質、だったか?……なるほど」
側頭部を掻きながらさら、と俺の言わんとした事を奪って納得したのは燐。あんた何者だよ……。
要するに、この世界には2種類の魔物、異世界産の『怪物』と地球産『巨大獣』がいるという事だ。
「そうだ。あいつらは元々普通の生物。それがあのガスを吸ってあんな姿になっちゃったんだな」
「2人とも物識りだね~」
「……もしかして平行世界では一般常識なのか?」
「「さあ?」」
奇しくもセリフが被ったが、お互い気にする事もなく歩を進める。やむを得ず進む方角を選んだ訳だが、しばらく進むと巨大な螺旋階段が目の前に現れた。
上を見上げると円盤が浮いていた。いかにも怪しげなオブジェクトなのでそれを調べようと、螺旋階段に向かって歩いていく。
「……ッ、かわせ!!」
残り、数メートルの所で殿に居た優から警告が飛び、4人は左右に転がって巨大な影をかわした。
「……合成獣、こいつも突然変異か?」
あるいは、実験動物の生き残りか。
「ふん……どちらにせよ、もう無力ではないから逃げる理由はないな」
紅蓮の大太刀を実体化させると、それを中段に構える。それに続いて燐が片手直剣、優が両手剣、蓮が……何だアレ、針金?
「ワイヤーだよ~」
俺の問いかけるような視線に気がついて蓮がのほほんと答え、さらに続ける。
「あのさ1つ提案なんだけど、この格好でリアルネーム呼ばれるのも変だから、アバターネームで呼び合わない?」
俺達の気がそれた事を悟ったキメラが体当たりを敢行するが、それは軽々とかわされてしまう。
「いいんじゃないか?……じゃあ、俺はリン。って変わらんか」
「あはは。僕も変わらないね」
「俺はゲツガだ」
「レイだ。……さてと、団体さんも来たみたいだし、適当にあしらいながら階段昇りますか」
なお、この会話は新たにやって来たキメラや何だかよく分からない魔物の猛攻をかわしながら交わされた会話である。
「「おおおおぉぉぉぉっ!!」」
螺旋階段までの道を俺とゲツガが切り開き、レンがワイヤーでその後ろから襲いかかる魔物を切り刻む。
リンはそのレンの注意が回らない背後を守りつつ、全体の状況を的確に知らせてくれる。
急ごしらえにしては上等な連携によって螺旋階段に着くまでに大した時間はかからなかった。
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