真・恋姫無双 矛盾の真実 最強の矛と無敵の盾
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崑崙の章
第15話 「それで、私はどうしたらいいのかな?」
前書き
2話に分けて、後半がようやく5千字。
書き始めると簡単に一万超えます。まあ、その分カツカツだったんですが……
ともかく、続きをどうぞ。
―― 孔明 side 漢中 ――
「朱里ちゃん、雛里ちゃん!」
「桃香様、愛紗さん、ご無事で!?」
私と雛里ちゃんが王座の間で各方面に指示を飛ばしていると、視察に向かっていたはずの桃香様と愛紗さんが駆け込んできました。
無事でしたか……よかった。
「ご無事……とは、黄巾の残党が迫ってきているの知っているのか?」
「たった今、雛里ちゃんの細作が知らせてきました。至急、迎撃するように指示を出し始めたところです。桃香様たちは……」
「私達は、華佗さんって言うお医者さんに教えてもらったの。それですぐに引き返したんだけど……」
「それは大事無くて何よりでした。細作の話では、敵の数はおよそ五千。漢中の南から南東周りでこちらに向かってきているそうです」
「五千……かなり多いな」
愛紗さんが唸るのも無理はありません。
現在、この漢中での兵力は六千弱。
兵力差は、ほぼないに等しいのです。
「先日来の不正の取締りで、かなりの数の兵を追放しましたので……募兵が間に合いませんでした。申し訳ありません!」
「今言ってもしょうがないよ……それよりも、どうやって追い払うかを決めなきゃね」
私の言葉に、笑顔でそうおっしゃる桃香様。
……流石、私達のもう一人の主と言えるでしょう。
「はい! 迎撃案ですが……今回は、漢中の手前まで敵を誘き寄せる事にします」
「外城まで敵をひきつけるだと!? 民に被害がでるかもしれんぞ?」
「いえ、今回はその民に桃香様の能力と、皆さんの強さを見せ付ける好機なんです。危険なのは否定しませんが……被害をださずに勝てばいいんです!」
そう力説する私に、桃香様も愛紗さんも驚く。
……ちょっと見栄を張りすぎたかなぁ?
「あう……えっと、敵の数は五千と多いとはいえ、所詮は黄巾の残党です。ちゃんとした指揮で動いているわけじゃないので、勝算は十分にあります。えっと……ひ、被害も出さなくて済むようにしますから」
雛里ちゃんがたどたどしくも、力を込めて力説する。
私はその言葉に頷きながら、桃香様を見た。
「ですので、愛紗さんは防衛部隊の総指揮を。桃香様は、外壁の上で兵を鼓舞してください」
「私はいいが、桃香様を危険に晒すわけには……」
「ううん。私も一緒に出るよ」
「桃香様!?」
桃香様の出陣の意思に、愛紗さんが声を上げる。
私も、そして雛里ちゃんも驚いている。
「危険です! 私が指揮を取りますので、桃香様は……」
「私には、ご主人様のような無敵な力はないかもしれない。でも、自分がやっている事、自分が指示する事を他人任せにして後ろにいるのは、もう二度としないって決めたんだ。だから、私も前線に出るよ」
「桃香様……」
「いざという時、危険を共にしない人物に、人は絶対ついてこない……ご主人様の言葉だよ、愛紗ちゃん」
「………………はい」
「私は誰かの後ろで待っているだけなんて、もうしない。したくもない。だから、私は例え非力でも皆と一緒にいます。今後、これは私の絶対命令とします。朱里ちゃんも雛里ちゃんも、覚えておいてね」
……私は、本当に桃香様を見損なっていたのかもしれない。
桃香様が、ここで前線に立つと言い出すなんて、今の今まで思いもしなかった。
私達がご主人様によって変わった様に、桃香様も変わられようとしている。
今の今まで……桃香様を徳だけの人物と侮っていた自分を恥じた。
「……わかりました。でしたら今回、防衛は外壁を使わず、漢中手前での野戦にしたいと思います」
「なっ……!? どういうことだ、朱里! 桃香様を殺すつもりか!?」
愛紗さんが怒るのも当然です。
外壁に守られている限り、桃香様に限らず、兵の生存率も格段に上がるのですから。
でも、今回はそれをあえて破ります。
「桃香様……今回、相手との兵力の差はほとんどありません。本来でしたら防衛戦をすれば負けはしないでしょう。ですが、それをあえて野戦にして敵を倒します。それでも……それでも前線に出られますか?」
「出るよ、もちろん。例え私が死んだとしても、それを恨みに思うつもりもないし、そんな事にならないから大丈夫」
「桃香様!?」
「大丈夫だよ、愛紗ちゃん。朱里ちゃん、そして雛里ちゃんという二人の大軍師がいるんだもん。絶対に大丈夫。私はそう、信じてる」
その言葉に、私と雛里ちゃんはお互いを見て、その場に跪きます。
「桃香様……改めて誓います。盾二様がお帰りになるその日まで、私達二人は、あなたを盾二様と思い、誠心誠意お仕え致します」
「私達二人に……どうぞお任せください」
「うん。信じてるよ、二人とも!」
私達の言葉に、にこやかに笑う桃香様。
この方の徳は……おそらく大陸一でしょう。
「それで、私はどうしたらいいのかな?」
―― other side 漢中近郊 ――
太陽が赤く染まり、すでに刈り取られた田園を紅に染めてゆく。
その田園の土を穿り返すように、荒々しい集団が武器を手に歩いてゆく。
その集団の腕には、皆同じような布が巻かれており、その色は黄色で統一されていた。
黄巾党――その残党の集団、五千があと数里の漢中へと進軍していた。
「ちぃ……この辺の邑なら食料がたんまり手に入ると思ったのによ……」
森の間を抜け、小高い丘へと昇る道中。
賊の一人が周囲の刈り終えた田畑を見て呟く。
「田や畑は収穫済み、邑は新しくなった漢中の政策で邑ごと移動が決まって人っ子一人いやしねえし……」
「やっぱ巴郡あたりにいったほうがよかったんじゃねぇか?」
その男の呟きに、周囲の賊が嘲るように笑い出す。
森で拾ってきた胡桃をかじりながら、傍にいた一人が溜息と共に呆れた声を出した。
「馬鹿言え。お前は新参だからしらねぇかもしれんがな。巴郡の商人を襲ってみろ、その日のうちに呪い殺されるぜ」
「ああ。あの街に手を出した盗賊は、悉く酷い死に方してるしな……巴郡襲うぐらいなら、白帝城に戻って黄忠と戦ったほうがマシだぜ」
「そんなにかよ……よく錦帆賊のやつら平気だったな」
男は、錦帆賊を思い出す。
頭目らしき男の濁った目を思い出して、思わず震えた。
「錦帆賊は、街自体は襲わねぇよ。やつらが相手にしていたのは、巴郡にくる商人相手だったからな。それに、噂によるとその錦帆賊も悉く打ち首になって、川縁に首が晒されたらしい」
「げ……じゃあ、厳顔の兵を殺した俺達もやべぇじゃねぇか」
「だから漢中にきたんじゃねぇか……ここは最近刺史になったばかりの劉備が治めているが、まだちゃんとした統治ができてないらしい……今が狙い時なんだよ」
「あの丘を越えれば眼と鼻の先だ……お前ら、そろそろ準備しろよ!」
先頭を行くこの集団の頭目が、声を上げる。
その言葉に、それぞれが武器を取り出して点検し始めた。
「よーし……準備はいいかあ! もうすぐ夜だから、中に入ったら火ぃつけまくって奪えるもんは奪いつくせ! いくぞぉ!」
「「「オオッー!」」」
男の言葉に掛け声を上げる賊の集団。
そして頭目が丘を昇って、その眼前の漢中を覗こうとした瞬間。
「お前ら! そこまでなのだ!」
突然の声に周囲がざわめく。
「だ、だれだ!」
「どこからだ!?」
「ガキの声だったような……」
そう互いに顔を見合わせた瞬間。
「弓、放てー!」
その言葉は、背後からだった。
その声と同時に、背後の森から矢の雨が降ってくる。
「うわ、伏兵だ!」
「奇襲だ!」
「ぎゃああー!」
「やべえ、前に逃げろ!」
突然の森からの矢の雨に恐慌状態になる賊たち。
頭目の男は、その状況を収拾する能力はなかった。
「丘の反対側に逃げろ! 矢の来ないところにいくんだ!」
そう言って丘を越え、漢中側へと走る賊の一人が立ち止まった。
「なっ……」
男の目の前に、漢中の外壁の前に立ち並ぶ兵の姿に愕然とする。
距離にしておよそ二里(一km)もない場所に横一列に並んだ兵が弓を引き絞っていた。
そしてその閉切られた大手門の前に、一人の女性が悲しげな顔で立っている。
「降伏してください。このままでは全員死にますよ。いまなら、まだ間に合います」
そう言う女性の言葉と雰囲気に、思わず剣を取り落としそうになる。
だが……男にとって残念だったのは、すぐ傍に頭目がいた事だった。
「ざけんな! どう見ても、たかが二千程度しかいねぇじゃねぇか! 後ろはかまうな! 漢中に入って、奪えるもん奪え!」
その言葉に、はっとして剣を握りなおす。
周囲の賊も、思い至ったように剣を握りなおして、丘を駆け下り始めた。
次第に近づいてくる黄巾の残党。
女性――劉備は無念そうに目を閉じた後、剣を抜いて眼を開けた。
その眼は――覚悟を決めた瞳だった。
「弓隊、放て!」
距離にして一里(五百m)を割り、剣を持った賊の血走った形相が確認できる距離。
劉備の言葉に、並んだ兵が一斉に矢を放つ。
その矢は放物線を描いて、先頭集団へと降り注いだ。
だが、二千の矢とはいえ、相手は五千。
しかも遠弓では届かぬ矢も多く、一斉射で打ち倒せるものではない。
「殺せぇ!」
頭目の言葉に、距離を詰めようとする賊の集団。
だが――
「いまだ! 関羽隊、突撃!」
「馬正隊、出るぞ!」
城の外壁、その両端から関羽と馬正が率いる、それぞれ一千の兵が飛び出した。
その兵は全員が騎馬に乗っており、その勢いのまま賊の先頭へと左右から突進しようとする。
「さらに伏兵だと!?」
思わず先頭集団の足が止まる。
さらにそこに矢が降り注いだ。
「ぎゃっ!」
「があっ!」
突出していた先頭集団と弓矢隊の距離は、先程の三分の一。
距離にしておよそ五十丈(約百六十五m)ともなれば、放物線を描く弓でも十分な殺傷能力のある距離である。
先程とは比べ物にならない矢傷を負って倒れていく仲間に、頭目が怯んだ瞬間。
「鈴々を忘れてもらっちゃ困るのだー!」
丘の後方から張飛率いる歩兵隊が、後方を遮断するように圧力をかける。
そして先頭集団にも、関羽・馬正の騎馬隊が蹂躙した。
「ひ、ひぃっ!?」
「馬で轢き殺してかまわん! 叩き潰すのだ!」
「馬正隊に遅れをとるなよ!」
背後を攻撃され、前方からの二隊による騎馬隊の突撃に、堪らず左右へと散ろうとする賊たち。
だが、そこへ劉備の弓矢隊の端にいた孔明と鳳統が叫ぶ。
「右翼弓隊! 右へ逃げた黄巾に一斉射! すかさず抜剣してその先端に突撃します!」
「えっと、左翼弓隊、左に逃げた黄巾さんに一斉射して、剣を抜いて先端に突撃……首もいじゃってください」
二人の苛烈な指示が飛ぶ。
一斉射の後に放った弓を放り捨てて、剣を抜剣する元警備兵の弓兵達。
彼らは、宛から劉備たちに同道し、鍛え上げられた関羽、張飛、馬正隊の精鋭だった。
その力量は既に官軍の正規兵よりも精強である。
その上、士気は主である劉備が前線に立つ事により、最高潮といってよい状態だった。
それは関羽や張飛、馬正においても同様だったのである。
「桃香様に傷一つ負わせてなるものか! 黄巾の獣ども! お前らなど我が青龍偃月刀の錆にもならん! さっさと死んでしまえ!」
「お姉ちゃんには、指一本触らせないのだ! うりゃりゃりゃりゃぁーーー!」
「我が主より託された劉備殿を傷つけては、主に面目が立たぬ! なんとしても後方に抜かせるな!」
それぞれが剛将と呼んでも過言でない力量……特に関羽と張飛は個人でも大陸有数の武将である。
その力は、賊となった黄巾など舞い落ちる枯葉に等しかった。
四方から包囲するように押し込めた賊を、次第に圧迫していく。
そして夕陽が完全に沈み、外壁の上に灯火が灯る頃。
全ての賊を打ち倒し、歓声に沸く外壁の民達の声援を一身に受け、劉備は剣を掲げた。
「黄巾の残党は悉く打ち倒しました! この劉備とその臣がいる限り、漢中への横暴は許しません!」
その宣言は、時を置かずして周辺諸侯へと知れ渡るのである。
―― 盾二 side 嘉陵周辺 ――
巴郡を旅立って、早五日。
道中の雨で少し予定が遅れながらも、ようやく辿り着いた。
「あそこが目的の場所じゃな」
道を案内してくれた人のいい農家のおっちゃんが、指で指し示す。
その指の先にある霊峰ともいえる山々を見て、俺は感嘆の息を漏らした。
「あれが……」
ミニヤコンカ……世界最高峰ともいうべき堅峰。
二十一世紀でも登頂に成功したのは二十名足らずであり、発掘に携わったアーカムの調査隊にも多数の行方不明者を出した魔の山。
あそこに……あるはずだ。
そう……
「于吉が言った……仙人界への入り口が」
後書き
早く雛里ちゃんに「@@もげろ」と言わせたいです。
さて、次回からはまた盾二のお話です。
この分だと黄巾の章を超えるかどうかの話数になりそうです。
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