| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

とある碧空の暴風族(ストームライダー)

作者:七の名
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

常盤台中学襲撃事件
  Trick34_おかげで私は(汗で)ぐっしょりよ




≪小烏丸≫がA・T(エア・トレック)練習を始めてから数週間後。

佐天涙子は学校に着て早々、机に突っ伏していた。

A・Tの練習は、最初こそは基本中のキホン、歩く(ウォーク)から始まった。
ローラーがついた靴底では、転ばないように歩くだけでも初心者には難しい。

苦労しながらもどうにか歩く(ウォーク)を覚えて走る(ラン)の練習に入った。

だが、ここからが地獄だった。



「今日の練習はここまで」

「は、はい」

 バタン



終了の合図と同時に地面と仲良しになるのは毎日の事。
練習内容はご想像にお任せします。

そして帰りは自分で歩けず、信乃が運転する車で寮まで送ってもらっていた。


「どうしたのルイコ? 最近疲れてるみたいだけど」

授業前に眠りかけていた佐天を起こしたのは、クラスメイト。
アケミ、むーちゃん、マコちんの仲良し3人組。

「いやね、詳しくは言えないんだけど秘密の特訓を受けてるのよ」

A・Tのことは氏神クロムから「禁則事項です(某未来人風)」と言われているので、
例え友人であろうとも話してはだめだ。

「ふーん。そう言うなら細かくは聞かないけど、大丈夫? 無理したらダメだからね」

「一体何をやったらそんなに疲れるのよ?」

「ちょっとした特訓、って思ってたんだけど、本当に地獄の特訓よ」

佐天が幻想御手で倒れる直前の信乃の言葉は
 『佐天さんも頑張ればできますよ。やりかたを教えましょうか? 地獄の特訓で』
と言っていた。

自分を励ますためにふざけて言ったと思っていたが、本当に地獄の特訓だった。

信乃は全く体を鍛えた事のない佐天のために、ある程度は甘い特訓をしているだろうが
佐天は付いて行くのが一杯一杯だった。

一緒に特訓をしている黒妻は元々体格もよく、鍛えていたので佐天ほど疲れては
いなかった。1日の訓練が終わるころには、その場で倒れ込み30分は動けないほどに
疲労困憊になっている。

友人たちに聞かれて、思わず訓練のことを思い出してしまってテンションが下がった。

「本当に参っちゃうよ」

「へ~、どんなことやってんの?」

先程聞かないで欲しいと言われたので、今の言葉は興味本位の呟きが出ただけ。
本当に答えてもらおうとは全く思ってなかった。

だが下がった佐天はテンションのせいで内容を独り言のように漏らした。

「上下運動(壁の上り下り)をもっと速くしろとか」

「上下運動?」

(なんの上下運動なんだろう?)

「体(の関節)が柔らかい方がいいからって(柔軟体操で)後ろから(背中を)
 グイグイ押してくるし。

 あ、股関節が柔らかいのは褒めてもらえたな~(開脚前屈の意味で)」

「柔らかい方がいい? 後ろから押してくる!?」

(柔らかい方がいいって、まさか胸のこと!? お尻のこと!?
 それに後ろからグイグイ押し込まれるって!?
 股関節が柔らかい!? 開いてなにしてるの!? M字開脚!? 挿れられる!?)

押してくると言ったのに内容が想像力もとい妄想力で変換されている。
そして目に浮かぶは淫らな姿の佐天涙子。
涙目で頬を赤く染めている。もちろんベッドの上で は だ か 。

「毎日毎日、足腰がガタガタになるまで(練習を)やるしね。
 おかげで私は(汗で)ぐっしょりよ」

「こ、腰がガタガタになるまでヤる!? グッチョリと濡れている!?」

「ちょ、涙子、なにヤってんのよ! 自分の体を(貞操的な意味で)大事にしなさい!」

「? そんなに心配しななくても大丈夫よ。自分から(A・Tを)やりたいって
 お願いした事だし、疲れるけどその疲れが気持ちいし楽しいもの」

「自分からお願いした・・・・」

「疲れるけど楽しいって・・・あんたどこまで汚れてしまったのよ・・・・」

「そんな、純粋で可愛い涙子はどこにいっちゃったの・・・・」

「????」

さすがに話がかみ合っていないことに気付いたが、何をどう勘違いしているのかは
全く分からずに佐天は首をかしげた。

「おはようございます。みなさん朝から集まって仲が良いですね。
 あれ、なんだか4人とも元気ないですけど、どうしたんですか?」

遅れて登校した初春が4人の所に来た。

しかし特訓の疲労で机に突っ伏している佐天と、勘違いで友人の貞操が汚されたことに
悲しんでいる3人が元気がないことに気付いた。

「私は特訓で疲れているからだけど、なんだかマコちん達は勘違いして暗い顔に
 なっているみたいなのよ。
 何を勘違いしているか分からないけど」

「? そうですか。あ、特訓と言えば佐天さん、調子はどうですか?
 うまくいってます?」

「バッチリ! と言いたいところだけど、鍛えてないせいですぐにダウンしちゃうし。
 でもでも聞いて初春!! なんと3階までの高さなら昇れるようになったのよ!!」

昇れるようなった、というのは壁昇り(ウォールライド)のことだ。

「すごいじゃないですか! 初めて昇った時は1メートルもできなかったって
 言っていたのに、数日でここまでなるなんてさすが佐天さんですね!!」

「へへへ、これも信乃さんのおかげだよ」

悲しんで黙っていた3人は、会話の中に知っている人物の名前が出たことで話に
入ってきた。休日にした特別実習で印象に残っている人を。

「信乃さん? それってこの前の風紀委員の人だよね。
 それに風紀委員の初春が知っているってことは如何わしいことじゃないってこと?」

「違うわよ! 特殊なスポーツの特訓よ! 3人とも一体何と勘違いしてたのよ!?」

A・Tは昔はスポーツにも使われていたと聞いたので、嘘はついていない。

「いや、腰を速く上下運動するとか、柔らかい胸とお尻が良いとか、
 M字開脚気持ちいいとか、後ろから挿れられるとか言うからエッチなことかと・・」

「「うんうん」」

「//////////なななな何言ってんのよ! そんなこと信乃さんがするわけ無いでしょ!!
 そんな変なこと私は一度も言ってないわよ!!」

「そだっけ?」

「そうよ! まったくもう!!」

「ねえねえ! そんなことよりも信乃さんって、この前補習で一緒だった
 かっこいい人だよね!?」

「人を変態扱いして『そんなこと』扱いってひどすぎるよ。

 ・・・・もしかしてむーちん、信乃さんのこと狙っているの?
 いくら親友でもそれは譲れないわよ?」

「ひゃ、そそそそんなことととなないわよ!!! 涙子恐い!! 目が濁ってる!!」

「バレバレよ。まぁ、私は狙ってないけど、信乃さんってかっこいいと思うもん」

「あーそれ私も思う。この前の『応援してる』って言った時の笑顔、見惚れちゃった~~」

顔を赤くして照れ隠しをした後に、友人の表情を見て血の気が引いたむーちゃん。
笑いながらも、その意見に同意するマコちん。
うっとりとした顔でさらに同意するアケミ。

それを聞いて、思わず佐天も本音を漏らしてしまった。

「ま、まあ私も見惚れちゃったけど・・・でもそれはいつものことだし」

「やっぱり佐天は信乃さんが好きなんだね」

もちろん佐天の呟きが聞き逃されることはなかった。

「///ええ!?」

「そうなんですよ。佐天さんったら信乃さんにゾッコン(死語)って感じで!
 最近付けているブレスレット、これは信乃さんからもらったものだから
 大事にしてるんですよ~」

「初春! 余計なことしゃべっちゃだめ!!」

「ほうほう、それはいいこと聞いちゃった」

「う~ん、それじゃあ信乃さんは涙子に譲るかな? でも諦めた時に
 私もまた狙っちゃうからね」

「お幸せに~~」

「もうそんなんじゃないわよ!! 告白だってまだなのに!」

「あれ? もう付き合っているのかと思ったのに意外だね」

「顔は中の上? 上の下かな? まあかっこいいほうだから、このままだったら
 他の誰かに取られちゃうかもよ?」

「今も他の誰かに告白されてたりして」

「いや、信乃さんがかっこいいのは分かるけど、今現在告白されているのは
 言いすぎじゃないかな?」

一瞬信じてしまったのだが、いくらなんでも大げさすぎると思って気にしなかった。



*****************************************



「あ、あの西折さん! 今日の放課後はお時間はありますか!?
 よろしければ新しくできたお店に行こうと思うのですけどご一緒に行きませんか!?」

佐天達が噂していた同時刻の常盤台中学校。
場所は人気のない、移動授業でしか使わない音楽室前。

信乃は一人の見知らぬ女子生徒からお誘いを受けていた。
見知らぬといっても常盤台中学の制服を着ているので、ここの生徒だろうが
信乃には一度も面識がない。

「・・・・・誘ってくださってありがとうございます。

 これは私の自惚れかもしれませんが、一応質問させてください。
 そのお誘いは“友人”としてお近づきになるために言っているのですか?
 それとも“異性”としてお近づきになるために言っているのですか?」

「えええっと////////////」

(・・・この反応は“異性”としてか)

信乃はため息をつき

「申し訳ありません。今日の放課後の予定はありませんが、
 そのお誘いを断らせていただきます」

「あ・・」

少女が何かを言う前に信乃は立ち去って行った。



・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・




午前中もまだ終わらない校舎の修復作業と、修理個所の点検で学校中を回り、
昼食休憩前に屋上、青空の下で弁当を広げていた。

「まったく、アレ以降に周りの反応が変わり過ぎだろ」

深いため息と共にぼやいた。憂鬱な気分のせいで箸は全く動かしていなかった。

修理を始めた直後、常盤台の女生徒達はほとんど信乃に話しかけてこなかった。

修理の邪魔をしてはいけない、女性しかいない空間にいる男性への拒絶、等々の
様々な理由があっただろう。

話しかけるのは知り合いの御坂と白井、水着撮影会のあとには湾内と泡浮が
少し話しかけるくらいだった。(婚后が話しかけた場合は信乃が無視をした)

その他の生徒でも礼儀正しい一部の生徒がすれ違いざまに挨拶をするくらい。
(ただしあちら側の挨拶は『ごきげんよう』である)

だが、常盤台襲撃事件の後、信乃は頻繁に声をかけられてるようになった。

どんな能力なのか、どこの学校なのかと興味本位で聞いてくる学生はまだいい。

適当に能力の事を誤魔化し、学校がボディーガード養成をしているから強いのだと
言えば満足して帰ってくれる。

問題はさっきみたいに告白、または異性としてのお誘いをしてくる学生たちだ。
残念ながら自分は恋愛には興味を持てない。

彼女たちのお誘いにも全く何も思わないし、思わせぶりな態度をとって後で
傷つけないように、その場で断っている。

断るたびに罪悪感を感じているので、常盤台に来るのが最近嫌になり始めていた。

「そーいえば、小学生のモテた時期もケンカとか勝負の後からだったよな。
 女子って現金すぎないか? 人間性見ないで少しかっこ良いとこ見せただけでこれか」

「おーす、信乃にーちゃんいる?」

屋上の扉を開けて入ってきたのは御坂美琴。

信乃の妹分である彼女とは会う約束もしてないし、今までも昼食を校内で一緒に
食べたことはない。

それなのに手にはランチボックス(学食で販売されているサンドイッチセット)を
持ってきていた。

「いいかげん信乃にーちゃん言わないでください。
 今日はどうしたんですか? わざわざ屋上にまで来て」

屋上で昼食を食べるのは、学生であればよくある光景だと思う。
しかし、常盤台中学の女子生徒達にはそれは当てはまらず、開放されているが
全く利用されていない。ここを訪れること人物がいることはとても珍しい。

屋上がお気に入りの信乃にとっては都合のいいことだが。

「たまにはいいじゃない。兄妹の仲を深めようじゃないの」

「で、本当の理由は?」

「ん~、実はね、信乃にーち「にーちゃん言うなボケ」 ・・信乃さんが
 今日ふった子がうちのクラスの子でね、そのことで詳しく話を聞こうと思って」

「はぁ~、勘弁してください。
 今現在、そのことで罪悪感に押しつぶされそうになっているんですから」

「あはははは! 信乃にーちゃんがそんな風になっているの初めて見た!」

「人の不幸を笑わないでください」

御坂はランチボックスに入ったサンドイッチを取り出して食べ始めた。

「それで、どうしてふったの? 雪姉ちゃんがいるから?」

「あいつとは関係ありません。私は恋愛に興味がないので、付き合ってくれと
 言われてもどうしていいかわかりませんし、付き合ったところで恋愛感情が
 芽生える確率はゼロです。

 そんな状態で告白を受け入れたら女の子で遊んでいるのと同じじゃないですか。
 恋愛感情が無くても、他人の恋愛感情を利用しようと思うほど私は
 欠陥製品ではありません」

「欠陥製品? なにそれ?

 でも何で恋愛できないのよ? 昔は雪姉ちゃんと本当に仲良かったのに。
 あの仲の良さはどう見ても夫婦よ」

「美雪にそんな感情を持っていたのは事実です。でも・・・・・

 戦場でのことでね・・・・」

「あ・・・・ごめん、変なこと聞いて」

信乃のが何故恋愛ができないようになったのかは“戦場”だけでは理由が足りないだろう。

だが、御坂にとっては信乃の触れていはいけない一番のエピソードだったので
すんなりと引き下がった。

「気にしなくてもいいですよ、美雪にもそのことを話しましたし。
 それでもあいつは諦めていないですけどね」

「それが雪姉ちゃんだもん。信乃にーちゃんこそ諦めて縒りを戻したら?」

「美雪が諦めるよりも、先に私が諦める方が可能性が高いですけど・・・
 そう簡単にはできませんよ。でも未来のことはだれにもわかりませんがね」

「そうね。信乃にーちゃんが戸籍上で私のお兄さんになるかもしれないし」

「美雪は御坂家の養子で戸籍に入っていましたっけ? 苗字が西折になっているのに。
 法律って意外と自由ですね」

信乃が事故で死んだと報告を受け、落ち込んでいる美雪を御坂美鈴と美琴は
養子に入るように説得し、本当の家族として彼女を支えていた。
美雪の苗字の変更もこのときにされた。美雪自身の強い希望で。

信乃が帰ってきた現在も戸籍はそのまま、美雪は美琴の姉として法律で認められている。
戸籍上で美琴の兄になるということは、美雪と結婚するということを指していた。

「ま、信乃“さん”を堂々と信乃“にーちゃん”と呼べるのを楽しみにしてるわ」

「楽しみは後に取っておいて、今は信乃さんと暫定的に呼んでくださいよ」

「じゃあね、信乃にーちゃん」

「おいこら。って逃げやがった」

昼食を食べ終わった御坂はわざと呼ぶなといった呼び名を言って教室から出ていった。

仲睦まじい兄妹の関係は、常盤台の一部の人からは恋人と噂されている事は
まだ2人は知らない。


・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・




プルルルルルル

御坂と昼食を食べた2時間後、信乃の携帯電話が鳴った。

「はい、もしもし。あ、はいそうです。届きましたか。ご連絡ありがとうございます。
 では3時ごろに伺いますのでそれまで荷物の方、よろしくお願いします」

プッ、と携帯電話の通話を切った。
そして電話帳から「位置外 水」を捜して再び電話する。

「もしもし、つーちゃん? 西折です。実は常盤台の修理用の材料が届いたので、
 それを取りに学園都市の入り口ゲートまで行かなければならないんですよ。

 常盤台を一時的に離れるので、警護監視の方を代わりにしてもらえませんか?
 はい、でもやることは引き続きカメラ越しの警護で大丈夫ですだと思います。

 念には念を入れて、宗像さんと黒妻さんにも連絡をお願いします。

 では、よろしく」

電話を切り、ポケットに収める。

常盤台中学の校舎修理をしているが、芸術品(どうらく)として
作られたここの校舎には特殊な材料が必要だった。

特殊なために学園都市内だけでは手に入らず、国外まで発注をしていた。

無理矢理に修理を頼まれたのだが、生来の真面目な性格のせいで完璧に修理をする
信乃だった。

「理事長にも報告をして出発しますか」

常盤台の理事長室に向かって信乃は歩き出した。




信乃が離れたこの後、事件が発生する。



つづく
 
 

 
後書き
オリジナルエピソードの序章です。

作中で不明、疑問などありましたらご連絡ください。
後書き、または補足話の投稿などでお答えします。

皆様の生温かい感想をお待ちしています。
誤字脱字がありましたら教えて頂くと嬉しいです。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧