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ローエングリン

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11部分:第二幕その四


第二幕その四

「ですから」
「そうなのですか」
「はい、そうです」
 また答えた。
「貴女を」
「有り難うございます。それでは」
「はい」
 そっとエルザに近付く。善意の顔を装って。
「一つ御忠告をさせて頂きます」
「忠告とは?」
「貴女の幸福をあまり盲信されないことです」
 こう囁くのだった。
「くれぐれも。不幸が襲わないように」
「!?またどうして」
「あの方のことです」
 善意を装ったまま気遣う仮面での言葉だった。
「そして魔術にも」
「魔術とは?」
「あの方は魔術を使っておられるかもしれません」
「そんなことはありませんわ」
 エルザは一瞬不吉なものを考えたがすぐにそれを打ち消して首を横に振ってからオルトルートに答えた。
「あの方は素晴らしい方です」
「素晴らしい方ですか」
「そうです。私を愛して下さり私もあの方を」
「愛して下さっているのですね」
「そうです。それこそが幸福」
 語る言葉は静かに幸福に満ちていた。
「清い真心の幸福です」
「そうなのでしょうか」
(ならば)
 オルトルートは純真に応えながら心の底では違うことを考え続けていた。
(それを遣わせてもらうわ)
「ではオルトルートさん」
「はい」
「明日また」
「わかりました。それでは」
「御会いしましょう」
 こう言葉を交えさせたうえで互いに別れた。エルザは館に戻りオルトルートは戻ろうとする。その彼女の側にテルラムントが来て言ってきた。
「上手くいったみたいだな」
「ええ。まずはね」
「よし。それならばわしの名誉も」
「思いのままよ」
 思わせぶりな笑みを浮かべて夫に対して述べる。たくらみの中で夜は更けていくのだった。
 そして朝。ブラバントの寺院において欧と貴族、そして騎士達が集まっていた。その中でドイツの貴族と騎士達はそれぞれ言うのだった。
「さて、今日はだ」
「どうしたのだ?」
「あの方がまた新たな手柄を立てられるらしい」
「あの方がか」
「そうだ、あの方がだ」
 彼等は口々に言う。
「あの方がな」
「ふむ。どうなるのかな」
「楽しみにしておくか」
「おのおの方」
 期待する話をする彼等の前であの伝令が声をかけてきた。
「お伝えすべきことがあります」
「むっ!?」
「何だ?」
「王よりの御言葉です」
「王からの」
 彼等はそれを聞いて設けられた玉座に座る王を見た。彼は厳かにその場に座している。
「フリードリヒ=フォン=テルラムントは誠意なくして神前の試合にいどんだ罪により追放に処す」
 こう言い伝えるのだった。
「そして彼を保護するか彼に心を寄せる者は国法により同罪とする」
「うむ、当然だな」
「神の裁きを受けた者は呪われろ」
 皆口々に言う。
「心清き者は彼を避けよ。憩いも眠りもまた」
「王はさらに仰いました」
 伝令は言葉を続ける。
 
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