真剣で覇王に恋しなさい!
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第10話
「依頼?」
「うん。学園の人に頼んで、私の正体を探すのをお願いしてみることにしたの」
火曜日の夜、私は柳司くんに依頼によって自分の正体を探してもらうことを伝えた。
すると柳司くんは少し驚いたような顔で、でもどこか納得したような顔で言葉を返してきた。
「確かに、一人で探すよりはずっといいかもしれないな」
「そう思うでしょ?」
依頼の事を知ったのは今日の事。
学校の裏手にある自然保存地で、二年生の小笠原千花ちゃんと甘粕真与ちゃんとお花に水やりをしていた時に、私は二人から依頼の事を教えてもらった。
食堂で使う食券を報酬に、依頼した事をなんでも解決してくれるという仕組みなんだって。
それを聞いて、私は自分の正体を探すことを依頼する事にした。
学校側に依頼の事を連絡してみると、明日の放課後に集会を開いて、そこで依頼を受けてくれる人を決めるんだとか。
「うまくいくといいな」
「うん。柳司くんは? 一緒に……」
「いや、俺はいい。俺は別に自分の正体にはそんなに興味がないからな。清楚の依頼が上手くいく事を祈ってるよ」
そんな風に笑顔で言われたら、『本当は気になってるんじゃないの?』だなんて聞けるわけがない。
その後はいつも通り、自分の部屋に戻って明日に備えることにした。
柳司くんにはもう少し強引にいった方がいいのかもしれない。
寝る前に、そんな事を思った。
次の日、私は依頼をするために川神学園のとある教室へと赴いていた。
そこにはまだ顔を合わせた事がない人たちも多かったけど、この人達が私の依頼を受けてくれるみたい。
できたら、その中でも知っている人達が受けてくれるといいんだけど。
「では頼み事をどうゾ。挨拶とかはいいからネ」
そうルー先生に促されて、私は自分の依頼を告げる。
「で、では……ごほん。私が誰のクローンなのか、一緒に探してほしいの」
そんな私の言葉に怪訝な顔をした人がいるのを見て、言葉を続ける。
「焦らなくても25歳になれば教えてもらえるんだけど、自分が誰なのかわからない事が不安なの……それに、読書ばかりしている事が本当に正しいのかどうかもわからなくて……」
「すいません、それどういう意味ですか?」
「例えば、もしも私が戦国武将のクローンだとしたら、今やっている事よりももっと運動に励んだ方がいいと思うの」
そうは思いたくは無いけど、そう思わないといけない事実は幾つもあった。
今日の朝に九鬼の従者である小十郎さんを吹き飛ばしてしまった事もそうだし、重い物を軽々持ち上げたり、ちょっと強めに叩いただけで柳司くんを気絶させてしまった事もあった。
それを証明するために右腕だけで机を持ち上げると、みんなは驚いた様子で納得してくれた。
「なるほどねぇ……そりゃあ確かに気になるな」
「不自然なほどに力があれば、不安にもなるでしょうね」
同意の声が上がる中、私は最後まで言葉を続けた。
「私は、自分の正体を知って安心して読書をしていたいの」
そして私のために自分を抑えてくれた柳司くんにも、素直になってもらいたい。
それが私の依頼。
「ちょっと聞きたいんですけど、これ調べたら九鬼に怒られたりしませんよね?」
「うん。私が余計な事してないで勉強しろって言われるぐらいだと思うよ」
一年の……確か、武蔵小杉ちゃんの質問にそう答える。
マープルには少し怒られるかもしれないけど、別に禁止されているわけじゃないもの。
自主的に動く分には、きっと認めてくれるはず。
「さぁ、頼み料は食券50枚からだヨ! 張った張った!」
質問がもう無いと判断したルー先生の声に一番最初に反応したのは、私の知っている人だった。
トンネルを通って学校から帰る途中、柳司くんに今日の事について聞かれた。
なんだかんだ言っても、やっぱり気にしてくれているみたい。
「依頼はどうなったんだ? 知ってる奴か?」
「うん。柳司くんも知ってる人だよ。風間翔一くん」
「あぁ……あいつか。あのグループのリーダーだったな。信頼できそうだ」
そう言って、柳司くんは安心した様子でうんうんと頷いていた。
あの時、ルー先生が皆に言葉をかけてすぐ、風間くんがたった9枚の食券で依頼を受けると名乗りを上げた。
それによってすぐに誰が依頼を受けるかが決まってしまったのだ。
明日には、モモちゃんを含む風間ファミリーの人たちを顔を合わせる事になっていた。
「明日が顔合わせか。まぁ、既に知り合ってるから問題ないだろうが……」
「うん。きっと大丈夫だと思う。皆いい子だったから」
「それに、有能だ。案外早く見つかるんじゃないか? 清楚の正体もさ」
柳司くんにしては随分とやけに高い評価だと思ったけど、話を聞いている限りでは結構話したりした事があるみたい。
クリスちゃんと決闘していたのは知ってたけど、他の子達とも一緒に遊んだりして仲良くしていたんだとか。
たぶん私が図書室に篭っている間なんだろうけど、誘ってくれても良かったのに。
「悪かった。今度は皆で一緒に遊ぼう。それならいいだろ?」
「私は別に気にしてないよ?」
「いや、間違いなく気にしているだろう。そんな気配がわからないとまでは言うつもりは無いぞ」
「そ、そんなに?」
「あぁ、そんなにだ」
今日の柳司くんは珍しく饒舌な気がする。
何か良い事でもあったのかな?
「あぁ、ところで清楚」
「?」
「一つ頼みがあるんだが――」
そして次の日の放課後。
体育館で風間ファミリーのみんなと顔を合わせるていると、まず最初にモモちゃんが声をあげた。
「私達は依頼を受けたからいるのは当たり前としてだな」
そう言って、少しだけ離れた場所に立つ二人に目を向ける。
「なんでじじいや柳司がここにいるんだ?」
「ホ。すぐにわかるわい」
「学園長の言う通りだ。こっちは気にしないで始めてくれ。ちなみに清楚の許可は得ている」
そう、柳司くんの頼みというのは、この顔合わせの時に少しだけ立ち会わせてくれというものだった。
やっぱり柳司くんは心配性だ。
それとも、私の正体が気になってるんだろうか? でも、それなら顔合わせの時だけだなんて言わないよね?
「まぁいい。とにかく初めは質疑応答タイムにしよう」
「正体を突き止めるには、先輩の事をもっと良く知らないといけないものね!」
「よし。それじゃあまず、性の目覚めを感じ――」
一子ちゃんの声に後押しされるようにして、モモちゃんが口を開こうとした瞬間だった。
モモちゃんが何を言おうとしているのか理解した私が頬を熱くするよりも先に、後ろの方からすごいプレッシャーを感じた。
「やっちまってください学園長」
「うむ。顕現の弐・持国天っ!」
そしてモモちゃんが吹き飛んだ。
よくわからないけど、誰かが変な事をしたら学園長が止めるっていう事になっていたみたい。
柳司くんが来たのもそれを気にしていたからで、信頼はしても信用はしてないんだって。頑固だなぁ。
それからもう一度モモちゃんが吹き飛ばされて、それから島津くんまで吹き飛ばされて、結局質問は大和くんが担当する事になったみたい。
私の名前や特徴から調べるという他の皆と別れ、私は大和くんと一緒に場所を移すことになった。
「それじゃあよろしくね。大和君」
「はい、頑張ります。といっても、今日は質問するだけですけどね」
そうして私達が話していると、最初以外はずっと黙って見守っていた柳司くんが私達に話しかけてきた。
「俺はこっちにいる事にする。直江なら変な事はしないだろうし、何か手伝える事もあるかもしれないからな」
どうやら柳司くんの中で大和くんの評価はかなり高いみたい。
歓迎会の時のおかげかな?
それともあの後にメールで連絡を取ったりしてたのかな?
「そういうわけで清楚は任せた」
「買いかぶりじゃないですか? いや全力は尽くしますけど」
「これでも人を見る目はあるつもりだからな」
珍しく自慢気に笑う柳司くんだった。
そんな柳司くんに大和くんが質問をする。
「ところで、柳司先輩は自分の正体を調べたりしないんですか?」
「あぁ、興味ないからな。それを気にしてくれるくらいなら、その分だけ清楚の正体を明らかにする事を考えてくれよ」
柳司くんはそう言い切って離れていった。
それを見て私も、大和くんに薦められて食堂へと移動する。
そこで聞かれたのは好きなものとか苦手な事とか、色々な事だった。
あとは昔どこで育ったのかとか、一緒に育った皆の事も少し。
代わりに風間ファミリーの皆の事とか、大和くん自身の事とかも教えてもらって、すごく楽しい時間を過ごすことができた。
その後は話題が本の事になっちゃって、食堂を追い出されるまで大和くんと話し込んじゃったけど。
失敗失敗。
「今日は楽しかったよ。ありがとね、大和くん」
「いや、こちらこそ長い時間拘束しちゃって」
「気にしないで。楽しく話ができて良かったよ」
気付くと夕暮れになるまで話しこんでいた私達。
途中まで一緒に帰った後は、分かれ道で携帯電話の番号を交換してから大和くんと別れ、私は家路についた。
頼もしい人達に悩みの解決を任せて、新しい友達との親睦も深められて、今日はすっきりとした気分で眠れそうな気がした。
後書き
違う視点で見ると印象が変わると言うのはよくあると思います。
マジで。
でもキャラ崩壊しそうで怖いんですよ。
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