八条学園怪異譚
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第三十七話 テケテケその八
そのエスエルを見てだ、愛実が言った。
「このエスエルってね」
「そうね、かなり風情があるわよね」
聖花が愛実のその言葉に頷く。
「こうしてこの目で見ると」
「大きいわね」
「大きいし質感も凄いし」
黒い鉄、それのだ。
「やっぱり違うわね」
「昔はこれに乗ってなのね」
二人で話すのだった。
「移動してたのね」
「そうだったのね」
「昔はね」
「ほんの五十年位前はね」
口裂け女と花子さんが答える。
「まああたしが出て来た頃にはなくなってたけれどね」
「私が生まれた頃はまだあったわよ」
二人の妖怪の年齢的にはそうした時代だった、だがテケテケは。
車椅子からそのエスエルを観ながら愛実達にこう話した。
「私はね。まだ生まれて少しだから」
「実際に線路で動いてるエスエルは見たことなかったの」
「そうだったの」
「ええ、この学園で動いてるのは幽霊みたいなものだから」
それでだというのだ。
「実際にお昼に線路で動いてるみたいなのは」
「ううん、あんたの生まれた頃にはなの」
「もうエスエルは」
「これ動くのに石炭が必要だから」
テケテケはこのことから話した、燃料からだ。鉄道にしても燃料がなくてはただの鉄の箱でしかないのは車と同じだ。
「それがないと動けないしいちいち入れないといけないし」
「煙も出るしね」
「電車と比べたらかなり不便よね」
「電車って凄いのよ」
テケテケはこちらの話もした。
「上に電気がある限り幾らでも動けるからね」
「けれどエスエルはその都度石炭を入れないと動かない」
「その時点で電車と比べると不便なのね」
「かなりね。しかもね」
それに加えてだった。
「やっぱり煙よ、車両の窓を開けてるとトンネルの中だと車両の中に煙が入るから」
「汚れるわよね」
「夏はそれだと大変ね」
エスエルの時代車両の中にはクーラーもない、扇風機もだ。それこそ夏は窓を開けないと車両の中は蒸し風呂だった。
「そんなのだと」
「それもかなり」
「そうよ、石炭が動かすのはエスエルだけよ」
蒸気機関車だけだ、機関車が牽いている車両を引っ張っていたのだ。
「燃料が届くのもね」
「それに石炭を入れる人も労力が大変だし」
「こっちも夏は地獄よね」
「不便なのよ、電車と比べて」
それもかなりだったというのだ。
「だから電車が出来るとね」
「なくなったのね」
「それで今は」
「ここにあるだけよ」
文明の発展と共にそうなったというのだ、エスエルが姿を消した歴史である。
「こうした博物館にね」
「外観は凄くいいけれど」
「あくまで過去の遺物なのね」
「そう、新幹線とかの方がやっぱりね」
「便利よね」
「ああいった電車の方が」
「電車は凄いのよ」
テケテケは電車派らしい、こちらのことはかなり言う。
「どの車両にも電気が届いてクーラーとか暖房だって行き届くし」
「しかも煙も出さない」
「だからなのね」
二人もこのことを実感した、尚今彼女達がいる八条学園を経営している八条グループは日本全土に路線を持つ日本最大の私鉄だ。
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