魔法少女リリカルなのは ~優しき仮面をつけし破壊者~
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A's編 その想いを力に変えて
30話:深まる謎
前書き
テストかな ああテストかな テストかな
来週の火曜から、作者は期末テストに入ります(二期制なので)
四日間なので、更新はその終わりにでも、と。
拳が打ち合う音がいくつも響き渡る。
「ははは!やはりあなたとの打ち合いは楽しいですねぇ!」
「その笑いが一々癇に障るんだよ!」
拳を突き出しながらそう叫ぶが、奴はそれを軽々しく避ける。
心の中で舌打ちをしながら、左足を振り上げる。奴は両腕でそれを弾く。
「もういっちょ!」
だがまた左足を振り上げ、奴の顔を狙う。それを仰け反る形で避け、後ろに飛び退く。
「ふふふ……」
「あ~、笑いがうぜぇ…」
口元に手を置き、奴が不敵に笑う。
なんか気持ち悪い…世間的にいうキチガイとかいう奴か…?
「それで?わかりましたか?」
「ぁあ…?」
「この間出した宿題ですよ」
すると突然口火を切る奴。
いや、奴が言いたい事はわかっている。
「お前の正体、か…」
そういうと、奴の表情が歪む。なんか恐いんだが…笑ってんのか?
「正直確証はないが…予想はしている」
奴の体や武器を一つ一つ見て、奴の言葉の通りだったら……
「お前の能力はあるライダーのものに類似している」
「ほぉ…」
銀色に棒術、青色に銃使い、黒に拳。その他に体に走るラインの色と数を含め、俺の頭の記憶内に入ってるものと照らし合わせて考えてみた。
「そこで一つの結論に出た…お前の能力、それは―――」
―――仮面ライダーW
そういうと、奴の表情がまた変わる。いや、笑みなのは変わらないんだが……より深くなっている。
「やはり私の見込んだ通りでしたね…」
「あんだけヒントくれてよくいう」
少し呆れるようにいうと、奴は先程までとは違い大きな声で笑い始めた。
「フフフ…まぁあなたの言う事はあってますよ。私の能力はWのものです」
大ショッカーの元で改造を受け、この力を手に入れた、とのこと。それに関して、井坂の野郎も関わっていたらしい。あの野郎、最後まで気に食わない奴だったな……
「と、まぁ…会話をするのもここまでみたいですね」
「なに…?」
奴が上を見ている。俺も奴の視線の先を見る。
そこには緑色の光源が空に存在していた。
時間をさかのぼり、結界外の建物屋上。
「局の増援、武装隊員に結界魔導師がたくさん…」
そこにいる緑の服―――もといバリアジャケットを纏った女性が目の前に浮かぶ映像を見て呟く。その女性の名は、シャマルという。
(包囲が早い…このままじゃすぐ詰められちゃう…)
さすがはヴォルケンリッターの後方の要。その思考能力と判断力は随一だ。
しかし、思考に集中しすぎるのもたまに傷。
「―――っ!」
「捜索指定ロストロギアの所持・使用の疑いで、あなたを逮捕します」
周りに気を配れず、結果見つかり現在武器を突き立てられているシャマル。後ろから聞こえるのは、まだ声変わりのしていない男の子の声。
「抵抗しなければ、弁護の機会があなたにはある。同意するなら武装の解除を」
淡々としゃべる声は、シャマルの内心に二つの感情を与える。
(私がここで捕まれば仲間を助けることはできない。かといって、後ろにいる子を私が倒せるかというと、現状では間違いなく不利)
そう思考できる冷静さと、もう少しすると仲間が包囲され危険が及ぶことへの焦り。この二つだ。
しかし、そこで何者かが動く気配を感じる。
「っ!?」
「フンッ!!」
その気配は自分の背後にいる少年に攻撃を与える。攻撃をまともに受けた少年は別のビルのフェンスまで飛んでいき、衝突する。
「くっ……仲間…?」
腹の痛みに耐えながら、自分を蹴り飛ばした人物を見る少年―――クロノは弱々しく呟く。
その人物は体格的には男。仮面を付け、表情がわからないようになっている。
(くそ、いつの間にあそこに…エイミィからは何もなかったし、気づかれずにどうやって…!?)
男について思考している中、シャマルは自身からも正体不明の相手に声をかける。
「あ、あなたは…?」
「……撤退だ」
だが、あまりにも会話が成立しない言葉が返ってくる。
え?、と声を漏らすと、仮面の男はこちらに顔を向けながら、仮面越しで少し低くなってであろう声を発する。
「奴らの包囲が早い。彼はこっちで足止めする。今は撤退しろ」
「でも…!」
シャマルが何か言おうとした瞬間、仮面の男はクロノへ向かって飛び出していった。
その後ろ姿を見ながら、シャマルは冷静に判断する。
(確かに今は撤退するべき。足止めをしてくれるなら、それはそれでいいんだけど…)
だが、はやり包囲されてからでは遅い。シャマルはすぐに三人に念話を繋ぐ。
[皆、撤退の準備を!]
[やむを得んか…]
[心得た]
[ちっ…!]
それぞれが返事をしたことを確認して、シャマルは行動に移る。
[結界内に閃光弾を出すわ。その内に]
そういうと同時に、シャマルの足下に緑色の三角形の魔法陣―――ベルカ式の魔法陣が展開される。
「あれは…?」
「すまん、テスタロッサ」
視界の内に緑色の光が入り、疑問を抱くフェイト。シグナムは鍔迫り合いを止め、距離を取る。
「この勝負、預けた」
「シグナム!」
「ヴォルケンリッター、鉄槌の騎士…『ヴィータ』だ!あんたの名は!」
「…なのは。高町なのは!」
また別の場面、ヴィータと名乗った赤毛の少女と、白いバリアジャケットを纏うなのは。
お互いがお互いの名前を名乗り合う。
「高町な、なにょ……えぇい呼びにくい!!」
「逆ギレ!?」
中々相手の名前を言えないヴィータは、なのはの言う通り少々逆ギレ気味に言い放つ。
「ともあれ!話があるならそのうち出向いてやる!だから…今は邪魔すんじゃねぇ!!」
「あっ…!」
そしてその調子のまま、彼女は去っていった。
魔法を発動する準備を整え、左手を高々と上げる。
「“クラールゲホイル”!」
シャマルが魔法名をいうと同時に、結界内の光源が眩しい光を放った。
んで、あの後結界が消え、三人の姿はそこにはなかった。アイツらの足取りをエイミィが追いかけたが、最終的には見失ってしまった。
俺が相手取ったアイツも、あの閃光に紛れて逃げていった。
「例の仮面の男、何が目的なんだ?」
「わからない。でも、少なくともこちらの味方じゃないのは、明らかだ」
俺の質問に答えたのはクロノだ。実際に戦ってはいないようだが、容疑者確保の妨害をしてきたらしい。
「それに君が戦った怪人の方も、どうしたいのかわからない」
「…いや、奴らについては、粗方予想はついてる」
そういうとクロノが少し驚いた顔をしてから、机をバンッと叩き身を乗り出す。
「なんでそういうのを早く言わない!」
「タイミングがなかったんだよ、そうカリカリするなよ」
俺が落ち着くように両手でドウドウ、とやると、クロノは落ち着いたように座り直す。
「それで?」
「まぁおそらく、闇の書目的なのは間違いない。どうするかはわからんが、少なくともお前のいう“闇の書の強大な力”が欲しいんだと、俺は思ってる」
元々そういう連中だからな、というと、クロノは顎に手を当てて、考え込む体勢を取る。
「それに彼等の目的も明確じゃない。わからない事だらけね…」
「えぇ、どうも腑に落ちません。彼等はまるで、自分の意志で闇の書の完成を目指しているようにも、感じますし…」
「ん?それって何かおかしいの?」
ソファーに座り、浮かない顔をしながら話すリンディさんとクロノ。その二人の会話に疑問を持ったアルフが、口を挟んでくる。
「闇の書ってのも、ようはジュエルシードみたいに、すっごい力がほしい人が集めるもんなんでしょ?
だったら、その力が欲しい人の為に、あの子達が頑張るってのも、可笑しくないと思うんだけど…」
確かに、直接言葉を交わしたのはシグナムだけだが、少なくとも誰かから命令を受けてやっているような感じには見えなかった。闇の書自体も、完成すれば強力な力が手に入る物だとするならば、自主的に蒐集するという可能性も、あるにはある。
そう思っていると、一瞬二人は顔を見合わせ、最初にクロノが口を開く。
「第一に、闇の書の力はジュエルシードみたいに自由な制御の効くものじゃないんだ」
「完成前も完成後も、純粋な破壊にしか使えない。少なくとも、それ以外に使われたという記録は、一度もないわ」
「あ~、そっか…」
純粋な破壊…なんでそんなものが存在するのだろうか。そんな目的の為だけに作り上げられた物なら、一々蒐集せずにもっとうまいやり方がなかったのだろうか。
「それからもう一つ、あの騎士達……闇の書の守護騎士達の性質だ」
そしてクロノが続ける。
「彼等は人間でも、使い魔でもない。闇の書に合わせて、魔法技術で作られた擬似人格。主の命令を受けて行動する、ただそれだけの為のプログラムに過ぎないんだ」
「「「っ!?」」」
その言葉に俺となのは、フェイトは言葉を詰まらせる。
魔法技術によって作られた命。いや、クロノの言葉を使うなら『プログラム』。ただ命令を受け、実行するのみ。
その事に、違和感を抱いたとき、隣にいるフェイトが口を開いた。
「あの…人間でも、使い魔でもない擬似生命っていうと……私みたい―――なっ!?」
「言わせねぇよ」
さすがに聞き捨てならない台詞が飛びそうなので、失礼ながらフェイトの頭をチョップする。
フェイトは若干涙目になりながら、頭を抑えてこっちに振り向く。
「い、痛い…」
「痛くしてるんだ。当然の反応だな」
そう言い切ってから、俺は両手でフェイトの頬を挟む。
「お前はもう、俺の言葉を忘れちまったのか?」
「ふぇ…?」
「俺はお前を、“一人の人間”だと言った筈だぞ」
「っ!」
俺の言葉に、頬を挟まれながらフェイトは目を見開く。
「お前は楽しい時に楽しいと、悲しい時に悲しいと思える心がある。俺はそれだけあれば十分、人間だと言える理由だと思うんだけどな」
「………」
「それに…今、痛かったんだよな?」
「……うん…」
「だったら、それでいいじゃないか」
と手をフェイトの頬から放して、笑みを浮かべて言うと、
「……うん…!」
少し頬を赤く染めて、笑顔を返してくる。
なのはも気を遣ってか、フェイトに笑顔を見せる。
「それはそうと、クロノ。詳しく聞きたいんだが」
「あぁ、エイミィ」
「うん、今モニターに映すよ」
と、クロノに指示され何やら操作するエイミィ。すぐに部屋が暗くなり、モニターが現れる。
それに映っていたのは、闇の書らしき物と、シグナム達ヴォルケンリッター。
「守護者達は、闇の書に内蔵されたプログラムが、人の形を取った物。闇の書は、転生と再生を繰り返すけど、この四人はずっと闇の書と共に、様々な主の元を渡り歩いている」
「意思疎通の為の対話能力は前の事件でも確認されてるんだけどね、感情を見せたって例は、今までにないの」
「“闇の書の蒐集”と“主の護衛”、彼等の役目はそれだけですものね」
それを行うだけに作り上げられたプログラム。それが彼等の存在、か……
「でも、あの帽子の子―――ヴィータちゃんは、怒ったり悲しんでたりしてたし…」
「シグナムからも、はっきり人格を感じました。成すべきことがある、って…仲間と、主の為だって」
「俺の時も、同じような事を言ってたな。アルフも、あの男から何か聞いてないか?」
「え、え~って…なんて言ってたかな?…確か、『主は自分達の行動について知らない。全部自分達の所為だ』…とかなんとか」
おいおい…数少ない情報なんだから、ちゃんと覚えておいてくれないと…。しかし、主が知らないのに主の為に動いているのか…それとも嘘を言っている?いや可能性としてはあるだろうが……
そう思考の海に入り込もうとした時、正面に立つクロノの表情が変わった。
「“主の為”…か…」
その呟きに、その部屋にいた全員がクロノを見る。そのとき、俺はクロノの表情に疑問を感じた。いや、もっと深く言えば、違和感と言ったところか。
するとモニターが消え、部屋も明るくなる。
「まぁ、それについては、捜査に当たっている局員達からの情報を待ちましょっか」
「転移頻度から見ても、主がこの付近にいるのは確実ですし、案外主の方が先に捕まるかもしれません」
「あ~、それはわかりやすくていいねぇ」
クロノの言葉にアルフが明るい声で反応する。ていうか、今気づいたが、お前それ寒くないのか?
「だね。闇の書の完成前なら、持ち主も普通の魔導師だろうし」
「それにしても、闇の書についてもう少し詳しいデータが欲しいな…」
そう思案顔で周りを見て、ふとクロノの目線が一点で止まる。
少し笑みを浮べながらその視線の先に向かう。そこにいる……なのは、ではなく、その肩に乗っているフェレット状態のユーノに声をかける。
「ユーノ、明日から少し頼みたい事がある」
「え?いいけど…」
俺にはそのクロノの笑みが、少し恐いものに思えた。
情報交換を終え、俺となのは、ついでにユーノは、ハラオウン家から高町家へ帰宅する。
[リンディさん、ちょっといいか?]
[あら士君、何かしら?]
その途中、俺はリンディさんに念話を繋いだ。少しばかり気になる事について。
[闇の書について話すクロノの表情、何か違和感を感じたんだが、何かあるのか?]
[な、何かって…?]
明らかに動揺しているのがわかる返し方だ。どうやら当たりのようだ。
そう思いながら、俺は続ける。
[例えばの話だが……過去、闇の書関連の事件に家族が絡んでいる、とか…]
ああいうお固い奴はだいたいそうだと決まってる。
リンディさんは念話越しにため息をつく。
[そう、ね……そこまで言われちゃ仕方ない、のかな。いいわ、話しましょ]
そう前置きをしてから、リンディさんは話し始めた。
内容を簡単に言うと、前回―――十一年前の闇の書事件でクロノの父親、クライド・ハラオウンが亡くなっている、とのことだ。
[局の方も、クロノを外す考えがあったんだけど……クロノは断ったわ]
[そうか…]
親の敵討ち、てのはアイツの柄じゃないから、そういう感じじゃないだろう。
それらを抱え込んで、ああいう表情になるのか。
[アイツもアイツで、色々あるんだな…]
[まぁ、そうかもしれないわね…]
アイツなりのケジメ、みたいなものか。
[ちょっと、言いにくいんだけど…いいかしら?]
[ん?]
そういうリンディさんの声色が、どこか怯えたようなもの変わった。
[クロノと仲良くしてあげてね。あの子、他人に対して強く出るところがあるから…]
[なんだ、そんなことか]
なんか雰囲気変わったから、何かフラグ的なものを立ててくるかと思ってたら…
俺の言葉を聞いたリンディさんは、疑問の声を小さく漏らす。
[仲良くも何も、俺はもう友人の一人として見てるつもりなんだけどな]
[あら、そうなの?]
何が可笑しかったのか、クスクスと笑うリンディさん。
[それじゃあ、これからもそんな感じで]
[あぁ、うまくやっていくさ]
心の中で笑みを浮べながらリンディさんに返す。
念話を切り意識を戻すと、なのはとユーノが何やら携帯の画面を見ている。
[どったの?]
[あ、すずかちゃんから。お友達がお泊まりに来てるって]
[へ〜…]
念話を繋ぎ、会話に参加する。携帯の画面の写真は、どうやらすずかが送ってきたものらしい。
俺もその画面を覗くと、すずかともう一人、懐かしい顔が映っていた。
[お、はやてじゃん]
[士君、知ってるの?]
[おう。前に図書館で会った子だよ]
[ふぅ〜ん……そうなんだ〜…]
なのはの雰囲気が変わった。その瞬間、俺の頭の中に警報が鳴り響く。
[な、なのは?なんか不機嫌になったが…?]
[べ〜つに〜……]
そう言ってそっぽを向くなのは。いや、明らかに不機嫌なんだが……
(そう言えば、最近会ってないな〜…)
思い返しながらそう考えてると、なのはがムスッとした表情でこっちを睨んできた。
[なんか気に食わない…]
[いきなり何を言うか、お前は…]
そんな雰囲気のまま、帰宅の途についた。
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