久遠の神話
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第四十九話 スペンサーの剣その二
彼等は身体を整えてから防具を着け剣道をはじめた。まずは型をして。
それから稽古、試合をした。それを全てスペンサーに見せたのである。
スペンサーは一部始終を見てからこう四人に言った。
「見せて頂き有り難うございます」
「はい、どうでしょうか」
上城は面を脱ぎよい汗をかいた爽やかな顔でスペンサーに問い返した。
「日本の剣道は」
「必ず正面を向いていますね」
「そうなんです。日本の剣道は」
「どんな構えをしてもですね」
「身体は正面です」
そこを向いているというのだ。
「横には向かないです」
「フェシングでは手を前に出して」
剣を出すその手をそうしてである。
「身体は横ですが」
「それは守りの為ですね」
「身体の中心は急所の塊です」
これは古来からよく知られている。そして心臓のこともある。
「右手を前に出して左側は完全に隠しますね」
「はい」
「それで心臓も隠しています」
そうしてもいるというのだ。
「構えはそうして身体を隠しています」
「そうなんですね」
「その通りです。ですが日本の剣道は」
「正面を向いてそこで構えます」
「つまり刀で身体の急所を守るのですね」
「そうなります」
上城もその通りだとスペンサーに答える。
「日本の剣道は」
「面白い剣道ですね。そして私は」
「スペンサーさんの剣は」
「少しお借りします」
彼は上城達が持って来た木刀、空いているそれを両手に持った。
そのうえで腰を落とし姿勢も低くさせて言う。
「こうした構えが基本です」
「剣が大きく重いからですね」
「腰で持つ感じになります」
「それで振るんですか」
「ですが私は普通に振ることができます」
それが可能だというのだ。
「腕力と背筋の関係で」
「力があるからですか」
「結果としてそうなります」
「ですよね。その剣ってどれだけあるんですか?」
「日本で言うと十五キロですね」
「それだけあるんですか」
「大体ですが」
それ位の重さがあるというのだ」
「ただ。アメリカでの単位はポンドです」
キログラムではなくそれになる。アメリカでは長さの単位に関してもメートルでもなくフィートともなる。イギリスの影響である。
「それになりますが」
「ええと、ポンドは」
「よくわからないですね」
「すいません」
「ですからキログラムにしてみました」
それに換算して話したというのだ。
「わかりやすく」
「有り難うございます」
「はい、それでなのですが」
「十五キロですよね」
「かなり重いですね」
「そう思います」
十五キロもある木刀を想像してみてもできなかった。それで上城は素直に驚きながらスペンサーに対して答えた。
「そこまであると」
「日本にはそうした剣はないですね」
「そうですね。日本刀も」
「そこまで重くはないですね」
「あっ、僕日本刀を持ったことはないです」
上城はそれは否定した。
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