| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

銀色の魔法少女

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第二十九話 暴走

side ALL

 遼は静かに目を覚ます。

 となりにはあの後二人は忍に契約したことを伝え、そのまま寝てしまったすずかがいる。

「…………」

 遼はすずかを起こさないようにそっとベッドから降りる。

 彼女が起きたのには理由があった。

 それはほんの些細な違和感。

 金属同士がぶつかる音が、僅かながらも彼女の耳に入ったからだった。

 彼女は窓から庭を見下ろす。



 そこにはボロボロに傷ついた月村家のメイド、ノエルの姿があった。



 遼は視線を上げ、相手を見る。

 それは見たこともない高校生くらいの青年だった。

 彼は怪しい笑みを浮かべ、ノエルを見下している。

 遼は確信する、あれは、敵だと。



 私から、大切な人を奪う、敵だと。



 彼女は愛剣・ノートゥングを展開する。

 眠気も一瞬で覚めるほど、彼女は怒っていた。

 いつもの遼なら冷静に対処しただろう。

 けれど今日は違った。

 すずかの正体や思いを知って、より大切になった。

 そして今、すずかを悲しませる人間が目の前にいる。

 彼女が怒るにはそれで十分だった。

 彼女は窓を開け、二階から飛び降りる。

 着地の際の音で、二人が遼に気がつく。

「遼お嬢様!?」「何だ、まだ敵がいたのか」

 遼はゆっくりとノエルの前に出る。

「ねえ、あなたがやったの?」

 その声にはいつもの静かさはなく、目の前の相手への怒りが露わになっていた。

「ああ、そうだが、何か?」

 当然とも言いたげに、彼は返す。

「そう」

 遼は剣を抜き、構える。

「じゃあ、殺さなくちゃね」

 その返事に、彼は笑う。

「あまり強い言葉を使うと、弱く見えるぞ」

 彼は左手に握っていた刀を遼に見せつける。

「さあ出番だ、鏡花水月」



side ノエル

 まただ。

 目の前の侵入者の数が急激に増える。

 その全てから本物の気配を感じ、本当に増えたのかと錯覚するほど。

 鏡花水月。

 彼の異質な力。

 彼自身の言葉によると、能力は完全催眠。

 その刀を見せられた瞬間から術中にハマり、自力で解除することは不可能。

(恐く、遼お嬢様も同じような幻覚を見せられているはず、なら勝ち目はない)

 私もそうだった。

 様々な方向からくる斬撃。

 偽物と思っていたほうが本物で、本物と思っていたほうが偽物。

 そんな幻覚に翻弄され、彼に傷一つ付けることなく、私は負けた。

「はる、さま、逃げ……」

 そのことを伝えようとしても、彼に受けたダメージが大きく途切れ途切れになってしまう。

 そして、分身たちが一斉に遼に斬りかかる。

 多分、この中に本物もまじっているのだろうが、見分けることはできない。

 私は己の未熟さを呪う。

(私はお嬢様のご友人、それも契約を結んだ彼女すら守れない)

 そして私の目の前で数々の刃が、遼お嬢様を貫いた。



side 愛染

 ばかな、ありえない。

 私は目の前の光景を疑った。

 私は新しく現れた彼女に、間違いなく鏡花水月を使った。

 これは私の最も最強だと考える力。

 一度目にすれば逃れることなど叶わない、絶対的な力。

 だからアルテミスの転生の際、真っ先に特典に選んだ。

 卍解を砕かれ、弱体化はしているが、それでもなお強力なのには違いない。

(なのに、なのに!)

 絶対に当たると思った攻撃は防がれ、逆に私の左腕が飛ばされた。

 後ろのノエルも驚いている。

 何があった。どこを間違えた。

 私の頭を回る言葉はそればかり。

「一体どういうことだ!」

 私はたまらず目の前の少女を問いただす。

「鏡花水月は完璧だった、なのにどうしてお前は騙されない!」

 しかし、彼女から返ってきたのは一言だけ。



              「何が?」


 その言葉で私は確信する。

 彼女は鏡花水月を使ったことに気づいていなかった。

 つまり、彼女に幻覚は一切見えていない。

 彼女からすると普通に斬りかかってきた私に反撃しただけのこと。

 同時に確信する、彼女の正体とその能力に。

「お前は、まさか!」

 しかし、これ以上私が話すことはできなかった。




side 遼

 許さない。



 私の友達を傷つける人は絶対に許さない。



 私から何かを奪おうとする人は、絶対に許さない。


 
 目の前にいるのはその最たるもの。

 気配だけでもわかる。

 悪意を持って、私を殺しにかかる。



               だから私は左腕を飛ばした。



 それだけなのに、あいつは異常に驚いて私に話しかけてくる。

 うるさい。

 その声が、その存在が、私にとって不愉快極まりない。

 レイの時はこれほどではなかった。

 何が私をここまで駆り立てるのか、私にもわからない。

 けど、目の前にいる醜悪な存在を、私は容認できない。 



 だから私は二度とコイツが現れないように、首を飛ばすことに決めた。



side ALL

 キィィンと、金属同士がぶつかる音が響く。

「やりすぎですよ、遼ちゃん」

 ファリンが遼にそう呟く。

 遼と愛染の間に入り込んだファリンのトンファーが彼女の剣を愛染の首スレスレの位置で止めていた。

「後のことは私たちの仕事です、遼ちゃんはゆっくり寝ててください」

 ニコリと微笑むファリンにそう言われ、しぶしぶ遼は剣を収める。

「……じゃあ、よろしく」

 そう言うと遼は扉を開け、屋敷に戻る。

「ふう、危なかったぁ~~」

 そう言って腰を抜かすファリン。

 その手に持つトンファーの半分まで切れ込みが入っている。

「後もう少し遅かったらあなたの首が飛んでましたよ」

 そう言って振り返るが、

「あら、聞こえてない」

 肝心のアイゼンの意識はあらず、すでに気絶していた。

「ファ、リン」

 ゆっくりと、ノエルが立ち上がる。

「ああダメですよお姉さま、まだ動いちゃ」

「心配、ありません、私たちの体は、特別性です、直にこの傷も癒えるでしょう」

 「それよりも」と、彼女は手に持った鏡花水月をファリンに差し出す。

「これを厳重に封印しなさい、決して誰の目にも触れないように、私はそこの男の止血と拘束をします」

 壊してしまおうとも考えたが、もし何かあればそれこそ一大事。

「?? 分かりました」

 どういうことかさっぱりわからなかったファリンだったが、大人しく刀を受け取り、屋敷に戻る。

「あら?」

 そして、倉庫の前で遼にであった。

「遼ちゃん、こんな所でどうかしました?」

 遼から返ったきたのはたった一言。

「迷った」 
 

 
後書き
黒服戦では誰かが追われているなー的な感じで寝ぼけながら戦った遼
けれど、今回は友達の家族が傷つけられているのを見て、プッツンしちゃってます。


…………まあ、美少女ならまだ冷静だったかもしれません。

ファリンとノエル、
設定に結構迷ったのですが、人間+機械のような感じと思ってくれればいいです。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧