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リリカルなのは~優しき狂王~

作者:レスト
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第四十六話~パパがママ?後編~

 
前書き

平和な夏休みを過ごしたい。
割と切実な願いです。

今回もあとがきコーナーは休みです。
ですが、次回は載せるつもりです。自分勝手でスイマセンm(_ _)m

前回の続きですではどうぞ 

 



機動六課・格納庫


「これは――」

 そう言って、ライは目の前に鎮座する巨体を見上げた。

「なんとか、九割がた修復が完了しました。残り一割も居住性の改良だけですから、性能はライさんが開示してくれたデータ通りですよ」

 ライの隣に立ち、手元の携帯用コンソールを操作しながらシャリオは説明していた。
 2人の前にあるのは、機動六課が初めて接触したナイトメアフレームである、蒼の月下であった。破壊されていた部分を鹵獲した他のナイトメアフレームの部品を使い修復し、左腕に装備されていた輻射波動機構をオミットした機体になっていた。
 ある意味、ライがブラックリベリオン後、黒の騎士団に合流した時のライの愛機と同じ状態である。
 ライは捕縛したナイトメアフレームの修復を依頼していた。ライの個人的な意見として、スペックノートに記載されている情報だけでは心許ないため、実機がどこまで動かすことができるのか知っておきたかったのだ。それに訓練でガジェットだけでなくナイトメアとの戦闘も出来るようになるため、マイナス要素はあまりなかった。

「動力はそのまま使っているの?」

「はい、本局の方もあの動力はジュエルシードのコピーであって、純粋なロストロギアではないから詳しいデータが欲しいようです」

 シャリオの回答にライは一瞬眉をひそめる。

(何か、問題が起きても自分たちに責任を押し付ける気か)

 内心で、そんなことを考えながらライはかつての愛機と同じ、その装甲表面を撫ぜた。

「ありがとうございます、シャリオさん。蒼月とパラディンの修復も頼んでいるのにナイトメアの復元までしてもらって」

「そんな!私はお礼をいわれるようなことはしていません」

 ライからのお礼の言葉にシャリオは苦い表情で言葉を返した。彼女は自分が無遠慮にライの過去をほじくり返そうとしたことを悔いていた。
 そしてライが自らの過去を明かした後、機動六課限定でナイトメアフレームの機種別に情報を開示したことが、彼女の後悔に拍車をかけていた。
 泣きそうな表情で俯いているシャリオの頭に優しく手が置かれる。

「え?」

「それでも、僕はシャリオさんがしてくれたことが嬉しかったからお礼を言ったんだ。だからこれは僕の自己満足になるかもしれないけど、受け取ってくれないかな?」

「…………その言い方、ずるいです」

 少し拗ねた風にそう言う彼女にライは笑みを零しながら、頭を数回撫でた。

「ありがとう」

「え?」

「僕のことをキチンと考えてくれて」

「あ」

 そう言ってライは格納庫を出ようとする。ライの言葉に少しの間立ち尽くしていたシャリオは慌ててライの後を追う。その際、シャリオは咄嗟に言ってしまった。

「ま、待ってください!御姉様!」

 そう言われた瞬間、ライはこけた。それはもう盛大にこけた。効果音をあえて入れるのであれば『ステーーン!』という感じだ。

「シャリオさん。今の僕の性別が女性だからって――」

「ス、スイマセン……思わず……その、着ている服もとても似合っているので……」

「…………ハァ」

 ライは女性になってから何度目になるのか分からない、ため息を突いた。
 ギンガとスバル、ティアナに更衣室に連れ込まれたライは、何故かその場に突撃してきたはやてとシャマルに着替えをさせられていた。
 ライは頑なに髪を結ぶのと、ブラをつけることだけでいいと言ったのだが、そんな意見が通るはずもなくライは無理矢理着替えさせられた。
 そして今現在、ライが来ている服装は、上が白のタートルネックの長袖で手首の部分が少しゆったりしていて、逆に胴体部分は体のラインが少し強調されているようなデザイン。そして下はシンプルな黒のロングスカートに黒のハイソックスとブーツを履いていた。
 因みにこれを持ってきたはやてとシャマルは当初、ライに黒のフレアスカートを履かせようとしたが、丈が短かった為にライが必死に抵抗し、ロングスカートを履くことになった。そしてライの着替えが終わると無駄にいい笑顔のサムズアップを残し、その2人は去っていった。
 髪はギンガに梳いてもらい、その後で首の後ろ辺りでひと房にリボンで纏めてもらった。

「男女逆転祭りの時もそうだけど、なんで僕を着替えさせようとするんだろう……」

「ア、アハハ」

 諦めにも似たその問いかけにシャリオは乾いた笑いしか返せなかった。ここで『とても似合っているからでは?』と言うのは簡単だが、それがライを凹ませるのに十分な言葉であることはシャリオも理解していた。



機動六課・廊下


 ライが女性になった翌日、ライは朝早くから廊下を歩いていた。その理由は蒼月とパラディンの受け取りのためである。
 先の戦闘で中破判定を受けた蒼月とパラディンは、この機会にフルメンテを行うことになっていた。その理由としては蒼月とパラディンに搭載されている新システムの存在が大きかった。前例のないシステムというのはどのような問題や不具合が出るのか、前もって予測はできても確立したデータを得ることはできない。その為、今回のことでその辺りのデータも吸い出すために2機はフルメンテを受けていた。
 予定ではもっと早く終わるはずであったのだが、2機の蓄積データが予想以上に多かった為にその予定は遅れてしまっていた。
 デバイスルームに辿り付き、中に入るとそこには既に備え付けのコンソールで2機のステータスチェックをしている昨日知り合ったばかりの女性の姿があった。

「おはようございます、マリエルさん」

 一晩経ったところで慣れるはずもない、女性としての自分の声に違和感を抱きながらもライは挨拶を送った。

「あ、おはようございます、ライさん」

「おはようございます、マス………ター?」
「久しぶりです、マス………ター?」

 マリエルの挨拶でライの存在に反応した蒼月とパラディンも挨拶を送る。しかしその言葉尻は上がり気味であった。

「マスター………いつからそちらの趣味に?」

「違うから、女装癖に目覚めたわけじゃないから」

「マスター………シリコンは人体にとっては悪影響を及ぼす場合が」

「別に豊胸手術したわけでもないから」

 相棒達の言葉に折れそうになる心を必死に保ちながらライはツッコミを入れた。内心泣きそうになったが、2機に説明をすることでなんとか心を落ち着かせることに成功する。

「「ロストロギアの影響というのは理解できました」」

「納得してくれて安心したよ」

 心からそう感じたライの表情は本当に安心した表情をしていた。

「それで、蒼月とパラディンはもう持ち出しても構いませんか?」

「あっ、実はプログラム面で蒼月さんとパラディンさんに負担が掛かる部分がありましたので、その部分の修正を行います。なのでもう少し時間をくださいませんか?」

「そうですか……やはり本職の人にはかないませんね」

「え?」

 自嘲気味な表情とともにライはそのセリフを口にした。
 だが、マリエルはライのそのセリフの意味が心底分からないと言う表情をした後、何かに気づいたような表情をし、慌てるように口を開いた。

「違うんです!ライさんが組んだプログラムに問題は全くありませんでしたから」

「え?」

「ライさんが組んだプログラムが独特すぎて、既存のデバイスにとっては当たり前のプログラムが邪魔になっていたんです」

 ライが組み込んだプログラムには、基本的にナイトメアフレームに使われていたOSや基礎プログラムが元になっている。これは蒼月とパラディンの開発コンセプトである『対ナイトメアフレーム戦を想定した性能』という部分が強く働いた結果であった。基本的に対人に優れている既存のデバイス性能では人間の約三倍近い大きさ、しかも装甲強度も高く、AMFを装備しているナイトメアフレームを相手にするのに、それではあまりに部が悪い。
 その問題点の解消として、ライはナイトメアフレームの一部の性能をパラディンで再現することを選択したのだ。その為、ハード面はもちろん、ソフト面の方も通常のデバイスとは多少かけ離れたものになっていた。

「このプログラムをデバイスに組み込めること自体至難の技です。寧ろ、既存のプログラムでここまで負担を軽くしていたことにライさんは胸を張ってもいいと思います」

「え~~と……」

 知り合ったばかりの人からの思いもよらぬ賞賛に若干戸惑うライであった。その後、蒼月とパラディンのことをマリエルに頼み、ライは朝行こうとしていたもう一つの場所に足を向けた。



機動六課・食堂


 いつものように早朝訓練を終えた一同は食堂に足を運ぶ。この日は偶然ではあるが、六課の主要メンバーがほぼ全員同じ時間に食堂にむかっていた。
 いつもよりも人数が多い食事。それだけでもいつもとは違うのだが、食堂に入るとそこには更にいつもとは違う風景が広がっていた。
 机の上には個人のお盆一つ一つに一人分の朝食のおかずが配膳され、そしてその配膳をしていたと思われる人物はお茶碗に炊いたお米をよそっていた。

「ライ君…………何してん?」

 代表するようにはやてがライに質問する。振り向いたライは昨日の装いとは少し異なっていた。服は同じであるが、その上から紺色のエプロンを付け、髪は垂れ下がっていたのを後頭部に纏めるように結い上げ、そしてエプロンと同じく紺色のバンダナを付けていた。
 はやての質問にライは不思議そうな表情で答える。

「何って……朝食の準備」

(((((いや、そうじゃなくて)))))

 その場にいたライ以外の一同の心が一つになった瞬間であった。

「あんな……私が聞きたいんは何をしていたかでなく、何故それをしていたかなんやけど?」

「ああ、これはヴィヴィオに頼まれたんだよ」

「ヴィヴィオに?」

 ライの用意した朝食が気になり、ザフィーラの背に跨って机の上を覗こうとするヴィヴィオに皆の視線が集まる。

「以前、ヴィヴィオにママって何をするのか聞かれたことがあって、その時に家族のご飯を作ったりもするって言ったんだ」

「ふむふむ」

「それで昨日、その事を覚えていたヴィヴィオに『ママになったパパはご飯を作るの?』って聞かれて、特に断る理由もなかったから『うん』って答えたんだ」

「それで、朝ごはんを作った、と?」

「うん」

「あれ?でも私聞かれた事ないよ?」

 ライの説明に疑問が残ったなのはは尋ねた。一応、ヴィヴィオからママ扱いされているなのはにとってこの話は初耳であった。

「なのははいつも朝仕事をしてくれているから、代わりに食堂で働いている人が作ってくれていると説明した」

 ライの簡潔な答えに納得を見せる一同。実際のところ、今のライの説明と一緒に『ご飯は作れないけど、ヴィヴィオの好きなキャラメルミルクを作ってくれるのは、なのはがママだからだよ』とフォローもしていたりする。
 一同は取り敢えず食堂に来た目的である朝食を食べるために、それぞれ茶碗に盛られたご飯を貰ってから席についていく。ライもバンダナとエプロンを取り、皆と同じように席につく。

「「「「「いただきます」」」」」

 ミッドチルダではあまり浸透していない言葉を言ってから、各自朝食に箸を伸ばし始めた。
 朝食のメニューはご飯、鮭の塩焼き、味噌汁、ほうれん草のおひたし、根菜類の煮物でとても分かりやすい和食メニューであった。

「旨い」

 洋食よりも和食の方が好きなシグナムは思わずといった風に感想を洩らす。他の人たちも味が気に入ったのか、テンポよく朝食を口に運んでいた。

「ねぇ、ライ君は誰かにお料理習ったの?」

 素直に美味しいと感じたことと、ライが和食を作ったことが意外だったのかライの隣に座っていたなのはがそう尋ねていた。

「料理をならったのはルルーシュからだよ。でも、和食を教えてくれたのは咲世子さん」

 ライはあえて説明を省いたが、料理の作り方などの知識面は何故かバトレーが刷り込んだ知識の中にあったものである。その知識と経験を行わせることでライの料理の腕はそこそこ高いものになっていた。
 そして、ライの作った和食に皆満足し、その日の朝食は終了した。



機動六課・訓練場


 いつもであれば煌びやかな魔力光で彩られるその場所に、今日はいつもとは違う土煙が舞っていた。
 その土煙を起こすのは蒼い人型の機械、蒼月であった。最初は直線的な動き、それが終わると滑らかな平面的な二次元機動。そして最後には周りの廃棄都市を利用しながらの三次元機動を行う。
 時には、装備されている飛燕爪牙を使い、時には廃棄都市の壁を利用し、そして時には自機の落下の勢いも利用する。そんな機動がかれこれ一時間続いた。
 その機動を最初から見ていた観客、なのは達フォワード陣は真剣な表情をしていた。
 今回、なのは達が月下の機動を見ていたのは、ナイトメアフレームの駆動限界を見極めるためである。その場にいる皆はライの過去を見たとき、一応のナイトメアフレームの性能を知ってはいたが、この世界で作られているナイトメアフレームが同じ性能であるとは限らないため、その性能がどこまで再現されているのか知ろうとしたのだ。幸いにも、ナイトメアの性能を十全に引き出すことのできるデヴァイサーであるライがいる。その為、この案件の実現は割と簡単であった。
 参加者の中で唯一の例外であるギンガは、スバルの姉で信用に足る人物であると判断したライ自身が、彼女に自分の素性を説明し今回の月下の稼働実験に参加させていた。
 ある程度の駆動を終わらせた時に今回の実験に同席していたシャリオが通信を繋いだ。

「どうですか、ライさん。ライさんの世界の物とどこか違いはありますか?」

『えっ……と、特にはありません。ただ、やっぱり人が操縦するために作っていない分、反応が過敏ですね』

 通信機越しに幾つかのボタンを弾く音が聞こえてくる。その音はライが月下の機体ステータスの確認や操縦系のチェックなどの作業音である。

「取り敢えず、一度こっちに戻ってきてもらってもいいかな?実際にライ君の操縦を見たみんなと意見交換したいから」

 シャリオの横から、通信機に向けてなのはは声をかける。

『分かりました』

 簡素な返答が返ってくる。そのすぐ後に通信機の回線が切れる。そして、少し離れた位置からまた土煙が上がる。その煙がこちらに来ているので、それがライであるとすぐに把握した。
 ライを待っている間になのはは今のうちに聞いておけることを、シャリオから聞くことにした。

「ねぇ、シャーリー、復元したあのナイトメアとライ君の世界のナイトメアに何か違いってあるの?」

「いくつかですけどありますよ」

 2人の会話が聞こえていたのか、近くにいたフェイトも近づいてくる。

「動力は報告したとおり、ジュエルシードの劣化コピーを使用していたものなのがまず大きな違いです。そしてあの機体は人が乗ることを想定した機能がありませんでした」

「でも普通にライは操縦してるよね?」

「あ、別にコクピットが無いとかそういうのではなくてですね、単純に居住性が極端に低いんです」

「「居住性?」」

 魔道士にとっては聞きなれない言葉に2人は首を傾げる。そんな2人を可愛いと思いながらシャリオは説明を重ねる。

「車でも座り心地や空調の調整で乗りやすい環境をつくりますよね。簡単に言うとそう言った物を総括して居住性と言うんです」

「なら、あのナイトメアのコクピットは居づらいってことかな?」

「そうですね、具体的には空調が効かなくてちょっとしたサウナ状態になるって感じですかね?」

 その説明を聞いた2人は最初『なるほど』と納得の表情を浮かべる。だが、何かに気付いたような表情を浮かべるとほぼ同じタイミングでちょうどここにたどり着いた月下の方に顔を向けた。
 皆は賞賛するためか、単に珍しいと感じたのか月下の元に集まっていた。
 背中のコクピットが開き、バイクに跨るような体勢からライは起き上がる。起き上がった瞬間、その場にいたライ以外の全員が動きを止めた。
 月下のコクピットに収まっていたライの服装は新人フォワードメンバーが訓練時に着ているものと同じである。そして上に着ているのは白のTシャツである。
 ここで問題が発生した。元の世界でも決して高くなかったナイトメアフレームの居住性、それが最悪の状態で試乗すればコクピットは先ほどシャリオが言っていたようにサウナ状態になる。その中に一時間いたライが汗だくになるのは当たり前である。
 そして前述した通り今のライの服装は白のTシャツ。しかも動きやすいようにかなり薄手で、この時ライは動きやすさを重視し昨日と同じくブラを着けていなかった。
 要するに―――

「あ、ノーブラ」

 汗を吸って体に張り付きまくっているTシャツは、ライの女性としての肢体を隠すことができていなかった。
 その後、ギンガやティアナのライへの説教や鼻血を吹いたエリオの看病などをするハメになり、なのはの言っていた意見交換ができるはずもなくその日の午前中の訓練は中止となった。
 因みに2人からの説教の後、自室のシャワーで汗を流していると体がいきなり発光し、光が収まるとライは男に戻っていた。
 そのことに本人は安堵し、六課の女性陣は安心とちょっとだけ勿体無いという気持ちを持った。
 因みに六課の男性陣は隙がありすぎる美女がいなくなった事を影で悲しんでいたりした。そしてそれは今も…………
 ……女性版ライの復活は近いのかもしれない。







おまけ

 ライが男に戻ってから数日後、機動六課の格納庫裏である取引が行われていた。
 取引されていた物品は写真。被写体を現す、その写真の商品としての名前は『幻の美女』である。
 この取引によりあるヘリパイロットは懐が温かくなり、写真を購入した一同は掛け替えのないお宝を手に入れた気分になっていた。
 前回と違いなぜ今回ヘリパイロットがしょっ引かれなかったというと、客の一部が六課の責任者であったりするからであった。





 
 

 
後書き

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