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戦国異伝

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第百三十四話 信行出陣その四

「若し兄上を通さねばじゃ」
「殿は危ういですか」
「そうなりますか」
「与三達なら何とかしてくれるがな」
 森達の力量も知っていて彼等なら何とかしてくれるだろうというのだ、しかし信行は『だろう』だけでよしとはしない。
 それでだ、己の前にいる彼等にこう言ったのである。
「我等も何とかせねばならぬ」
「ではどうされますか」
「出陣だ、三郎五郎を呼べ」
 弟の信広の名前も出す。
「あ奴と共に出陣する」
「まさか朽木殿を」
「討ちはせぬ」
 それは考えていなかった、信行も。
「ただ兵を動かせばそれが朽木殿の耳にも入るな」
「それで、ですか」
「言うならば脅しじゃ」
 信行はあえてこの言葉を出した。
「それを仕掛ける」
「朽木殿にですか」
「それを」
「これは政じゃ」
 信行は兵を動かし操ることは不得手だ、しかし政のことならわかる。ここでは政として考えてそのうえで進めるのである。
「政として朽木殿に直接ではないが関節に圧力を仕掛けてじゃ」
「殿を迎えられる様にしますか」
「ここは」
「そうする、ではよいな」
 こうしてすぐに信広が呼ばれた、信行は彼が前に出るとすぐに告げた。
「ではよいな」
「はい、今から近江に向けて出兵ですな」
「うむ、そうするぞ」
「勘十郎兄上が兵を率いるのですな」
「いや、、実際の采配は御主が執ってくれ」
「わしがですか」
「わしは兵を動かすことは不得手じゃからな」
 だから彼を呼んだのである、実際に兵を動かす為にだ。
「御主に頼みたい」
「畏まりました、それでは」
「都に今すぐどれだけの兵を集められるか」
「今二万います」
 それだけの兵が残っている、これはいざという時の備えでもある。
「これに加えて大和や丹波に送れば」
「二万に加えてどれだけ集まるか」
「三万かと」
 つまりもう一万加わえられるというのだ。
「そのうちのどれだけで出陣されますか」
「二万じゃな、残り一万は」三十郎に任せようぞ」
 信包のことだ、彼も信長の弟の一人だ。
「あ奴にな」
「そうされますか、それでは」
「すぐに出陣するぞ、兄上が今何処におられるかわからぬがな」
「朽木殿のところに入られるまでに」
「与三や勝三郎が傍におる、御身は大丈夫じゃ」
 森達が護っているならというのだ。
「しかしそれでもな」
「はい、念には念を入れて」
 朽木に無言の圧力を仕掛ける為の出陣だ、そしてそれだけではない。
「それに兄上をお迎えする為にも」
「退きでも堂々と兵を率いて帰れば対面が随分違うからな」
「ですな、二万の兵が周りにいれば」
「それでいけるからな」
「では」
 こうして信行は信広と共にすぐに出陣した、信長のことはおおよそ安心出来たがそれでも念には念を淹れてのそれだった。
 幕府も今は騒然としている、信長と共に出陣せずに幕府に残っている幕臣達も顔を見合わせて深刻な顔になっていた。
「まずいでござるな、これは」
「はい、まさか浅井殿が裏切るとは」
「織田家は十万の兵を退かせたとか」
「そして一路都に向かっているとか」
「そこには明智殿達もおられますし」
「これはまずいですな」
「厄介です」
 こう話す彼等だった、そして。
 彼等も彼等で信長の行方を探りその出迎えの用意もしていた、だが。 
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