銀色の魔法少女
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第二十六話 謎
side 遼
七月一日、私は大事なことを思い出す。
そうあの後アリシア復活なり、筋肉痛なり、地獄の訓練なりで忘れてはいたが、転生者に関することを調べなければならなかった。
けれど、最大の手がかりであるレイはとっくに引き渡したし、なのはのクラスにいるあのバカに聞くのも癪だった。
「…………よし!」
散々考えた末、私は罠を張ることにした。
「…………わぉ」
放課後、なのはたちに別れを言って、仕掛けた場所に来てみるとものの見事にあのバカが引っかかっていた。
私がしたことは単純、『放課後、屋上に来てください♪』と書いた手紙をあのバカの鞄の中に仕掛けただけ。
そして授業を受けている間に、屋上にクリムがトラップを――扉を開けたら電撃付きのタライが降ってくる――を設置し、その時まで誰も来ないように細工した。
そんでもって現在、私の足元には目を回した赤髪がいる。
一応騎士服を着ているけど、いらなかったかな、これ?
まあいい、うまくいったならそれで。
「おーい、この子のデバイス君、聞こえてる?」
『……はい、残念ながら』
胸ポケットのあたりから聞こえる。
「あのさ、ちょっと聞きたいことがあるのだけどいい?」
『刃の弱い点などは、教えられませんよ』
「そんなの聞きたくもない! じゃなくて、転生者について聞きたいんだけど、わかる?」
『? どうしてあなたが知らないのですか?』
不思議そうな声が返ってくる。
まあ、そうなるかな。
「わかんない、とにかく私には前世の記憶がないの、あらましだけでいいから教えて?」
『教えないと?』
その問に、私は笑顔でこう答えた。
「潰す」
さて、あのデバイスを脅して大体のことは聞き出せた。
曰く、私たちはこの世界の人間ではない。
曰く、それぞれ管轄する神様が違う。
曰く、転生者はあらかじめこの世界の知識を未来に至るまで知ってる。
曰く、最低でも三つの特典とやらが与えられ、これがとんでもなくチート。
曰く、自分が一方的に不利になる特典は与えられないし、記憶の引継ぎは絶対なので、私に記憶がないのは前世の私が望んだからと思われる。
曰く、デバイスは初期装備に含まれる。後の改造有り。しかし、強力なものは特典を消費する。
このことから推測されるのは、以下のこと。
私は本来いない人。
私の特典はクリムと予知、凍結と思われる。
しかし、クリムによると彼女は元からこの世界にいる人?なので本来の所有者がいたかどうかは不明。
私に記憶がないのはただ単にそうしたかったからか、そうすることで何かメリットがあるか。
「んーーーーーーーーーー!」
考えてもさっぱり分からない。
取り敢えず、ここまでしよう、情報が圧倒的に足りな……、まてよ。
「そもそも前世について考えるべきじゃないのかな」
生まれが特殊であっただけで、私はこの世界に生まれた一つの命。
だったら今まで通りに暮らしていけばそれでいいのではないか。
「…………だめ、考えがまとまらない」
一旦昼寝でもして頭を休めよう、後はそれから。
side ALL
「おい、そっちに行ったぞ!」
太陽が沈みかける夕暮れ。
この春、アリサが見つけた近道を一人、月村すずかは走っていた。
彼女を追う大人たちは全身黒ずくめにサングラスと怪しさ全開だった。
しかも、見えてはいないが懐に拳銃を隠している。
「!?」
少女は道の先に、二人の人影を見つける。
それは少女の見知った人ではなく、後ろにいる奴らと同じ、黒づくめ。
少女は見つかる前に、道をそれて林の中に隠れる。
「そっちにたか?」
「いや、見てない」
「って事は近くに隠れてるかもな」
そう言って彼らも道を外れ、林の中に入ってくる。
少女はたまらずその場から逃げ出す。
しかし、その時に木の枝を踏んで音を鳴らしてしまう。
「いた! おい、こっちだ!」
見つかった! そう思って振り向いたのがいけなかった。
「きゃっ!?」
足元にあった何かにつまづいて、彼女は転んでしまう。
少女は慌てて少し体を起こし、後ろを見ると、黒服が追いついてしまったのがわかった。
「まったく、手間かけさせやがって」
そう言って、黒服の一人が少女に手を伸ばす。
「い、いや!」
そう言って、彼女は後ろに後ずさる。
けれど木に邪魔されて、これ以上後ろにいけない。
それを楽しそうに見つめる男。
「おいおい、そんなに怯え――」
彼がこれ以上話すことはなかった。
少女は一部始終を見ていた。
急に男の股の下に警棒が現れ、そのまま上に上がって行き、男の急所を砕いた。
男は白目を向いて、倒れる。
その後ろに、見覚えのある少女がいた。
「遼、ちゃん?」
眠そうに片眼をこする遼の手には、しっかりと折りたたみ式の警棒が握られている。
「あによ~」
どうやらまだ目が覚めておらず、現状を把握してはいなかった。
「おい、ガキはどうした?」
遼の後ろから一人、また一人と黒服が現れる。
「んにゃ?」
遼は後ろを振り返り、彼らと目が合う。
「おい、誰だおまえ」
警棒を握る遼に不用意に男が近づく。
完全に子供だと思って油断していたからだった。
そして、それが決定的だった。
「うん」
遼はまず男の左足を打つ。
「ほい」
痛みで足を上げたその隙に、もう片方の足を蹴り飛ばす。
支えるものがなくなった男は頭から地面に落下し始める。
そして、自ら近づいてきた男の顔面めがけて、思いっきり警棒を叩きつけた。
「がっ!」
男は脳震盪を起こし、気絶する。
それを見ていた他の男たちは懐から拳銃を取り出す。
「おい、動く――」
けれど、遼の方が速かった。
「ん」
高町家地獄特訓終了の記念に士郎からもらった鋼糸を右の男に、飛針を左の男の拳銃向けて投げつける。
遼は右の男の首に鋼糸を巻き付け、引き付けると同時に自分も跳んで一気に距離を詰める。
男は咄嗟に残った手で糸を解こうとするが、肉に糸が食い込んでつかめない。
「っつ!」
左の男は飛針を手に受け、痛みで拳銃を落とす。
距離が詰まった所で遼は力いっぱい警棒を、右にいた男のこめかみに叩きつける。
「ぎゃ!」
「…………」
そして、遼は次の獲物に目標を定める。
「ひぃ!」
その目は虚ろで、男の目にはとても異常に写ったかもしれない。
実際は寝ぼけているだけだが。
「………………」
遼は下を見ると、拳銃を拾い上げる。
しばらくそれを眺めた後に、残った男に狙いを定める。
男は慌てて拳銃を拾おうとして、遼から目を離す。
「このが、え!?」
視線を元に戻したとき、そこに遼はいなかった。
そして、えも言えぬ悪寒を感じて、ゆっくりと下を見る。
「……おい、嘘だろ」
そこには、拳銃を掲げて自分の頭を狙う遼がいた。
「おい、嘘だよな、ガキがそんな――」
乾いた音が一回。
同時に男の頬に傷ができる。
男は感じる。こいつは本気だ、と。
しかし、それは全くの勘違いであったが、それは知る術もなかった。
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