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西郷どんと豆腐

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第二章

 その西郷にだ、母がこう言った。
「小吉、今からおから貰ってきもっそ」
「おから屋どんのところにでごわすな」 
「早く行きもっそ」
「わかったでごわす」
 西郷は母の言葉に素直に頷いてだった。
 すぐに家を出て彼がおから屋と呼ぶ店に向かった、その時に。
 道を行く少し年配の武士達の話を聞いた、彼等は道で話をしていた。
「いやあ、昨日の豆腐は美味かったでごわすな」
「全くでごわす」
 彼等は笑って機嫌よく話をしていた。
「あっさりしていて食べやすいでごわすな」
「あれは最高のおかずでごわす」
「食べる?そしておかずでごわすか」
 西郷は彼等の話を聞いて歩きながら首を傾げさせた。
「それが豆腐というものでごわすか」
 彼ははじめて豆腐という名前を聞いた、それでそれが何かとそのおから屋に向かいながら呟いた。
「一体どんなものでごわすか」
 それがどうしてもわからなかった、それでだ。
 店に来てすぐに尋ねた。
「おから屋どん、いいでごわすか」
「ああ、何じゃ小吉どん」
 店の親父はその前でおからを出していた、そうしながら西郷に顔を向けたのだ。
「おからでごわすな、今出しているところでごわす」
「おからを欲しいでごわす、それとでごわす」
「それと?何でごわすか?」
「教えて欲しいことがあるでごわす」
 その大きな目で親父を見ながら問う。大きく澄んだ星の様な目だ。
「おから屋どんは豆腐というものを知っているでごわすか」
「はあ、豆腐!?」
「そうでごわす、何でも大層美味いそうでごわす」
「知ってるも何もうちじゃ」
 おから屋は瞬時に呆れた顔になって西郷に返した。
「うちが豆腐屋じゃ」
「何と、おから屋どんはその豆腐も売っていたでごわすか」
「だからうちは豆腐屋でごわす」
 親父は最後のその言葉nさらに呆れつつ返した。
「おから屋ではなく豆腐屋でごわす」
「そうだったでごわすか」 
 いつもおからしか買っていない西郷が知る由もないことだった、西郷は親父の言葉に目を剥きながら言った。
「いや、おか屋どんではなかったでごわすか」
「違っていたでごわす」
 今ここで言う親父だった、このことを強く言う。
「わかったでごわすか」
「ううむ、今はじめて知ったでごわす」
「小吉どんらしいでごわすな」
 親父は呆れつつもそれが西郷らしいとも思い納得もした。
「それもまた」
「それでその豆腐でごわすが」  
 西郷は如何にも興味があるという顔で再び親父に尋ねた。
「どんなものでごわすか」
「これでごわす」
 親父はすぐにその豆腐を出して来た、それはというと。
 木の丸い桶にたっぷりと入れた水の中にあった、白く四角いものだ。
 親父は西郷にそれを見せて微笑んで言った。
「これが豆腐でごわす」
「これがでごわすか」
「小吉どんは今まで見たことがなかったでごわすか」
「今はじめて見たでごわす」
 実際にそうだというのだ。
「こんなに白いでごわすか」
「しかも美味いでごわすよ」
「一体どんな味でごわすか?」
「それは食べてわかるでごわす」
「そうでごわすか、これは」
 西郷は無意識のうちに好奇心から指をそっと出した、そして。 
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