水に挿した花
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第一章
水に挿した花
静かな夜、月明かりが私を照らしている。
真夜中のバルコニー、三日月の白い光を見ながらグラスに紅のワインを入れる。白い椅子とテーブルに着きながら。
そのうえで私は後ろに控えている執事に尋ねた。
「あの人は今夜は」
「来られないとのことです」
執事は私に礼儀正しい声で答えた。
「奥様が先程ご入浴の時に連絡がありました」
「そう」
「今宵はお忙しいとのことで」
彼の仕事は芸術家だ、絵を描いている。私は街を馬車で進む中で河のほとりで絵を描く彼を観て馬車を止めて声をかけた、それからだった。
「申し訳ないとのことです」
「わかったわ」
「それではどうされますか」
「ロマールを呼んでくれるかしら」
家の若い下男の一人だ、三ヶ月前に雇ったばかりの子だ。
「お風呂に入ってからこの部屋に来る様に言って」
「彼が来ないのならね」
私はバルコニーから月を見上げながら執事に言う。
「仕方ないわ」
「わかりました」
「旦那様はどうしているかしら」
形式上の夫のことも尋ねた。
「今宵は」
「ロクサーヌ様のところです」
「今宵もなのね」
「はい」
街の娼館の中でも最も高級な館の娼婦だ、娼婦だがとても気品があり美しい娘だ。夫は私と結婚する前からも今もずっと彼女のところに入り浸っている。
「そうされています」
「わかったわ」
夫のことも聞いて静かに述べた。
「それではね」
「ロマールを呼んでですね」
「今宵はね」
こう執事に言って彼を退かせてだった、私はまずは一人でワインを楽しんだ。
そして扉がノックされたとことで立ち上がった、そして彼を一夜の相手にした。
朝私はけだるさとワインが残る中で朝食を口にしながら侍女の一人に尋ねた。今私達がいる場所は屋敷の食堂だ。
そこにいてだ、こう聞いたのだ。
「今日はね」
「今日はといいますと」
「まずは乗馬をするわ」
朝食の後は最初はそれをすると言った。
「昼食まではね、午後は街に出るわ」
「宝石店に行かれますか」
「画廊に行くわ」
こう侍女に告げる。
「そうするわ」
「画廊ですか」
「ええ、そこにね」
考えながら、遠く深いものを見ながら彼女に語っていく。
「そして夜だけれど」
「どうされますか」
「夕食はあちらで食べるわ」
街でだ、その時はいつも贔屓にしているレストランで食べる。
「あのお店に連絡しておいて」
「わかりました」
「席は二人分」
私だけではないということも伝える。
「それだけ用意しておいて」
「お二人ですね」
「そう、二人よ」
「わかりました、ではあのお店にはお伝えしておきます」
「その様に」
「今夜は大丈夫かしら」
私は自慢の長く黒い、腰のとことまである髪を左手でかき分けてから言った。
「どうかしら」
これは独り言だった、侍女もこのことにはあえて何も聞かなかった。
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