ファルスタッフ
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第一幕その五
第一幕その五
「馬鹿共が。覚悟せい!」
「う、うわあああっ!」
「な、何て有様だ!」
二人はそれぞれ扉から飛び出て逃げる。何とかファルスタッフの箒から逃れる。大暴れして汗をかいたファルスタッフはとりあえず椅子に腰を下ろして落ち着く。そこに来た小僧にその二通の手紙と僅かのチップを与えて二人の奥方のところに行かせる。そのうえでやっと落ち着きシェリーを飲みつつこれからのことにニヤリと笑うのだった。
フォードの家。外は煉瓦、中は木造で大きな立派な家だ。その庭の緑の芝の上に二人の貴婦人がいた。一人は赤い服で白いカラーが目立つ。ブロンドに黒い目を持っていてその視線が強く細い顔立ちの小柄な美女である。もう一人は青いドレスに白いカラー、灰色の目に銀髪だ。背が高くややふっくらとした優しげな顔立ちだ。二人は実に対象的だが一つだけ同じものを持っていた。それは美貌だった。
その二人の美貌の貴婦人が言い合う。まずは赤いドレスの貴婦人から。
「ねえメグさん」
「何かしらアリーチェさん」
二人はそれぞれ言い合う。
「今日のあの娘はどうかしら」
「ナンネッタね」
「そう、あの娘」
母に似て小柄であるが黒っぽい髪だ。大人しい白い服を着ているがそれがよく似合う。如何にも少女といった薔薇色の頬に黒い目が実に映える。利発そうな娘だ。
「どうかしら」
「奇麗ね」
メグはにこりと笑ってアリーチェにこう述べる。
「若い子が放っておかないわよ」
「そうね。確かにね」
「ええ、そうね」
「こんにちは」
ここでもう一人来た。彼女は黄色いドレスだ。カラーは同じ色だ。茶色の髪と目をした中肉中背の女だ。年齢はアリーチェ達と同じ位だ。知的で山猫に似た目をしていて唇の端で静かに微笑んでいあt。
「ご機嫌麗しゅう」
「あら、クイックリーさん」
「貴女も来てくれたのね」
「折角のお茶ですから」
微笑んでこう二人に述べるのだった。
「それでです」
「貴女も来てくれたのなら調度いいわ」
アリーチェはクリックリー夫人に対して述べた。
「実はね」
「はい」
「こういうものを貰ったのよ」
「あら、私と同じ」
それを見てメグが思わず言った。
「ラブレターを貰ったのね」
「ええ、そうなのよ」
メグに答えて困った顔を見せる。
「貴女もだったの」
「そうなのよ。奇遇ね」
「そうね」
「世の中おかしなものがあるものね」
ナンネッタはそれを見て言った。
「見たら何か紙も封印も一緒ね」
「そういえば」
「確かに」
彼女の言葉を聞いて二人の貴婦人は手紙をまじまじと見た。見れば確かにそうだった。
「では中身は」
「まさかとは思うけれど」
同時に開いてその中身を見る。するとその中身も同じだった。
「何とまあ。名前を変えただけ」
「私のねメグになっていて」
「私のはアリーチェになっている。それだけね」
「同じ文句で同じ筆跡で同じインクで」
「ただ名前を変えただけ」
「そして最後にあるのは」
差出人の名前だ。そこにあるのは。
「サー=ジョン=ファルスタッフ」
「両方共そのまま」
「何て破廉恥な」
「おやおや、これはまた」
クイックリーもこれには呆れていた。
「あのお騒がせ騎士殿ですか」
「何て破廉恥な」
「これは許せないわ」
早速二人は激昂を見せる。ナンネッタはその二人に対して問う。
「それでどうするの?」
「決まってるわ」
「思い知らせてやるのよ」
やはりそれであった。破廉恥な男に天罰を、というわけだ。
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