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とある碧空の暴風族(ストームライダー)

作者:七の名
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幕間
  Trick-04_初めては信乃からやって欲しい




学園都市にきて1年以上が経過した。

無能力者の俺は、孤児院への援助のために俺を認めてくれた教授のため、
そして自分でA・T(エア・トレック)を作るために、物理学を必死に勉強した。

小学校は授業が午後3時に終わる少し特殊な学校に入り、放課後は教授のもとで
勉学に励んだ。

同じ学校にいる美雪は、薬が効かない俺の体質のために薬剤学を教えている
塾(大学のゼミ)に通うようになった。

怪我しても消毒しかしない俺の事を昔から気にしていたからな。ありがたいね。

でもな~、その勉強を集中しているせいで美雪に同年代の友達ができないのが
俺の密かな悩みなんだよな~。

ま、そんなこんなで俺は物理学の博士号も取得できた。すごいだろ!
有名になり過ぎるのが嫌で、この事は一部の人間にしか知られていないけどね。

そして教授の開発テーマ、超音速飛行機の開発にも携わっている。
今日はその成果を、学園都市外の講演で発表するために、出発する日だった。



「ふぁ~~~。 朝か・・・」

あくびをして上体を起こして布団から出ようとすると、左手が何かに掴まっていた。

美雪だ。そういえば一緒に寝たんだったな。

学園都市で寮に一人暮らしを始めた俺たちだったが、小学校が男女共学で
同じ学校だったために、同じ寮で部屋も隣だ。

だけど料理をするのも洗濯をするのも、1人よりも2人の方が楽ということで
ほとんど一緒に住んでいる。

同棲じゃなくて同居だからな! 今日だって一緒の布団にいたのも偶然だ!
美雪が毎日ねだってくるけど、週に3回ぐらいしか許してないんだからな!

まあ、その方が眠りやすいのは認めるけど・・・


閑話休題


いつもと同じように起きたのは良いが、俺は少し不安な気持ちでいた。

今日から自分が関わっていた研究を発表する日。緊張して当然だと思う。

それでも時間は待ってくれない。緊張を一時横に置いて、横にいる寝坊助の相手をする。

「ほら、美雪。朝だぞ起きろ」

「~~ん?」

肩を捕まえて体を揺らすと、目をこすりながら美雪が起きた。

まったく、緊張しているこっちの気は知らないで熟睡して羨ましいよ。

「・・おはよ 美雪」

「ん、おはようございま・・・・ぎゅう」

「おわ!?」

美雪がいきなり正面から抱きついてきた、ってこら!

「じゅ~で~んちゅう♪」

充電中って、俺はコンセントかよ・・・充電中だから動いたらダメか?

「はぁ、5分だけだぞ。今日は学園都市の外に行くから忙しいの覚えているだろ?」

「そうでした♪ しょうがないからもう終わりにしてあげる♪ 感謝しなさい♪」

「それはありがとうございます・・・」

なんで上から目線なんだよ。ってかさっきまで緊張していた俺がバカみたいだな。

「さっさと朝飯食って行くぞ」

「ほぉ~い♪」

一緒に朝食を作り、待ち合わせの研究所へと2人で向かった。





発表が無事終わり、俺たち2人はロビーの一角で美雪とジュースで一服していた。

俺は発表には参加しないけど、開発チームの一員として会場には来ていた。
でも学園都市外に出た目的の半分は小旅行であり、1日目の講演を終えれば
残りの3日は自由行動。それで教授に誘われて美雪も一緒に行くことになった。

「ふぅ~」

「信乃、お疲れ♪」

「俺は会場に居ただけだよ」

自分が発表しなくても、自分が関わった発表がどう評価されるかを考えると、
会場にいる間はずっと緊張していた。

「評価が良くて安心した。ラム・ジェット理論が完成して、強度の面を含めて
 安全を確保できれば、物理学者としては仕事は終わりだ」

「完成すればA・Tに専念できるね♪」

「だな。それに教授にも恩返しができる」

A・Tの事を知っているのは美雪と俺の2人だけだ。

教授には以前に設計図を見られたけど、モーター付きローラーブレードとして
誤魔化した。

そして美雪には前世の話を含めて全て話した。
全てといっても、内容が多すぎるから話が抜けている部分もあるけど。
それでも俺がA・Tに憧れているのを理解し、そして応援してくれている。

いつか美雪と一緒に跳んでみたいな。

2人でそんなことを雑談していたら、自販機の前にいる女の子が目についた。
茶色の綺麗な髪を肩まで伸ばし、頭の上でピョコンと1つ立っている。

「信乃、あれ・・・」

「うん。

 君、どうしたの?」

近寄って話しかけると

「ゲコ太・・・」

女の子が消えそうな声で呟いた。目線の先を見ると、自動販売機の最上段の飲み物に
カエルのキャラクターのラベルが描かれたジュースがある。

一応、並べられている数台の自動販売機の全てを見て確認してみたが、
『ゲコ太』という名前に当てはまりそうな缶はこれしかない。

あんまりかわいくないキャラクターだな・・・少しだけ趣味を疑うぞ?

「このカエルが欲しいのかな?」

「うん」

「それじゃ、代わりに押してあげるよ」

女の子が動かなかったのは、自動販売機の最上段にあるから。
小さい子だからボタンに手が届かなかったみたいだ。

俺が代わりに押してあげると、女の子はすぐに取り出し口に手を入れて
目的のものを手に持った。

「ありがとう!」

「どういたしまして」

「よかったね♪」

「わたしは御坂美琴! お兄ちゃん達は?」

「西折信乃だよ。よろしくね」

「小日向美雪だよ♪ よろしく♪」

「信乃にーちゃんに、美雪おねーちゃん、ありがとうね!」

なんだか仲良くなって、美琴ちゃんも入れて3人で座って雑談の続きをし始めた。




しばらくすると、教授と一緒に女の人がこちらに歩いてきた。

「信乃くん、遅くなったね。おや? そちらの女の子は?」

「あら、ウチの子じゃない」

「ママだ!」

美琴ちゃんはその女の人に走って行った。

あの反応を見ると、美琴ちゃんのお母さんみたい。
でも若いな。20歳くらいにしか見えないけど。ヤンママ?

「教授、そちらの女性は?」

「ああ、私は昔、高校の教師をしていてね。その当時の教え子の御坂美鈴くんだ」

「御坂美鈴よ、よろしくね。こっちはウチの子の御坂美琴、9歳になるわ」

「初めまして。教授の開発チームに所属しています、西折信乃です。
 こちらこそ、よろしくお願いします。
 こっちは開発には関わっていませんが、私の幼馴染で今回一緒に来た」

「小日向美雪です♪ よろしくお願いします♪」

2人でそろってお辞儀をした。

「信乃にーちゃん達、学園都市にいるの!?」

「へ? 教授の所ってこんな小さな子供も参加しているんですか?」

親子そろって驚いてくれた。まぁ当然だよね。

「信乃くんは例外だよ。他の研究員も若くて30代だが、信乃くんはこの歳で
 他の研究員と引けを取らない程の活躍をしている」

「教授、それはさすがに大げさですよ」

「何を言うかね。ラム・ジェット理論は昔からあったが、あくまで理論だ。
 実際に使うにはかなり問題があった。
 だが、君が参加してからの1年で実用可能なレベルまで構築しつつある。
 ラム・ジェット理論が無ければ、超音速飛行機の完成もあと10年、いや
 50年は遅れていたよ」

「いやぁ・・・・アハハハハ・・・・・」

もう苦笑いだよ。教授のベタ褒めは、さすがに心苦しい。

俺が知っているラム・ジェット理論は、前世の記憶からの内容を進化させたものだ。
元々、A・Tに使われているラム・ジェット理論は、一般的に知られている理論よりも
はるかに完成している。

その知識をそのまま出しただけで飛行機の完成は10年早まったと思う。
さすがに俺個人が何も役に立たないのが嫌だったから、理論をより使えるように
必死で研究したんだけど。

「俺を評価してくれた教授に対して、少しでも恩返しができてよかったです」

そう言った後、御坂美鈴さんが珍しいものを見るような顔で俺を見ていた。

「えーと、何か俺の顔についてますか?」

「あぁ、ずっと見ててごめんね。だけど、やっぱり学園都市ってすごなーと」

「学園都市じゃないぞ。信乃くん個人がすごいんだからな」

「アハハ・・・」

もう呆れて笑うしかできないよ俺。

「ふふふ、こんな面白い子が学園都市にいるなら、うちの子も楽しみね」

「御坂さん、美琴ちゃんは学園都市に来るんですか?」

「ええ、次の学期でね」

「信乃にーちゃん! 美雪おねーちゃん! 学園都市ってどんなところ!?
 教えて教えて!!」

って、いきなりしがみついてきた! びっくりした~。

「あはは、この子、学園都市に行くの楽しみにしてるのよ」

「ん♪ 信乃、今日の予定はもうないでしょ?
 一度ホテルに戻って着替えてきたら少しお話ができるかな?」

「大丈夫ですか教授?」

「大丈夫だぞ。ゆっくりと3泊した後に帰る、小旅行で来たからの。
 1日1回の連絡さえくれれば、どこに行ってもかまわん」

「ありがとうございます」

「ねえ、どうせなら私達の家に泊らない?」

「え? 御坂さんの家にですか?」

「美琴ちゃんも話を聞きたがっているわ。 ね?」

「うん! お泊りしようよ信乃にーちゃん! 美雪おねーちゃん!」

「ですがホテルが「私がキャンセルしておこう」 教授!?」

「さあ! レッツゴー!!」「ごー!」「ゴー♪♪」

「ちょっと!?」

俺は襟首を捕まえられて有無言わさず引きずられていった。ドナドナド~ナ(略




ってことで御坂さんの家。

「さぁ! 遠慮せずに食べてね!!」

「「「いただきま~す(♪)(!)」」」

夕食を食べながら、学園都市でどんな事をしているのかを美雪と2人で話していった。

美琴ちゃんも興味津々だったし、御坂さんも自分の子供を預ける場所だから
知っておきたかったようだ。


「うん。テレビや雑誌の情報よりも、やっぱり学生に聞いた方がどういう所なのか
 よくわかるわ」

「いくのが楽しみ!」

今は食後のお茶を飲みながら話の続きをしている。

「お役に立てたのなら何よりです」

「ねぇ、信乃くん。敬語やめない? 君はまだ小学生みたいだし、そんなに気を
 使わなくていいのよ?」

「そうですか? それならいつもどおりに話すね。でも、たまに敬語っぽくなっても
 気にしないで。周りに大人が多いから、ある意味それが自然なしゃべり方だから。
 御坂さんも“君”を付けなくていいよ。御坂さんみたいに美人に言われると
 なんだかむずむずするし」

美人、というのは嘘じゃないけど、フランクな雰囲気の御坂さんには
君付けで呼ばれるのが少し嫌な気がした。

「若い人なんてお世辞言ってもデザートしか出ないわよ~。でも、わかったわ。
 わたしも下の名前で呼んで、もちろん美雪ちゃんも。美鈴って良い名前でしょ?

 美琴も同じ“美”の字を使ってるし、気に入ってるのよ。
 そういえば美雪ちゃんも“美”があるわね」

「そうですね♪ 美鈴さんと美琴ちゃんと私、名前が似てるから姉妹みたいだね♪」

「うん! 美雪おねーちゃんも本当のおねーちゃんみたいで好き!」

「いいわね! 御坂三姉妹!! しかも全員が美女美少女美幼女!」

「一人の男として3人とも美人だとは認めますけど、自分で言うのはどうだろ?」

「そこシャラップ!」

「あはは・・・・・」

もう苦笑いするしかない。本日何度目の苦笑いかな?

「それじゃ、美鈴さんのこと、鈴姉ちゃんって呼んでいい?」

「いいわよ美雪ちゃん! 信乃もそう呼んで!」

「なんか少し恥ずかしいな」

「ならフランクに“鈴姉”(すずねえ)とかでもいいわよ。

 もしくは鈴姉様、美鈴お姉様、お姉様も可! もしくは「それじゃあ鈴姉で」
 そこを即決!?」

「じゃーわたしはわたしは?」

「美鈴さんが鈴姉ちゃんなら、琴ちゃん♪ ん♪ 私も『雪』って呼んで♪」

「うん、雪ちゃんよろしく!」「雪ねーちゃん!」

なんか3人を見ていると和むな~。

「本当の家族みたいで微笑ましいな」

「もしかして3姉妹には入れなくていじけてるの信乃?」

「いや、そんなつもりはないよ。本当に微笑ましいって思ってるだけだから」

「そう?」

「大丈夫ですよ♪ 姉妹じゃなくても、私と結婚したら鈴姉ちゃんの義弟になるから♪」

「それいろいろ間違っているけどツッコミは入れないぞ」

「ふふふ、2人も微笑ましいじゃない。

 あら? もうこんな時間。明日は教授に一度電話したら
 自由行動でよかったのよね? どこか行きたいところある?」

食事中の雑談の中で、小旅行中の4日間は鈴姉にお世話になることになった。
もちろん美雪はノリノリで、俺に拒否権はなかった。

「特に決まっていないけれど、せっかくだからショッピングに行きたい♪
 可愛いものが欲しい♪ もちろん信乃も一緒に♪」

と言いながら美雪が腕に抱きついてきた。

「うわ! 急に抱きつくな! 一応年頃の女の子だろ!?」

「ん? 信乃照れてる?」

「し、知るか!」

正直に言えば照れてる。だって、美雪の胸が俺の腕にあたってたんだよ!
小学生にしては大きい胸。だけども形を整える衣類は無く、上着1枚越しに柔らかく変形する。

簡単に言っちゃえばブラ着けていないです美雪さん!
直接当たれば男だったら誰だって照れるよ恥ずかしいよ!

「・・・・雪ちゃん、下着って着てないの?」

シャツのシルエットから予想できたのか、鈴姉から美雪に聞いてきた。
うわぁ・・・シルエットで分かるほど今密着してるのか? 見るのが怖い。

「え? ちゃんと着てますよ♪」

「・・上の方は?」

「ブラジャーですか? 小学生には早いですよ♪」

それを聞いて鈴姉が驚いたような呆れた様な顔をしている。

そして俺の方を見た。うん。説明を求められているのか、もしくは俺に原因があると
思ってるんだろうな。

「美雪の着けないポリシーでもなし、
 俺の趣味思考でそうしているわけでも、させているわけでもないよ。

 ただ、美雪は薬剤学というか医学を学んでいて、同年代の友達も
 あまり作らないから、そういった部分(性的な恥じらい)が抜けているんだよ。
 特に俺相手に羞恥心をあまり持たないから、俺が言っても無駄」

前に一度、「下着を買ったら?」的なことを遠まわしで言ったけど、
今と同じ「まだ早いよ♪ 私小学生だよ♪」と失敗した。

「よし! 明日のショッピングで買いに行くわよ! 初ブラジャー!!」

子供とはいえ、男の前で堂々とそういうことを言わないでください。

「え~♪ 私は子供だよ♪ それにこれぐらいの大きさでは必要ないでしょ♪」

「何言ってるの! 女の子だったら胸の大きさに関わらず将来着けることになるのよ!
 それに雪ちゃんはすでにBカップもあるじゃない! その程度って言ったら
 日本の女性の半分を敵に回すわよ!」

「「そうなの?」」

ってなんで俺に向かって聞くの!? しかも琴ちゃんも一緒に!

「マジでお願いします鈴姉。こいつに一般女性の常識を教えてあげてください」

「まかせなさい!」

「別にそんな事なくてもいいのに♪」

「雪ちゃん、ちょっとこっちに来て」

鈴姉の手招きで美雪を呼ぶ。俺から聞こえない位置でヒソヒソ話を始めた。

しばらくして、美雪の顔が赤くなり、そして俺の方を見た。

「///////・・・ん、そっか、信乃もそっちの方が好きだったりするのか・・・」

「ちょい待て! 鈴姉! 何言ったの!」

「いや~、一般女性が持っている知識をちょっと教えたのよ」

あなたのお願いしたのは間違いだったかもしれない・・・・

その日はうなだれたままの気分で眠ることになった。




次の日は、手始めに百貨店に行った。

昨日の話をしたプラジャーと、あとは地域限定のお土産がそろっているということで
まずはここに来た。

鈴姉と美雪、ついでに琴ちゃんに引っ張られて、あやうくランジェリーコーナーに
入れられるところだった。
(琴ちゃんはただ単純に一緒に遊びたかっただけで、2人のように悪戯心はない)

俺は向かい側のスポーツ用品コーナーで時間を潰していた。
スポーツは好きだけど、今の目的スポーツ用品ではない。

ローラーブレードだ。

もちろんA・Tとは全く関係ない、子供用の遊び道具、普通のものだ。
だけど、いつかこれを改造して、そして跳べるようにするぞ!

でも、A・Tの部品って複雑だしな~。専門業者に頼む必要があるのかな。
むしろ自分で作る必要があるのかな? どうしよう・・・

「う~ん」

「どうしたの信乃♪」

「お、そっちの買い物は終わったか」

「琴ちゃんと鈴姉ちゃんは外で待ってる♪ 今日の夜を楽しみにしててね♪」

「小学生でそのセリフを言うのはかなり問題あるぞ・・・
 下着なんだから下に着て、俺に見せるな」

「だって鈴姉ちゃんが「あの人の常識はズレてるから真に受けんな」 ん~♪」

昨日の夜にお願いした俺ですが、12時間後の今では信用していません。

「とにかく行くぞ。次は洋服を見に行くんだろ?」

「あ、置いて行かないでよ♪ 待って~♪」



午後2時までの時間を使って洋服を見て回った。
だが、買った服は3着だけ。ほんとうに女の人の買い物って、いったい・・。
買うことが目的じゃなくて、ショッピングが目的だよな・・・

ちなみに、俺が買い物中にやったことは荷物持ち(あまり買ってないから苦労はない)と
琴ちゃんのお世話。

女の子、というよりも子供の琴ちゃんは買い物をするうちに楽しさよりも
疲れの方が勝ったようで、途中から俺の隣にいることが多くなった。

今は疲れてしまい、俺の背中におんぶされている。

「大丈夫?」

「うん、ちょっとつかれただけ・・・・。あ!」

「ん? あ~、昨日のカエルのキャラクターか。琴ちゃん欲しいの?」

「うん!」

琴ちゃんが見ていたのは、通りがかりのおもちゃ売り場のキーホルダー。
名前は≪ゲコ太≫と言うらしい。うん、かわいくない。

でも趣味は人それぞれだし、あんなに気に入っているなら買ってあげるか。

「ありがと! 信乃にーちゃん大好き!!」

「どういたしまして」

ストラップの包装をすぐにとって大はしゃぎする琴ちゃん。
一応背中の上なんだから暴れると痛いんですが。

買い物に夢中で俺たちがいなくなっても気付かないであろう2人の所に戻るために
辺りを見渡した。

すぐに見つかったのだが、残念なことに美雪が男にナンパされている場面だった。
鈴姉は服も会計でいないみたい。

小学生相手にナンパっておいおい。中学生、女漁りは早くないか?

とはいっても今だけではない。買い物中、美雪は何度も男の人に声を掛けられた。
こいつって学校では少ししか笑わない癖に、俺や親しい人たちの前だと
笑顔全開なんだよな。それに引きつられてやってくる男たちが多いこと。
今日で3人目だっての。

「うちの家族が何かしましたか?」

「信乃♪」

俺に気付くとすぐに俺の後ろに隠れた。
琴ちゃんも背負ったままだから3人が縦に並ぶ変な状況になっている。

「いやね、可愛い子だと思ってさ」

「そうですか。ありがとうございます。父も大喜びしますよ。
 自慢の娘なので、事あるごとに『娘に近寄る奴は!!』って叫んでますけど」

「ははは・・・・じゃあね!!」

逃げていった。別に美雪の父親がここに来るなんて一言も言ってないよ?
母上の師匠さんに教えてもらった言葉(戯言というらしい)が役に立った。

こう言う時は≪戯言だけど≫と言うといいのかな?

え? 嘘は言っているつもりはないよ? だって小日向父は美雪を溺愛してたから
将来は親バカの『娘はやらん!』ってキャラになっていたに違いない。

戯言だけど。と俺はキメ顔でそう思った。

・・・ごめん、自分で思っていて悲しくなってきた。
これをいつもやっている師匠さん、パネェ。

っと、話がずれちゃった。

「は~助かった・・・ありがと信乃♪」

満面の笑みでお礼を言ってきた。

『そんな顔しているから男どもが寄ってくんだよ、自重しろ』
と言いかけたが、めった見せない笑顔だし、今日はそのままでも・・・。

「・・・ま、いっか」

「「?」」

言葉を呑み込んだ後に意味不明なことを言ったから琴ちゃんと美雪は一緒に
疑問に思っている。そんな顔も可愛いな。

「あら、信乃と美琴ちゃんも戻ってたの。それじゃ、次のお店に行こうか」

「おー♪」

やっぱり笑顔を自重しろって言うべきかな。周りの男の人(ロリコンと呼ばれてもおかしくない年齢を含む)が何人か見ているし。

こんな風に歩いていたら、また声掛けられるだろうな。
うん、美雪も困ってるし、ここは顔を誤魔化すためにコレでも買っておくか。

俺は店先にあった伊達メガネを買って、すぐに2人を追いかけた。






「ママ・・・おなか減った・・・」

「あら、もうこんな時間。食事はデパートの外で食べましょ。
 いい所知っているのよ。もちろんごちそうしてあげるから」

「そんな悪いよ。美雪の衣類(女性用下着。恥ずかしいから遠まわしに言いました)も
 お金出してもらったんですから」

「何言ってるの。娘と一緒に下着選び(こっちは何の恥ずかしげもなく言いました)を
 するのが母親としてやりたかった夢なのよ。むしろ機会をくれてありがと。
 楽しかったわ」

「琴ちゃんの機会まで数年我慢すればいいのに」

「美琴ちゃんだと、数年後でも必要になるかどうか少しわからないし」

残念ながら、その予言は当らずとも遠からずの結果になる。(貧にゅ○の意味で)

「でもお昼ご飯ぐらいの代金は・・・」

「はいはい、子供が大人に遠慮するもんじゃないわよ。
 あら、お金が少し足りないかもね。少し銀行によるわよ」

「ほんと、鈴姉って人の話聞かないよな」

「そう? 私の話はよく聞いてくれるよ♪」「ママは美琴の話、聞いてくれるよ」

「俺限定で無視なのか?」

「アハハハハ!」

鈴姉の笑い声が響く車で、銀行へと向かった。




俺は反抗を諦め、子供2人で大人しく鈴姉が戻ってくるのを銀行内の待合ベンチで
待っていた。

なぜ2人かって? 美雪はお花を摘みに行ってるからだよ。

「おっ待たせ! さあ、おいしいフレンチを食べに行くぞ!」

フレンチってフランス料理だっけ?・・お金を卸すほど高級なのかな・・・ちょっと不安。

「もう少し待って。美雪がもう少しで戻ってくるから」

 パンッ! パンッ!!

なんだ急に!? 爆竹?

「てめぇら、動くんじゃねぇぞ! 死にたくなかったら大人しくしろ!!!」

「「「「「「きゃーーーー!(うわぁぁぁぁ!!!)」」」」」」

強盗。覆面の4人組がそれぞれ拳銃を持って銀行に入口に立っていた。
そのうちの一人が上に銃を向けている。さっきの銃声はこいつらか。

どうしようか。とりあえず大人しくしとくか。
鈴姉も琴ちゃんも恐怖で動けないみたいだし。

俺がなんで落ち着いてるかって?
前世のとんでもないもの(A・Tでの高次元バトル)に比べたら、少しだけ普通だよ。
まあ、恐いことには変わりない。正直ビビってるし、ヘタなことして死にたくない。
ここは強盗が無事に成功して帰って行くのを待とう。

「き、きゃーーーー!!」

!! この声って美雪!? トイレから出てきたとこに丁度犯人を見ちゃったのか!?

「うるさいガキだな! ん? なんだこいつ、かわいいじゃねぇか・・・」

「おいバカ! そんな場合じゃねぇだろ!!」

「いいじゃねぇか。ガキのくせにいいぜ? 少し遊んだ後、AV女優で売れば金になる。
 ロリ企画、俺だいすきなんだよね。あと、人質を取ったら逃げやすいだろ」

「欲望丸出しにしてないでとにかく金だ! 人質ってんならおまえが面倒見ろよ!
 おい銀行員! この袋に金を」

直立の脚から力を抜く。脱力による体の自由落下。その速度を前方へと向けて急加速。
その勢いのまま膝で1人目を金的。何かつぶれた感触。
2人目の顎を打ち上げる。そのまま走って3人目を顔面にとび蹴りに向かう。
銃がこっちに向いた?

 関係ねぇ! そんな殺気のない動きでビビるわけねぇーーーんだよゴミ屑!!!

「がはぁ!!!」

「はぁ、はぁ、はぁ」

息が乱れてる。 あれ? 俺何してたんだっけ?

ああ、そうか。美雪が襲われると思ったら、なんか無意識に強盗を殴りに行ったんだ。

変態強盗が美雪に触わる前に、ダッシュで近づいて膝で股間を潰して(再使用不可)
その隣の男の顎を掌底で攻撃、一番後ろの男に向かって走ってドロップキック。
最後の一人が銃口を向けても横に避けて鳩尾につま先ハイキックを入れた
・・・・で合ってるよな?

頭に血が上って無意識だったせいで記憶が少し曖昧だし。

とにかく、こいつらが身動きできないようにしないと。
携帯裁縫セットが俺のポシェットにあったな。それの糸を使えば両手両足が
縛れるだろ。

あれ、こいつらの拳銃って軽い・・・空砲を撃てるタイプのモデルガンかよ。
どおりで殺気が無いはずだ。まったくこのゴミ屑どもは・・・・



20秒後、ゴミ屑どもを縛り上げた。
うん、これで良し。
母上、あなたの技術を正しく使わせてもらいました。
父上、あなたの武術で大事な人を守ることができました。
本当にありがとうございます。

「美雪。大丈夫か?」

美雪は膝をついたまま固まり、顔は恐怖のままで全く動かない。
瞳からは涙が際限なく流れ続けているが、泣き声や嗚咽は全くない。

容量を超えた恐怖で、頭がフリーズしてる。

「恐い思いさせてごめん。助けるのが遅かった」

美雪をそっと抱き寄せる。一瞬、ビクンと全身が跳ねたが、俺の顔を見ると
腕を首に回して抱きついてきた。

表情は恐怖で固まったまま涙は止まらない。やばい。これマジで重症だ。

「信乃! 雪ちゃん! 大丈夫!?」

鈴姉が走って駆け寄ってきた。
琴ちゃんも一緒に来たけど、俺を見て鈴姉の後ろに隠れた。

まぁ、拳銃を持った人間を秒殺って、俺も他人事だったらそいつが恐いと思うよ。
仕方がない。

「俺はかすり傷一つないよ」

「怪我が無いのはよかったわ・・・え、信乃、目が!?」

そういや俺はキレたから、目が碧色(あおいろ)になる条件になってるな。

「集中力が高まったり、アドレナリンの量が増えた時に変わる変色体質、と医者は
 言ってた。変わったのは無意識だよ」

俺の掛かり付けの医者(そういえば顔がゲコ太に似ている医者だな)の診断では
そんなことを言われた。

って、それよりも今は美雪だ。

「鈴姉、今すぐここから出よう。美雪が少しやばい。怪我してないから病院の必要は
 ないけど、ここにこのままってわけには・・」

「わかったわ、すぐに帰りましょう! でも、犯人を倒したから警察に
 話を聞かれそうだけど・・・」

「こんなゴミ屑事件の事情聴取に時間を取られたくない。さっさと行こう」

「・・・そうね。雪ちゃんが優先ね」

俺は美雪を抱きかかえて、鈴姉の車に急いだ。





ずっと、美雪は俺にしがみついたまま身動きを取らなかった。それが夜までずっと。

顔は俺の胸に押しつけているせいで表情はわからない。
でも、服が濡れ続けていないみたいだから、涙は止まってると思う。
そんな美雪の頭を撫でて、子供をあやすように背中を軽くたたき続けた。

鈴姉も琴ちゃんも心配で声をかけたが美雪は返事はせず、俺に任せてもらった。

教授へは今日の事を簡単にメールで報告した。さすがに美雪の状態は隠した。
教授だって旅行を楽しんでいるのに邪魔はしたくないし。

俺も美雪の事が心配だったが、さすがに2時くらいに眠くなってそのままの体勢で
夢の中に入っていった。



う・・・ん   朝か?

まだ起きていない意識で目をあけると、美雪の顔がすぐ目の前にあった。
同じ枕を使って向かい合っている状態だ。

昨日は俺の胸の中に顔を押しつけていたから、自分から動いて今の位置に
いることになる。というより、目を開けて俺を見ている。

場違いだとはわかっていても、やっぱりこいつの顔を間近で見ると可愛い。
今は目を真っ赤に腫らしているとはいえ、一瞬見惚れてしまった。

「おはよう・・・」

「おはようさん。とりあえず話せる状態になってよかった」

いつもの『♪』がついていない。さすがに一晩で本調子には戻らないな。

「ありがとね・・・」

「気にするな。二人っきりの家族だろ。これぐらいならいつでもいいよ」

「ん・・・」

コツン。と、可愛い効果音が付くような、そんな柔らかい勢いで俺の額に
美雪が自分の額をぶつけてきた。

「もう少しこのままでいい?」

「いいよ。俺はいくらでも」

 ガラッ

あら、残念ながらいつまでもこの状況を楽しめなかった。

静かな音とはいえ、俺たちが寝ている部屋の扉が開けられる音がした。

2人で同時に見ると、鈴姉が顔をのぞかせていた。
様子を確認すると、俺の方を見てきた。状況説明を求めてますね。

「大丈夫。まだ元気はないけど、話せるくらいにはなったから」

「鈴姉ちゃん、ご心配かけました・・・・」

「いいわよ別に。話声が聞こえてきたから様子を見に来たのよ。
 少し良くなって安心したわ。朝ごはんもう作ってあるけど食べる?
 琴ちゃんも待ってるわよ」

キュルルルル

美雪のお中が可愛い音を立てて鳴った。体は正直だね&ナイスタイミング。
途端に美雪は目元だけではなく顔全体を真っ赤にした。

「食べます。実は泣き疲れた上にお昼から何も食べてないですし・・・」

「俺も。さて、1日ぶりのご飯を食べようか」

「ん・・・・・♪」

静かにだけど、だけど少しだけ調子が戻ってる。   よかった。



「「「ごちそうさまでした」」」

「うん! 食欲があればOKね。そうだ雪ちゃん! 美琴ちゃんと一緒に
 お風呂に入ったら? 美琴ちゃんってば昨日、雪ちゃんと入るって聞かなくって
 結局は入っていないのよね」

「入ろう! 雪ねーちゃん!」

「ん、そうだね。行こうか♪」

2人でお風呂場に向かっていった。俺と鈴姉はその光景を見守っていた。

「信乃、雪ちゃん大丈夫そう?」

「前にも大泣きはあったけど、しゃべれるようになれば大丈夫だと思う。
 無理に気を使わないでね。逆に美雪が気にしちゃうからさ」

「そう。

 ・・・・さっき、部屋の前に言ったときに聞こえちゃったんだけど、
 『二人っきりの家族』っていうのは・・・」

「察しの通りに俺たち2人の両親は他界している。
 家族ぐるみの幼馴染だったから、孤児院も一緒に過ごして学園都市でも一緒。
 もう家族同然だよ」

「・・・ごめんね。辛いこと聞いて。でも、どうしても気になったから」

「いいよ別に。父上と母上、それに美雪の両親が居なくなったのは寂しいけれど、
 でも今が充実してるから鈴姉が気にするほどでもないよ」

「君たちの、今の保護責任者って誰?」

「学園都市への登録は教授が。でもどうしてこんなこと聞くの?」

「・・・・・ねぇ、よかったらウチの養子にならない?」

「・・・・・」

「あなた達と一緒に過ごしたのは3日しかないし、昨日は半分がトラブルのせいで
 話もしなかったけど。でも、2人といて楽しかったし、何より守りたいと思った。
 美琴もあなた達を気に言ってるし、旦那も大丈夫だと思うわ。

 信乃と雪ちゃん、美雪の2人が良ければ私達の家族にならないかな?
 何かと便利だし、それに帰る家があるのはいいし、待っている家族は多い方が
 幸せだと思うの」

鈴姉・・・・突然すぎるよ。

いや、突然になるのも仕方ないか。子供が不安な状態にあるのに、その子供たちには
親がいない。だったら助けになりたい。そう思うのが人情かな・・・・。

「答えはすぐに出さなくてもいいわ・・・・」

鈴姉は食器を洗うためにテーブルから立った。俺は座ったまま何も言わなかった。



食器が洗い終わり、昼ごはんの下ごしらえを終えた鈴姉を俺は呼びとめた。

「ごめん鈴姉。俺は養子になることができない」

「まぁ、昨日今日会ったばかりのおばさんが変なこと言ったら断られるのも当然ね」

「違う、違うんだ。鈴姉の気持ちは嬉しいし、嫌でもない。

 でも、なんだか怖いんだ。一度両親を、家族を失っているから・・・
 だから、もう一度家族ができるのは嬉しんだけど、
 また消えてちゃうんじゃないか・・・いなくなっちゃうんじゃないか・・
 そう思うと恐いんだ。自分でもうまく言えないんだけど」

「わかった。良いわよ気にしなくても、無理に養子になってとは言わないし。
 でも、困ったことがあったらいつでもおばさんに頼りなさいよ。
 家族じゃなくても、家族も同然なんだから」

「うん、ありがとう。でも、おばさんっていうにはおかしいんじゃない鈴姉?
 お姉さんって方が性格的にもしっくりくるし」

「あら、うれしいこと言ってくれるじゃない」

そうして2人で笑いあった。

 ぎゅう

突然後ろから抱きつかれた。

美雪か。シャンプーのいい香りがする。

「どうした?」

「私は家族?」

「もちろんだよ」

「ん♪」

今の話、途中から聞いていたんだな。鈴姉の隣に琴ちゃんも歩いてきてるし、
タイミング良くお風呂から上がったんだな。

「琴ちゃん、昨日は怖がらせてごめんね。
 悪い人をやっつけるためだけど、けんかしているところ、恐かったでしょ?」

「・・・大丈夫。雪ねーちゃんが怪我するの嫌だし・・・
 わたしも恐がって逃げてごめんなさい」

「じゃあ、仲直りだね」

琴ちゃんは うん と笑いながら頷いてくれた。
昨日の買い物から全くしゃべってなかったから、仲直りできて本当に良かった。

「あ、買い物で思い出した。美雪に渡したいものがあったんだ」

買い物で思い出した。
美雪の腕を解いて、さっきまで寝ていた部屋に行く。
そして昨日買ったものを取り出してみんなの所に戻った。

「それなに?」

「伊達メガネ。しかも美雪にすっごく似合わないやつ」

「なんでそんなものあげるの・・・」

「怒るなよ。だっておまえモテすぎなんだよ。これつけて少しは誤魔化さないと
 寄ってくる男たちがうざいんだよ」

もし、銀行に行く前に渡せていたら、強盗に襲われなかったかもしれないし・・・

「それは私に他の男が近寄らないようにするため? 私ってそんなに可愛いの?」

そう聞かれて俺は顔を背けた。だって『可愛いの?』って首をかしげた時の
表情も仕種も・・・・男だったら照れて当然だろ!

「♪ ん、言わなくても信乃の反応で分かった♪ 外に行くときにはつけるね♪」

伊達メガネを受け取ると、今度は真正面から抱きついてきた。

「おわっ! いい加減にその抱きつき癖直せ!」

「大丈夫。ブラジャーを着けているから♪」

「そういう問題じゃない!」

「そうよ雪ちゃん。こういう場面ではブラを着けていない方が男は喜ぶのよ」

「あんた何教えてんだ!!」

「わかった♪」

「美雪も了解してんじゃねぇ!」

この人に関わっていると女性としてのお淑やかさってのがなくなる!

美雪に強く言っても、天然で貞操観念が少し薄い、妖艶悪女になっちまうよ!

琴ちゃんにも学園都市に来たらここら辺の事をちゃんと言いきかせよう。
せめて恥じらいを持たせられるようにしないと。

(信乃のこの決断が、好きな人の前で恥ずかしさのあまり素直になれない少女、
 通称ツンデレールガンを生み出すことになるとは誰も思わなかった)



さて、今日は外出せずに家の中で遊ぶことになった。
美雪の心の傷が開いたりしたら大変だしな。

家の中といっても、遊ぶのに不自由はしなかった。御坂家には意外とゲームが多い。
俺の知っている限りの全てのゲーム機器があり、ゲームソフトも多種多様で
飽きることもない。色々なゲームを変えながら遊び、今は人生ゲームをしている。

「よし、結婚マスに到着♪」

「それじゃ雪ちゃん、車に人間の棒を追加して」

「ねぇ、これってゲームやっている人間同士だったら出来ないのかな?」

「何言ってんだ美雪。そんなルール「あるわよ」 あるの鈴姉!?」

「この『人生ゲーム・ファミリア』は、プレイヤー同士で親子関係になった、
 結婚できるのが特徴の最新版よ」

なんだその最新版は。絶対に売れないだろ・・・・

「それじゃ、信乃と結婚します♪」

「相手の同意があれば結婚完了よ」

ルール上問題ないなら俺はどうすればいいの?
一応、人生ゲームは財力を競争するゲームだし、断った方が面白いのかな。

断るために口を開こうとしたが、鈴姉の発言に遮られた。

「汝、美雪は、夫信乃を永遠に愛し続けることを誓いますか?」

「誓います」

「汝信乃は、妻美雪を永遠に愛し続けることを誓いますか?」

「・・・・誓います」

もういいや、好きなことには違いないし、これもゲームの一興でしょ。

これで美雪と“チーム”を組む、と思っていたのだが、鈴姉の言葉は終わらなかった。

「それでは、両者とも誓いのキスをしてください」

そう言うと同時に、美雪は顔を少し赤くしながらも俺に近付いてきた。

「ちょっと! ゲームでそこまでする!?」

「ゲームじゃないわよ。これはハッキリとさせた方が良い事だから。
 雪ちゃんの本当の支えになるためにね。今はそのいい機会でしょ」

「えっと・・・」

昨日の出来事で確かに考えた。美雪にとって今まで以上の支えになりたいと。
でもいきなりコレ!?

「信乃  ん」

美雪が目を閉じて待っている。
子供のキスでよくある唇を出すようなことはなく、きれいな顔を微笑させて、
ただ俺の“返事”を待っていた。

普段の美雪を考えると、俺の頭を掴んで強制的にしてくると思っていたけど・・・

「・・・・初めては信乃からやって欲しい・・・・」

ちょうど俺が考えていた事の返事が来た。美雪もファーストキスか・・・・

「別に嫌だったらしなくてもいい・・・・
 ただ、本当に・・・信乃も私と同じ気持ちなら・・・その・・・・」

言葉の後ろの方が消えそうになっていく。同時に顔も下に向けていった。

あーもう! いつもは積極的すぎるのに何でこんな時だけ!
可愛すぎるだろうが

「んちゅ」

「!?」

下を向いていた顔を両手で上げた。一瞬、だけど柔らかいものを俺の唇に当てた。

「これでいいだろ! 俺も同じ気持ち! 以上! 結婚成立!」

「おやおや、やっと素直になった」

「ちゅーした、ちゅー!」

鈴姉と琴ちゃんが俺たちをからかう。
恥ずかしくて美雪の顔を見れないけれど、絶対に2人とも顔が真っ赤だよ!!

「ありがと・・・♪」

「うるせ。ゲーム再開するぞ」

「結婚式には私達も呼ぶのよ~」

鈴姉が楽しそうに笑う。
俺は仲のいい幼馴染として接してきたつもりだけど、
心の奥底は鈴姉に読まれてたみたいだな。

「次、わたしの番!」

長いこと中断していたが、琴ちゃんが元気よくルーレットを回した。
止まった数の分だけマスを進めると、美雪と同じマス。つまり結婚マスに止まった。

「あ、結婚だ! 私も信乃にーちゃんと結婚する!」

「え?」「はい?」「あら、美琴ちゃんったら」

美雪と俺は驚きの反応。鈴姉は苦笑いをした。

「琴ちゃん、え~っと、気持ちは嬉しいけど、結婚は一番好きな人1人としか
 できないんだ。俺は美雪と結婚したからだめなんだ」

「でも、わたしも信乃にーちゃんが一番好きだよ。一緒に遊んで楽しいし、
 強くて怖かったけど、かっこよかったよ。ちゅーもしたいし・・・」

「ありがとう。でも、俺の一番は美雪だから」

「・・・わかった」

結婚の仕組みがわかっていない子供だから仕方ないか。
でも一番好きだって言われたのは少しうれしいな。

・・・あれ? 俺って今『一番は美雪』って言わなかった?
やばい、ナチュラルに言っちゃった!
横の美雪を見るとさらに真っ赤になってる!!

「////信乃・・・・//////」

「////赤面するな////」

「おやおや、ラブラブですな。新婚だから当たり前かな?」

鈴姉にまたしてもからかわれた。もうゲームどころの気分じゃない!




その日の夜は、9時には寝ることになった。
昨日が寝不足で、琴ちゃんが夕食後にあくびをし始めたからだ。

俺たちは部屋に戻ってパジャマに着替えたが、いざ眠ろうとすると昼間の事を
意識して布団に入るのを互いに躊躇していた。

まあ、子供同士だからエッチなことはしないし、するつもりも全くない。
でも好き合った人と改めて解るとね・・・恥ずかしんだよな。

互いに布団の上で座って何もできずにいると、扉が開かれて琴ちゃんが入ってきた。

「信乃にーちゃん・・・雪ねーちゃん・・・・一緒にねむろう・・・」

眠そうな目をこすり、というよりもこの部屋に来たのが寝ぼけてると思うほどの状態で
琴ちゃんは入ってきた。

「そうだね・・・ん♪ 明日になったら私達は帰っちゃうから、一緒に寝よう♪」

琴ちゃんは俺たちの間に寝た。その時に右手で俺のパジャマを、
左手で美雪のパジャマを掴んだから3人がくっついて眠ることになった。

眠る前にふと、美雪の顔を見た。偶然にも目が合ったが、さっきまでの
変な意識は感じないし、美雪もそんな反応はなかった。

代わりにいつもの笑顔を返してくれた。

そうだな。前々から好きだったわけだし、何かが特別に変わるわけでもない。
俺も意識しないで、自然な気持ちで美雪と生きていけばいいんだよな。

そう考えると心が軽くなり、すぐに眠りについた。




旅行の最終日

俺は眠っているときに、フラッシュのような光を感じて目を覚ました。
起きてみると、鈴姉がカメラを持って部屋にいた。どうやら3人の寝ている姿を
撮られたらしい。少し恥ずかしかったけど良い記念になると思って写真を貰った。

最終日は教授と開発チームの人達と空港で合流、鈴姉たちも見送りに来てくれた。

「美琴ちゃんが学園都市に来たらよろしくね」

「もちろん。何て言ったって家族同然でしょ?」

「鈴姉ちゃんも、許可さえ取れば学園都市にたまに来ることが出来ますよ♪
 そのときはおいしいご飯を4人で食べよう♪」

「そうね、楽しみにしているわ」

「信乃、美雪ちゃん、そろそろ出発だぞ」

教授に言われて俺たちは荷物を持って出発ゲートに向かう。

「鈴姉、琴ちゃん、それじゃまた」「お元気で♪」

「体には気をつけるのよ」「またね~!」

短い別れの挨拶だったけど、次に再開できると思っていたから寂しくはなかった。



学園都市に戻ってきた後、俺たち2人には大きな変化はなかった。
いつも通り美雪がくっついてきて、俺がそれを恥ずかしがって逃げて。
でも前よりは強い拒否はしなかった。



来学期

予定通り琴ちゃんが学園都市に来た。初めての一人暮らしで家事などに
問題があったが、最初の数ヶ月は3人で生活して家事や料理を教えたりした。
翌月から本当に一人暮らしを始めたが、週に2、3回は一緒に晩御飯を食べた。
そして週末には一緒に泊ったりもした楽しい半共同生活を送っていた。

そうそう。初めて会った時は年相応の、甘えん坊な子供だと思っていた
琴ちゃんだけど、かなり負けず嫌いで頑張り屋なことが分かった。

この性格を活かし、能力開発も頑張った結果にはさすがに驚いた。
最初の能力検査ではレベル1と判定されていたけど、
半年の間にレベルを2つも上げてしまったのだ。

これに負けないようにと、俺も音速飛行機、ラム・ジェット理論を完成させてるために
努力を尽くした。兄貴分としてのプライドがあるからね。

その努力が実ってか、半年後に海外講演が決まった。
完成したラム・ジェット理論 + 強化骨格と流系ボディの超音速旅客機の設計図が
完成したからだ。

しかも今度は発表メンバーの1人として参加する。

緊張もするが、努力を増やしたのが理由で発表成果に自信があった。
早く発表したい。早く認められたい。早く教授に恩返しがしたい。

そう心躍らせて国際線の飛行機に乗った。

前回の学園都市外の発表とは違い、今回はかなり真剣な発表のために美雪はお留守番。
お土産を買ってくると言って2人を残し、教授と開発チームの選抜メンバーで
出発したい。




だが、俺の人生の転機に再び不幸が待っていた。

俺が乗っていた飛行機が、跳んでいる途中に故障が発生した。
急に機体が揺れ出し、そして緊急用の酸素チューブが全席に降りてきた。
体に伝わる無重力感が、飛行機の落下を教えてくれた。

俺は死ぬんだな。

死ぬ直前になって俺は自分の気持ちを改めて知った。

死ぬときに見る走馬灯。どのシーンにも美雪がいた。
泣き笑い怒る君の顔。そのすべてが俺の原動力になっていた。

どうしようもなくあいつの事が好きだ。

もっと、素直に自分の気持ちを受け止めて、美雪の気持ちを返せたら
本当によかったのに。

はは、今更後悔してやがる。笑えないな・・・・

 
 

 
後書き
折信乃、戸籍上で死亡が届けられました。

美雪はショックで錯乱しましたが、
美琴と美鈴に支えられて何とか立ち直ります。

そのあとに御坂家に養子に入り、信乃を忘れないために
自分の苗字を『西折』に変えました。

そんなわけで、信乃の学園都市時代編完了です。
 
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