魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epic19そしてこれからを歩いて行こう~The WorlD~
前書き
The World/世界の正位置/完成・完結・成功の時。ひとつの望みが叶い、ひとつのテーマが終わる時。その瞬間に、永続する祝福。自分が何を望み、どう考えるかによって、その形や意味は変わる。すべては自分に委ねられる。自分の描く世界を、生きられる。
†††Sideイリス†††
アースラへと帰艦したわたし達は待機室に一度集まって、そこでテスタメントにボコられて受けたダメージの手当てをしてる。と言っても酷いのは魔力消費だけで、軽傷だったから傷薬を塗って包帯を巻くだけで事足りる。
そんな中、モニターに映し出される時の庭園の崩壊状況。わたし達はそれを黙って見守る。途中で激しいノイズが生まれて最後までは見れなかったけど、時の庭園は確実の崩壊した。モニターがプツンと閉じる。
「テスタメントちゃん・・・」
なのはが沈んだ声で呟いた。ここに戻ってくるまで散々泣いていたから、目が真っ赤だ。
「ねぇ。ホントにテスタメントは死んじゃったわけ・・・?」
「それは間違いないだろう。瓦礫に潰された状態で虚数空間に落ちたんだ」
「で、でも・・・フェイトちゃん達を助けたようにアノ鎖で――」
「すずか。君も見ただろう。彼女が完全に虚数空間に落ちる様を。君たちを上層に向かわせた後もなお僕が最後まで見届けた。彼女は、テスタメントは死んだ・・・」
アリサとすずかの希望を完膚なきまでに潰したクロノも、かなりヘコんでるのが判る。助けることが出来たのかもしれない。みんな魔力がすっからかんだったけど、何かしら方法があったかもしれない。それらを考える間もなく、試す間もなく、テスタメントは死んだ。見殺しに近いことをしてしまったわたし達。悲しむな、苦しむな。あの子はそう言っていたけど、どれだけ悪事を働こうが歳の近い子供が目の前で死んだ。それがわたし達を陰鬱とさせる。
「あの子には借りがあるのに・・・」
「死んじゃったら返すことも出来ないじゃん・・・」
「セレネ、エオス・・・」
この中で一番早くテスタメントと遭遇して戦ったセレネ・エオス姉妹。借り云々って話も前に聴いた。戦闘中にデバイスを落として、それを追って急降下、スピードが付き過ぎて地面に叩き付けられそうになっていたのを助けてもらったって言う。余計なことをして、って怒っていた2人も、さすがにテスタメントが死んでショックを受けてる。そして同じスクライアのユーノが慰めるように2人の肩に手を置く。
「クロノ執務官。イリスお嬢。みんなの治療は終わった?」
わたしのアースラ配属に合わせて出向した本局医務局所属の医務官、ティファレト・ヴァルトブルク――ティファがそう言って入って来た。みんなが手当てを終えているのを確認して「なんとかね」って答えると、ティファは「そう。では」って前置き。
「気を失っていたフェイトが先ほど無事に目を覚ましました。覚醒後は少々荒れてましたけど、リンディ提督と、彼女の使い魔のアルフのおかげで落ち着きを取り戻しました」
「「フェイトちゃん・・・」」「フェイト・・・」
唯一の救いは、フェイトが無事だったっていうことだ。本当にそれだけがわたし達を救ってくれる。クロノも安堵して「ティファレト医務官。アリシア・テスタロッサの容体は?」って訊いた。そう。わたし達は、神の奇跡を見た。20年以上も前に亡くなったアリシアが蘇ったのだ。その代わりというようにプレシアが亡くなった。虚数空間で何があったのか、それを唯一知るフェイトの目醒めを待っていた。
「驚いたことに脈や脳波は正常。臓器、筋肉といった様々な器官を検査しましたが、問題なしです。ただ、かなり深い眠りなようで、目覚めるのは早くても明日以降かと」
ティファの診断を聴いたわたしは「無事ならそれで良いよ」奇跡の結果を噛みしめる。
「シャルちゃんの言う通りになったね。神さまの奇跡なんとかって・・・」
「うん。まさか本当に神さまが現れて、アリシアちゃんを蘇らせた、とか・・・?」
すずかがわたしにそう言い、なのはがポツリと漏らした言葉に「そんな馬鹿な事が」クロノが呆れた。でも実際それしか考えられないのも事実。仮死状態だったって言えばそれまでだけど、アリシアの死亡診断書も発見してる。
そこにはハッキリと亡くなっていることが記されていた。死因は、魔導炉に使われていた反応魔力素を大量に吸い込んだことによるショック性の心停止。その状態から仮死状態に持っているわけもなく。今回の一件は、本当に謎だらけだ。
「はぁ。とにかく本件は終わりを迎えた。プレシア・テスタロッサ、そしてテスタメントの両被疑者は死亡という形で書類送検。あとは・・・」
「フェイト、だね」
「あ、そのフェイトちゃんやアルフさんはいま医務室だよね。会ってもいいかな・・・?」
なのはの問いに、クロノが「アルフと一緒に護送室で隔離させるよう手配している」って答えた。隔離、って言葉に反応したなのは達は「えっ!?」って驚愕に目を大きく見開いた。納得できないって表情だけど、こればかりはどうすることも出来ないってことを伝える。
「一応、フェイトは本件の重要参考人。無罪放免とはいかないの。だからなんの制限も無く自由に動き回らせるわけにはいかないんだ。あと、面会も無理なの、ごめんね」
「ああ。本件は一歩間違っていれば次元断層を引き起こしかねなかった程の大事件だった。管理局の義務・責任として、本件の関係者の処遇には慎重にならざるを得ないんだ」
「あ、でも言い方は悪いけど、フェイトはプレシアの道具として利用されて事件に関わった。しかも真実を知らされることなく。それに母親の願いを叶えたいという想いをも利用されて。そのことから情状酌量の余地はあるはずだよ。ていうか、それが認めてもらえなかった暴動だ!」
胸の前でグッと拳を握る。すると「やめてくれ。局と教会で戦争になる」ってクロノが頭を叩いてきた。むぅ、半分冗談なのに。叩かれた場所をさすさす撫でながら、フェイト達の今後について心配そうにしてるなのは達に微笑みかける。
「大丈夫。わたし達が全力でフェイトとアルフもサポートするよ。ね? クロノ」
「そういうことだ。まぁ、フェイトのそんな事情を偉い人たちに理解させる必要があるけど、僕や艦長、イリスには伝手があるんだ。心配しなくていいよ」
クロノと一緒に改めて微笑みかける。するとなのは達が一斉に立ち上って、「お願いします!」って頭を下げた。わたしは「うん、任されました」って返して、クロノは「ああ」力強く頷いて応えた。みんなの期待を背負った以上、何としてもフェイト達の処罰を軽いものに、出来れば無罪に近いものにしたい。
†††Sideイリス⇒フェイト†††
「母さんは・・・本当にもう居ないんですね・・・」
護送室って呼ばれる部屋に居る私とアルフはベッドに腰掛けて、食事を持って来てくれたリンディ艦長っていう偉い人から改めて話を聴いた。私が憶えているのは、虚数空間の中で母さんと話して、抱きしめられて、娘だって認めてもらえたこと。
そしてアリシアと一緒に生きていくようにって。妹なんだからお姉ちゃん、アリシアの言うことを聴くように。でもアリシアが間違っていたら、ちゃんと正すように・・・って。
(母さん・・・アリシア・・・)
母さんの顔から血の気が失せるのを目の当たりにして、それを思い出したことで暴れちゃって。認めたくなかった、母さんの死を。そんな暴れる私を抱きしめてくれたリンディ艦長。アルフも手を握ってくれて、何度も名前を呼んでくれた。それで私は落ち着くことが出来て、テスタメントとの戦いで負っていたダメージも治っていたこともあって、ここに移された。
「その、アリシアは・・・?」
「今は深い眠りについていて、目を覚ますのは明日以降って言われたけど、診断結果は異状なしだそうよ」
「そう、ですか・・・」
母さんが願った、アリシアの復活。それは確かに叶った。叶ったけど、そこに母さんは居ない。でも母さんは嬉しそうだった。自分の命を使ってアリシアを生き返らせる。それで満足って。なんか複雑な気分だ。アリシアの復活を素直に喜べない私が居る。憎いわけじゃない、嫌いなわけじゃない。
(たぶん、これは・・・恐い・・・?)
目を覚ましたアリシアは、私のことをどう思うだろう。自分のクローンだから、気味悪がるかも。それに、母さんを見殺しにしたって恨まれるかもしれない。そう思うと恐いんだ。アリシアと仲良く生きるようにっていう母さんの最期の願いを聴いたのに、上手く果たせるか自信が無い。
(私はこれからどうなるんだろう・・・)
未来が不安になってくる。決めたのに。自分を始めるために、今までの私を終わらせようって。母さんの最期の願いを叶えたいって。こんなんじゃダメだって解っているのに。だけどアリシアの心と母さんの死が重く圧し掛かる。
「フェイトさん。これからの事、少しだけお話しさせてもらうわね」
膝の上に置いた握り拳を俯いて見ていると、リンディ艦長が話を切り出した。今回の一件での私の立ち位置は結構難しいものらしく、裁判が長期に亘るかもしれないって。リンディ艦長はその理由を言わなかったけど、なんとなくだけど私は理解できていた。事の真相を知ることなく、母さんの道具として私は今回の一件に関わった。母さんの目的を知っていたか知っていなかったか。その線引きが、私に課せられる罰の重さを決めるんだ。
「――でねフェイトさん。その裁判の間、保護責任者の下で良い子でいれば、割と普通に過ごせるから安心してね♪」
その人の所でちゃんとしていれば、期間中は色んな制限を付けられることなく過ごせる、ということらしい。問題はその「保護責任者、ですか・・・?」と訊ねてみる。私って自分でも難しい子だと思ってるから、迷惑をかけてしまいそう。するとリンディ艦長は自分自身を指さして、「わ・た・し♪」って笑顔を浮かべて答えた。
「「え・・?」」
「時空管理局・提督、そしてアースラ艦長、リンディ・ハラオウンが、あなた達の保護責任者。これからよろしくね。フェイトさん、アルフ」
「えっと、はい、よろしくお願いします」
「お、お願いします」
体の向きをリンディ艦長へ向き直してからアルフと一緒にお辞儀する。リンディ艦長は「アリシアさんも一緒だから安心してちょうだいね」って続けた。私はただ頷くだけで応えた。そうだよね。私と一緒でアリシアもまた母さんを喪った。私たちと同じでこれからを生きる場所が無い。ふと、裁判が終わった後のことを考える。順当なのは、どこかの施設に入ることだ。大きくなるまではそこでお世話になるしかない。
(母さん。私は、頑張ります。アリシアと一緒に生きていくために)
抱いた恐れを乗り越えることから始めないと。そうだ、たとえアリシアに拒絶されても、私は逃げずにアリシアと一緒に生きるんだ。一度そう決めたら、すぐにでもアリシアと会いたくなった。でもそれは少しお預けだ。今の私の立場を忘れてない。それにアリシアはまだ目を覚ましていないって話だし。
「ささ。冷めちゃう前にいただきましょ♪」
トレイを膝の上に乗せて、食事を頂く。グランフェリアに洗脳されてからだから、昨日の夜から何も食べてない。ハッキリそれを思い出したら、きゅ~ってお腹が鳴った。うぅ、ちょっと音が大きかった。顔が熱くなるのが判る。
チラッとリンディ艦長を見ると、温かな微笑みを向けてくれていた。それはアリシアの記憶の中に在った、優しかった頃の母さんと同じ微笑み。だからか恥ずかしさは消えた。ぎこちなくだけど私も笑みを作って見せる。変な笑顔にならなかったかなって心配だったけど、さっき以上の笑顔になってくれたリンディ艦長を見れば、なってなかったんだって判る。
「ごちそうさまでした♪」
「「???」」
そうして食事を終えたところで、リンディ艦長がいきなり手を合わせてそんなこと言った。聞き慣れない言葉に首を傾げてみる。
「あぁ、これ? なのはさん達の住んでる国での食事後の挨拶らしいの。さっきは忘れちてしまったのだけど、食前はいただきます、食後はごちそうさま、って。いただきますは食材となった命への感謝を、ごちそうさまは調達・調理してくれた人たちへの感謝を意味してるらしいの。良い文化だと思うわ」
「へぇ。変わった文化もあるもんだね」
「うん。あ、でもリンディ艦長の言う通り良い文化だと思います」
「でしょ♪っと、もうそろそろ戻らないといけないわね。けどその前に。フェイトさん、アルフ、何か質問とかあったら受け付けるわ」
リンディ艦長は時刻が表示された小型の空間モニターを展開、最後にそう確認してきた。
「グランフェリアやテスタメントはどうなったんでしょうか」
そう言えばあの2人がどうなったのか判らないから、そのことについて訊いてみることにした。心も落ち着き、お腹も満たされたことで、あの2人のことをようやく考えることが出来たから。
「「っ!」」
「え・・・?」
リンディ艦長とアルフがビクッと肩を震わせて、目を泳がせた。その様子に私は「何があったんですか?」改めて訊ねる。アルフは私から顔を逸らして「えっと・・・」って口ごもる。リンディ艦長は少し唸った後、「テスタメントさんは・・・――」私が虚数空間に飛び込んだ後、あの子がどうなったのかを教えてくれた。
「死んだ・・・? テスタメントが・・?」
テスタメントが死んだ。虚数空間に落ちた私と母さん、そしてアリシアを助けるために伸ばした鎖で私たちを引っ張り出した後、逃げる途中で崩落に巻き込まれて虚数空間に落ちたって。それってつまり「私たちの身代わりになったってこと・・・?」になる。声に出すと全身が総毛立った。
「どうしよう私・・・あの子を殺したって言われてもおかしくない・・・!」
声が震え、体も震えだす。私たちの代わりあの子が死んだ。あの子と関係のある人たちに恨まれる。それにあの子が救いたいって人のこともある。もしあの子が帰れなかったことで、その人も死んでしまったら・・・。
「フェイト、落ち着いて!」
「落ち着けるわけないよ! だってあの子を殺したようなものなんだよ! あの子にも絶対恨まれてる!」
私は自分の体を抱いて喚く。と、「フェイト、聴いて!」アルフが私の両肩に手を置いて揺さぶってきた。
「アイツ、テスタメントは誰も恨んでない! アイツ自身が言ってたんだ! こうなったのは誰の所為でもないって!」
アルフが語る、テスタメントの最期の言葉。自分の死を背負わないでいい、死ぬのは誰の所為でもない、だから苦しまなくていい、悲しまなくていい、って。そしてあの子が救いたいと思っていた人の正体。それはあの子自身のことだって教えてくれた。
「アイツが言っていたこと、本心だって思うんだよ。自分が死ぬって状況なのに、アイツはあたし達のこれからを心配してたんだ。普通だったら助けを求めるはずなのにさ」
「テスタメントさんの最期は口伝でしか知らないのだけど、私もアルフと同じ意見よ。あの子、根は優しい子だと思うの。庭園が崩壊を始めた時、1人だけ脱出することも出来た。でもあの子は逃げず、虚数空間に落ちたフェイトさん、プレシア女史、アリシアさんを危険を顧みず助けた。
それで崩壊に巻き込まれても恨み言を言わず、自分は助からないと悟り、自分の死を背負わせまいとした。しかも自分自身を悪人だって蔑んで、なのはさん達やフェイトさんやアルフの心の負担を減らそうとした・・・」
リンディ艦長が一息吐いて、膝に置いた私の手にそっと手を添えてきた。
「フェイトさん。自分を責めちゃダメよ。テスタメントさんの最期の願い。あの子の死を背負うのではなく、願いを受け止めるの。それが私たちに出来る、あの子の死を無残なものにしない唯一の方法だと思うの」
「受け止める・・・」
テスタメントと一緒に過ごした、短い時間が一気に脳裏に過ぎった。初めて会った時はジュエルシードを巡って戦って、ゲームセンターで少し助けてもらったり競ったり、そしてアルフの提案で同盟を結んで、それからは一緒にジュエルシードを集めた。そして私が母さんに拒絶されて気持ちが沈んでいた時、私の前に現れて、気持ちの整理を手伝ってくれた。
――さようなら――
別れの時、あの子はそう言った。あれは同盟を破棄して敵対関係に戻ることを意味していたんだって今になって判った。次に会った時は、本当に敵として私たちの前に立ちはだかった。あの子たちと協力してなんとかテスタメントに勝って・・・。それが私があの子を見た最後の姿。「あ・・・」涙が零れてきた。
「私・・・助けてくれてありがとうって、お礼言いたかった・・・」
それだけが心残りになった。止まらない涙を袖で拭っていると、背中からアルフが抱き締めてくれて、リンディ艦長は頭を撫でてくれた。
「その想いはきっとテスタメントさんに届くわ・・・」
それから少しの間、私はテスタメントの笑顔を思い浮かべて何度もお礼を繰り返した。
†††Sideフェイト⇒なのは†††
時の庭園での決戦から10日後、私とアリサちゃんとすずかちゃんは海鳴市へと戻って来ていた。最初の3日は次元震の影響で帰って来ることが出来なくて、アースラでのんびりと過ごしてた。その間、シャルちゃんと模擬戦っていう形で戦って鍛えてもらったんだけど、勝ったと思えばもう一段階と強さを上げてきて、ぬか喜びさせられてばかり。結局、3日の間に戦った5戦でシャルちゃんの全力全開には勝つことが出来なかった。
「なんていうか、日常が退屈って思うようになっちゃったわ」
アリサちゃんがポツリと漏らす。半日授業の今日、私とアリサちゃんとすずかちゃんはバスに乗らずに、歩いて帰宅中。帰って来てからずっとこうだ。3人で歩いて帰る。ちゃんとした理由は無いんだけど、そうしたいって思いが私たちにあった。
「アリサちゃんもすずかちゃんも、デバイス・・・返しちゃったもんね」
「元よりあたしとすずかが魔導師になったのって、なのはを助けるためだけを目的としてたんだし、もう終わっちゃったからね~」
「もう使うことが無い私たちに持っていられるより、使ってもらえるセレネちゃんとエオスちゃんに返した方がスノーホワイトもフレイムアイズも嬉しいと思ったんだ」
2人はアースラを離れる時に“フレイムアイズ”と“スノーホワイト”を、セレネちゃんとエオスちゃんに返却した。セレネちゃん達からは、これまで通り持っていていいよ、って言われてたけど、アリサちゃんとすずかちゃんはそれを丁重に断った。これからも魔導師として過ごしていくセレネちゃんとエオスちゃんの為に。ちなみに“レイジングハート”は未だに私が持ってる。所有権が完全に私に移ってるからって。あと、“レイジングハート”の意思も。私以外をもうマスターとは認めないって。
「一緒に過ごした時間は短かったけど、居なくなったら寂しいって思うようになっちゃったわけ」
「私も。毎日のように待機モードの時のスノーホワイトを触ろうとしちゃう」
「でもま、これがあたし達にとって普通なんだから、慣れないとね」
アリサちゃんがそう言うと、すずかちゃんも「そうだね」って頷いた。そして話題はデバイスと一緒にお別れすることになった、今回の事件で出来た友達のことへ。
「ユーノ君たち、元気にしてるかな・・・?」
「本局ってところに着くまでビクビクしてるんじゃないの?」
「にゃはは。ちょっと可哀想だけど、こればかりはしょうがないかなぁ」
ユーノ君とセレネちゃんとエオスちゃんは、フェイトちゃんの裁判の手続きが済み次第本局へ向かうことになってるアースラに残ったまま。待ってる間、私たちの家で過せばいいって提案したんだけど、3人のお父さんといつ連絡がついても良いようにってことで留まることになった。そう決断した時の3人なんだけど、もし待ち合わせ場所が本局だったらって話になって・・・。
――ヒィィッ! 公衆の面前でお尻ペンペンとかされたりしたらお嫁に行けない!――
――いやぁぁぁぁっ! そんなの乙女として絶対にダメぇぇぇぇぇ!――
――諦めようセレネ、エオス。心配をかけた僕たちが悪いんだ・・・――
――ユーノは男の子だからそんな諦めが出来るんだよぉぉぉっ(大泣)――
そう言っていたユーノ君も顔が真っ青になってたよ。見てるこっちが辛い程に。とまぁ、ユーノ君たちにとっては地獄のような出来事も多々あったけど、ようやく次元震の影響も収まったと言うことで、私たちはこうして帰って来れた。
でも最後までフェイトちゃんとアルフさんと面会することは出来なかった。リンディさんのお話では元気なのは確かなようで。お母さんやテスタメントちゃんの死も、アリシアちゃん?(やっぱりさん付けの方がいいのかな?)のこともちゃんと受け入れてるって。
「最後くらいはちゃんと挨拶しておきたかったなぁ」
「そうねぇ」「そうだねぇ」
防波堤の上に立って、海から流れてくる潮風を受けながら3人で一緒に青空を見上げる。あの広い空のずっと向こう、私たちがまだ知らない世界が広がってる。そこにユーノ君たち、シャルちゃん達、そしてフェイトちゃん達が生きる世界もあるんだ。
しばらく空や海を眺めた後、「帰ろうっか」私はそう言って、「うん」って返事をくれた2人と一緒にまた歩き出す。と、そんな時「電話だ。誰からだろ」私の携帯電話の着信メロディが鳴ったから、携帯電話を取る。
「ふええええっ!?」
「ちょっ、何よ変な声出して」
「誰からなの? なのはちゃん」
アリサちゃんとすずかちゃんに「管理局から!」発信者名を伝える。2人も「ええっ!?」ってすっごく驚いて、「早く出ないと切れる!」早く電話に出るようにアリサちゃんに急かされた。
「う、うん!・・・も、もしもし!」
『なのはさん? ちょっとぶり、リンディです。今、お時間大丈夫かしら?』
「全然大丈夫です、問題ないです!」
携帯電話をスピーカーフォンモードにして、みんなに聴こえるようにする。あと、ちゃんと周囲に人が居ないことを確認することも忘れない。
「「こんにちはリンディさん!」」
『アリサさんとすずかさんもご一緒なのね。ちょうどよかったわ。お知らせが2つあるの。まず、フェイトさんの裁判の手続きが終わって、日程が来週から本局になったことが一点。そしてもう一点は、フェイトさんがなのはさん達と会いたいと言っているのね。こちらとしても、挨拶1つなく長くお別れさせるのはちょっとって思って。だから、これからそちらにフェイトさん、ユーノ君たちを転送するつもりなのだけど・・・大丈夫かしら?』
自然と私たちは笑顔になる。返事はもちろん「大丈夫です!」だ。それから場所を決めて電話を切る。
「行こうアリサちゃん、すずかちゃん!」
「ええ!」「うん!」
防波堤から降りて、フェイトちゃん達との待ち合わせ場所、海鳴臨海公園を目指して走る。嬉しかった。フェイトちゃんからそう言ってもらえて。あまりに嬉しすぎて、もっと早くって急いじゃう。走る速度よりもっと早く移動するには・・・「空を飛んで行こう!」簡単な答えだった。
「馬鹿!」「ダメだよ、なのはちゃん!」
けど即座に却下された。しょうがなく走って向かうことに。興奮してるおかげか全然疲れることなく到着。公園内の区画を繋ぐアーチ橋の中央にフェイトちゃん達がすでに待っていた。フェイトちゃんはもちろんアルフさん、付き添いのシャルちゃん、そしてユーノ君にセレネちゃんとエオスちゃん。クロノ君は居ないみたい。ちょっぴり残念です。クロノ君とも挨拶したかったのに。
「フェイトちゃん! シャルちゃん、ユーノ君たちも、お待たせ!」
私たちの名前を呼びながら手を振り返してくれたシャルちゃん達の元まで駆け寄った。
「ううん。わたし達もいま来たところ。じゃあとりあえずフェイト。わたし達は挨拶あとでいいから、あなたの用事を先に済ませちゃいなさい」
「あ、うん。ありがとう」
シャルちゃんがフェイトちゃんにそう言った後、「なのは、アリサ、すずか、後でね」ってウィンク。フェイトちゃんのお礼に続いて、「うん、また後で」私たちはシャルちゃん達に笑顔で返す。そうしてシャルちゃんはユーノ君たちを連れて、近くの休憩所に向かった。
改めてフェイトちゃんと顔を合わせて・・・。お話ししたいことがいっぱいあったのに、こうして面と向かってしまったら胸がいっぱいになっちゃって声が出ない。するとフェイトちゃんが微笑んでくれた。それは今までに見たことがない、温かくて、優しい微笑みで。そんな微笑みを向けてくれたことも嬉しくて、泣いちゃいそうになったけどなんとか耐えて、私も微笑み返す。
「「・・・・」」
「あーもう、ほら。せっかくこうやって会えたんだか、何か言いなさいよ2人とも!」
「「わっ・・・?」」
アリサちゃんがいきなり私とフェイトちゃんの肩に腕を回してきて、「フェイト!」って名前を呼んだ。すずかちゃんはアリサちゃんの突然の行動をちょっと窘めた後、「フェイトちゃん」って微笑みながら名前を呼んだ。私も2人に倣って「フェイトちゃん♪」親愛を籠めて名前を呼ぶ。フェイトちゃんは目をパチクリさせた後、気まずそうに「あの、名前・・・」ポツリと呟いた。
「もしかして・・・憶えてない? あたし達の名前。あんだけ名乗ったのに?」
「あぅ・・・」
アリサちゃんは自分の顔をフェイトちゃんの顔にグッと近づけながら問い質した。にゃはは。ちょっぴり悲しいけど、でもこれから憶えてもらえればそれで問題ないよ。アリサちゃんが私とフェイトちゃんの肩に回していた腕を戻して、一歩二歩と下がった。
「あたし、アリサ・バニングス!」
そして自分の胸をバシッと叩いて、声高らかに自己紹介した。私はすずかちゃんと顔を見合わせて、コクリと頷き合った。
「私、月村すずか!」
すずかちゃんはそっと胸に両手を添えて自己紹介。
「私、高町なのは!」
私も自分の胸に手を添えて自己紹介。自己紹介を終えて、フェイトちゃんの様子を窺う。するとフェイトちゃんは「うん。もう大丈夫。忘れない」って目を閉じて頷いた。
「今日、みんなに会いに来たのは、あの返事をするためなんだ。私と友達になりたいって」
「「「うん!」」」
フェイトちゃんの返事を待つ。でもフェイトちゃんはちょっぴり困っているようで。表情が少し翳ってる。でもそれは拒絶からじゃないって判る。だから続きを急かさずに待つ。フェイトちゃんを意を決したように深呼吸して、「私は嬉しかったんだ・・・」口を開いた。
「何を言われても拒絶ばかりの私だったのに、諦めずに真っ直ぐに向き合ってくれたから。そしてみんなに言ってもらった、友達になりたい。その言葉に私は助けてもらったんだ。母さんに拒絶された時、本当に辛かった。
だけどその言葉が私を立ち直らせる支えになった。母さんやテスタメントの死や、アリシアへの思いに整理を付けた後、ずっと考えたんだ。私で良ければ、私に出来るなら、みんなと友達になりたいって。でも・・・」
フェイトちゃんはそこで一度区切った。
「ごめん。私は判らないんだ。友達になる方法が・・・。だから、教えてほしいんだ」
そう切実そうに言ったフェイトちゃん。私とアリサちゃんとすずかちゃんは一度顔を見合わせた。そしてフェイトちゃんに「友達になるのって、すっごく簡単なんだよ」私たちは微笑みかける。
「「「名前を呼んで」」」
「え・・・?」
「名前を呼んで、フェイトちゃん」
「名前を・・・?」
「そ♪ まずはそれからよ、フェイト。君とか、あなたとかじゃなくてさ」
「うん。ちゃんと相手に目を見て、ハッキリと相手の名前を呼ぶんだよ、フェイトちゃん」
フェイトちゃんは「うん」って頷いた。
「・・・なのは。・・・アリサ。・・・すずか」
「「「うん、そうだよ」」」
「なのは」
「うん!」
「アリサ」
「ん!」
「すずか」
「うんっ!」
フェイトちゃんに優しく名前を呼んでもらったら、涙が一気に溢れてきた。隣に居るアリサちゃんが「泣くんじゃないわよ、なのは」って言うけど、「アリサちゃんだって・・・」泣いてるよ。私たちに釣られてすずかちゃんも嗚咽を漏らし始めた。だって嬉しいんだもん。願いが叶ったから。フェイトちゃんがそんな私たちの手をいっぺんに取った。フェイトちゃんもまた瞳が涙で揺らいでた。
「ありがとう、なのは、アリサ、すずか。・・・少し解ったことがあるんだ。友達が泣いてる姿を見ると、悲しくなってしまうんだね」
「そうだね。友達は、色んなことを分かち合うものだから。でも悲しいことばかりじゃないよ。嬉しいこと・楽しいことは何倍にでもなるし、悲しいこと・辛いことは半分、さらに半分にもなる」
「そっか・・。友達ってすごいんだね・・・」
「そうよ。あたし達は友達なんだから、これからは分かち合ってくのよ」
「今は離れ離れになっちゃうけど・・・でも必ず、また会える・・・よね?」
「うん。少し長い旅になるけど。でも必ずまた会いに来るよ。なのは、アリサ、すずか。会いたくなったらみんなの名前を呼ぶ。だから、みんなも私の名前を呼んでほしいんだ」
「うん。待ってる。そしてちゃんと呼ぶよ、フェイトちゃん」
「もちろん呼ぶわ。だからちゃんと会いに来るのよ?」
「私も。会いたくなったらフェイトちゃんの名前を呼ぶよ」
そしてフェイトちゃんは「あの子とも、こうして友達になりたかった」って空を見上げた。誰のことを言っているのかすぐに判った。私たちも空を仰ぎ見る。
「テスタメントちゃん・・・」
綺麗な赤い髪と青い瞳の女の子。最期の最期まで私たちを苦しませないように笑顔だった。
「テスタメントちゃ~~~~~~んっ!」
「テスタメントぉぉーーーーっ!」
「テスタメントちゃん!!」
「テスタメント・・・!」
私に続いてフェイトちゃん達も空に向かってテスタメントちゃんの名前を呼んだ。返事は来ないけど、テスタメントちゃんなら返してくれるって思えちゃう。だってとても優しい子だから。もう会えないのはやっぱりすごく辛いし、悲しいけど、私たちは俯かないよ。それがテスタメントちゃんが最期に願った、想いだから。
「なのは、アリサ、すずか。困ったことがあったら私を呼んで。今度は私が助けるから。テスタメントのように諦めずに。もう2度と友達を失いたくないから・・・」
「うん。フェイトちゃんも、だよ」
そう約束を交わす。と、「ごめんねぇ~」ってシャルちゃんが謝りながらユーノ君たちを引き連れて来た。
「ホントごめん。水を差したくないんだけど、そろそろわたし達の番にしないと時間的にダメって言うか・・・」
「ううん。こっちこそごめん、シャル。私たちはもう大丈夫・・・?」
フェイトちゃんが私たちに視線を送って来た。私は涙を袖で拭って、「大丈夫だよ」って答える。今度は全員でお別れの挨拶ってことになって。真っ先にシャルちゃんが「寂しい~~!」って私、アリサちゃん、すずかちゃんって次々と抱きついた。
そんなシャルちゃんにみんなは微笑む。そして話はアリシアちゃんのことになった。アリシアちゃんはまだ目を覚ましていないということ。身体には問題はないとのことなんけど、本局で詳しい検査をすることになったって。
「でもアリシア、時々軽い寝言は言ってるから、そんなに心配いらないかも・・・」
フェイトちゃんがその時を思い出したのか小さく「ふふ」って笑ったあと、今度はユーノ君たちとお話しするよう勧めて来てくれた。お言葉に甘えて私はユーノ君と、アリサちゃんとすずかちゃんは、セレネちゃんとエオスちゃんと次の再会までの挨拶。
「ユーノ君・・・」
「うん、なのは。色々と迷惑をかけてごめん、そしてありがとう。なのはと出逢えたから、僕はこうしてここに居られる」
「私の方こそありがとう、だよ。ユーノ君と出逢えたから、私はフェイトちゃん達とも出逢えた。すっごく感謝してる♪」
この奇跡のような出逢いには本当に感謝してる。2人いっぺんに「ありがとう」って握手。
「アリサ。あなたにフレイムアイズを託すよ」
「すずか。スノーホワイト、貰ってほしいんだ」
アリサちゃん達の会話が漏れ聞けてきた。ユーノ君と一緒にそっちに向く。セレネちゃんとエオスちゃんが “レイジングハート”の待機モードと同じ宝石を2人に手渡していた。
「え、でもどうしてよ。あんた達、これからも遺跡発掘とかで忙しいんでしょ?」
「デバイスが無かったら大した魔法使えないって言ってなかったっけ・・・?」
「「私たち、魔法学院に通うことになったの。で、一から始めるためにデバイス無しって決めたの」」
アリサちゃんとすずかちゃんの疑問に、そう同時に答えたセレネちゃんとエオスちゃん。魔法学院って、確かユーノ君も以前通ってたって話を前に聴いたような。ユーノ君に向くと、「僕とは違う学校だよ」って教えてくれた。
「先日、僕にとってもお父さんであるペリオさんと連絡がついてね。あの2人が今回のような無茶をしないようにってことで学院に入れるって話になっちゃって・・」
「そんでわたしが紹介したの。わたしが本籍を置いてる聖王教会、その系列のミッションスクールなんだけど」
「ミッションスクールに入れば多少はマシな性格になるだとか・・・」
「そして頭も良くなって魔法も学べて一石三鳥だとか言われちゃってさぁ~」
セレネちゃんとエオスちゃんは「失礼しちゃう」って怒ってるように見えるけど、とても待ち遠しそうにも見える。
「ま、そういうわけだから、2人にデバイスを託そうって話し合って決めたんだ」
「フレイムアイズもスノーホワイトもその方が楽しいらしいし」
アリサちゃんの手の平の上に乗る桃色の宝石――“フレイムアイズ”が≪これからもよろしくな≫って挨拶。同じようにすずかちゃんの手の平の上に乗る青い宝石――“スノーホワイト”も≪お世話になりますわ、スズカ≫って挨拶。
「ま、まぁそう言うんだったら託されてやってもいいわよ」
「あはは。アリサちゃんってば素直じゃな~い」
「う、うっさいわね!」
照れるアリサちゃん。良かったね2人とも。大事そうに両手で抱きしめた後、2人はデバイスの首に掛けた。こうしてみんなとの挨拶は済んでいって、とうとうお別れの時間になっちゃった。アースラに戻るフェイトちゃん達が一ヵ所に集まろうとして、私は「ちょっと待って!」って呼び止めちゃった。
「あ、あの、えっと・・・あ!」
髪を結ってたリボンを2本とも解いて「何か思い出になるもの、これしか思い浮かばなくて」ってフェイトちゃんに差し出す。すると「じゃあ私も」ってフェイトちゃんもリボンを解いて、私に差し出してくれた。お互いにリボンを手に取って微笑んだ。
「ちょっ、ちょっと待って。あたしも何か・・・!」
「リボンとかの方が良いのかな? えっと、えっと・・・!」
アリサちゃんとすずかちゃんも何か渡せる物が無いかって焦り出した。それを見たフェイトちゃんが「私、もう返せる物が無いけど・・・」ってちょっぴり困ってる。
「「私たちにもちょうだい!」」
「「え・・・!?」」
そこにセレネちゃんとエオスちゃんが乱入。アリサちゃんとすずかちゃんの制服のリボンを解いた。そしてすぐに2人は自分の後ろ髪をそのリボンで結った。ポカーンとしてたアリサちゃん達だったけど、嬉しそうにしてる2人を見て小さく笑った。
「ま、それが順当か」
「だね」
アリサちゃん達は納得したようで何も言わなかった。これで問題は全部解決・・・にはならなかった。
「フェイトも、セレネも、エオスも・・・良い物貰っていいなぁ~」
シャルちゃんだ。シャルちゃんが物欲しそうに私たちを見詰めてる。あと渡せる物と言ったら、私の制服のリボンだけ。だから解こうかと思ったらシャルちゃんがいきなり「なのはをちょうだ~い!」ってさっき以上の勢いで抱きついてきた。しかも「にゃっ!?」色んなところをペタペタ触ってくるよ。くすぐったいやら恥ずかしいやらで悶えちゃう。
「ほら、シャル。お止め」
「あ~ん」
「はぁはぁはぁ・・・・」
アルフさんがシャルちゃんを引き剥がしてくれた。私は呼吸を整えながら「ありがとう、アルフさん」お礼を言う。
「いいってことさ。あたしの方こそ、フェイトを救ってくれてありがとね。なのは♪ それにアリサとすずかも♪」
アルフさんとも仲良くなれて本当に良かった。そんなアルフさんに羽交い絞めされてるシャルちゃんの為に胸のリボンを解いて、「これで我慢してくれると嬉しいな」って微笑みかける。アルフさんから解放されたシャルちゃんは「ありがとう」綺麗な笑みを浮かべてくれた。
「それじゃあお返し。そ・れ・は・・・わたしを貰ってぇぇ~~~~❤」
「えええええええっ!?」
ピョンと跳んでまた抱きつこうとしてきたシャルちゃんだったけど、またアルフさんに妨害された。頭を両手で挟み込まれてプランプラン揺れてる。えっと、とりあえず「お返しは無い、かな?」シャルちゃんから目を逸らす。
「大丈夫。こんなこともあろうかと用意して来たんだ」
アルフさんに降ろしてもらったシャルちゃんは何事も無かったかのようにポシェットから(ずっと気になってたんだ)ある物を取り出した。
「なのはにはリボン。アリサにはヘアゴム。すずかにはカチューシャね」
そう言って私たちそれぞれに手渡してくれたシャルちゃん。私の魔力光と同じ桜色の生地で、うっすらと剣で象った十字架の模様が描かれてる。アリサちゃんも魔力光と同じ茜色をしていて、これまた剣の十字架のアクセサリー付き。そしてすずかちゃんのは白のカチューシャで、両側面にはやっぱり剣の十字架の赤いアクセサリー付き。
「ありがとう、シャルちゃん♪」
「私のだけは魔力光じゃないんだ。どうしてなんだろ?」
「だって藤紫色って髪色と被るじゃん。それといつもしてるヘアバンドを探したんだけど、手持ちに無くって。カチューシャで我慢してもらえると嬉しい」
「あ、い、嫌なわけじゃないんだよ。ちょっと気になっただけで」
「文句なく素直に嬉しいんだけどさ。この十字架、なに?」
シャルちゃんが目を逸らした。そして、「それじゃそろそろ行くね」って答えることなく行こうとしちゃってる。かなり気になるんだけど。でも教えてくれそうにないから訊けずじまいで。そんな中で、転送開始を告げる魔法陣がフェイトちゃん達の足元に展開された。気持ちを切り替えて、私たちはフェイトちゃん達を見送るために笑顔をつくって、手を振る。
「またね、フェイトちゃん! ユーノ君! シャルちゃん! セレネちゃん! エオスちゃん! アルフさん!」
「ホントのホントにまた来るのよ!」
「待ってるからね! またこうして逢える日を!」
フェイトちゃん達も手を振り返してくれる。ちょっとの間だけさようなら。もう私たちの間に涙は無い。みんな一緒に笑顔だ。そして転送が始まって光に包まれたフェイトちゃん達。見えなくなるまでずっと手を振り続けよう。一際強く光が溢れたと思えば、「やっぱ残るぅぅ~~♪」シャルちゃんが魔法陣から飛び出して来た。
「「「「「えっ・・・!?」」」」」
それがフェイトちゃん達が残した最後の言葉。転送されたことでもう姿はどこにも無い。けど私たちの目の前には「ふぅ」一仕事終えてひと段落って風に息を吐くシャルちゃんが。
「「「ええええええええ!?」」」
今さら状況を理解した私たちは叫んだ。そんな私たちに向かってシャルちゃんは言う。
「ねえねえ! ホームステイって感じで誰かの家に住まわせてくれない? 第一希望はなのはの家! ダメかなぁ!?」
「シャルちゃん!? 管理局の仕事どうするの!?」
「有給取って休むよ」
「ホントにそれで良いわけ?」
「大丈~~夫♪」
シャルちゃんは自信満々に言ってのけるけど、そんなシャルちゃんの背後に転移の光が。転送されて来たのは「やると思った。ああ、やると思ったさ! けどやってほしくなかったよ!」不機嫌そうなクロノ君だった。
「うげっ、クロノ!」
「うげ、じゃない! 仕事が溜まってるんだ、それをカタしていたから僕は挨拶に来れなかったんだぞ、まったく。それになんだ、有給を取る? 君は有給が取れるほど働いてないだろうが。はぁ。最後の最後まで迷惑をかけたね、なのは、アリサ、すずか。コイツの言ったことは忘れてくれ」
「や~だ~。なのは達ともっと一緒に居ぃ~るぅ~のぉ~!」
駄々をこね始めたシャルちゃん。最終的にクロノ君はシャルちゃんをバインドで拘束して地面に転がした。
「それじゃ僕たちも失礼するよ。じゃあ改めて。またいつか会おう」
「むーむーむー!『また会おうね、なのは、アリサ、すずか!』」
こうしてクロノ君とシャルちゃんもアースラに帰って行った。さっきまで騒がしかった私たちの周りも静かになって、波の音と一緒に潮風が私たちを撫でる。しばらく私たちはその場に留まって、思い出に浸る。
「なのは」
「なのはちゃん」
アリサちゃんとすずかちゃんの呼びかけに私は「うん、帰ろうか」頷いて歩き出す。いつかまたフェイトちゃん達と出逢える日に胸を躍らせながら、私たちは日常に戻る。
「あ、そうだ。翠屋に寄ってって♪ お母さんの新作スイーツが今日からなんだ♪」
「そうなんだ。それじゃあお邪魔します♪」
「あー、お土産として翠屋のスイーツを渡せればよかったわね~」
うぅ、それは確かに悔やまれる。今からでも届けられる方法があればいいんだけど、残念ながら無い。そうして私たちは一路、喫茶・翠屋に向けて出発。臨海公園の並木道を出た。
「きゃっ・・・!」「うわ・・・!」
その時、目の前を横切ろうとしてた人と衝突。私やぶつかっちゃった人も尻餅をついちゃった。
「ちょっと大丈夫!?」
「なのはちゃん、大丈夫!?」
「うん、私は大丈夫。あの、ごめんなさ・・・!」
ぶつかっちゃった人を見て、私はその人――ううん、その子の外見に目を奪われた。綺麗な銀色の長い髪、透き通るような白い肌、左右で色の違う瞳。外国の子だった。
(この子、どこかで見たような・・・?)
その子に見惚れてたら「こっちこそごめん。手、よかったら掴まって」先に立ち上ったその子が手を差し出してくれた。私は「ありがとう」その子の手を取って、「ごめんね」謝りながら引っ張り立たせてもらった。
「ううん。君は怪我とか無い?」
「うん、大丈夫。平気だよ」
「そっか。なら良かった。じゃあね!」
その銀髪の子はそれだけを言って走り去って行っちゃった。この時、私やアリサちゃん、すずかちゃんは知る由もなかった。あの銀髪の子と再会することが逃れられない運命だったなんて・・・・。
EpisodeⅠ: Te Ratio Ducat,Non Fortuna….Fin
◦―◦―◦―◦次章予告◦―◦―◦―◦
11年の時を経て、彼の魔導書は目を覚ます
「我ら、闇の書の蒐集を行い、主を護る守護騎士にてございます」
騎士らの新たな主は、それは幼い1人の少女。そしてもう1人
「うそ、だろ・・・オーディン・・・!?」
騎士らは長き戦乱より久しく解放され、主である少女と、かつての主と瓜二つの少年と穏やかな時を過ごす
「私は知った。これではニートではないか、と」
だが、その平穏も長くは続かなかった
「騎士の誇りと主の命。天秤に掛けるまでもない」
そうして次元世界に颯爽と現れたベルカ騎士たち
「おい、知ってるか。あの連中、また出たんだってよ」
「知ってる。以前、現場で会ったよ。剣騎士セイバー、槍騎士ランサー、鉄槌騎士バスター、治癒騎士ヒーラー、防護騎士ガーダー、あと1人いるって話だが見た事ないな」
6人の騎士の願い、主である少女の望み、そして幼き勇者たちの想い。
それらが交錯した時、一冊の悲しき魔導書との物語が幕を開ける。
Next Episode…EpisodeⅡ: Vixi et quem dederat cursum fortuna peregi
後書き
ナマステ。
どれだけ急いでも1話仕上げるのに4日は掛かってしまいますね。連日投稿ってどうすれば出来るんでしょう?
仕事を辞めれば集中できるのですが。さすがにそこまでしたらただの馬鹿です。
趣味の車いじりを止めただけでも御の字といたしましょう。軽に乗り換えたくらいですし。
さて。ようやくジュエルシード編であるエピソードⅠが完結しました。
原作では終始感動の嵐だった最終回ですが、シャルと言う年中脳内花畑で超絶能天気娘が居るということで、感動を完全に抹消。
感動を期待していた読者様方には申し訳ありません、と謝る他ないです。
そして次章ですが、闇の書編のスタートとなります。
まずは本エピソードの裏話・魔法辞典を先に投稿します。
そして予てより宣言していた、前作・今作の誤字脱字・加筆修正を始めたいと思います。
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