ファルスタッフ
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第二幕その七
第二幕その七
「御主人が顔を真っ赤にされて何やら叫び回りがなりたてていきり立って。まるで嵐の様ですわ」
「まさか」
「本当です。何やら大勢の殿方を引き連れて来られて。庭を囲んでもう戸口のところまで」
「間男を許すな!」
そのフォードの声が聞こえてきた。
「何があろうとも。狩りのはじまりだ!」
「猪を狩れ!」
「鼠一匹逃がすな!」
彼に従う男達の声も聞こえる。
「では屋敷の中に!」
「はい!」
乱暴に戸口が開けられる。そうして家の中にずかずかと入るのだった。カイウス達が後ろにいる。
「どうしたんですか、あなた」
「洗濯籠か」
フォードは洗濯籠を見ずに洗濯籠を見ていた。その目が険しい。
「籠には誰がいる」
「洗濯物ですわ」
「嘘を言え、この浮気女」
しかしフォードは妻の言葉を全く信じない。
「金庫を探すぞ。カイウスさん」
「はい」
彼の後ろにいたカイウスが応える。
「鍵をお渡しします。これで金庫を調べて下さい」
「わかりました」
「そしてあなた達は」
「はい」
「何でしょうか」
大勢の男達が彼に応える。
「公園に通じている出口を塞いで下さい。あの御仁は太っているが動きが速いので」
「わかりました。それでは」
「その様に」
「御願いします。さてわしは」
洗濯籠を漁りだした。血走った目で洗濯物を次々と服を取り出す。しかし何もないので遂に籠をひっくり返してしまった。
「ええい、忌々しい」
「まるで台風のようですわ」
「全く」
メグとクイックリーはそんなフォードを見て顔を顰めさせる。喜劇が邪魔されたと思っていた。しかしそれで終わりではない。フォードはさらに言うのだ。
「ベッドの下も竈の中も風呂場も井戸の中も屋根裏も酒蔵も探すぞ」
「家中をですね」
「そう、家中だ」
バルドルフォの言葉に応えていう。
「とにかく見つけ出す、いいな」
「わかりました」
ピストラが答える。その間女房達はあれこれ相談していた。喜劇が邪魔されるどころではないのがわかってきたのだ。kおうなれば彼女達も必死だ。
「あの男を何処に」
「洗濯籠の中は?」
「駄目ですわ、あそこは」
クイックリー、メグ、アリーチェがそれぞれ顔を見合わせて言い合う。
「太り過ぎだから」
「全く面倒な」
「とにかく私は」
アリーチェは一旦その場を離れた。
「主人を何とかしないと」
「ええ、行ってらっしゃいませ」
「暫し」
その場はメグとクイックリーだけになった。ここでファルスタッフが顔を出してきた。
「愛しのメグよ」
「ファルスタッフ様」
「愛する貴女に助けて欲しいのです」
こうメグに懇願する。
「どうか」
「どうしましょう」
「やはりここは」
クイックリーは何とかその場を逃れるべく。ある考えに至った。それは。
「洗濯籠に」
「太過ぎませんか?」
「いや、いけた」
ファルスタッフが応える。見れば何とか籠の中に入っていた。
「何とかいけましたぞ」
「ではすぐに」
「ええ、かくして」
二人は先程フォードが散りばめた服を次々とファルスタッフの上に被せていく。その巨体が忽ちのうちに消えていく。二人も必死だ。
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