私立アインクラッド学園
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第二部 文化祭
第6話 妖精郷
前書き
[ここは、妖精たちの国。妖精郷アルヴヘイムです!]
直葉が謎の呪文を唱えた後、明日奈はなにもない空間に、一人で立っていた。
そんな明日奈に声を掛けたのは、黄緑の長い髪に、緑色の瞳を持つ1人の少女で──?
更新めちゃくちゃ遅いせいで、お待たせしてしまってごめんなさい!
(待って下さる方なんて、そんなにいないとは思いますが…)
今回は、原作でも人気と思われる、とある女の子キャラがご光臨なさいます!
「キリト君、交代!」
ソードスキル«スター・スプラッシュ»を終えたアスナは、そう叫ぶと同時に俺の後ろ側へ下がった。
俺はアスナに代わって前衛につき、単発技«ソニック・リープ»を立ち上げる。力尽きたらしい目の前のモンスターは、ガラスを割るような音と共に四散した。
「いいよ、キリト君!」
「ナイス、アスナ!」
俺とアスナはハイタッチをした。それを見たユージオがなにやらニヤニヤしていたことは放っておこう。
「もうこれくらいで十分なんじゃないかな?」
とアスナ。
「けどもう真夜中だよ。寮に戻りたくても、交通手段が……」
「そういうことなら、あたしに任せてよ!」
直葉がユージオの言葉を遮って言った。
「オススメの方法があるんだー」
「え、寮に帰る方法?」
「ううん。でももっといいかもよ! お兄ちゃん、アスナさん、ユージオさん、学生証持ってる?」
「も、持ってるけど……」
全員学生証を取り出すと、直葉はそれを掴み、真上に空高く放った。
──ええっ!?
アスナもユージオも、驚きを隠せないでいる。
「スグ、なにを……」
「ちょっと待っててよお兄ちゃん」
俺の妹はこちらにウィンクすると、すぅっと息を吸い込み、そして叫んだ。
「リンク・スタート!」
──え、ナニ、リンク?
──直葉さん、まさかああいう……中学生特有の病気にかかって……!?
とかなんとか考えていると、目の前がホワイトアウトした。
**
明日奈は首を傾げた。
学園では«神聖術»という名の魔法のような術を習うこともある。発動には空間リソースと呼ばれる概念を消費し、熱や光といった様々な属性を有する。しかしそれはあくまでも魔法に類似した頂上現象に過ぎず、このような大規模な術など学園では習わないはずだし、そんなにも高度な術を、実践慣れしていない中学生である直葉が唱えることはそもそも不可能に近いだろう。
──直葉ちゃん、まさか……本物の魔法使いなの?
いや、そんなものが存在するはずはない。
しかし、直葉がなにか叫んだ途端、目の前の景色が一変したのだ。さっきまでは深い森の中にいたのに、今はただただなにもない空間が広がっている。
「アスナさん」
横から声がした。明日奈は驚いて反対方向に飛び退いてしまう。
振り向くと、一人の少女が立っていた。黄緑色のポニーテールを揺らし、こちらを見つめる瞳は緑色。
「……あなたは、誰?」
明日奈が訊くと、少女は微笑んだ。
「あたしですよ。桐ヶ谷和人の妹、桐ヶ谷直葉です」
「へ、へえー。直葉ちゃんか……って、直葉ちゃん!?」
「はい、直葉です。まあ、わかりませんよねー。容姿とか全然違うし」
自らを直葉と名乗った少女は、少し大袈裟に両腕を広げると言った。
「ここは、妖精たちの国。妖精郷アルヴヘイムです!」
「……妖精……?」
「アスナさん、異世界の存在って、ご存知ですよね?」
「え、ええ。最初色々発見されてるって」
ここ数年、人類は様々な«異世界»を発見している。異世界とは、文字通り別の世界のことである。
「アルヴヘイムもその1つです。学園長は、あたし達アインクラッド生徒にだけ、特権を与えてくれたんです」
直葉は謎の言葉と共に放り投げたはずの学生証をポケットから取り出した。
「なんと、これを使えば、入りたい異世界を行き来できちゃうんです!」
「でも、異世界って学生が行けるような場所なの? 方法もわからないのに」
「異世界に入る手段を知っているのは、本当は一部しかいなかったんですけどね。学園長が、簡単に行き来する方法を編み出して、生徒達にそれを与えたんです。学生証を放り投げて『リンク・スタート』って唱えれば、あたし達はどこの世界にでも行き来できちゃうんです。……あっ、心配しないで下さいね。放り投げた学生証は、ポケットとかに勝手に戻ってますから」
直葉の言葉通り、明日奈のポケットには学生証があった。
「どうして直葉ちゃんの姿が変わっているの?」
「学園長が、そうできるようにしてくれたんですよー。ちなみにどういう姿になるかはランダムなんですけどね。元の姿のままでいいって人も結構いるので、変えないって選択肢もありますよ」
「わ、わたしはどうしよう……」
明日奈が少し考えていると、とんでもない発言が聞こえた。
「あたし今、直葉だけど直葉じゃないんです」
「……え? どういうこと……?」
「今のあたしは、シルフの魔法戦士、リーファです!」
「し、しるふ? 魔法? ……りーふぁ?」
確か、シルフという名の妖精型モンスターを見たことがあるようなないような。
「えへへ……一から説明します。アルヴヘイムは、«妖精の国»という意味を持つ大陸です。妖精達は魔法を使うことができます。大きく9つの地域に分けられていて、それぞれの地域には各妖精種族の王都があって、特有の外観と文化が備わってます」
「9つの種族? たとえば?」
「ええと、飛行速度と聴力に長けた風妖精シルフ……あたしはここに属してます。あと、武器の扱いと攻撃に長けた火妖精サラマンダー、回復魔法と水中活動に長けた水妖精ウンディーネ、耐久力と採掘に長けた土妖精ノーム、テイミングと敏捷に長けた猫妖精ケットシー、トレジャーハントと幻惑に長けた影妖精スプリガン、楽器演奏と歌唱に長けた音楽妖精プーカ、武器生産と細工に長けた鍛冶妖精レプラコーン、暗中飛行と暗視に長けた闇妖精インプ……この9つです」
それらをさらっと言ってのけたシルフの少女に驚きつつ、明日奈は感心した。
「色々あるんだね」
「でしょでしょ!? アインクラッド生は、自分の種族を選ぶことができちゃうんです!」
きらきらと目を輝かせる金髪の少女に向けて明日奈は微笑むと、1つ質問をした。
「種族については解ったけど、どうして直葉ちゃんが、ええと……リーファちゃんなの?」
「異世界で、大抵のアインクラッド生は«異世界ネーム»と呼ばれる偽名を名乗ってるんですよ」
明日奈はへえ、とうんうん頷いた。
「アスナさんはどうしますか? 種族」
「えっと、わたしは……がいいかな、うん」
明日奈の目の前にホログラフィックが出現した。9種族の名前が表示されている。なりたい種族のアイコンに触れればいいらしい。
「この後アスナさんは、選んだ種族の王都に自動転移します。それじゃ、あたしはお兄ちゃん達にも同じこと教えないといけないので、お先に」
ホログラフィックに釘付けだった明日奈の視線を再びリーファに向けると、そこに彼女はいなかった。
ありがとうリーファちゃん、と小さく呟いてから、明日奈はそっと、アイコンに触れた。
*
俺はスプリガンの«キリト»として、スプリガンの王都に降り立った。
「キリト君!」
言いながら、黄緑の髪の少女──リーファが駆け寄ってくる。その後ろにはユージオの姿もあった。
「えへへ。迎えにきたよー、お兄ちゃん」
「そりゃどーも」
リーファ/直葉に一応お礼を言ってから、俺はユージオを一瞥した。
元の姿となんら変わっていない。強いて言うなれば、三角耳と翅が決定的な違いだけど。翅の色から察するに、彼はどうやらリーファと同じ«シルフ»を選んだようだ。
ユージオ──という«異世界ネーム»とやらを使っているかどうかは知らないが──は腕組みすると言った。
「キリト……姿、変えたんだね」
「そりゃ変えるだろ」
元の容姿のままでもまったく問題はない、とリーファが言っていたが(例:ユージオ)、せっかく変えられるのだ、俺が忌避してやまない元の容姿でいる理由はない。
前に「キリト君は女顔」って言われたり「はっきり言ってお兄ちゃんは細すぎだよ」とか「キリト君は遠目で見ると女の子に見えちゃうことある」なんて言われたことが原因ではない、断じて。
しかし、俺──桐ヶ谷和人の容姿は、屈強な剣士に見えるかどうかはちょっと微妙っていうことは事実なわけで……。
「それじゃあお兄ちゃん、アスナさんのとこに行くよ。隣街だから、飛んでいけばすぐだよ」
リーファとユージオが、背中から伸びるクリアグリーンの翅を広げる。
「と……とぶ?」
俺が困惑して訊く。
「ああ、そっか……わかんないよね」
「わかりません……」
リーファは苦笑すると、俺の肩甲骨の少し上に触れた。
「今触ってるとこから、仮想の骨と筋肉が伸びてると想定して、それを動かすの」
リーファの声に従い、触れられた辺りに力を込める。俺の背中から、ひぃぃぃんという音が聞こえた。翅が震える音だ。
刹那。
「どーん」
というユージオの声と共に、俺の背中が強く押される感覚。
「うわっ!?」
途端、俺の躰はロケットのように真上へと上昇し──。
「うわあああぁぁぁぁ─────────」
どことも知れぬ場所へ飛んでいった。
後書き
※リーファさんのキャラ崩壊注意。
リーファ「お兄ちゃ~ん、なんで容姿変えちゃったのよぉ」
キリト「だってさぁ…てか、スグも変えてるじゃないか!」
リーファ「はぁ~…お兄ちゃん、変えない方が絶対可愛いのに~……」
キリト「無視ですか……。てか、え、可愛い?」
リーファ「その反応も可愛いよ♪」
キリト「褒められてるんだと思っておくよ……」
リーファ「普通に褒めてる……ていうか、本音言ってるだけだよ?」
や、やっと完成版をお送りすることができました(汗)
文字数多くなってしまい、申し訳ありませんでした!
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