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ドン=パスクワーレ

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第二幕その二


第二幕その二

「妹は」
「うむ。それではじゃ」
「式ですね」
「公証人を呼ばなければのう」
「それは御安心を」
 にこやかに笑って彼に告げるのであった。
「もう既に」
「おお、それはいい」
 パスクワーレは彼の言葉を受けて満面の笑みを浮かべた。
「それではじゃ」
「はい、契約書にサインを」 
 それも用意していたマラテスタだった。それをすぐにパスクワーレに差し出す。
「どうぞ」
「うむ。それではじゃ」6
 ここでは威厳を出すようにしてサインをするパスクワーレだった。しかしそれがかえってひょうきんな面持ちになっているのは彼ならではだった。
「これでよいな」
「はい、有り難うございます」
「いや、わしは幸せ者じゃ」
「幸せなことは幸せだな」
 マラテスタはぽつりと言った。
「何だかんだで気のいい人だし嫌われていないし」
「さて、それではじゃ」
「ええ」
 顔を彼に戻してそれに応える。
「いよいよ式じゃが」
「あっ、待って下さい」
 ところがここでマラテスタがパスクワーレを止めるのだった。彼を掴むようにして。
「まだです」
「まだとは?」
「証人のサインが必要ですよ」
 こう言うのであった。
「結婚の」
「おお、そうじゃったそうじゃった」
 言われてこのことを思い出したパスクワーレであった。
「何しろ前の結婚は四十年前じゃったからすっかり忘れておったわ」
「前の奥様とですね」
「まあ新しい妻の前で言うのも何じゃが」
 一応ソフロニア、正体はノリーナに気を使いながら言う。
「いい嫁じゃったのう。奇麗なだけでなく気が利いて料理も上手でな」
「そうでしたね。あの人は」
「全く。わしより先に死におって」
 腕を組み歩きながら悲しい顔をするパスクワーレだった。
「おかげで寂しいやら悲しいやらじゃ」
「ですがそれも終わりで」
「うむ。わしは新たな幸せに入る」
 気を取り直してこう言うのであった。
「これからのう」
「はい。それでですね」
「証人じゃな」
「二人必要です」
 パスクワーレに対して告げた。
「まずは私で」
「頼むぞ」 
 早速サインをするマラテスタであった。これでまずは一人であった。
 しかし一人だけである。それを見てパスクワーレはさらに言った。
「もう一人じゃが」
「あっ、彼がいるじゃないですか」 
 わざと気付いたふりをしてエルネストに顔を向けるのであった。
「エルネスト君が」
「おお、そうじゃったな」
 パスクワーレは本当に思い出したのだった。実は有頂天になっていた為甥の存在を見事なまでに忘れ去ってしまっていたのである。
「御前がおったわ」
「僕のサインでいいんだね」
「うむ、よかろう」
 やたらと勿体ぶって甥に告げた。
「何だかんだで御前はわしのたった一人の肉親だ」
「そうだね」
「例え何があっても御前の面倒は見てやるから有り難く思え」
「わかったよ。とりあえずはだね」
「サインじゃ」
 それをしろというのであった。
「よいな」
「わかったよ。それじゃあ」
 叔父の言葉を受けて彼もサインをした。これで証人達のサインは終わった。
 
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