ゲルググSEED DESTINY
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第十四話 各々の主義
敵部隊を迎え撃つためにダーダネルス海峡へと向かっていくミネルバ。
そのミネルバのMSデッキでは現在、整備士全員が慌ただしく働いていた。新型であるグフイグナイテッドやゲルググシュトゥッツァーの整備、用意された新装備の換装とやることが多いからである。準備こそ基地にいた頃から行っていたものの、補給や既存の機体の整備などで忙しく後回しにされていたのだ。
「あー、Aの十三番からCの六番までは一気に処理できるからそっちに任せる。それよりも試作型のフライトユニットの方はデータが取れきって無いから確認怠らないおいてくれ。いざ戦場で使えなくなるとか洒落にならないから―――」
そうやって新装備の指示を出しているのはクラウ。新型の装備を造ったのは彼自身であるし、何より前世の整備士としての記憶で何をどうすればいいのか理解している。決して、先人たち、というかミネルバクルーの整備士達の領分に踏み入ることはせず、かと言って全部任せるなどという効率の悪い真似も犯さない。
難しくはあるが、その辺の裁量を見極め行動する。新型の為に現場監督のようなこともするが、あくまでも俺は入ったばかりの外部の人間であるのだ。
「出撃まで時間もないぞ、急げ!」
真の現場監督ともいえるマッド・エイブスが喝を入れる。これなら俺自身の機体の方も間に合うかと思いながら指示を続けているとマッドがクラウに声を掛けた。
「クラウ、お前の指示はもういい。今までので大体把握できた。後はこっちでやれる。お前は機体に乗る準備をしとけ」
「了解した。後はそっちに任せる。マーレ、お前の機体について説明しとく!ロッカールームまで来てくれ!」
整備に関する現場の判断というものは整備士の方が良く理解してるので全部任せることにする。それよりも他と違う武装を施すことになるマーレ機について直接説明を言い渡すことにする。
資料で見るのと言葉で聞くのとでは感じ方も違うだろうし。
「クラウ、説明なんぞ要らん。資料は見終えてるぞ」
「お前の機体の装備は特殊だから他とは違うって。元々お前のゲルググはフルチューン機なんだしな。スラスターユニットに関してはあまり他と変わらんが追加武装がある。それの説明だ」
マーレ用に新しく用意しなおした資料を渡しながら説明を続ける。
「武装増加の為に追加装甲を付けてある、とはいえ防御面は期待するなよ。殆どの場所は薄い上に着脱可能で装甲も発泡金属装甲だからね。精々バルカンを凌げる程度さ。その代わりと言うべきかは分からんが軽い―――とはいえ機動力は大して変わってないけど」
「あ?ちょっと待て―――それ装甲の意味あるのか?」
「あんまり無いな。ハッキリ言ってアサルトシュラウド以下の代物だ。邪魔だったらパージして捨てていい。使い捨ての武装みたいなもんだとでも思えばいいさ。武装は遠距離用の胸部のミサイルベイと腰だめのENパック装備のライフル。もう一度言うが要らないと思ったらすぐに捨てろ」
「なあ、何でそんな風に不機嫌そうに言うんだ?」
「俺が出した代物じゃないからだ。別の開発部の馬鹿が造ったもんなんだよ。その上、使えと言われたから取り付けただけだ、ゲルググにそんな無粋な武装を付けるとか、我慢ならん」
別のキャラでも憑りついたかのような口癖を言いながら彼はそう言う。マーレは珍しいものでも見たと言った風に笑った。
「まあ、俺に使いこなせねえ武器はねえ。戦果を期待しな」
「当然だな。マーレがゲルググに乗って負けるとこなんて想像できないし」
戦友ともいえる間柄を見せながら彼らは自らの愛機に乗り込んでいった。
◇
『各機、出撃お願いします』
敵艦隊を視認できる距離まで辿り着いたミネルバはMS隊を発進させる。前回のように艦の上で防衛に当たる機体はいない。どの機体も水上か空中で行動していた。インパルス、セイバー、シュトゥッツァーは空中を、マーレ、ショーン、デイルのゲルググは海上を移動する。
これがクラウの用意した装備、スラスターユニットと試作型フライトユニットだ。スラスターユニットによって持続的なスラスター機動を可能とし、水上を滑るように移動することが出来る。
試作型フライトユニットはグフイグナイテッドを参考にゲルググを飛行可能としたものだが、試作型とついてることからわかるように完成しておらず、それどころかこのフライトユニット、地上で使う機会が無かった為にテストも完了していない初運用の装備だ。だからこそ、いざという時を考慮してクラウ自身がこの試作型フライトユニットを使っていた。
『これ、凄いな!今までみたいにスラスターの残量気にしなくてもいいなんて』
『はしゃぐなって、ショーン。とはいえこれで俺達も十全に働けそうだな』
ショーンとデイルが軽口をたたきながら、艦隊に向かって進んでいく。
オーブ艦隊から二十機ほどのMSが出撃し、攻撃を開始し始めた。しかし、二十機程度のムラサメやアストレイの攻撃はこれまで多くのウィンダム部隊やダガー部隊と戦い倒してきたミネルバの部隊を相手取るにはいささか役者不足といえる。
インパルスの猛攻ともいえる攻撃、ムラサメは戦闘機の状態から一気に近づこうとするが、インパルスの加速に追いつかれ、そのまま後ろを取られて撃ち抜かれる。アストレイの部隊もその隙をついて攻撃しようとするが、まるで後ろに目でもついてるかのように一瞬で反転したインパルスに振り向きざまでビームサーベルに切り裂かれていく。
次々と落とされ、クラウも実戦が初とは思えないほど卓越した技術で敵を落としていっていた。ビームライフルだけでなく、ウインチユニットを不意打つかのように取り出し、ウインチマシンガンで敵を貫く。そして動きを止めた機体に狙いを絞り、ビームライフルで貫いていた。
マーレやショーン、デイルも新しい装備をうまく使いこなしながら敵を屠る。マーレの持つ武装の火力は高く、連続して発射されるミサイル群に回避に専念せざる得ないオーブ軍。ショーンやデイルはそれらの機体を狙い、動きが縛られた敵から撃ち抜いて、或いはナギナタで切り裂いていく。
「ええい、何やってるんだよ!?あれだけしかいない部隊にどうしてああも苦戦するんだ!?」
「畏れながら、敵は空母四隻を落としたことのある実績を持つ相手です。あっさりとこちらが勝てるということはないでしょうな」
ユウナは癇癪を起すように叫びながら、トダカ一佐はそれを諌めるように反論する。政治家としては有能なのは確かだが、軍人としては及第点以下だ。こちらがやられるのを認められず、敵が墜とされないことに納得がいかない。
完璧主義といえば聞こえがいいが、ただ単に目の前の釣り合いが取れてないことにいら立ってるだけの状態だった。実際にミネルバを相手に正面から戦おうなどとは考えてない。引き寄せるだけ引き寄せ、こちらの被害を最小限に留めながら連合のご自慢の部隊に相手をしてもらう。トダカ一佐はそう考えていた。しかし、
「MS隊を全機発進させろ!」
「なッ!?」
「ああもう、どんくさいな!全機発進させろって言ってるのが分からないのか!?」
「し、しかし、ユウナ様!それではこちらの被害が!」
「被害が大きくなるって?わかってないな、こっちは敵が艦隊に取り付いてきたらおしまいなんだぞ!だったら早いとこ出せる機体は全部出して叩き落とした方が良いにきまってるだろ!!それにな、この戦いは連合が後ろで見てるんだ!本当にお前等は何も分かっちゃいない。これはな、一種のパフォーマンスなんだよ!我が軍はこれだけの力を持ってるって証明するための!!」
ユウナにとってこれは政治的なアピール手段なのだ。自分が空母に乗り込んだことも、作戦名を考えたことも、先陣を切ることを了承したのも、総てオーブという国の存在を知らしめるためにだ。
ただミネルバを落としに来て、後ろの連合のお膳立てをしましたでは意味がない。それでは後々も便利屋扱いされてしまうに違いないのだから。だからこそ、自分達だけでこれだけの力を持っているとアピールしなければならない。
大きな力を見せることは余計に便利屋として扱われる可能性もある。しかし、それが使いづらい相手だと或いは切るべきタイミングを計る札だと思わせればそれもなくなる。ユウナは自分では連合の政治に対応しきれないと思っているが、海千山千の政治を乗り越えた父ウナトならそれも可能だろうと。
だからここで力を見せる。弱いことを見せたらずっとオーブは弾除け扱いとして最前線に立たされる羽目になるだろうからこそ。
「いいか!敵MSを一機ずつ、確実に落とすんだ!連合に後始末を押し付けるなよ!!」
「……了解しました。MS隊、全機発進を準備させろ。発進するまで今出ているMS隊に無茶はさせるな」
彼らは所詮、軍人と政治家。意見が相容れないのは当然のことだ。何せ、見ている視点が違うのだから。
◇
「敵部隊の増援が来たぞ。各機、注意しろ!」
アスランがフェイス指揮官としてミネルバパイロットに警告する。
『言われなくてもッ!』
シンがやって来る敵部隊に突撃し、ビームサーベルで次々と切り落とす。突出し過ぎたインパルスを囲い込みムラサメやアストレイもビームライフルでインパルスを落とそうとするがショーンやデイルも援護の為に突貫してきた。
ショーンはビームライフルを、デイルはジャイアントバズーカで牽制するように放っていく。当たる数は少ないが、回避するためにインパルスから距離を取らざる得ない。
『シン、無茶すんなよな!?』
『こんなくそーッ!?』
危なげな所を見せながらも必死に三機のフォローに回るアスランとクラウ。アスランはセイバーの火力にものを言わせて敵を薙ぎ払う。アストレイやムラサメもその火力の高さに迂闊に攻め入ることが出来ずにいた。
マーレは遠距離砲撃やミサイルを使い艦隊を牽制する。艦隊の攻撃は狙いが甘く、マーレはやすやすと避け、次々と弾薬を使い果たしながら落とそうとする。
そして、ミネルバが突破口を得るためにタンホイザーを起動させる。
『チッ、シン、ショーン、デイル!射線から離れとけよ!巻き添え喰らうぞ!』
一番戦線から離れているマーレが突出している三人に忠告する。アスランが収束ビーム砲を放ちムラサメやアストレイを遠ざけ、退路を作る。そして、艦隊へ向けてミネルバが照準を合わせた。
『タンホイザー、てェ―――!!』
爆発が起こる。しかし、それは艦隊を薙ぎ払ったことによるものではなく、発射寸前のタンホイザーが撃ち抜かれたことによって起きた爆発だった。
「何だ!?」
『敵のMSの接近を許した覚えはないぞ!?』
『……やはり来たか』
アスランが驚愕し、マーレが敵の接近を見逃してしまったのか自分を叱責し、クラウが誰にも聞こえない程度に小さく呟く。
空を背にし、自由を冠する天空の断罪者ともいえる存在。
「フリーダム!キラなのか!?」
『三時の方向より艦接近。これは、アークエンジェル級です!』
大天使の名に相応しい純白の戦艦が介入する。そして、肩に獅子のエンブレムをしたストライクルージュが現れ、突然の宣言を行う。
『私はオーブ連合首長国代表、カガリ・ユラ・アスハ!訳あってオーブを離れてはいるが、オーブ軍の理念にそぐわぬこの戦闘を直ちに停止し、直ちに戦闘を停止せよ!軍を退け!』
◇
「フッ―――カオス、ガイア、アビスの出撃準備をしておけ。折角、舞台に上がってきたんだ。精々利用させてもらおうじゃないか。タケミカヅチに通信を」
「ハッ!」
後方で見守っていた連合の司令官であるネオは不敵な笑みをもらしながらオーブ司令官であるユウナに通信を回す。
「これは一体どうゆう事なのかな、ユウナ殿?もしかしてそちらは我々に異を唱えると、そう言う事なのですか?もしそうなら、お国元を含めて色々と面倒なことになりそうですが―――」
『あ、あんなもの、私は知らない!!』
その発言を聞いたネオはますます笑みを浮かべる。
『アレはニセモノだ!でなければ操られているんだ!?』
「では、あれはオーブ代表のカガリ・ユラ・アスハではないと、そういうことでよろしいので?」
『い、良いも何も私は―――オーブはあんなものを認めるわけがないだろう!?』
ハッキリとした言質を取ったネオは内心歓喜する。
「でしたら、こちらもそのように対処いたしましょう。この件は彼らを落とした後、じっくりと話させてもらいますよ」
◇
「ユウナ殿!?」
「煩い!今更戻ってきてあんなこと―――受け入れられるわけないだろ!連合が後ろで見ているのに、はい止めますで済むと思ってるのか!?」
「そ、それは……」
アークエンジェルを敵として扱うユウナにトダカ一佐は思わず食らいつくが正論で返される。
「大体な、オーブがこうなる名分を与えたのだってあの艦じゃないか!」
本来この遠征は距離があったことも含めて消極的に断れる、或いは小規模の出兵で済むはずだったであろうものだ。しかし、アークエンジェルという厄介ともいえる存在がオーブから出てきたという脅しによって派遣されることになったのだ。
「早くあの疫病神を撃ち落とせ!あれのせいでこっちが迷惑こうむってるんだぞ!!」
「しかし―――!」
「馬鹿かお前らは!?これは既に政治の領分なんだよ!!あれを撃たなきゃ最悪オーブが亡ぶんだぞ!!」
苦々しく顔を歪ませながらも、事実を言っているユウナの言葉にトダカ一佐は従わざるえなかった。
「我等を惑わす、賊軍を討つ!」
「トダカ一佐!?」
周りの副官等が悲痛の叫びをあげるが、トダカはそれを無視して指示を出す。彼らは軍人なのだ。軍人は個人の意思で動く事はできない。そうでないと軍隊としての組織と秩序を守ることはできない。故に、アークエンジェルを撃たざる得ない。それが国を守る覚悟の一つなのだから。
後書き
クラウの初戦闘!あれ、なんかアークエンジェルの方が目立ってね?というかマーレ機が強化されてるよ。クラウ、ドンマイ!
ついにやってきたオーブ公式見解における賊軍。あのストライクルージュは思うにどこぞのライブ用の機体並に痛々しいと思う。VPS装甲でもないと思うし、色の変更は単なる趣味な気がしないでもない。実際はVPSのように色の変化で装甲の防御力が変化して、ストライクルージュの防御力は高かったのかもしれないが。
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