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戦国異伝

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第百三十三話 小豆袋その七

 その彼がだ、報を聞き己の家臣達に言ったのだった。
「駄目じゃ」
「右大臣殿は討ち取れませぬか」
「到底ですか」
「そうじゃ、無理じゃ」
 こう言ったのである。
「右大臣殿は討ち取れぬわ」
「やはり殿がご出陣されないからですか」
「そのせいですか」
「どのみち最初から無理じゃ」
 宗滴は苦い顔のまま述べる。
「朝倉は二万、浅井は一万」
「合わせて三万ですな」
「対する織田家は徳川家の軍勢を入れて十一万です」
「やはり兵の数が違うからですか」
「適いませぬか」
「そうじゃ、織田家がそのつもりならまず退けられる」
 例え袋の鼠であろうともだというのだ。
「しかし退けてもそれからじゃ」
「この一乗谷を攻め落としてくるのではないのですか?」
「そうすることは出来る、そして浅井も討つことが出来る」
 それが可能だというのだ。
「簡単にな。しかしそれは今一つ確実ではない」
 信長と同じ指摘だった、、宗滴もわかっているのだ。
「兵糧や武具を運ぶ道を絶たれての戦じゃからな」
「右大臣殿はそのことを承知だからこそ」
「退いたのですか」
「しかも真っ先に逃げ出したであろうな」
 これもその通りだった、宗滴はそこまで読んでいるのだ。
「右大臣殿は討てぬわ、そしてじゃ」
「そして?」
「そしてといいますと」
「織田家の軍勢にもほぼ傷をつけられぬ」
 その十万の大軍もだというのだ、尚そこには徳川の軍勢も中に入っている。
「最早金ヶ崎を引き払い越前を出ようとしておるな」
「浅井殿の軍は間に合いませぬか」
「あの方の軍勢も」
「遅れておるわ、後は後詰に防がれるであろうな」
 それで織田家の大軍にも傷をrつけられぬというのだ。
「残念じゃがな」
「そうですか、それではこの度のことは」
「あまり意味がありませぬか」
「せmれてわしが率いておればな」
 床の中で腕を組み無念の顔で述べる。
「右大臣殿を討ち取れずとも」
「その数はですか」
「織田家の軍勢は」
「かなり討ち取れた」
 止めは刺せない、だがそれでもだというのだ。
「無念じゃ」
「では殿、この戦ではですか」
「織田軍に逃げられてしまいますか」
「うむ、そしてまた戦になる」
 そうなるというのだ。
「織田家はまた来るぞ」
「この越前にですか」
「その時わしの身体が満足であればよいがな」 
 宗滴の今の言葉には切実な願いがあった。
「わしでなければ朝倉家は織田家に負ける」
「浅井殿がおられてもですな」
「それでも」
「織田家はその気になれば二十万近い大軍を出せるのじゃ」
 十九万、まさにあと少しで二十万だ。ここに徳川の軍勢も加えれば確かに二十万にも達する。
「その大軍に三万ではな」
「如何に織田家が弱兵といえど」
「相手になりませぬか」
「兵の弱さは率いる将の質でかなり変わる」
 そうなるというのだ。
「北陸の兵は粘り強い。しかしじゃ」
「織田家の将の前にはですか」
「如何に弱兵相手といえど」
「適わぬ。わしでも互角よ」
 織田家の数、そして将達にはというのだ。 
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