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トリスタンとイゾルデ

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第一幕その四


第一幕その四

「あの方は伯父である王の下僕」
「ええ」
「そしてあの方はコーンウォールの跡継ぎでもあられました」
「今は違うというのね」
「貴女が后になられるのですから」
 だからだというのである。
「そのうえで貴女にお仕えするというのですよ?どうしてその様な方を拒まれるのですか」
「私は。そんな」
「お嫌ですか?」
「認めないわ」
 首を横に振っての言葉だった。
「私は。その様なことは」
「それにコーンウォール王は御身分も御気性も立派で」
 今度は王、マルケ王に対して語る。
「権勢も名誉も持っておられます。その様な御方です」
「コーンウォール王は」
「トリスタン様はその王にお仕えしています」
 またこのことをイゾルデに告げる。
「何も御心配がありません」
「愛されもせずにその様な気高き人を傍らに見るのは」
「愛されてもいない等と」
 またイゾルデを抱き締め励ます。
「姫様を愛されなかった者がいますか?」
「私を?」
「姫様を見て至幸の愛を感じない者はいません。例え王が冷たい方で魔に覆われていても愛の力に勝つことはできません。それに」
「それに?」
「母上の御力をお忘れですか?」
 今度はこのことをイゾルデに囁いた。
「母上の御力を」
「お母様の」
「そうです。私はお母上によくして頂きました」
「それは知っているけれど。お母様のことも」
「そうです。その私が今ここにいりますし」
「ではブランゲーネ」 
 イゾルデは俯いたままそのブランゲーネに告げた。
「あれを」
「あれ?」
「そうです。あれを」
 またブランゲーネに告げる。
「あの箱を持って来て。あの黄金の箱を」
「あの箱をですか」
「お母様が私に授けてくれた妙薬よ」
 こう言うのだった。
「傷や痛みにも毒にも効くその妙薬を」
「これですか」
 ブランゲーネはイゾルデの言葉を受け早速部屋の端にある黄金色の箱を持って来た。そうしてそれを開けてイゾルデの前に差し出す。するとイゾルデはそこから小瓶を一つ取り出したのだった。
「それは」
「これこそがその妙薬」
 イゾルデは蒼ざめた声を出しつつその小瓶を取り出したのだった。ブランゲーネはその瓶を見て顔を強張らせた。
「今の私にとっては」
「姫様、それは」
 ブランゲーネが何か言おうとする。しかしここでクルヴェナールが部屋に入って来た。
「姫様」
「何ですか?」
「間も無くコーンウォールです」
 こう二人に告げるのだった。
「上陸の用意を。お早めに」
「わかりました」
 まずはブランゲーネが彼に応える。イゾルデはその彼女から離れクルヴェナールに顔を向けていた。
「それでは」
「そして我が主からの御託です」
 彼は続いてこう言ってきた。
「王に会われることをお楽しみにと」
「わかりました。それでは」
「はい」
 クルヴェナールはイゾルデの言葉を受けた。イゾルデは言葉をさらに続ける。
「トリスタン殿にお伝え下さい」
「何と?」
「王の前に御一緒に出られることを望まれるのなら礼に適った方法で済んでいない償いをしてからにして欲しいと」
「我が主にですか」
「そうです。さもなければ貴方の案内でコーンウォールには向かいません」
 言葉は強かった。やつれてはいたが。
 
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