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八条学園怪異譚

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第三十六話 美術館にその七

「罵倒なり過度な体罰なりな」
「うちのかるた部先輩でもそうした人いないですから」
「皆さんいい人達ばかりです」
「それならよい、暴力は人を歪める」
 歪んだ人間が行うからだ、それを受ける者は恐怖で萎縮しそうなってしまうのだ。
「かるたでそんなことをするなぞあってはならぬであろう」
「かるたは心を清らかにしてするものですよ」
 聖花はこのことを強く言った。
「暴力みたいに心が濁ったことをするのは」
「そうじゃな」
「はい、とてもです」
 あってはならないとだ、聖花は強く言う。
「かるたは真面目に、澄んだ心でするものです」
「あれっ、明るく楽しくじゃないの?」
 愛実は聖花の考えを聞いてから彼女に問い返した。
「そうじゃないの?」
「そうなる?」
「私はそうお姉ちゃんに教えてもらったけれど」
「愛子さんが仰るのならそうかしら」
「聖花ちゃんは先生に言われたのよね」
「そうなの」
「どっちかしらね、かるたって」
 清らかに行うものか明るく行うものか、どちらが正しいかというのだ。
 だがここでだ、ぬらりひょんは二人にこう言った。
「まあどっちでもよい」
「ですか、そうなんですか」
「それはですか」
「大事なことは歪んだ性根で何かを行わない、そして歪んだ輩には近寄らぬことじゃ」
 これが肝心だというのだ。
「そういうものじゃよ」
「ですか。そうなんですね」
「それが大事なんですね」
「わしが言いたいことはな。では今日もかるたをな」
「はい、楽しみます」
「真面目にします」
 二人はそれぞれのかるたをそれぞれの心で行うのだった、朝の掃除はそのはじまりであり二人にとっては有意義なものだった。
 二人は部活の後弁当を食べそのうえで図書館で夏休みの勉強をした、それから一旦家に帰って夜にまた学校に行った。
 水産科の校舎に行き日下部と会う、それで彼に美術館への同行を頼んだ。
 すると海軍の夏の礼服姿の彼は二人に端正にこう答えた。
「わかった、ではだ」
「一緒に美術館まで来てくれるんですね」
「そうしてくれるんですね」
「そうさせてもらう」
 こう二人に答える。
「楽しみだな」
「あっ、やっぱり美術館お好きなんですね」
「芸術関連が」
「好きだ、特にだ」
「特に?」
「特にっていいますと」
「書が好きだ」
 これが一番のお気に入りだというのだ。
「実はな」
「そうなんですか、日下部さん書道がお好きだったんですか」
「そっちが」
「子供の頃から字は綺麗だと言われていた」
 二人に自分のことから話す、そうしながら水産科の校舎から美術館に向かう。
「そして中学で書道を本格的に学び海軍でも自衛隊でも書道は続けていた」
「ううん、そっち方面にも強かったんですね」
「書道もなんて」
「書道はいい、書いていると心が落ち着く」
 そうなるというのだ。
「そして美しい字を見ているとな」
「心も綺麗になるんですね」
「そうだ」
 その通りだとだ、愛実の問いに答える。三人で夜の学園内を歩きながら話す。 
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