魔法少女リリカルなのは ~優しき仮面をつけし破壊者~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
A's編 その想いを力に変えて
28話:今日も今日で騒がしい一日となりまして
前書き
時間かかりましたが、更新です。
色々詰め込みすぎた気がする……
ドッチボールがあった日と銭湯に行った日が同じになってますが、あしからず。
「……ぁ、ふぁぁ…」
「なんか、気の抜ける欠伸ね~」
「欠伸なんて皆そんなもんだろ…」
腕と腕の間に頭を埋めながら、アリサの一言に返事を返す。
フェイトが俺達の学校に転校してきてから、大体一週間が経った頃。いつも通りに朝のだるさを寝る事で解消しようとする。
「士、いつもいつも寝てるけど、いいの?」
「こいつはこんなもんよ」
「学校だと大抵寝てるもんね」
「うるせぇな…」
しかし俺の安眠を妨害するかのように、いつもの四人が取り囲んでいる。
「朝ぐらい起きてなさいよ」
「一々うるさいわ。寝ようが寝まいが俺の勝手だ」
簡単に時間は過ぎていき、昼休みへと移行。
それぞれの机を合わせ、その上に弁当を広げる。今回はこの時間にやる事もなく、四人と食べる事に。
「あ~…眠い…」
「あれだけ寝ててそれをいう?」
「寝すぎて眠いんだよ…」
小さな欠伸をしながら言うと、アリサがいつも通り突っかかってくる。
「そういえば、フェイトちゃん宿題の方はどう?」
「うん。ちょっと難しいけど、なんとかやってるよ」
「そっか。頑張ってね」
「うん、ありがとう、すずか」
フェイトの宿題とは、文系、特に漢字に関する知識が乏しいフェイトに出されたものだ。
「でもすごいよね、アリサは。英語も国語も完璧なんて」
「えっへん!パーフェクトバイリンガル!」
「「「お~!」」」
アリサの一言に俺を除く三人が拍手をする。
しかしながら、前世からの知識がある俺にとってはそこまででもないけどな。もぐもぐ……
「でも!フェイトとなのはの理数系の成績については、微妙に納得いかないのよね~」
「「あ、あははは~…」」
アリサの言う通り、二人の理数系はアリサや俺と同じ―――つまり満点なのだ。
これは本人達もわかっているが、魔法の構成や防御とかはこっちの世界の物理や数学となんら変わらないのだ。それが理由らしい。
しかし、二人に関しては、国語などの文系は壊滅的だが。もぐもぐ……
「負けられないわ!今度は塾のテストで勝負よ、フェイト!」
「いいよ」
「フェイトちゃん大丈夫?」
「うん、面白そうかな」
「そーそー、学校のテストなんて百点が当たり前で面白くないんだもんねー」
「あ、アリサちゃん、それ絶対おかしいから…」
中々会話の輪の中に入れないな……もぐもぐ……別に気にしてないからいいんだけど。
「そんなの、毎回百点取ってる士にも言える事だと思うけど―――って士!アンタその食べてるの!」
「ん?お前の弁当に入ってる肉団子だが?」
「なに蚊が飛んできたから叩いたみたいな感じで言ってんのよ!しかも意外と中身減ってる!?」
フハハハ!貴様らがだべってる間に食ってやったのだ!気づかない方が悪い!
「あ、あれ?私の弁当のもなんか減ってる気が…」
「気のせいじゃないからな。お前のからも取ってる」
「え~!?私のと士君のは中身同じでしょ!?」
「食いたい時に食う。これ食事の基本」
「それ絶対違う!」
「ていうかなんで私となのはのだけ!?」
「反応が面白いからに決まっておろう」
それ以上に何がある。
「こ、このぉ!!」
「おっと、俺の弁当には手出しはさせん」
「くっ、できる…!」
今日も今日で楽しい昼休みとなりまして。
少し時間が経ち、午後の授業へと進む。
「では、今日の体育はドッジボールですが、寒いですから怪我をしないようにしっかり準備運動と柔軟体操をしましょうね」
『はーい!!』
「では二人一組でそれぞれやりましょうね」
先生の忠告に素直に返事を返す我がクラスメイト達。因に俺は欠伸をしていて返事ができなかった。
「士、やろうぜぇ」
「おう、いいぞ」
相手を捜そうとしたそのとき、クラスメイトの男子に声をかけられる。断る理由もないので、俺は快諾する。
「ん、くぅ……ちょ、士結構キツい…」
「あ、悪い。もうちょい緩めるか」
「た、頼む…!」
男子にそう言われ、俺は込める力を緩める。
「……にしてもよぉ…」
「ん~?」
「お前って、フェイトと知り合いなのか?」
柔軟をしながらうまく顔をこちらに見せながら問いかけてくる男子。まぁ、転校初日っから話し合ってるところを見たら、そう思うわな。
「まぁ、な…」
「か~!なんでお前ばっかあんな美少女達が多いのかね!」
「そう嘆くなよ。お前だってその美少女達と同じクラスなんだから」
「そうなんだが…なんか手が届かないような領域というか、壁みたいなのを感じゃうんだよ」
「なんだそれ」
ちらっと視線を移し、なのは達を見る。
丁度フェイトが柔軟をしているところで、手が靴の裏まで届いている。意外と柔らかいんだな。
「ほら、また彼女達を見てる」
「っ、お前が言うからだろ!?」
「またまた~!」
「ったく、ほら変われ!次は俺だ!」
「はいはい」
「ふふふ、いい感じに分かれたわね」
「なのは、頑張ろ!」
「あ、足手まといにならない程度に…」
チーム分けを終え、それぞれのコートへ入る。
俺達五人はすずか、アリサの二人と、俺、フェイト、なのはの三人に分かれた。
「フェイトちゃん、前衛お願いね」
「うん、まかせて」
「士も頼むぜ!俺達男子の希望の星!」
「なんだその気持ち悪い星は」
運動能力が高いフェイトは勿論、同年代以上のそれを持つ俺も意外と期待されています、はい。
え?なんでそんなの持ってるかって?……あの高町家(バケモノ軍団)と一緒に鍛えてるとだけ言っておこう。
「それじゃあ、行くわよ~!」
「よっしゃこ~い」
「士、もう少しやる気だそうよ…」
「俺はいつもこんなもんだ」
ゲームは順調に進んでいき、中盤。
それぞれのチームの半数が外野へ行き、その中にはアリサもいる。
「ターゲットはなのは…!そぉりゃっ!」
「にゃっ!?」
「なのは!」
外野のアリサから投げ込まれたボールはなのはへと向かい、ヒットする。
なのははバランスを崩し、後ろに倒れかかる。それを丁度フェイトが支える。
「なのは、大丈夫?」
「うん、ありがとうフェイトちゃん…」
なのはに当たったボールは転がる事なく、うまい具合に上に飛んでいく。
「あらら、あれはコートの外だわ」
だがそれも方向が悪く、落下地点は陣地外。なのはをセーフにするのは無理だな。
そう思っていると、フェイトが目つきを変えて立ち上がる。
「任せて、アウトになんかしないから…!」
そう言い残し、フェイトは走り出した。その先には、なのはが弾いたボール。
おい…まさかあいつ…!
「はっ!!」
バッとフェイトが地面を蹴り、ボールに向け飛び上がる。その距離、目測で約2メートル程。
「わ…!」
「Wao…」
周りからは驚きの声が漏れる。
フェイトはそのまま空中でボールをキャッチし、視線を下に向ける。その落とした視線の先には―――相手側のエース、すずかが。
「ショット!」
「わ、空中で!?」
「フェイトちゃんすごーい!」
そして着地する前に、フェイトはボールを放つ。しかもすごい勢いだ。運動能力が高いどころじゃない。
「さすがフェイトちゃん!でも私だって…!」
ターゲットとなったすずかは、飛んでくるボールをまっすぐ見据え、構える。
ボールがすぐそばにやってくると少し飛び上がり、片手を伸ばす。
(キャッチか…?)
そう思ったが、すずかの行動は違った。
迫り来るボールを円を描くようにして回し、勢いをそのままに前へと運ぶ。
「えいっ!」
「あぁ!?」
「ふぇ、フェイトー!!」
そしてそのまま下投げのようにボールを放り、フェイトを襲う。
飛んでいったボールはフェイトの顔面に命中し、フェイトは体勢を崩したまま落ちてくる。
「っ、危ねぇ!」
さすがに体勢が崩れたまま落ちるとマズいので、俺は急いで落下地点に走る。
体を滑らせ、スライディングの要領でフェイトの下へ。
「―――っと、危なかった…」
ギリギリセーフ、といったところか。
「フェイト、大丈夫!?」
「フェイトちゃん!」
外野にいたアリサ、同じ陣地にいたなのはが寄ってくる。少し遅れてすずかと、先生もやってくる。
「う、う~…」
「お~い、意識あるか~?」
「…う、うん…なんとか……」
顔に当たって目を回したようだが、気を失うまでは至っていない。よかったよかった。
「士…ありがとう…」
「どうってことねぇよ。……ところでさ」
「な、なに?」
「起きれるんだったら、起きてくれない?ちょっと動きづらいんだが」
それを聞いたフェイトはみるみると顔を赤くさせていく。
「あ、えっと…ご、ごめん…(この格好…あの時と同じ…!)」
「謝るのはいいから、はよどいて」
「ほら、フェイト」
「あ、ありがとう」
近くに寄ってきていたアリサがフェイトに手を差し伸べ、フェイトを起こす。俺もようやく下敷きになっていた体を起こす。ケツについた土を払い落とす。
「ま、怪我がなくてよかったな」
「う、うん…」
「それじゃ、続きいくわよ!」
「お手柔らかにな」
で、結局ドッジボールは俺がすずかに当てられてこちら側の全滅で終わった。
すずかのボール、強すぎ……
「せいや!」
「わわっ…!」
大剣が振るわれ、相手を吹き飛ばす。その光景にアリサが焦りの声を上げる。
その隙を狙ってか、黄色い影が迫る。
「いけ!」
「あぶね!」
フェイトの声と共に黄色いネズミは電気の球を放ち、それを体を回すことで避ける。
その後飛び上がり、上にいるその影に向け剣を振る。だがそれも後ろに飛ぶことで避けられる。
「そこ!」
「っ!」
着地の瞬間、なのはの声と共にエネルギー弾が放たれる。結構近くで放たれ、着地寸前という事もあり、簡単に命中する。
当たった事で吹き飛ばされ、ステージの外まで飛ばされる。
「くっ、このぉ!」
だがここでやられる訳にはいかない。空中でジャンプし、ギリギリでステージの崖を掴む。起き上がりステージに足をつける。
「っ!?」
そこへ回転しながら突撃してくる黄色の影。咄嗟に回避行動をとり、難を逃れる。
途端に青い光の鞭が体を絡めとり、俺を投げる。
「くっ…!?」
「やった!」
犯人はなのは。ステージ外まではいかなかっただけでも良しとしよう。
着地し、すぐにチャージを始める。なのはとフェイトは少し先でやりあっている。
「これで!」
「わわっ…!」
フェイトの声と共に黄色い影は床を転がり電撃を放つ。茶色の銃士は慌てつつもそれを避け、ミサイルを放っている。
「隙あり!」
「―――っ!」
そこへ背後からアリサの声と共に青マントの男の剣が迫る。
だが刹那、俺は一瞬で距離のあった茶色の銃士の元へ移動する。
「―――え?」
「悪いな」
いきなり背後に現れた人物になのはは驚きの声を漏らし、俺はニヤリと笑う。
次の瞬間、拳に蹴り、大剣の一撃が放たれ、相手は後退する。
「あっ…!」
「これで仕舞いだ!」
ダメージを十分溜めたところへの一撃。相手は勢いよく飛んでいき、消えていく。
「なのはが…!」
「さすが士、でも…!」
だがそれを黙ってみてるフェイトではなかった。いつの間にかチャージしていた力を解放し、黄色いネズミが弾丸のような速度で迫り来る。
「だが甘い!」
「あ…!」
「え…?」
それを跳んで避け、俺の背後から攻撃しようとしていた青マントの男に直撃する。
青マントの男はそのまま茶色の銃士と同じ運命を辿った。
「読み通り…!」
「まさかあそこまで…だけど!」
その声と共に上から雷が降り注がれる。俺はそれを避け、浮かぶ床から飛び降りる。そのとき、丁度下にいた黄色のネズミに出くわす。
「そい!」
「くっ…!」
黄色いネズミに剣を振り下ろし、地に叩き付ける。その直後、俺は地面に着地する。
叩き付けられた黄色いネズミは転がり、背後に回る。
―――だが…!
「予想通り!」
「あぁっ!」
それを読んで、俺は剣を半円を描くように回し、黄色いネズミに叩き付ける。
黄色いネズミはそのまま吹き飛び、見えなくなる。
「か~っ、やっぱ強すぎよ士!」
「次元が違うみたいな感じ…」
「私も頑張ってるのに、なんで最後当てられたんだろう…?」
「お前はあの場面だと、相手の背後を取る行動に出やすいからな。ま、あれが外れてたらどうなったかわからないけどな」
「そこまで考えてるんだ…」
上からアリサ、なのは、フェイトに俺、すずかの順でそれぞれ言葉を発する。
今日はいつも通りにアリサ家で例のゲームだ。メンバーにフェイトも加わり、交代交代でこなしている。
「やっぱハンデいるわ、二人には」
「わ、私はキツいかも…」
「俺は平気だけど」
因にフェイトは某大人気な電気ネズミ、アリサは前回とはキャラを変え、青いマントが似合うイケメン剣士だ。
「じゃ、今回は俺がすずかと替わるか」
「ありがとう、士君」
「あんたが自分から替わるなんて、意外ね」
「少し休憩したいだけだ」
「そう言って、負けるのが怖いんじゃないの?」
「言ってろ」
笑いながらいうアリサに、少しムッとするが適当にあしらった。
「じゃあやるわよ!」
「私はこれで」
「それじゃあ…」
「レッツスタート!」
なんやかんやで時間も過ぎていき……
「そんじゃ、また明日ね~!」
「バイバイ、フェイトちゃん、士君、なのはちゃん」
「おう!」
「バイバ~イ!」
「また明日」
去っていく車に手を振るなのは。その車が見えなくなると、俺達は次の目的地へと足を運ぶ。
今回は、フェイトの家にお邪魔する事に。
「ただいま~」
「「お邪魔しま~す」」
フェイトが鍵を開け、扉を開く。中から返ってくる声は…ない。
「あれ?今日はエイミィさん達いないの?」
「うん。リンディ提督とクロノは本局で、エイミィはアレックス達のところへ行くって」
「アイツらも大変だぁ」
アレックスって確か観測スタッフの方だったな。まぁ別々になってるし、一応そういうことはするのか。
「ユーノとアルフは大丈夫かな…?」
「うん…それに、レイジングハートとバルディッシュも」
なのは達のデバイス、レイジングハートとバルディッシュは今改修中。ユーノとアルフはそれにつきっきりで今はこっちにはいない。
「心配するこたねぇだろ。そもそも大丈夫なようにする為に修理してんだ」
「まぁ、そうだね」
「ユーノもデバイスのこと詳しいし、なにより二機とも、すごく強い子だから」
「うん…」
「なのはの魔力が戻るまでの間、私…ちゃんとなのはを守るから」
「フェイトちゃん…」
「あ、魔力が戻ってからもだよ、勿論」
「…ありがとう、フェイトちゃん」
それを聞いて安心したのか、二人とも表情が明るくなった。
「あ~、早く魔力が戻らないかな~。前にレイジングハートと相談してた新魔法、完成間近だったから」
「そうなんだ」
「うん、レイジングハートも色々考えてくれるから、頑張らないとって」
この娘はまだ強くなるのか…恐ろしや。レイジングハートがそれに積極的なのも、より恐ろしさを際立たせる。
「いいね、レイジングハートは世話焼きさんで。バルディッシュは、無口な子だから。なのに無茶するし、大丈夫?って聞いても、“yes sir”ばっかりだし…」
「バルディッシュはそうだよね」
「デバイスもそれぞれだな」
〈どうせ私は何もできないデバイスですよ…〉
「別に何も言ってないだろ」
勝手に落ち込む我が相棒。たく何を気にしてんだか。
「…ねぇフェイトちゃん、士君。私達、もっと強くなろうね」
「なのは?」
「………」
そこでいきなりなのはが口を開いた。その表情は、普段のなのはからはあまり見ない、真剣なものだった。
「アルフさんやユーノ君を不安にさせない……リンディさんやクロノ君、エイミィさん達にも心配かけない……
レイジングハートやバルディッシュに、無茶なんかさせなくてもいいぐらい、私達が強く……」
「………」
「三人で強くなろう。もう誰も、傷つけなくてもいいくらい」
「……うん…!」
なのはの言葉にフェイトは頷く。
これがこいつなりの覚悟、といったところか……
「…はぁ……ていっ」
「いたっ…」
俺はため息をついて、軽くなのはの頭を叩く。
「心配かけない?不安にさせない?たくお前は何を言ってるんだ」
「え?え、え…?」
「別に強くなることは否定しない。でもな……」
そこで言葉を切り、両手でなのはの顔を挟みこちらに向ける。
「誰かに頼らないってことは、強さでもなんでもない。誰かに心配かけないようにする為に強くなるとか、止めとけ。
お前の力は……自分の思いを貫く為にあるんだろ?」
「っ!」
「そこまで深く考えんなよ。お前らしくもない」
両手を放し、俺は笑いながら部屋を出ようとする。
「士君!」
「ん?」
するとなのはに呼び止められ、俺は立ち止まり振り返る。
「……ありがとう…」
「ふ、どういたしまして」
俺はニカッと笑ってみせると、なのはは少し恥ずかしそうに顔を垂らした。
「…それじゃ、今日も練習始めようか」
「うん!」
「それじゃあ行くか」
なのはとフェイトが色々やっている中、俺は魔力運用の訓練。最近ではできる事を伸ばすことに集中している。
二人の訓練が丁度一区切りついたところで、なのはの携帯の着信音が鳴り響いた。
「あれ、リンディさんだ……はい、なのはです」
少しするとなのはがフェイトと代わり、少し話すと俺達に向けて口を開く。
「なのは、士。提督が今日は外食にするから、二人も一緒にどうって」
「あ、ほんと?」
「もしよければ、提督からなのはのお家に連絡してくれるって」
「うん、私は大丈夫!」
「異議無し」
「うん……もしもし、大丈夫だそうです」
電話に戻って数回頷くと、電話を切りなのはに返した。
「提督とクロノはもうじき帰るから、先にお風呂澄ませちゃいなさいって」
「うん」
とまぁ、今日の訓練は終わりだな。
しばらくしてフェイトがお風呂を入れてくれた。まぁありがたいことで。
「なのは。お風呂、お先にどうぞ」
「そんな、フェイトちゃんの家なんだから、フェイトちゃんお先に…」
「あ、えっと…やっぱり、なのはお先に…」
「そんなそんな、フェイトちゃん…」
「いや、ほんとに…」
数回の譲り合いの末、二人同時に顔を俯かせる。てか、俺忘れられてる?毎回毎回寂しいのぉ…。
「あれ?フェイトちゃん?フェイトちゃ~ん」
「ん?どうした?」
「なんかフェイトちゃんの意識がどっかいっちゃってるんだけど…」
ありゃりゃ、そりゃ大変だ。
そう思いながら、すっとフェイトの額の前に手を構える。中指を親指に引っ掛けて相手に当てる―――世間一般的に「デコピン」と言われるものだ。
「一撃…必殺!」
「いだっ!!」
極限まで溜めた力を解放してフェイトの額に中指がクリーンヒット。少し垂れていた顔が持ち上がる。
「い、痛~…あ、あれ?」
「お、戻ってきたな」
「え…え?」
驚き一色の顔で俺達を見てくるフェイト。おでこの部分が少し赤くなっている。
「お前らも譲り合ってないでちゃんと決めろよ」
「にゃはは…」
「そ、そうなんだけど…」
「二人が入らないんだったら、俺が入るぞ」
と言いながら俺は風呂場へ向かう。その途中で上着を脱ぐ。
そのとき、フェイト家の玄関の扉がとある声と共に開いた。声の主はエイミィだ。俺は振り返ると、丁度リビングの扉が開かれる。
「お、なのはちゃん士君、いらっしゃい」
「お邪魔してま~す」
「ども」
「士君、意外と君いい体してるね~」
「そうか?」
そう、このとき俺の上半身は裸。エイミィは俺の体をジロジロ見てくる。さすがに恥ずかしいな。
「ただいま、フェイトちゃん」
「お、お帰りエイミィ…」
「?どうしたのフェイトちゃん、顔赤いよ?」
「い、いや…なんでも…」
「士君の体見て恥ずかしがってる?」
「ち、違うよ!」
そんなに強く否定しなくてもいいじゃねぇか。悲しいなぁ…
「士君がその格好でそっちから来たってことは…三人とも、お風呂まだだったりする?」
「俺が最初に入ろうとしてたところだ」
「ん~!それはグッドタイミング!」
エイミィがうれしそうに指を鳴らすと、呼び鈴がなった。
「こっちもグッドタイミング」
「こんにちは~!お邪魔しま~っす!」
扉を開け入ってきたのは、なのはの姉の美由希さんだった。
「美由希ちゃん、いらっしゃい」
「エイミィ、お邪魔するよ」
「あれ?エイミィさん、お姉ちゃん、いつの間に仲良しに?」
美由希さんとエイミィのやり取りを見て、なのはは少し困惑しながら二人に尋ねる。
「いやほら、下の子が仲良し同士なら、上の子同士もやっぱり…ねぇ?」
「意気投合したのは、今日なんだけどね」
さすがに驚いた。なんか雰囲気がそんなことを感じさせないものがあった。
で、なんで美由希さんが来たのかというと……
「『海鳴スパラクーア』、新装オープン?」
エイミィから渡された紙書かれていた事を、なのはが読み上げる。まぁ一般的に言う「銭湯」だな。前世だと数が少なくなってきてるって言われてるからな……
「へ~、こんなのができたんだ~」
「で、美由紀ちゃんと一緒に行こうって話になって、私は着替えを取りにきた訳だ」
「なのは達も一緒に行く?」
「わあ、いいの!?」
「フェイトちゃんも」
「フェイトちゃん、行こう行こう!!」
「うん…うん、うん!」
まぁどんどん話が進んでいく訳ですが、
「男一人なんですが…」
「あ、そっか」
「じゃあ、どうする?」
「まぁ一人で待つのもしゃくなんで行きますけど」
飯までずっと待ってる事になるからな。
「それじゃ、決まりね」
「アリサちゃん達も誘っていい?」
「いいよ〜」
「さぁ早速、準備準備!」
「「は〜い!」」
んで……
「一人で入っている訳だが……なんもすることねぇな」
一人って意外と寂しい。恭也さんは士郎さんとやってたからな〜、誘う訳にはいかなかったし……
俺はそう思いながら上から流れるお湯に打たれる。
「はぁ……にしても…」
まず思い出すのは、この間の連中。なのは達を襲った四人組。
剣を交えたシグナム。最後に俺を飛ばし、アルフと戦った守護獣なる使い魔。なのはを襲ったヴィータ。そしてなのはの魔力を奪った緑のバリアジャケットの女。
「何が目的なんだろうか…」
やはり闇の書の力目当てか、それとも別の何かか……
「命令されてるにしても、あの違和感は…何だったんだ…?」
シグナムと剣を交え、言葉以上のものを感じた。少なくとも、命令されてあんなことをしているとは、あまり思えない。
「そして…あの怪人」
俺が負けた、見た事のない怪人。銃、棒術、体技に剣。色んな武器を扱うやつだった。
それに、正体を故意に隠しているのが気に食わない。
「大体の予想はしているんだけどな〜」
アイツの発言や能力から、予想はしている。だがあまり信じたくはないが。
「……ま、今は難しいことは抜きにするか」
そう言いながら滝から出て、また別の風呂へと向かう。
「さて…今度はどれに入るか…」
「どうも、ありがとうございました〜!」
背中で受付の人の言葉を受け、肌寒い外へと出る俺達。
「あ〜、堪能した〜!」
「楽しかったね〜!」
「うん!」
「ほんと!」
あっちはあっちで色々あって楽しかったらしく。
「エイミィ、待ち合わせってどこだっけ?」
「うん、駅前のお店なんだけど…え〜っと、地図…」
「駅前なら詳しいよ。案内してあげる」
「ありがとう、美由希ちゃん」
今夜はリンディさんのおごりだし、気にせず行こうかね。
そんでもって、夜は更けていき。
「フェイトちゃん家にお泊まりさせてもらうと、夜の練習に出やすくていいなぁ」
「心配かけないように外出するの、大変だもんね」
フェイトの家の屋上に出た俺達は、エイミィからの連絡を待っていた。
因に、俺はクロノの部屋で寝させてもらっている。奴も理由はわかっているから承諾してくれているんだが、どうも(中の)年のせいかなんか嫌な感じで寝付きが少し悪い。まぁ、個人的な問題だから別にいいんだが。
『はい、練習用の結界準備OKだよ』
「ありがとう、エイミィ」
『なのはちゃんも、魔力が戻ってきてるからといって、無茶しちゃダメだよ』
「は〜い」
エイミィの注意にも軽めに答えるなのは。こいつ大丈夫か?
「でもほんと、今日は楽しかったし」
「レイジングハートとバルディッシュ、ユーノとアルフも、予定より早く戻って来られそうだし」
「色々これからだね!」
なのはがそういうと、足下にピンクの魔法陣が展開される。
「全力全開で、頑張ろう!フェイトちゃん、士君!」
「うん…!一緒に強くなろう。昨日より、もっと…ずっと」
フェイトの足下にも、黄色の同じ魔法陣が展開させる。
「ていうか、俺もかよ」
〈マスターも強くならないと、またあんな輩に負けますよ〉
「お前、あれを『あんな輩』で片付けるなよな」
まぁ、実際のところそうなんだけどさ。
「さ、俺達も始めようか」
〈 Yes , master 〉
こうして冬のとある一日は過ぎていった。
後書き
終わり方が締まらない気がする…
そしてもうすぐ夏休みが終わってしまう……
学校再開までに一話上げときたいです。
ページ上へ戻る