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SeventhWrite

作者:完徹
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少女の罪

「そうだよ、僕は君のしたことが許せないんだ」


 二年前にお前のしたことが。


 ===============

 それが書いて在ったのは四冊目のノートだった。
 その内容は僕のことがあの男に知られてしまったという事だ。
 理由は不明だけどそれはとても状況が悪いものだったのだ。それは夫のほうより先に妻のほうに浮気と同時に僕がいることまで知られてしまった。おかげで夫は浮気と同時に自分の知らない子供の事を責められて逆上し、二人の間に決定的な亀裂が生まれてしまった。
 そして離婚するのも当たり前だった。それならいい、別に僕には何の関係も無い事だから、その夫も僕の母さんを責める事はしなかった。

 そう、その”男”は

 問題は、その後僕の母さんの元に訪れた一人の少女………杵島一美だった。

 そいつは両親が離婚した原因を僕の母さんだと思い込み、僕の母さんに……何度も……僕の母さんが自殺を決意しかけるまで”責め続けた”んだ。ノートには一部、その言葉が書かれていて何度も母さんは自分の事を責め、何度もナイフを手にしていた。

 五冊目のノートには杵島一美とその両親に対する懺悔の言葉で埋められていた。

 僕は……絶対に許せなかった……母さんにした仕打ちを……その少女を……

 ===============


「……分かるか?一人の子供がただ気晴らしのために悪く無い人を罵り、心が壊れかけるところまで追い詰められた人の想いが…」

 僕の話をただコイツは俯いて涙を流しながら聞いていた。どうやらその時の事を思い出しているのか、それとも僕にこれから受ける仕打ちに対して怯えているのか。


「……ごめ……ん………なさいっ………ゆる………し…て…………」


 なんだよそれ、何だよ…ふざけんなよ……そんな、そんな……





「そんな…勝手な………勝手なことをっっっっ言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」




 絶対に許すかよ!

 僕は開いたナイフを両手で持ち、振り下ろした。


   ◆◇◆◇◆一美◇◆◇◆◇


 あたしの両親は一度離婚している、理由は聞かされていない。
 当然だと思う”父親が浮気していて、しかも子供まで居たなんて小学生の娘に言えるはずが無い”から
 二年前までのあたしの家は壊れていた。
 家事をしない母親に家にまともに帰ってこない父親、あたしは二人がとても嫌いだった。いやそんなもんじゃない嫌悪していた。よくニュースでやってるDVとかは無かったけど、だからといって幸せとは程遠い家庭だった。ご飯を食べる時も皆別々で、三人揃うことなんてまるで思い出せないくらい家族全員が関わる事を拒絶していた。もともと両親はビジネス上の都合とやらで結婚したらしい、愛が無ければここまで冷めた家族になるのかとどこかあたしは小学生ながら達観していた。あたしを生んだのも何でも世間体を意識しただけらしい。そのくせご近所とは愛想良くも無い。とても中途半端な二人だった。

 だから、だから嫌になっちゃったんだ。

 嫌になって、耐えられなくて、苦しくって、辛くって………仕方なくて……あたしは美咲お姉ちゃんに頼って……………



 二人を、この家族を終わらせたんだ




 美咲お姉ちゃんはとてもお金持ちの家族で探偵を雇えるような家で、家になかなか帰ってこない父親の事を調べてもらった。そして峰岸という女の人に行き当たった。
 その人と父親との関係は探偵さんの調べから浮気だと言われた。小学六年生のあたしでもその意味は分かった。それが……とてもいけないことで

 あの家を終わらせられる鍵になると

 美咲お姉ちゃんは何度もあたしを慰めてくれた。でも、それでもあたしは美咲お姉ちゃんの言葉が耳に入ってこなかった。ただ頭の中にあったのは、父親の浮気をどう利用するかだった。

 結果、思いついた方法が母親に浮気相手のことを知らせるという事だった。
 もちろん直接言う訳にはいかないし、間接的に伝えようにもどうすればいいか分かんない。だから探偵さんに教えてもらった父親と浮気相手が出会う場所をピンポイントに母親を連れ回す事にした。簡単にいってるけど、実際は家事すらしない面倒臭がりの母親はなかなかあたしと一緒に出かけてくれず、学校で必要なの物で高価な買い物があると言ってようやく引きずり出せた。家の生活用品の買い物はほとんどあたしがしていたんだ。
 そして何とか粘って二ヶ所だけ行くことが出来た、そして……タイミングよく父親と別れるその浮気相手を母親は目撃した。あたしはその時、まだ店の中に居たのだ。
 さすがに面倒臭がりの母親でもそれは見過ごせなかったらしくその”浮気相手”の方を追った。あたしも静かに母親を追い、そして決定的な場面を目撃する。

 その浮気相手が子供と会っている所を

 その日の夜、父親は早く帰ってきた、どうやらなにか母親が仕組んだのだろう。
 そしてその日あたしの覚えている限り初めての三人が揃った夕食になり、そして………

 この家族が完璧に壊れた。

 あたしは嬉しかった。やっと、やっとこの家から開放されるんだと、涙が出た。
 そう、あたしは幸せになるはずだったんだ。

 あの引越しまでは………

 父親と母親の二人は離婚した、あたしのがんばりの成果だったとその時は思った。
 少しばかり誇らしげな気分になっていた二人が言い争っている内容も気にならないくらい。いや、実はちゃんと聞こえてて、分かっていたんだ、二人が

 あたしを押し付けあっている事に

 二人共あたしを引き取る事を拒絶していたんだ。別にこの二人に愛されてる実感は無かったけどこの有様は何なのだろう?と嫌気が差した。結局は浮気をしていた父親の方ではなく母親の方に引き取られた。
 そして離婚した後あたしは引っ越す事になる。
 何故なら離婚したとなると”世間体が悪い”らしい。そんな下らない理由であたしと美咲お姉ちゃんは会うことが出来なくなった。
その時、都合のいい部屋があったことと父親から渡された慰謝料と母親の希望で都会に引っ越す事になった。

 来るはずの幸せなんてなかったんだ、あたしにあったのは前よりも酷い、美咲お姉ちゃんとも会えない日々だった。その悲しみから生まれた怒りは父親でもなく母親でもなく、峰岸という浮気相手だった。
 あの女がいなければ美咲お姉ちゃんと会えなくなることはなかったと、その時のあたしは本気で思っていた。
 そして離婚から引っ越す間に探偵さんから聞いた家に何度も行き、その都度その女を責め続け、恨んだまま、遠い都会に引っ越した。
 



 あたしは自分が引き起こした事を他人のせいにして、そしてその人は、危うく自殺するところだった。

 なんて………どうしたら受け入れられるの?
 あたしは、目の前の振り下ろされるナイフを虚ろに眺めた。


 そして寸前で両手をかざす。


 ブチィィ


 ナイフはあたしの両手を縛っていたツタを深く切り裂き、止まった。

 そう、そんな未来が見えた。 
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