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アマガミフェイト・ZERO

作者:天海サキ
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七日目 十一月二十七日(日)

 言峰綺礼は連れと共に目指す家に向かっていた。
「アサシンからの報告で、全てのサーヴァントの現界が確認された。何名か前回と同じサーヴァントがいるぞ、アーチャ―」
「ほぅ」
 綺礼の隣を歩いているのは、尊大だが威厳ある顔付きの美青年だ。金髪の下に、愉悦を漂わせる細長い目。高い鼻。薄笑いを浮かべる口元。整った顔立ちには、驕りとも思えるくらいの、自信が溢れている。ゴチャゴチャと派手な飾りのついた革ジャンを身に付け、テカテカ悪趣味にぎらつく、スパンコール付きの黒い長ズボンといった格好で、踏ん反り返るように歩いている。
「ライダーとランサーだ」
「ふん、そうかあいつか。少しは退屈しのぎになりそうだな。それよりもだ、綺礼。今向かっているところも、お前の願望の在り方なのか」
「ああ、一目見て確信した。彼女は、今苦境に立っている。つまり、私が彼女を救わねばならない」
 アーチャ―が、呵々大笑する。
「お前は面白いよ、綺礼。まさかお前が求めていた願望が、少女の救済だったというのだからな」
 綺礼がポケットから一枚の写真を取りだす。そこには輝日東高校の制服に身を包んだ一人の少女が映っていた。
「そういうお前も物好きなものだ。どういう風の吹きまわしだ」
「道化に付き合うのもまた一興。まぁ、飽きるまではお前に付き合ってやるよ、綺礼」
「マスターがもう一人居た方が、何かと面倒が無くてすむ。お前が乗り気で助かる」
 二人は目的地に辿り着いた。目の前には巨大な門と、辺りの家とは比べ物にならないくらい大きな洋館が建っている。
「愚民の家にしては、なかなかの大きさだ。少しは退屈を紛らわせてくれるといいのだがな」
 無言で綺礼がベルを押した。インターフォンから、おどおどした少女の声が聞こえてきた。父の友人と名乗ると、門が静かに開いた。玄関まで続くアスファルトの道を、二人はうっすらと笑みを浮かべながら歩いていった。玄関に立ち、綺礼が厳つい拳でノックをする。
「は、はいっ」
 館の中から少女の声がして、玄関の扉がゆっくりと開かれる。
「始めまして。中多紗江さんですね。お父様の友人の言峰綺礼と言います」
「あ、あの、パパ、いえ父は今……」
 中多紗江は、びくびくっとしながらたどたどしく応対をする。
「ああ、ご心配には及びません。私達はお父様から頼まれて来たのです」
「たの、まれ、て?」
「ええ、急な大仕事とのことでしばらくお家に帰れないとのことでした。しかし愛娘の事は心配。それで、私に娘さんの面倒を見るようにとお命じになったのです」
「ええ! そ、そんな……は、初耳で、す」
 紗江の顔が緊張で赤くなる。綺礼は、そんな少女の様子を愛らしいと感じた。
「お父様も、急な事で申し訳ないと申しておりました。しかし社員一同の生活の為、今回の仕事だけはなんとしても成功させなければならない。解ってくれ。そうおっしゃっておりました」
 紗江が困ったように俯く。
「そういう訳で、しばらくの間、こちらにご厄介になります」
「こ、ここにす、住むんですかっ」
「ああ、ご心配なく。離れの方に、です。お父様より鍵も頂いております」
「そういう訳だ。王である俺が来てやったのだ。ありがたく思え」
 びくっと紗江の顔が再び緊張で強張り、恐る恐るアーチャ―を見た。だがアーチャ―の顔を見て、紗江の表情がぱぁっと明るくなった。
「あ、あの、もしかして、イ、イナゴマスクのレオさん、ですかっ」
「……なんのことだ」
「巷で話題の、悪をくじく仮面英雄の事だろう」
 言峰が説明する。
「悪とは、世界の王たる俺の敵の事。下民にしては解っているではないか」
「こ、この方も離れに、い、一緒に住むんですか?」
 紗江の顔が、やや上気している。
「ええ、そうです。さて、今日はご挨拶だけとさせていただきます。詳しい特訓の内容については、夕方改めて説明致します」
「ええ、と、特訓ですかっ」
「はい。お父様から教育係を頼まれましたからには、精一杯やらせて頂きます」
 紗江の顔が不安で曇る。
「ご心配なく。ゲーム形式の特訓ですから」
「ゲ、ゲーム、ですか。あ、あの、わたし、その」
「よろしければ、お父様と直接話をされますか? お忙しいとは思いますが、少し話をするくらいの時間はとれると思いますが」
「あ……い、いえ。えっと、あの、わ、解りました。が、頑張りますっ」
 言峰は内心にやりとした。
(第一の関門はどうやら無事に突破出来たな。神よ、あなたのお導きに感謝致します)
「それでは、また夕刻に」
 言峰は、頭を下げた後、離れの方に足を向けた。そんな彼を紗江が引きとめた。
「あ、あのっ」
 おどおどする紗江。見ているだけで心が洗われるようだ、と言峰は思った。
「なんでしょう」
「そ、その、お名前は……」
「これは失礼致しました」
 言峰は自分とアーチャ―の名前を伝えた後、一言だけ言い添えた。
「ですが、わたしの事は教官と呼ぶようにしてください。これも、訓練なのです」
「は、はいっ、教官っ」
 こうして、中多紗江はアーチャ―のマスターになった。 
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