魔法少女リリカルなのは 平凡な日常を望む転生者
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IFストーリー はやて編
前書き
こんにちはblueoceanです。
気分転換に結構前にあったIFの話を。
今回ははやて編です。
設定としてはマテ娘は無し、神様のお願いも無し。
誰得か分かりませんが良ければ読んでみて下さい~
「た、助け………ガッ!?」
命乞いをしていた男の額に魔力刃が突き刺さり、それ以降男は動かなくなった。
「依頼完了………これより帰還する………」
刃を突き刺した黒い鎧を纏った男は一瞬で消え去ったのだった…………
魔法少女リリカルなのは平凡な日常を望む転生者IFストーリー
「ヤバい、遅刻や~!!」
通学路を走る中学生の美少女、周りの男子の視線を釘付けにする、そうその美少女こそ…………
「…………って何か自分で言ってて悲しくなってきた……」
とこの残念な少女こそ、ミッドチルダの管理局で捜査員として働いている優秀な魔導師、八神はやてであった。
「はぁ………しかし本当にヤバイなぁ………」
昨日、管理局員の殺人事件がありはやてもその事件の捜査をしていたのだ。
最近連続で管理局員が襲われており、同一犯と分かっているのだがそれ以外がまだ謎に包まれていた。
(せやけど、ここ最近の事件は不気味や………同じ手口なのに全く証拠が見つからへん………)
密室の場所での犯行もあったため、転移魔法を得意とする魔導師であると予測がたっているが、それでも犯人を特定するに至っていない。
(転移魔法を得意とする魔導師はそんなにいないはずなのに何で特定できへんのやろ………)
と気づかない内に考え込んでいたはやて。
ブーブー!!
「えっ?」
車の通りが少ないのもあり、油断していた。
大きなクラクションの音が鳴り、右を向くと、はやてに突っ込んでくるトラックが一台。
(あっ………)
逃げようと考える前にトラックははやての目前へと迫っていた。
(私の人生ここで終わりなん………?)
そんな事を思ったはやて。
しかし衝突する寸前、いきなり後ろに引っ張られはやてはそのまま誰かに抱き寄せられた。
「バカ野郎!!!あぶねえだろうが!!!」
急いでいたのかトラックはそう言い残してさっさと行ってしまった。
「あれ?………生きてる………?」
「おい」
「はい?………って誰や?」
「今気が付いたのか………俺は………田中太郎」
「私は八神はやてです………ってちゃう!!」
慌てて離れたはやてはぐじゃぐじゃになった髪や抱き締められた時にくしゃくしゃになっや制服を整え、深く頭を下げた。
「助けて頂いてありがとうございます!!」
「別に気まぐれだ。咄嗟に体が動いただけだ」
「あなたは命の恩人です」
「そうだな」
「何かお礼を………」
「いらん」
はやてが誠意を込めてお礼を言うが田中太郎は冷たかった。
「何を考えていたのか知らないが命を粗末にするな。死ぬときは人はあっさり死ぬ。だからこそ毎日を大事に生きろ」
「は、はぁ………」
「じゃあな」
そう言って田中太郎ははやてに背を向けて歩きだした。
「何か変わった人やなぁ………ってお礼!!」
しかし気が付いた時には既に姿が無く、はやて1人になっていた。
「あっ学校も!!」
気がついたはやては慌てて学校に向かうのであった………
「いやぁ大変やったよ………もう少しでお天道様の所へ行くとこやった!!!」
授業に遅刻したはやては取り敢えず後ろの扉からこっそり入ったのだが、直ぐに先生に見つかり笑われながら席に着いた。
そして授業が終わり、友達が来たときに今朝の話をしたのだった。
「このおバカ!!!」
「あたっ!?」
友達の1人、アリサ・バニングスにチョップを落とされ、重い痛みを感じる頭を抑えた。
「アンタ何笑いながら言ってるのよ!!アンタ下手したら死んでたのよ!!!」
「いや、だから笑い話にしようと………」
「いや、誰も笑えないよ………」
そんな月村すずかの言葉にその場にいたメンバーは深く頷いた。
「だけどはやて、はやてを助けてくれたのって誰なの?」
「そうだね、まるで王子様みたいな人だね~!!」
同じ魔導師であるフェイト・T・ハラオウンと高町なのはがそれぞれはやてに聞いてくる。
「えっとな………確か田中太郎って言ってたような………」
「田中………?」
「太郎………?」
「偽名だよね………?」
「うん、私もそう思う………」
先ほど王子様と言って目をキラキラさせていたなのはさえ、残念そうに偽名だと呟いた。
「そうなんや………あの時はボーッとしてたから気がつかなかったから何も言わへんかったけど、今思うとありえへんな………って」
「謙虚な人だったのかな?」
「まさかはやての事をうっとおしいと思って………」
「アリサちゃん、それどういう意味や………?」
睨むはやてにベロを出してそっぽを向くアリサ。
「あはは………まあとにかく、名前が分からなければお礼のしようも無いね」
「そうなんよ………ただうちの制服だって事は分かってんやけど………」
「それだけじゃ見つけるのは難しいわね
「出来ればまた会ってちゃんとお礼を言いたいんやけどな………」
そう俯くはやてに4人もどうにかしたいと思うのだが、やはり手当り次第探すしかいい案が浮かんでこない。
「あれ………?」
「どうしたんやすずかちゃん?」
そんな中、グラウンドを見たすずかが不意に呟いた。
「あれって………確か有栖君だ」
「有栖………ってあのC組に居る不良の有栖零治?」
「そう。私、小学校の時同じクラスになった事あるから知ってるんだ。一体何処に行くんだろう………」
「どうせサボリでしょ?全く、学校を何だと思ってるのかしら………」
「それでもテストの成績良いんだよね………」
「確かに………私この前の中間負けちゃったし………」
悔しそうに呟くアリサに苦笑いするすずか。
「へえ………」
「この学校にも不良っていたんだ………」
すずかとアリサの話を知らなかったフェイトとなのはは興味を持ったのか窓の外を覗いてみた。
「ちょ、私も見てみ………!!」
はやても興味が持ち、窓から覗き、そして固まった。
「どうしたのよ?」
「アリサちゃん、皆、見つけたで田中太郎」
「嘘!?」
「はやて、どこ?」
「どんな人!?」
「あはは、皆の話に出た有栖零治君や………」
「田中太郎さん!!」
「人違いだ」
「じゃあ有栖零治君!!」
「………はあ」
本名を当てられ、零治は振り向く。
「こんにちは」
「はぁ………」
「何で溜め息吐くんや………?」
声をかけられる前から既に魔力反応で誰だか分かっていた。
(あんなに魔力が高いのは同じ転生者の神崎大悟と八神はやて位だからな………)
だからこそ、無視して帰ろうとしていたのだが本名を言い当てられてしまえば今日逃げた所で無駄だと判断し、諦めた。
「何の用だ?」
「あの………今朝のお礼を………」
「じゃあ脱げ」
「は?」
「お礼してくれんだろ?だから脱いでくれよ」
「な、何を言ってるんやアンタは!!!」
零治の無茶な要求に大きい声をあげるはやて。
他の帰宅中の生徒の注目を浴びた。
だが気にせず話を続ける。
「だったらお礼は気にしなくて良い。あれはただの気まぐれだ。別に借りや弱みを握りたくてした事じゃない」
「せやけど………」
「いいから俺に構うな!!!!」
「あっ………」
今度は零治が大声を上げてさっさと先を行った。
「何よアイツ!!」
そんなはやてと零治のやり取りを見ていた親友の4人がはやてに近づいてきた。
「恐かったね………」
「しかもいきなり脱げだなんて………」
「別に本気で言ったわけやないよ………」
零治をフォローするはやてだったが、他の4人の反応は冷ややかだった。
「はやて、あんな奴構わなく良いわよ。もうお礼なんて気にしなくて良いわよ!!」
「あっ、アリサちゃん!!」
怒ったアリサがドカドカと歩き始め、その後ろをすずかとなのはがついて行った。
(なんやろな………何であんな言い方するんやろ………)
「はやて、どうしたの?行かないの?」
「あっ、ごめんフェイトちゃん、今行く!!」
フェイトに声を掛けられ、はやても慌ててついて行った………
『マスター、あんな言い方しなくても………』
「うるさい、気軽に話しかけるな」
『ですけどあの娘はただお礼をしたくて………』
「同じ事を二度言わせるな」
『………イエスマスター』
これではやて達に声をかけれられる事は無くなると思っていた零治だったが、その予想は見事に外れるのだった。
「おはよう零治君!!」
「………」
3日後、朝のんびりと零治が登校していると背中を叩いて挨拶をした女子生徒がいた。
「何や無視か?挨拶も碌に出来んと立派な社会人になれへんで!!」
「………帰る」
「何で!?こんな美少女に挨拶されて何で帰るんや!?」
「零治君、一緒にお昼食べへん?………ってあれ?」
「有栖君ならさっきベランダの方に………」
「ちっ、逃げられた………」
「零治君一緒に帰ろ~!!ってあれ?」
「有栖君なら、またベランダから………」
「また!?どうして気づかれたんや………?」
「くそっ!!何で付きまとってくるんだ!?」
ベランダから階段に移り、そのまま帰路に着く零治。
実は他にも休み時間に訪ねて来たりと、何度も話そうとはやては零治のクラスにやって来た。
何度冷たく言ってもはやては全く気にせずやって来る。
馴れ馴れしく、そして明るい人柄。
『まるでウォーレンさんに………』
「ラグナル黙れ!!!!」
他の通行人も何事かと見てしまう程の大声。
「先輩はもういない!!!その名前は出すな!!!」
『済みませんマスター………』
ベヒモス事件。
ミッドチルダで起きた、冥王教会が起こした新型の爆弾をめぐる大きな事件。
その首謀者である冥王教会の幹部は無事逮捕され、爆弾も全て回収し、データ諸共完全に消去され、何事も無く、解決された事件。
そしてその中で居た聖王教会の騎士を大量殺戮した魔導師、バルトマン・ゲーハルトを逮捕したとして有名になったエース・オブ・エースが居るため、広く有名になった事件だ。
その中でただ1人、殉死した傭兵の魔導師がいた。
「………」
明るく、1人だった零治に声をかけてくれた人物。
お気楽で、お節介で、いつも零治の事を気にしてくれていた人で、零治にとって最高の相棒であり、この世界で唯一家族と呼べるような人物だった。
「だからこそ俺は………」
そんな中、彼のフィアンセであるシャイデ・ミナートを零治が助けている間に、ウォーレンはバルトマン・ゲーハルトと1人で戦っていた。
そして戻った時には………
『マスター………』
最初こそ、ウォーレンを殺した男はバルトマン・ゲーハルトだと思っていた零治は『黒の亡霊』と恐れられる程の最強の傭兵魔導師として名を馳せるほど強くなっていた。
そして事件が終息してから4年、とある組織の人物が零治に声をかけてきた。
「ウォーレン・アレストを殺したのはバルトマン・ゲーハルトじゃない」
耳を疑う話であったが、その組織が見せたサーチャーの映像にはウォーレン・アレストに止めを刺すエース・オブ・エースの姿が写っていた。
「!!!!」
「さて、そこで提案があるのだが、この男を殺したくないか?」
「何だと………?」
「私達の組織に協力してくれればこの男を殺させる手助けをしてあげよう。いくら君の転移能力があっても足は残る。だが我々もフォローがあれば完全犯罪と出来る。ただし条件がある」
「………だがその見返り奴として奴以外の奴も始末してほしいって事か?」
「鋭いな………まあその通りだ。君はこの管理局のシステムを許せるか?犯罪を犯した者でも高ランク魔導師であれば管理局に奉仕すればその罪を免除、あるいは軽く出来る管理局のやり方を」
「………」
「………我々の組織は理不尽な管理局の現状に嘆いて出来た組織だ。皆、君のように大事な人を失いながらもその当事者がのうのうと管理局で働いている現状に許せないでいる。………一緒に今の管理局を変える気は無いか黒の亡霊?」
手を差し出す男。
「………俺は先輩の仇を取れればそれでいい。………良いだろう、協力してやる」
こうして零治は組織に入った。
それが2ヶ月前の話である。
「………」
そしてその後、約束通り零治は仇を取った。
それも呆気なく。
「はは………」
スッキリするとも思ってない、ウォーレンが報われるとも思っていない。
ただ、ウォーレンを失った空虚さを少しでも満たせると思っていた零治だった。
が………
「ははははははははははははははははは!!!」
むしろ満たされる事はなく、生きる目的でもあった仇討ちを達成したため、より空虚さが零治を襲った。
「俺にはもう何もない………」
ここに、連続殺人鬼『ファントム』が誕生した瞬間だった。
「………」
気がついたら零治は大きな木がある高台へと来ていた。
『マスター………』
ファントムとして組織の駒となった零治は次第に感情が死んでいった。
何が起きても動じず、動かず。人との関わりを捨て、依頼以外は死んでいる様にその場に居る。
唯一の繋がりであるシャイデ・ミナートとも連絡を取らない始末。
心配して様子を見にくるが、転移して逃げ、一度も会うことは無かった。
『あの………依頼が………』
「………教えろ」
「またやね………」
「ここまで何も犯人の手掛かりが出て来ないと別の可能性が浮かび上がってくるね」
数日後、またミッドチルダで管理局員が殺される事件があった。
そしてその現場には捜査員のはやてと執務官のフェイトの姿もあった。
「今回殺されたのは?」
「本局勤務のリュート・マクベス二等空尉。一度犯罪組織に雇われた傭兵の魔導師で、その後奉仕活動を得て、本局勤務の魔導師に。その後の仕事振りも良くて、評価の高い人だったんだけど………」
「元犯罪者は容赦無しってことやね………」
悔しそうにはやてが呟く。
「だけどこれでハッキリしたね」
「そうやな、犯罪経歴がある魔導師が狙われてる。………フェイトちゃん、気をつけんとな」
「はやてこそ。特にはやては未だに闇の書事件で狙われている事が多いんだから………」
「分かっとるよ。………だけどそろそろ本局でも対応策が協議されるやろ」
「遅すぎる位だけどね………」
「兎にも角にもお互いに気をつけんとな………」
『本局もようやく事態の重大さに慌ててる様だ。フォローはするが、これからは更に厳しくなる。しっかり頼むぞ』
「ああ、分かった………」
通信を切り、通信器を壁に投げつける零治。
反対側の壁に寄りかかり、そのまま死んだように眠りについた。
『マスター………』
「………」
ラグナルが声をかけるが反応は無い。
『誰かマスターを助けて………』
そんなラグナルの声に応えてくれる者は誰も居ない………
「零治君!おはよう!!」
「………」
事件から1ヶ月、零治に変化が現れた。
「今日からテスト週間やな………私学校休む事多いから点数取るの大変や………」
「そうか」
「零治は調子どうや?」
「ああ」
「どうなんよ?」
「普通だ」
「普通って………本当は自信無いんちゃう?」
「どうだっていいからな」
「もしかしてテストで点取れなくても受験で取れればいいってカッコイイ事を言ってるんか………?」
「どんだけ飛躍するんだ………」
しつこく話かけるはやてに零治はとうとう折れ、今では普通に話しや昼食を取るような仲になっていた。
「そうや、零治君。今日はサンドイッチなんやけど………」
「いつも言うが頼んだ覚えは無い」
「ええやんええやん、こんな美少女が作るお弁当やで。男なら泣いて喜ぶシチュエーションなんやから遠慮せんでええって」
「美少女?」
「突っ込むとこそこ!?」
はやては周りにどう思われようとも零治に話しかけるのを止めず、しつこく付きまとっていた。
しまいにはいじめに近い嫌がらせも受けたりもしたが親友の4人がはやての味方で居てくれたお陰ではやても折れずに零治付きまとってこれたのだ。
そして、はやてのお陰で零治は徐々に人間らしさを取り戻していった。
「なあなあ、零治君って家族おるん?」
そんな中、2人で昼食を食べていたはやてが不意にそんな質問をしてきた。
「どうでもいいだろ」
「せやけど、今思えば私って零治君の事何も知らんなぁ………って」
そう言われて零治は黙々とはやての作ったお弁当を食べる。
「………もしかして聞いて欲しく無かった?」
「………いない」
「えっ?」
「家族は居ない。育てた親も今面倒を見てくれてる親も」
「えっ!?それって1人って事なんか………?」
そう言ってはやての箸が止まる。
「そうなんか………そうやな、だからこそ私は見捨てられへんかったんやな………」
小さい声で1人納得するはやてに首を傾げる零治。
はやては携帯を取り出し、何処かに電話を掛けた。
「………そうや、せやから準備頼むな~」
そう言って電話を切ったはやて。
そして………
「今日は私の家に来てくれへん?」
「さあ、着いたで!!」
結果的に零治ははやて宅に来ていた。いや、連れてこられた。
既にはやてに行動パターンを読まれてる零治は逃れる事が出来ず、魔導師だとバレる訳にはいかないので転移も出来ない。
逃げる手段が無いのである。
「いらっしゃいですぅ~!!」
そんな零治を迎える小さい女の子。
「へえ、これがはやての男か………」
零治を品定めするように見る赤髪の女の子に、
「いらっしゃい………」
「待ってましたよ」
優しく零治を出迎えてくれるピンクの髪の女性と金髪の女性。
「………」
こちらを一度見て、そっぽを向いた青い犬。
「さあ、こっちですよ~」
一番最初に出迎えてくれた小さい女の子に手を引っ張られ、零治は中へと入っていった………
「はやて、もういいか~?」
「駄目やヴィータ!まだ焼きが甘い!!」
「はやてちゃんこれは?」
「リイン、中のお肉生焼けやからもうちょっと我慢してな」
「やはり主の焼くお好み焼きを美味しい………」
「私も焼きたいんですけど………」
「シャマル、私の戦場、邪魔せんでな………」
はやてに睨まれ、小さくなるシャマル。
そんな慌ただしいやり取りを見ながら零治は静かにお好み焼きを食べていた。
「………美味い」
そんな零治の呟きは八神家の騒がしさにかき消されたのだった………
「………」
「星を見てるのか?」
「………別に」
八神家のベランダから夜空を見ていた零治にシグナムが話し掛ける。
「どうだった主のお好み焼きは」
「中々美味かった」
「そうか、それは良かった」
笑顔でそう言いながらシグナムは零治の隣に座る。
「すまんないきなり主が無理を言って。だが主も主で考えがあっての事だ」
「考え………?」
「主の過去は知っているか?」
「知らない」
「そうか………主はな、今でこそ明るいが、9歳まで主はずっと1人だった。親も既に他界していて、知り合いは毎月仕送りしてくれる会ったことの無い親戚と病院通いで仲良くなった先生のみ。小さいのに普通じゃ考えられない生活を強いられてきた」
「………」
「だからこそ主は1人ぼっちの辛さ、苦しさを人一倍に理解出来る。咄嗟に感じたんだろう………まあ主は優しい人なのだ」
「………」
「だから人一倍にお節介だし、いつも明るい。だがそれでも主にも思うことはある。我々にも話せない苦しい事もあるだろう。出来れば主の心の支えになってくれないか?」
「………何故俺が?」
「主がお前の気持ちが分かるように、お前も主の気持ちが分かると思ったからだ」
そんなシグナムの言葉に零治の思考が止まる。
オレノキモチガワカル?コイツハイッタイナニヲイッテイルンダ?
感情を殺してきた零治に再び、ウォーレンを失った時のようなドス黒い感情が沸き上がる。
「有栖………?」
「帰る」
「おい、どうしたいきなり………」
フラフラになりながら立ち上がり、掴まれそうになったシグナムの手を払いのける。
「零治君………?」
「もう俺に構うな………」
零治ははやてにそう言い残し、八神家を出ていった………
「零治君!!!」
そんな零治をはやては追いかけた。
「いきなりどうしたんや!!」
「うるさい、話しかけるな、俺に構うな!!!」
「零治君、真っ青やないか!!一旦何があって………!!」
「離せ!!!!」
腕をはやてに掴まれた瞬間、零治の体が黒い鎧で包まれる。
「れ、零治君………?」
「教えてやるよ。今、ミッドチルダを騒がせてる殺人鬼『ファントム』それは俺だ」
「………えっ?何を言ってるんや………?」
「俺のレアスキル、ボソンジャンプで魔力の痕跡を無くして転移することが出来る。これで侵入し、暗殺する。足取りが掴めないのは俺のバックの組織のおかげだ」
「零治君………嘘やろ………?」
「知ってるか?俺の組織じゃ管理局で犯罪を犯してのうのうと生きている奴を許せないでいる奴がごまんと居る。そいつらを断罪するのが俺の仕事なんだよ」
「嘘や………零治君がそんな事………」
「俺も同じ被害者なんだよ。唯一家族と呼べた人物を殺され、その殺人者はまさかのエース・オブ・エース。………おかしいだろ?何で先輩は殺されてんのに奴は英雄扱いなんだ?理不尽だろ?先輩はバルトマンを倒したんだ、倒したのにだ!!何で味方に殺されなきゃならない!!!何で奴はのうのうと生きていた!!!!だから俺はビビる奴を殺した。………一突きでな」
「零治………君?」
「だからはやて、俺はむしろお前の敵だ。お前も奴と同じ元犯罪者。理解出来る?何が!!!なあはやて、お前は何でのうのうと生きている?幸せそうに家族に囲まれて、楽しそうに………何でそんな風にいられる?何でそんなに明るくいられる?何で突き放しても優しくする………何で俺を見捨てない!!!!」
「零治君………」
零治は自分の今まで押さえ込んでいた感情をぶつけるようにはやてにぶちまけた。
ネジが外れ、全てが崩れるように既に零治の目は普通じゃ無かった。
だが、そんな零治にはやては漆黒の鎧ごと包み込むように優しく抱きしめた。
「零治君。私はね自分の罪を忘れた事はあらへんよ………犯した罪が死ぬことで償われるのなら私は喜んで死ぬよ。それほど、夜天の書は色んな人を苦しめて来た。せやけどそれはただの逃げなんよ。死んで誰が喜ぶんや?死んだ人が帰ってくるんか?違うんや………だから私は巻き込んだ人が報われるような平和な世界にしたい。私のあの家族だけじゃなく、苦しんだ人も今苦しんでいる人も………その中に零治君も含まれてるんやで」
「俺も………だと?」
「そうや。この世の中、理不尽な事なんて一杯ある。言い出したらキリが無い。せやけど精一杯生きてる人ややり直そうとした人もいる。零治君、零治君はそんな精一杯生きてる人達ややり直そうとした人達も苦しめてきたんやで?」
「やり直す………だと?やり直すなんて選択肢は………」
「だからって殺して何になるんや?残るのは虚しさだけやろ?」
そう言われ、零治は何も返せなかった。
「確かに懲りないで同じことを繰り返す腐った人は多く居る。だからこそ私は変えたいんや。今の管理局を。腐ってしまった仕組みに、新たにやり直す人に希望が持てるような素晴らしい組織に」
そんなはやての優しさ。そして強さに零治の大きく空いた心に暖かい何かが包み込んだ様な感覚を感じた。
「そんなの夢物語だ………」
「そやなぁ………いつになるか分からへん。せやけどもう決めたんや。それに私は1人じゃ無いから………」
決して目をそらさずに零治の目を真っ直ぐ見て言うはやて。
『俺は逃げたんだよ………親友を裏切り、腐った管理局から。後悔は無いけど、やっぱり悲しむ奴は多いよな………いつかそんな今の現実を変えてくれる奴がいればもっとハッピーになるんだが………何か幸せじゃないか?皆が笑顔で楽しく過ごせる日常。平凡だけど暖かい、そんな毎日。そんなの無理かもしれないけど、せめて俺の周りだけでもそうなって欲しいと思うんだよ………』
かつてウォーレン・アレストが話してくれた夢。
その後、零治はシャイデとの婚約を言われ、そして養子に誘われる。
(コイツは………先輩の諦めた事をやろうとしている………)
「八神、お前は………」
「それにな、やっぱり皆笑顔が一番やろ~?みんな笑顔で、暖かくて………そんな世界が出来れば最高やない?」
そんなはやての言葉に零治の失った物が戻っていく。
(ああそうか………こんな俺でもまだ生きる意味があった………)
生きる意味。
生きる希望さえ何も無かった零治が感じた存在意義。
かつて自分の大切な人が思っていた理想。
「はやて………」
「何や?」
「俺決めたよ。俺にもお前の夢を叶える手伝いをさせて欲しい」
「零治君………」
「俺、忘れてた………先輩の考え、思い、全て先輩に教わってきたのに、俺はそれを全て心の奥底で抑え込んで憎しみだけを抱えて生きていた。先輩も言っていたんだ。平凡だけど暖かい、そんな毎日。俺もそれを見てみたい」
光が戻る感覚。自分の見ている世界が一気に広がり、一色しかなかった世界に綺麗な色が戻っていく。
かつて失った物を零治は全て取り戻していた。
「零治君………うん!!私も見たい!!」
そんな零治の思いにはやても涙を流しながらそう答える。
「はやて、ありがとう。俺にもまだ希望があった。先輩はもういないけど、先輩も思いと一緒にはやてを守っていく」
漆黒の鎧を解き、はやてを優しく強く抱きしめる。
「零治君………ありがとな………」
そんな零治をはやては優しく抱きしめ返すのだった………
数日後、連続殺人事件の犯人とその黒幕が逮捕される。
その逮捕者は八神はやて。そしてはやては一気にキャリアの道を駆け上がる。
そして5年後………
「やっと夢が叶ったね」
「いいや、まだや。これはまだ第一歩や。私の夢はこれからやで」
「そうだったね………」
そんな会話をするなのは、はやて、フェイト。
3人は新しく出来る『機動六課』の隊舎の前に居た。
「そう言えばはやて、まだ聞いてないんだけど、いい加減はやての副官に就任する人って誰なの?」
「そうだ!!はやてちゃんってばずっと秘密って言って何も教えてくれないんだもん………私も気になって気になって………」
「いやぁ、やっぱりサプライズって必要やろ?2人もビックリする人物やで~」
そんな悪戯する子供の様に無邪気に笑うはやてに自然と笑みが溢れるなのはとフェイト。
「あの………失礼ですが、八神はやて一等陸佐でお間違い無いですか?」
「そうや………」
「初めまして。本日付けで一等陸佐の副官を仰せつかりました有栖零治三等空尉です」
「えっ!?」
「有栖零治って………」
そんな驚く2人にはやてはしてやったりと言った顔をする。
「やっぱり驚いたで~サプライズ成功や!!」
「俺はあまり気が進まなかったんだがな………」
なのはとフェイトの反応を見て、そんな話をする2人。
「ええやろ別に減るもんじゃないし………」
「まあそうだが………」
そう言って互いに笑い合う2人。
「お帰り零治君………」
「ただいまはやて………」
そんな2人を優しく風が包み込んだ………
「へえ………ロマンチックだねおばあちゃん!!」
「そうだろ………その後も私達はいつも一緒だったよ………」
椅子に座る老婆が小さい女の子に語りかける。
「いいな、いいな………私もそんな出会いがあれば………」
「きっとあるさ………昔と違って世界は幸せに包まれているんだから………」
世界は今も理不尽な事や悲しんでいる人はいる。
「あっ、おじいちゃん!!」
「おいおい、そんなに強く抱きつかれては倒れてしまうぞ!!」
だがそれでも世界は前よりも良い時が流れていた。
「零治さん………私達はやれる事は出来たのでしょうか………」
「そうだな………出来たんじゃないか?だからこそ私達は幸せだろはやて?」
「そうですね」
「お疲れはやて………」
「お疲れ零治君………」
互いに手を握りしめる2人。
現に、この2人は平凡だけど暖かい世界で包まれていた………
FIN
後書き
さていかがでしょうか?
こんな筈じゃ無かったのにどうしてこんなに重くなった!?
何て思いながらも約4時間で書き終わりました。
(本編の方もちゃんと書いているのでもう少し待ってください………)
結構好評だったらまた別のヒロインでやろうと思います。出来ればラブコメチックな感じでやりたいなぁ………
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