イドメネオ
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第一幕その一
第一幕その一
イドメネオ
第一幕 嵐のはじまり
宮殿の中の厳かな一室。大理石の中に女はいた。黒い髪に青い目を持ちその顔立ちはアルテミスを思わせる。白い服を着た彼女は女達に囲まれている。
「イーリア様、どうか」
「お気持ちを鎮められて」
「そうです」
女達は必死に女に対して声をかける。
「今はまだ」
「耐えられるべきです」
「これ以上私に何を耐えよと」
しかしイーリアと呼ばれた女は嘆き悲しむ顔で彼女達に言葉を返した。
「これ以上。何を」
「それは」
「その」
「父も兄も亡くし全てを失った私を」
イーリアの嘆きは続く。
「プリアモスとトロイアの受けた恥辱は忘れられません」
「ですがそれは」
「もう」
「しかしです」
まだイーリアは言う。
「あの憎むべきアガメムノンは大海の中に飲まれました」
「ですからもう」
「怨みは」
「怨み・・・・・・」
この言葉にイーリアの顔はさらに動く。不安、いや何かに怯えるかのように。
「怨み、私は全てを失った。しかし」
「しかし?」
「イダマンテ様」
新たな名前が出た。
「あの方は。どう思っておられるのでしょうか」
「イーリア様のことをですか」
「そう。けれどあの方は」
すぐに顔が悲しみに包まれた。
「あの女を見ているだけ」
「あの女とは」
「エレクトラだけを見ているのです」
嘆きと共の言葉だった。
「エレクトラを。私を見ていない」
「イーリア様を!?」
「見ていないとは」
「あの不運な王女を見ておられる。オレステの惨劇の為にアルゴすを逃れここにまで来たあの女が私にとっては恋敵。あの女が」
「それは」
「そうですが」
「あの方はそもそも」
イーリアの言葉は続く。
「憎きギリシアの方。復讐も憎悪も」
また語る。
「嫉妬も合いも。何もかも引き裂いて欲しい、この不幸な心を」
「イーリア様・・・・・・」
「父上、兄弟達」
イーリアは嘆きの言葉を吐き出した。
「さようなら。お元気でしたのに私は貴方達を失った。ギリシアよ」
そのイダマンテの祖国だ。
「全ては御前のせい。なのに私はそのギリシアの方を想う。自らの血筋に背くというのに」
「それはそうです」
「ですが私達は」
イーリアを気遣う目だった。
「イーリア様をお慕いしています」
「何があろうとも」
「有り難う。けれど」
それでもイーリアは嘆き続ける。
「罪になるのがわかっているのにあの方を愛してしまう。さようなら、我が家族」
「こちらにおられましたか」
「誰ですか?」
部屋に誰か入って来た。それは若い貴族だった。
「イーリア様、こちらでしたか」
「貴方は」
「こちらにイダマンテ様が来られます」
「イダマンテ様が!?」
「はい、そうです」
厳かにそう告げるイダマンテだった。
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