DQ4TS 導く光の物語(旧題:混沌に導かれし者たち) 五章
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五章 導く光の物語
5-31身躱しの服
マーニャとミネアと一旦別れ、村の宿屋に入る。
宿の主人は、やはり目的の戦士のことは知らなかった。
予想できていたことと軽く流し――それでもホイミンはやや残念そうではあったが――、本命の宿泊客に目を向ける。
「あら。旅の商人さんね。戦士さまのこと以外にも、なにかいいものを扱っているかもしれないわ。お話を聞いてみましょう。」
トルネコを先頭に歩み寄る一行に、商人の男は愛想の良い笑顔を見せる。
「これはこれは。みなさん、おそろいで。冒険者のご一行ですかな?」
「ええ、まあ。そんなようなものですわ。人を、探しているのですけれど、ご存じありません?バトランドからいらした、戦士さまなんですけれど。」
「バトランドから。船でいらしたのですかな?」
「ええ。そのはずですわ。」
「私も、北の港町ハバリアから来て、南のモンバーバラに向かうところなのですが。それらしい方は、お見かけしてませんな。」
「まあ、そうですの。港町から来られても、お見かけしてないなんて。これは、なかなか難しいかしら。」
「この前、港に着いた船の積み荷の取り引きに、かなり時間をかけたもので。入ってくる船は、これで最後になるらしいと言うのでね。仕入れに漏れがあってはと、気合いが入りまして。その船で来られて、その間に移動されたなら、完全にすれ違いになったでしょうな。」
「そういうことでしたのね。それじゃあ、戦士さまのことは、ひとまず置いておいて。品物を、見せていただけます?卸先が、もうお決まりでなければですけれど。」
「もちろん、お見せしますとも!その時々で、目についた品を、仕入れておりますのでね。決まった引き取り先というのも、無いのですよ。直接、お客様にお届けしたほうが、実入りがいいこともありますがね。気合いを入れただけあって、いい品が揃ってますよ!」
言いながら、商人は商品を次々に取り出し、並べていく。
「今回は、特に武器が充実していましてね!鋼の剣に破邪の剣、バトルアックスまでありますよ!」
「うーん、せっかくだけれど。鋼の剣に破邪の剣は、持っているし。バトルアックスは、ちょっとねえ。ユウちゃんなら、使えないことはないかもしれないけれど。今の体格と力でと考えると、少し厳しいわねえ。それに、ドラゴンキラーを手に入れたばかりだし。」
「なんと!ドラゴンキラーをですか!それは、敵いませんな。となると、鋼の鎧なんかも、必要ありませんね。」
「そうね。防具なら、もっと軽いものが要るのよ。なにか、無いかしら?」
「それなら、お誂え向きのがありますよ!身躱しの服!単に防御力が高いだけでなく、攻撃を躱しやすくなることで名高い、あの、魔法の服ですよ!これで、どうです!」
奥の手とばかりに取り出した服を広げて見せる商人に、乗り気で応じるトルネコ。
「まあ!それは、いいわね!そういうのが、欲しかったのよ!いくつあるのかしら?デザインは、選べますの?」
トルネコの問いに、得意気に答える商人。
「ご心配なく!冒険者の方には勿論、一般の方の護身用にも、需要が見込める品ですからな。しかも次に入ってくる当ても無いってことで、有りったけ仕入れておいたのですよ。どなたに、ご用意いたしますか?そちらの、お嬢さんたちですかな?」
「そうね。こちらの女の子たち、ユウちゃんと、ホイミンちゃんと。アリーナさん、そちらのお兄さんと。あともうひとり、ここにはいないお兄さんに。四着は、欲しいところですわね。」
「えっ?ぼくも?」
思いがけず名前の挙がったホイミンが、声を上げる。
「そうよ。ホイミンちゃんに、戦いに出てもらうことは、無いとしても。今聞いたように、護身用にもいいものですからね。戦士さまを探す間も、そのあとも。万一を考えたら、買っておいて損は無いわ。」
「で、でも。ぼく、お金、無いし。」
「あらあら。子供は、そんなこと気にしなくていいのよ。」
「子供……。だけど。ぼくは」
「成り行きとは言え、子供を預かっているわけですからね。なにかあったら、戦士さまに申し訳が立たないわ。これは、ホイミンちゃんのためというだけではなくて。あたしたちが、大人の責任を果たすためでもあるのよ。いいから、受け取ってちょうだいな。」
「……ぼくが、もらわないと。みんなが、困る?」
「そういうことね。」
ホイミンは俯き、逡巡する。
少女が、声をかける。
「ホイミン。わたしも、最初にミネアのお金で、いろいろ買ってもらったし。ホイミンの分も、頑張って戦うから。」
「……だけど。ユウちゃんは、子供だし。」
「?……ホイミンも、子供、よね?」
「そうだけど、ぼくはそうじゃなくて……。それに、ユウちゃんは、ミネアさんの、仲間だから。ずっと一緒に旅する、仲間だから。ぼくは……ちがうから」
「……ホイミンは、ライアンさんの、仲間、よね?」
「……うん。ずっと、一緒には、いられないけど。仲間、だよ」
「ライアンさんが、一緒にいたら。やっぱり、ホイミンに、買ってあげたいだろうと、思う。ライアンさんは、わたしたちの、仲間になるんだから。ライアンさんが、してあげたいことは。してあげたいって、思う。」
「……まだ。仲間になって、ないのに?」
「まだ、会ってないのに。ライアンさんは、わたしを守ろうと、思ってる。ライアンさんは、ホイミンのことも、きっと。守りたいって、思ってる。わたしは、ホイミンを。守りたい。」
「ユウちゃん……」
ホイミンの瞳が、潤む。
「トルネコ。ホイミンを守るのに、その服は。あったほうが、いいのよね?」
「ええ。そうね。」
「ホイミン。買ってもらおう。ホイミンが、なにを気にしてるのか。よく、わからないけど。子供でも、そうじゃなくても。関係ない。ライアンさんの、大事な人なんだから。」
「う……うん!そうだね!ありがとう、ユウちゃん!ありがとう、トルネコおばちゃん!」
涙が零れないよう、盛んに目をしばたたかせるホイミンに、トルネコが微笑みながら手巾を差し出す。
「さあ、さあ。戦士さまを探しに行くんだから。早く選んでしまいましょう。本当に、数は揃っているようだから。選び甲斐があるわ!」
「うむ。ユウちゃんもホイミンちゃんも可愛いからの、可愛らしさをより引き立てるものを、確り選ばねば!」
トルネコとブライが意気込んで言うのに、ホイミンが当惑気味に答える。
「え?ぼ、ぼく。よく、わかんない」
「大丈夫ですわ!私達が、きちんとお見立てしますから!アリーナ様にも、良い物を選ばなければなりませんわね!」
クリフトに話を振られ、アリーナが応じる。
「俺は、動き易ければなんでも良い。これなんか良さそうだな」
アリーナが選び出した一着に、困惑顔になるクリフト。
「まあ、それは……少し、質素過ぎはしないでしょうか」
「そうか?こんなものだろう」
「王子。見た目にも少しは気を使ってくだされと、常々申しておりますのに。これにしなされ」
遠慮も無く苦言を呈し、別の一着を差し出したブライに、アリーナが顔を顰める。
「なんだそれは。やたら装飾が多くて、動きにくそうだな。それは無い」
「今お召しのものでさえ、散々に譲歩した結果じゃと言うのに。それよりも質素とは、どういうことです。ならばこれを」
「曲がりなりにも城で着ていたものと、始めから戦いに備えるものを一緒にするな。それも却下だ、これならどうだ」
「曲がっている自覚はお有りなのですな。何処に居ようと、ご身分にはお変わり無いのですぞ。先程のものと殆ど変わり無いではないですか、これならばどうですじゃ」
言葉の応酬と駆け引きを始めたアリーナとブライを、間に挟まれた商人が、おろおろと見守る。
その光景を横目に、クリフトはせっせとデザインを確認する。
「クリフトさん。放っておいて、よろしいんですの?」
「ああなっては、しばらくは収まりませんから。無理に止めようとするよりも、落とし所を用意しておきませんと。それにしても、本当にデザインが豊富ですね。ユウさんとホイミンさんに、これはどうでしょう」
「あら、いいわね。ふたりとも、どうかしら。」
「えっ?ど、どうかな?ユウちゃん」
戸惑い、少女に意見を求めるホイミンに対し、少女は迷い無く一着を選び出す。
「それも、いいけど。これがいい」
「あら、それもいいわね!ユウちゃんは、やっぱりセンスがいいわ!」
「本当ですわね!色違いのものがあるのですね、ユウさんとホイミンさんの瞳の色に、それぞれ合っていますし。折角ですから、お揃いにされてはどうでしょう」
「えっ?……ユウちゃん、どうしよう?」
「うん。ホイミンも、それでよければ。そうしよう」
「……うん!」
「商人さんは、……ちょっと、声はかけられないわねえ。宿屋さんに言って場所をお借りして、試着させてもらいましょう。よければ、そのまま買えばいいものね。」
少女とホイミンは宿の空き部屋を借り、身躱しの服を試着する。
「あら、ふたりとも。とっても、可愛いわ!」
「本当に。よく、お似合いですわ!お揃いですから、並んでおられると、より華やかですわね!」
「そ、そうかな?」
褒められて照れるホイミンに、少女も頷いて言う。
「うん。ホイミン、かわいい」
「サイズも、よさそうね?」
「うん」
「それでは、おふたりは、それで良いとして。アリーナ様のものを、一緒に選んで頂けませんか?少し、決めかねていて」
「うん、わかった。いくつか、迷ってるのがあるの?」
「はい。こちらなのですが」
「そう。……これが、いいと思う」
また迷い無く一着を選び出した少女に、クリフトが遠慮がちに意見を言う。
「これですか。……少し、ブライ様のご希望に近過ぎるかと思ったのですが。アリーナ様が、嫌がられるかもと」
「アリーナは、派手なのがいやなんじゃなくて、動きにくいのが、いやだと思うから。これは、少し、派手かもしれないけど。動くのに、そんなに邪魔にならない」
「……言われてみれば。アリーナ様のご希望を、言葉通りに受け取ると、そうなりますね。質素なものばかり選ばれるので、それがお好きなのだとばかり」
「たぶん、だけど」
「いいえ。きっと、仰る通りですわ。そろそろおふたりともお疲れになってきたようですし、お勧めして参りますね。ユウさん、ありがとうございます」
クリフトは、少女の選んだ一着を手に取り、言い合う勢いをやや落としながらも、互いに譲らず応酬を続けるアリーナとブライ、板挟みに遭ってぐったりとする商人の元へ向かう。
マーニャとミネアが、宿に入ってくる。
「よう、待たせたな」
「あら、ふたりとも。もういいの?」
「ええ。ありがとうございました」
「買い物をしていたから。ちょうどいいくらいだったわ。マーニャさんも、選んでくださいな。」
「なんか、いいもんがあったのか?」
「ええ。身躱しの服と言ってね」
トルネコが説明をし、マーニャもすぐに一着を選び出す。
「これだな」
「早いね」
「こんなもんは、直感で選びゃあいいんだよ。多少見た目が違っても、そう性能が変わるってわけでも、ねえんだしよ。そこそこ派手で、見栄えがすりゃ十分だ」
「派手なのは、外せないんだ」
「大事だろ、そこは」
「マーニャさんなら、なにを着ても、衣装負けはしませんからね。むしろ、衣装が負けないものを選ぶのは、正しいかもしれないわね。」
「だろ。さすが、姐御はわかってるな。ミネアも元はそう変わらねえんだから、そう地味なもんばっか選ぶこたあねえのによ」
「性格だよ。ほっといてくれよ。僕からしたら、そっちのほうが気が知れないよ」
「ミネアさんなら、なにを着ても、月並みになるということはないものね。質素な格好だと、美貌が引き立ちますわ。」
「……ありがとうございます」
「ほんと、ものは言い様だな」
褒められて微妙な顔になるミネア、呆れつつも矛を収めるマーニャ。
気にせず、話を進めるトルネコ。
「じゃあ、あとはアリーナさんのほうがよければ、支払いを済ませて。次は、港町のハバリアですわね!」
「そのことで、少しご相談が」
「あら、なにかしら。なにか、情報があったのね?」
「ええ」
「アリーナとばあさんは、どうしたんだ?妙に、疲れてるみてえだが」
クリフトの勧めに妥協点を見出だしたアリーナとブライが、試着も済ませてやってくる。
「全く。最初から、そのようなものを選んでくだされば、ここまで言わずとも良かったものを」
「お互い様だろう。どうして、あんな極端なものばかり勧めるんだ」
「それこそ、お互い様ですな」
まだ言い合うふたりを、トルネコが宥める。
「まあまあ、おふたりとも。クリフトさんとユウちゃんのおかげで、よいものがみつかって、よかったですわね。」
「うむ。クリフトとユウちゃんの見立ては、確かじゃの。あれ程簡単に、王子が納得されるとは」
「ああ。動き易い上に、ブライが納得するようなものを選び出してくるとは。ふたりがいれば、こんな苦労をすることも無くなりそうだな」
「それはこちらが言うことですな」
「どちらが言おうと、早く済むならいいだろう」
「違い有りませんな」
マーニャが、得心がいったように頷く。
「……大体、わかった。王子様ってのも、大変なんだな」
すっかり憔悴しながらも、売り上げの多さになんとか立ち直った旅の商人に支払いを済ませ、改めてマーニャとミネアが宿の主人に断って場所を借り――宿の主人は同郷のふたりから金は取れないと、快く場所を提供してくれた――、今後の予定を話す。
「例のスライムが、また情報をくれまして」
ミネアが話し始めるのに、ホイミンがぴくりと反応するが、声は上げずに堪える。
ミネアが、話を続ける。
「私たちの父、錬金術師のエドガンの秘密の研究所が、西の洞窟にあるという話で。そこに行けば、魔法の鍵があるのではないかと」
「魔法の鍵と言うと、盗賊の鍵と比べ、より複雑な鍵の扉も開けられるという品じゃの。錬金術師であれば、簡単に作れるという話であったか。それ故に、盗みの疑いをかけられることを嫌って、滅多に作ったり持ち歩いたりする者はおらぬとも、聞くがの」
「さすがに、博識ですね」
知識を披露するブライをミネアが賞賛し、マーニャが呟く。
「……だから、鍵を引きちぎってやがったのか。おかしいと思ったんだよな、んなもんがあるのに……やっぱ、おかしいな」
「何か、言うたかの?」
「こっちの話だ」
トルネコが、話を戻す。
「そんなものがあれば、助かることは、ありそうですわね。ソレッタの南の洞窟のようなことも、あるかもしれないし。」
「それなら、蹴破ればいいだろう」
「王子。あの時もそうですが、無闇に物を破壊するのは、やめなされ。鍵があるのに、使いもしないなどと」
「なんでも蹴破れるとも限らねえだろ」
「騒ぎになると、困る場合もありますよ」
「確かに。城の壁も、一度で蹴破れた訳では無いからな。それもそうだ。しかし、今はライアン殿を探すのが先じゃないか?」
「王子」
「まあまあ、ブライさん。」
小言を受け流したアリーナに、言い募ろうとするブライを、トルネコが宥めて止める。
ミネアが続ける。
「それは、そうなのですが。どうも気になるので、占ってみたのです。その結果、ライアンさんに会うのに、必要になりそうだと」
「ミネアの占いは、当たるからな。あとに回したところで、どうせ取りに戻る羽目になるなら、先に取っといたほうがいいだろ」
マーニャも口を添えるのに、アリーナが応じる。
「そうか。ふたりがそう言うなら、そうなんだろうな」
「それでは、西の洞窟に向かうのですね。ホイミンさんも、よろしいですか?」
クリフトに気遣うように問われ、ホイミンが少し考えた後、頷く。
「……それが、ないと。ライアンさんに、会えないんだよね?……うん。大丈夫」
「洞窟に、行くのね。馬車があるし、ホイミンがいるし。洞窟に行く人と、残る人を、考えて分けないと、だめね」
少女の懸念に、ミネアが洞窟の様子を思い出しながら答える。
「それなら。広い洞窟ですし、階層の移動が階段ではなくて、機械仕掛けになっていますから。馬車ごと入れますよ」
「そうなの。なら、大丈夫ね」
「……ちっ。今回は、留守番はなしか」
「兄さんの洞窟嫌いも、大概だね」
「まあ、いい。実際、この面子で別行動ってのも、不安なとこはあるしな。行くなら、さっさと行くか」
後書き
遠回りしながらも、着実に探し人へと近付く一行。
運命に導かれて出逢う、その人、その場所。
次回、『5-32女戦士』。
9/11(水)午前5:00更新。
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