問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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The PIED PIPER of HAMERUN ④
《え・・・操れない?》
一輝は急に重力のコントロールを失い、呆然としていた。
「BRUUUUUUM!」
その隙に、シュトロムの風による攻撃が放たれ、一輝は建物に叩きつけられる。
「ガハッ」
一輝は少し血を吐く。
「BRUUUUUUM!」
そして、別のシュトロムが一輝を狙ってくる。
「やべっ。」
一輝はあわてて水を操ろうとするが・・・
ズキン!
「あ・・・ぐ・・・」
今までとは桁違いの頭痛により、その場で頭を抱える。
《なんで・・・まだ、あのときほど操ってないのに・・・!》
確かに、一輝の本来の限界まではまだまだ遠い。
しかし、今とそのときとの状況はまったく違うし、何より一輝はいま、大量の血を失っているのだ。
体の限界が早くなるのは、当然のことだろう。
そして、うずくまっている一輝に向けて、シュトロムが攻撃を放ってくる。
《俺、ここで死》
「スリーピングビューティー!」
シュトロムによってつぶされる寸前に、茨が一輝を捕らえ、引っ張る。
「この茨って・・・」
「一輝!あんたなにやってるの!」
引っ張られた先には、ものすごい怒っている音央がいた。
いや、正確には・・・
「オマエ、何でここに・・・」
「何で、ではないでしょう!」
音央と同じくらい怒っている鳴央もいる。
「だって・・・お前らも知ってるだろ?こっち側にはシュトロムが大量にいることぐらい。なのに何で?」
「あなたがあんなことを言うからでしょう!」
「あんなこと?」
「召喚速度の上がったシュトロムを全部重力で縛るって!」
「あなたの体はまだ本調子ではないのですよ!」
「そんな状況で頭痛を抱えながらやり続けるって言われて、心配しないわけ無いでしょう!」
「でも、この数相手にお前達じゃあ、命の危険があることぐらいわかるだろ。」
二人の実力では、まだ半分は対処できない、そう思ったから。
だから、自分で引き受けよう。
自分が助けたんだから、最後まで守り続けよう。
その責任感から、一輝が自分のほうに相手の意識を集中させたのだ。
しかし・・・
「箱庭に来てすぐに、命の危機に飛び込んでいった人が、それを言いますか。」
「あたし達を捕らえてたゲームだって魔王が設置したゲームだったから、十分に命の危機はあった。」
《それは、まだ魔王の実力を知らなかったから。》
「それに、神隠しにあって、存在自体が消えてしまう可能性も。」
「それでもあんたは、迷わず私たち二人を救ってくれた。」
《ただの自己満足だ。》
「だから、一輝さんが危ないときは、私たちで守ります。」
「そういうわけだから、あんたはそこで見てなさい。」
そういって、音央は茨を操り、鳴央は自分の周りに野球ボールくらいの大きさの黒い球体を無数に作り出し、シュトロムたちへと攻撃を開始する。
「スリーピングビューティー!」
「アビスフォール!」
音央が空を飛びながら、茨で縛り上げ、ぶつけ、破壊していく。
鳴央が自分の周りの黒い玉を飛ばし、シュトロムを喰らっていく。
一輝は、何も出来ずただその光景を見ていた。
《せっかく、守るための力を手に入れたのに・・・》
自分は何も出来ず、仲間が傷つくのを、見る。
《自分が守られててどうすんだよ・・・》
何も出来ない、自分の現状を見る。
《俺は・・・もう二度と大切な人を、仲間を、居場所を、失わないんじゃなかったのかよ・・・》
そして、自らの欲望を、願う。
《チカラが欲しい。仲間を、大切な人を、居場所を、全てを守れるだけのチカラが・・・欲しい!》
《ほう・・・チカラを望むか、小僧。》
その声は、一輝の中から、響いてきた。
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急に響いた声に驚き、目を開けると、そこは何もない、ただひたすらに暗い空間だった。
「ここは・・・?」
「おぬしの中の檻じゃ。」
先ほどと同じ声が背後から聞こえ、振り向く。
そこには、着物を着た、頭の長いお爺さんが立っていた。
そして、一輝にはこのお爺さんが何者なのか、心当たりが有った。
「あんたがぬうりひょん・・・いや、ぬらりひょんか?」
「うむ。今はその名で呼ばれておるのう。」
当たりだったようだ。
「しておぬし、先ほどチカラを望んだな?」
「ああ。」
「じゃから、わしはおぬしを呼び出した。」
「チカラを、くれるのか?」
「うむ。それがわしと、おぬしの先祖との契約じゃからのう。」
ぬらりひょんは、そこで初めて、一輝と目を合わせる。
「ただし、対価をいただこうかのう。おぬしは何を出せる?その覚悟に見合ったチカラを、くれてやろう。」
その合わせた目は、一輝を見定めようとしていた。
いや、ぬらりひょんの目だけではない。その場の360度全ての方向から、一輝を見定めようという視線が向けられている。
一輝の中に封印されている妖怪の、魔物の視線を、向けられる。
「俺は・・・」
「悩んでおるか。まあ、仕方のないことではあるな。ちなみに、おぬしの父親は自らの体を差し出した。じゃから、あやつの体はだんだんと妖怪に近づいていった。」
一輝はその言葉を聞き、どうするのかを決めた。
「俺は・・・オマエたちには何も差し出さない。」
「ほう・・・なら、チカラはいらんのか?」
「いや。俺が守りたいのは今だ。なのに、自分の体が妖怪に変わっていったら、困るからな。だから、おれ自身は何も差し出さない。
だが、俺からお前達に与えれるものはある。」
「「「「それは、なんだ?」」」」
ぬらりひょんの声だけでなく、他の妖怪達の声も聞こえてくる。
「それは、お前達を外に出してやることだ。」
「「「「・・・・」」」」
妖怪達が黙る。
「俺は確かにチカラがほしい。自らの体に宿るようなチカラも、武器のようなチカラも、強くなれる全てのチカラがほしい。
でも、一番欲しいのは仲間を守るチカラだ。そして、それには自らの力だけじゃなく、戦力が必要になる。だから俺は、お前達には、俺の戦力になって欲しい。
そして、そうなれば、お前達は一時的にとはいえ、外に出られる。
妖怪として戦える。
俺から出すのは、その権利だ。」
どうだ?と一輝は問いかける。
その言葉に、ぬらりひょんはといえば・・・
「わっははっはっはっはっは!」
ものすっごい笑っていた。
「自らの身は何も差し出さん。しかし別の対価ははらう、か。なかなかに面白いじゃないか!おぬしらもそう思うじゃろ?」
ぬらりひょんが問うと、周りにいる気配はどんどん盛り上がっていく。
「満場一致じゃな。」
「ってことは?」
「うむ。おぬしにチカラをくれてやる。
それも、ただのチカラではない。おぬしの一族に伝わる奥義のすべてをくれてやる。ありがたくおもうがよい。」
「ああ。感謝するよ。」
「ならば、唱えよ!おぬしの望む能力、それをあらわす言霊を!」
「ああ!」
一輝の意思はだんだんと戻ってゆき、元いた場所へと戻っていた。
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一輝が少しふらつきながらも、しっかりと立ち上がる。
「一輝さん?」
「一輝?」
音央と鳴央が心配そうに声をかけてくるが、気にせず立ち上がる。
まだふらつく体には、しかし確かに力がこもっている。強い意思は、満身創痍に等しい体に力を与える。
そうしてゆったりと体を起こしながら腰にさした量産型妖刀を抜き、頭上に構え・・・
自らの望む力を、唱える。
「さあ、百鬼夜行の始まりだ!」
誰も見ていないから、気づくものはいないが、一輝のギフトネームが一つ、変化していた。
“陰陽術”が、“外道・陰陽術”へと。
後書き
こんな感じになりました。
では、感想、意見、誤字脱字待ってます。
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