ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~
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DAO:ジ・アリス・レプリカ~神々の饗宴~
第三話
リムジンが向かったのは、小波達が本拠地としている《時計塔》だ。
時計塔の裏側、恐らく一般人には知る者はいないと思われる入口からリムジンを入れさせた小波は、そのまま時計塔の地下深くまでリムジンを下ろしていった。
「こんな機械的な場所が……時計塔にあったんだな」
「自慢の改造施設さ。だれにもまねはさせないよ」
言葉どおりに自慢げな声色で小波が言う。
「で、このまま車でどこまで行くんだ?」
「もうすぐ着くよ。………大門、止まって」
「は」
リムジンが止まったのは、近未来然とした駐車施設だった。そこにはすでに三台の車が――――。
「こっちだよ」
車を降りた小波は、大門を引き連れて歩いて行ってしまった。
「……行きましょう、清文お兄様」
「あ、ああ……」
ハクナに促されて、清文も車を降り、小波たちを追いかける。
近未来然とした通路を歩いていくと、奥に黒い扉が見えてきた。
「あそこだよ」
小波は正面に立つと、横にあるパネルに手を置いた。
『掌紋を確認しました。パスワードを入力してください』
「へいへい」
小波が複雑な文字の羅列を打ち込む。
すると、ぶぶー、という間抜けなブザー音が響いた。
「あれれ?」
『パスワードが、間違っています』
「おっかしいなぁ……」
小波はズボンのポケットから携帯端末を取り出すと、画面をスクロールして、ある場所に辿り着くとそこを押した。そのまま携帯端末を耳に当てる――――。
「あ、もしもし、千場?あのさ、パスワード変えたでしょ?」
『――――チッ。気付いたか。二度と入ってこれないようにしてやろうと思ってたのに……しかたない。開けてやる』
「サンキュ~恩には着ないよ」
直後、かしゅっという爽快な音を立てて黒いドアが横にスライドする。
部屋の中は、真っ暗闇だった。しかしそこかしこに青白いパネルの光が映し出されており、闇は気にならなかったが――――。
「遅かったな、小波」
「しかたないだろ~?清文が食欲ないっていうんだもん」
「関係ないだろそれは……。――――久しぶりだな、清文」
小波に声をかけたのは、白衣に身を包んだ黒髪の男だった。背が高く、整った顔立ちをしている。纏う雰囲気はどこか秋也や茅場と似通ったところがある――――。
「はい。お久しぶりです、千場さん」
「よせ。また昔みたいに『明兄』と呼んでもらって構わないよ」
千場明。
小波の初期の頃からの仲間で、《ボルボロ》の元ナンバーツー。清文も何度か彼に世話になったことがある。
「ああ……明兄もこんなところにいたのか。まだボルボロにいるのかと思ってた」
「まさかな。俺もお前が名実ともに除名されたときに逃げ出したよ」
――――除名。
そう。清文は、日本にわたってからのしばらくの間、ボルボロの幹部に名を連ねていた。
何度かアメリカやイギリスにわたったこともあった。しかし清文はボルボロを嫌っていたので、活動にはほとんど参加せず、SAOにとらわれる前にはすでに除名処分とされていた。
「しかしすごい施設だな。何やってるんだ?」
「……見たいかい?清文」
小波がにやりと笑い、モニターの一つに向かって手をかざす。
「System call. Whatever begins monitoring the "Arufuheimu Online"」
「な……ちょっとまて、いま《アルヴヘイム・オンライン》って……」
直後、その画面によく見知ったイグドラシルシティの画像が映し出される。どうやらリアルタイム映像のようで、プレイヤー達が広場を闊歩していた。
その中に清文は、見間違えるはずもない顔を見つけた。
「―――――コハク!」
「ん?……ああ、あの娘かい?呼びかける?ここからなら彼女のIDをハッキングしてメッセージを送れるよ。肉声でね」
それはすさまじい誘惑だった。
琥珀に何も伝えないでここまで来てしまったことを、恐らく清文は一生後悔し続けるだろう。それを此処で謝ることができれば。多少の罪悪感は薄れるのではないか――――?
しかし清文は首を左右に振った。
「いや……いや、いいよ。もう、俺は……」
「そうかい?」
「ああ。……それより、あの《ALO事件》の時に陰斗を邪魔したのも、ユニークスキルをALOに反映させたのも、スルトをハッキングしたのも、グリヴィネにおかしなシステムを付与したのも……みんな、あんたらの仕業だったのか……?」
「ああ~……かー君はきつかったねぇ。危うくこっちのバリアも崩れるところだったよ。まぁ、あれをやったのはこっちじゃなくて《ボルボロ》だけどね。それに、刹那ちゃん、だっけ?あの子の《あれ》はもともと彼女の中にあったものだよ」
それは理解し切れない話ではなかった。
陰斗はグリヴィネの不思議な性格変化を{R}や{ЯR}と呼んでいた。それは彼が、あのシステムを理解していたからに他ならない。
「スルトの剣に関してはちょっと自身があったんだけどなぁ~。大変だったんだよ?違う世界にゲート開くの」
「ゲツガも……お前が呼んだのか」
清文はホワイト・バレットと呼ばれたあの強力なプレイヤーのことを思い出した。
「そうだよ。それだけじゃない。陰斗君のところに刹那ちゃんを送ったのも俺達さ」
小波が、初めて一人称を使った。
ついに彼女が自己を主張するのだ。
「な……!?」
「《本物のシャノン》を説得するのは苦労したよ。まぁ、結局過去のグリーヴィネスシャドウを貸してくれるだけだったんだけどね……。だから刹那ちゃんも、本質的には《偽物》」
「まて!《本物のシャノン》ってなんだよ!?陰斗は……あいつは何者なんだ!?」
すると、今まで黙っていた千場が口を開いた。
「その答えは、お前が我々の計画に協力してくれるというならばおのずと導き出されてくるものだ。今回お前を呼んだのは、我々が開発しているVRワールド、《ジ・アリス・レプリカ》の完成に協力してもらうためだ」
「《ジ・アリス》……」
その名前に、清文は少し聞き覚えがあった。
VR機器が整う数年前の話だ。意識不明になって倒れ、目が覚めないという事件が、主に東京の周辺で多発した。被害者は一様に携帯端末に《ジ・アリス》というファイルをダウンロードしており、また、それを複数の共通人物から渡されていた。
レプリカ、ということは、彼らがつくっているのはその贋作……?
「――――『世界の果てには、六つの門があって、そこから膨大な魔力があふれている。その門にはそれぞれ守護する神がいて、人はそれを《六王神》とよんだ。世の中のあらゆるものにはそれを守護する神がいて、人はそれを、《六門神》と呼んだ』――――」
「……《六門神話》」
それは、清文が幼いころから親しんできた物語の最初に必ずあった、始まりの言葉。
「まさか、《ジ・アリス》って……」
「そう、あの世界は、六門神の加護を受けていた。あの世界はもう消滅してしまったけど……俺は、あの世界を、六門神のいる世界を見てみたい」
それが幼いころからの、小波の夢―――――。六門神がいる世界に行ってみたい。
彼女がその夢をなぜ抱いたのかはわからない。けれど彼女は、ずっとその夢を実現させるために、あらゆる手段をとってきた。
「《レプリカ》はもうほとんど完成しているんだ。後は世界を安定させるだけ――――。清文、君をはじめとする五人のテストプレイヤーを《レプリカ》に送り込む。それであの世界が正常に作動しているかを確かめてくるんだ。それが君の仕事。そして――――それが終わったら、君を日本に返すことを、俺が子供のころから憧れてきた六門神たちと、この実験にかけて誓おう」
「………!!」
そこまでして――――この計画を成功させたいのか。
なんという……なんという意志力。
「わかった。俺はできる限りあんたたちに協力しよう。ただし、終わったら必ず俺を返すと約束してくれ。それも、俺が死んだらおわり、っていうオチじゃないように」
「誓おう。そうだな――――期限は最大でも一年。どうだい?」
「――――了解」
「契約完了だね」
小波はにっこりと笑った。
それでは、と、千場が声をはっした。
「こっちに来てくれ、清文。君の仲間を紹介しよう……ハクナもこっちに」
「はい」
「お、おう」
後書き
次回につづく!!
いや~結構核心に迫る話ですね今回は。自分で言うのもなんですが。
そろそろまた更新が遅くなってくる頃ですね。とりあえず次回をお楽しみに!
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