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ネギまとガンツと俺

作者:をもち
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第8話「春休」


 終業式が始まった。いつものように行事を淡々とこなし、タケルとネギが壇上に上がった。

「フォフォフォ、皆にも紹介して置こう。新年度から正式に本校の英語科教員となるネギ・スプリングフィールド先生と国語科教員の大和タケル先生じゃ。ネギ先生に4月から3-Aの担任をタケル先生には副担任をしてもらう予定じゃ」
「オオ~」

 小さな歓声と拍手が起こり、ネギとタケルは壇上から降りてその役目を終えた。終業式も無事に終わりを迎え。

 生徒達に残る行事は各クラスでのHRをのみとなった。

「じゃあ、タケル先生。行きましょうか」
「ああ、ネギ先生」

 二人して笑いあう。お互いを知り合ってまだ大した時間は経っていないがそれでもどこか信頼関係をおけるような間柄になっていた。

 そのまま足を教室に向けようとしていたときだった。

「タケル先生?」

 呼びかけたのは学園長だった。手をチョイチョイとやってタケルだけを呼び寄せる。怪訝な顔をしたタケルがネギに「ちょっと待っててくれるか?」と尋ね、ネギが頷いたのを確認して学園長のもとへと向かう。

「……なんですか?」
「終業式終了後に実は会って欲しい生徒がおるんじゃが・・・・」

 そう言って、住所が書かれた紙を手渡した。タケルは困ったような顔で「俺、ですか?」と尋ねる。

「人選ミスじゃあ――」

 ――ないんですか? と尋ねる前に学園長が答えていた。

「キミがやっとるバケモノ狩りについて協力させてもらいたい人物がおるんじゃ」
「なっ!?」

 驚きの顔を見せたタケルに、学園長は「フォッフォッ」と笑って、

「ワシは何でも知っとるよ。何、悪い話じゃないはずじゃし、頼まれてくれんかの?」
「……はぁ」

 どこか納得のいかない顔をしつつも頷いた。それを見届けた学園長が「うむ、スマンの。用件はそれだけじゃ」と告げてそのまま去っていってしまった。

 ――協力してほしい人物?

 どういうことだろうか。

 少しの間そうやって首を捻らせていたのだが、ネギを待たせていることを思い出し、とりあえず思考は一時中断してネギの元へと向かったのだった。

「何を話していたんですか?」

 尋ねるネギに「頼まれ事を少し」とだけ答えておく。あまり深く突っ込まれても面倒なため、話題を変えることにする。

「それよりも、しっかりとみんなに話をする内容を考えているのか?」
「……あ、そうでした。今日で一応終業式ですから、しっかりと良い話をしないと!」

 良い教師であろうと燃えるネギに、タケルは小さな笑みを浮かべる。

 こうして、春休みは始まった。




 そして、気付けば、春休み最終日、新学期の前日にまで迫っていた。

 ――……まだ大丈夫か?

 少しだけ困ったように頭をかき、住所が書かれている紙に目を見やりながら歩く。終業式に学園長に頼まれたことがあったのをすっかり忘れていたのだ。明日にある始業式の準備を始めた時、偶然にも紙を見つけ、その用事を思い出したのだった。

 ――真祖にして最強の魔法使い、エヴェンジェリン、か。

 実はこれから向かう住所の人物について学園長から教えられていた。何でも「何も知らずにいくのは少し危険じゃからの」だそうだ。

 真祖という言葉に、ミッションで戦った吸血鬼を思い出してしまう。

 人語をあやつり、人間と似たような姿で、強化スーツ以上の力に、様々な能力と再生機能つき。という正にバケモノと呼ぶにふさわしい存在だった。実際、あれはガンツの採点でも100点だったわけだが。

 昔の話を思い出していたらいつの間にか目的地に着いていたらしい。

「……ここか」

 足を止め、周囲に目を配る。木造の一軒家が堂々と佇んでいた。辺りには木々が立ち並び、側で流れる小川が一層にさわやかな空気を醸し出している。

 どこか和みそうになる自身を戒めつつも呼び鈴を鳴らしドアをノックする。

「学園長の使いで来ました。大和猛です」

 ・・・・・・。

 返事がないため、もう一度繰り返す。呼び鈴を鳴らし、ドアをノック。

 ・・・・・・。

 やはり返事がない。

「留守か?」

 小さく呟いたところで「――どなたですか?」と扉が開いた。

「大和猛です。学園長の使いで来ま――」

 応対のためにでてきた女性に見覚えがあり、言葉が止まった。

「――絡操さん?」
「猛先生、こんにちは……マスターに何か御用でしょうか?」

 ――マスター……誰だ?

 タケルの疑問を解決するかのように、その人物は現れた。

「何のようだ……大和猛?」
「……エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル」

 タケルの呟きに、エヴェンジェリンはニヤリと笑みを浮かべる。

「ほう、貴様が学校にきて1,2度しか顔を合わせていないというのに、よく私の顔を覚えていたな」
「それが仕事だ」
「それで、何のようだ?」
「……学園長に『夜のバケモノ狩りを協力させろ』と言われてきた」

 その言葉に、彼女はピクリと眉を震わせて怪訝な顔を見せた。

「そうか、お前があのバケモノ共を……にしては魔力も気も全く感じんが」

 どうやら学園長も、目の前のエヴェンジェリンも、星人のことを単なるバケモノと考えているようだ。

 ――そういえば。

 楓のことを思い出す。

 ――彼女は星人を魔物、と呼んでいたな。

 どうやらこの世界には本当にバケモノらしき存在が複数のタイプで存在しているらしい。だったら、星人のことをバケモノと称していれば、ガンツのこともばれずに済むのではないだろうか。

 自分の中で答えを出したタケルが、彼女の問いに答える。

「……俺は今までそういったバケモノ狩りを専門にしてきた」

 ――あれ、答えとして少しおかしいか?

 自分で答えておいて首を捻りそうになるが、その言葉を聞いたエヴェンジェリンは考えるように俯き、なるほどと呟いた。

「魔力でも気でもない、特殊な能力か武器。もしくはそういった類というわけか」
「……ああ」

 ――何この娘。合ってる、まさにジャストミートだよ? ……むしろそれ以上答え導かれたら俺の頭が爆弾でジャストミートだよ!

 タケルが半分ほどテンパったところで、

「いいだろう、お前はなかなか使えるようだ。もし何か異変が起きればすぐにお前に知らせてやる」

 と結論を勝手に出された。

「……む?」

 協力というのはそういうことらしい。結局、星人を駆除するのはタケルの仕事だということだろう。いや、それどころか星人以外でも対処させられるかもしれないことを考えると、むしろ今までよりもやることが増えるかもしれない。

 それに気付いたタケルが少しだけ首をかしげたのだが、エヴェンジェリンはそれを見てかすかに苛立たしげな顔を見せた。

「不満か?」

 ――せめて給料増やしてもらえるか、聞いてみよう。

 給料が増えるかもしれないことに、どこか意欲的になった彼はすぐさま学園長に報告したくなったらしい。どこかソワソワした態度を見せだした。だが、彼女の問いに答えていなかったことに気付いたのか、逡巡する様子を見せ、躊躇うように口を開いた。

「……いや、少し用事を思い出しただけだ」

 と区切り、

「スマンがそろそろ帰る」と付け加えた。エヴァンジェリンはそれに気を悪くした様子も見せず、苛立たしそうな態度から一変、ニヤリと笑みを浮かべた。 
「ほう……そうか」
「ではまた。学校には出来るだけ来るようにな。絡操さんも、それじゃあ」
「はい。さようなら先生」

 家を出たタケルは急いで学校へと戻るのだった。




 扉が閉まり、タケルの気配が急速に遠のいていく。

「……マスター?」

 エヴェンジェリンが笑みを浮かべていることに気付いた茶々丸が首をかしげる。

「茶々丸、あいつは面白いぞ。私が少し見せた苛立ちだけで私の実力に気付いて逃げたぞ。生き残ることにかけては私よりも優れているかも知れんな」

 心底愉快そうな笑みを浮かべるマスターに、茶々丸は一般的な疑問をぶつける。

「……単に逃げただけでは?」

 だが、その言葉に首を振る。

「あいつは臆病な訳ではない。げんに、私が最初に姿を見せたときに発した冗談交じりの殺気を見事に無視しおった……相当な実力者のようだ、しかも学校ではその姿を一切見せん」
「……」

 黙って耳を傾ける茶々丸に、言葉を続ける。

「ふふん、確かあやつはまだ15、6だったな。面白い、いつも人間は貧弱なくせに、時々思い出したかのように強者になるべく存在を生み出しおる」

 ふふふと不気味な笑みを浮かべる彼女に、茶々丸はそっと静かに、タケルのデータに少し付け加えるのだった。

 ――マスターに気に入られた不幸な先生。がんばってください。

 と。




 夕日が影法師をより長く伸ばし、風が涼やかに流れ、親子が手をつないで楽しげに歩く。

 なんともいえない幸せな光景を邪魔するかのように一人の男が親子の横を走りぬけた。和やかに笑っていた親子の目が丸くなり、穏やかな雰囲気は見事にその男によって壊されてしまった。

 その男、タケルは爆走していた。「スーツ着込んでますが……え、それが何か?」的な勢いでそれはもう見事なほどに爆走していた。

「給料があがったら……」

 先程からそればかりを呟いている。余程貧乏に生きてきたのだろうか?

「給料があがったら……見えた!」

 学園が彼の目に映り、その瞬間には全力で飛び跳ねていた。いくつもの家屋を過ぎ去り、到達点は学園の玄関。学生達が最も出入りを果たす下駄箱の前に。

「――あ」
「……む?」

 一人の少年は杖に跨り、下ばかりを気にしていた。それは無理もないだろう。高さ数十Mのところに人がいるとは思わないし、生徒達に追われていたのだから。

 もう一人の少年は学校ばかりに目をやっていた。それは無理もないだろう。何せ、今彼の頭を支配しているのは給料のことばかりなのだから。

 それは他所見をしていた二人とっては、予想外に。だが、当然に。

 空を飛んでいたネギと空に跳ねていたタケルは見事に衝突を果たした。

「うわわわ、タケルさん!? どどどどうしてこんな高いところに!?」
「……言ってる場合か?」

 二人がもつれあって学校に落下する。

「うっわわわ、こんがらがって魔法が使えない~!?」

 ネギが慌てて腕や足を振り回す。タケルが落ち着かせるように一言。

「俺に任せろ」

 その言葉に、ネギの混乱は収まり、動きをピタリと止めた。とりあえず二人してもつれ合っていたところを解いて、タケルがネギを背負う形になる。その時点で残り数M。

 本来ならばそのまま着地すればいいのだが、その時のタケルはどこか思考回路がおかしかった。何やらブツブツ言いながらその場に着地したのだ。それに伴い、足から蒸気のようなものが噴出し、その衝撃を全て緩和した。

 ちなみに、呟いていた言葉は、

「カネ、キン、メシ、ユウキョウ……」

 完全に金に関する呟きだった。これでもしネギの耳に届いていたら、きっと彼はショックを受けていただろう。兄のように慕うタケルが金のことばかりを呟いていたのだから。

 だが、実際はネギには聞こえていなかったらしい。それどころか「タケルさん、呪文つかえたんですか?」と着地した途端に、ネギのさらに尊敬のまなざしがタケルを襲っていた。

 ずっと金に心を奪われていたタケルだったが、そこでやっと我に帰ったらしい。一瞬だけマズイような顔を見せ、だがすぐに「まぁ、な」とだけ付け加えた。

 ……どうやらネギの勘違いに乗っかることにしたらしい。

「だから、先生が僕の副担任に!? か、感動です、タケルさんもまほ―――」

 最後までいいかけたネギの口を咄嗟に遮った。「もが」とネギの言葉が意味を失い、くぐもる。ネギが何事か、と目を見開いたとき、聞き覚えのある少女の声が聞こえた。

「……びっくりした――」

 そこに立っていたのは和服姿の黒髪の美少女。

 しまった、という顔を見せるネギと、やはり無表情な顔のタケル。魔法を見られたと思ったネギは完全に錯乱してワタワタと騒ぎ出す。

「どこのどなたか存じませんが、今のはそのあの~、アレです。今流行のワイヤーワークっていうかCGでして――」

 意味不明な言い訳をしようとするネギに、タケルはため息をついてそっと一言。

「――近衛さんだ」
「……て、え?」

 タケルの言葉がネギの耳に届いたらしく、今度は子供らしい歳相応な反応をして見せた。

「わ~、これすごい着物ですね、キレーッ! このかさん、なんでそんな格好を?」
「ネギ君とタケル先輩こそ、どうしてこんな所に?」

 ネギがなぜか口ごもったのでタケルが答える。

「いや、俺は学園長に用事があって」
「そうなんやー」

 木乃香が不思議そうに答えた時、後ろで「木乃香さま~、どこですか!?」と聞こえてきた。

「ん……アレは? あ……アカン」

 木乃香がそれに気付き、慌てて走りだす。

「ネギ君、先輩。ウチ逃げな」
「え……逃げっ? 実は僕もなんです!」

 そのまま、逃げ出す二人をタケルはボケッと見つめて心の中でエールを送り、その学園長室に向かおうとして腕を掴まれた。しかも両腕を。

「ん?」

 なんだ、と思う間もなくネギと木乃香に引っ張られた。

「……ちょ、おい」
「先輩、はやく逃げなアカンえー!」
「タケルさん、早く!」
「いや、俺は学園長に……」
「「――行きましょう」」

 どうやらタケルに反論の余地はないようだった。




「えー、木乃香さんがお見合いーー!?」

 逃げ込んだ教室でネギが驚きの声をあげた。

「そーなんや、おじーちゃんがお見合い趣味でな。いつも無理矢理進められるんよ」
「……大変だな」

 どうでもいいのか、適当に相槌を打ちながらも窓の外を見つめているタケル。グラウンドでは黒服のSPらしき人物が「木乃香お嬢様~」と叫び、2-Aの女性徒たちは「ネギ先生~」と走り回っている。

 なにやら楽しそうに話しをしている渦中の人物達に視線を送るタケルだったが、その目に映ったのは随分と呑気な光景。

 どうやらネギの手相をみているようだ。

「ネギ君の将来のパートナーはな――ものすごく近くにいます」
「えっ」

 ――パートナー……か。

 視線を外に戻す。

 今の自分はいつ死んでもおかしくない状況にある。これはもちろん、元いた世界の時からずっとついて回る問題だ。

 虚しさを覚えると共に、図書館島で楓と戦ったときのことを思い出した。

 自然と熱くなった頬に、首を傾げて、それでもにやけた顔になっている自分の表情が窓に反射して目に映る。

 ――なんだ?

 よくわからないこの感じをリセットしようと首を振る。なんだか静かだったので後ろの二人に目を移して「なっ」

 丁度二人してずっこけていたのだ。しかも、木乃香のパンツが見えるというアクシデント付き。

「だ、大丈夫か?」

 ドキドキしながらも二人に手を差し出す。

「あ、ありがとうございます」
「先輩、ありがとー」

 と二人がその手を掴もうと手を伸ばし――

「うふふ、お三人とも仲がお宜しいようで……」
「「「え?」」」

 ネギの背後、扉の位置にアスナと雪広まどかが二人して肩を震わせていた。

「ネギ、アンタね~。心配して探しにきてみれば」
「……木乃香さん、あなたという人はネギ先生だけでなくタケル先生まで誘惑するとは」
「というか、タケル先輩も……何てことを!」
「先生はそこらへんの男とは違うと思っていましたのに」

 確かに、木乃香のパンツが見える位置に男二人が群がっている、ようにも見えなくはない。

「……いや、ちが」

 タケルが首をかつてないほどの勢いで横に振る。

「あ、アスナさん……誤解――」
「いやな、委員長。これは違うねん」

 ネギと木乃香も弁解に入る。だが、「「こっちだぞー」」

「ネギ王子~~」
「発見!」
「木乃香お嬢様~~」

 SPたちとネギを探す女性徒たちまでもが教室に入り乱れる。

 ――グッチャグッチャになりました。

「ちょ、俺関係ないだろ」

 なんて言葉は当然、誰の耳にも入ることはなかった。




 結局、ボロボロになって学園長に報告に行ったものの、既に帰った後だったという。

 その晩。

 平和を満喫している彼に、例のアレが背筋を振るわせた。
 
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