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八条学園怪異譚

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第三十六話 美術館にその一

               第三十六話  美術館に
 愛実は朝家で取っている八条新聞のスポーツ欄を見て家族に深刻な顔で言った。
「まずいわね」
「ああ、阪神な」
「昨日の試合よね」
 同じ部屋にいる両親が応える。
「今絶不調の中日相手に惨敗だからな」
「十五対一でね」
「酷いわね、肝心のピッチャーが」
 ことごとく打たれたというのだ。
「これじゃあ駄目よ」
「今年もまずいか?」
「嫌な感じよね」
「最近ピッチャーの調子がね」
 よくないと、愛実はスポーツ欄を読みながら言う。102
「困ったわね、これは」
「とはいってもなあ。今夏だからなあ」
「只でさえ夏バテするのに」
「地獄のロードの最中だぞ」
「それなら仕方ないわよ」
 両親はある程度諦めていた。とにかく阪神にとって夏は鬼門なのだ。
「それに打たれる時もあるだろ」
「そんなに考えることないわよ」
「だといいけれどね」
「そうだ、阪神ファンならもう覚悟しておけ」
「負けることはね」
 両親は既にそれをわかっていて受け入れているといった口調である、その口調で愛実に対して言うのだ。
「御前ももう十六だからな」
「そうしたことでいちいち騒がないの」
「それに今は新聞を読むな」
「朝御飯食べなさい」
 丁度家族でちゃぶ台を囲んで朝食を食べている、メニューは豆腐と若布の味噌汁にお漬物、納豆と卵焼きだ。
 勿論主食は白い御飯だ、愛実の前にもその白い御飯がある。
「今日も学校に行くんだろう?」
「じゃあ早く食べなさい」
「そうよ、今日もお味噌汁美味しいわよ」
 愛子もちゃぶ台を囲んでいる、その自分の席で味噌汁を飲みながら妹に言う。
「愛実ちゃん朝はいつもこれでしょ」
「お味噌汁ね」
「だから飲みなさい、早く」
「うん、じゃあね」
 姉にも言われた愛実は新聞を脇に置いてそのうえで言った。
「それじゃあ」
「阪神のこともいいけれどね」
「まずは食べないとね」
「そう、それからよ」 
 全てはそれからだというのだ。
「わかったわね」
「ええ、じゃあね」
 愛実は箸を手に取って食べはじめる、卵焼きには醤油をかけない。
 御飯の上にはかき混ぜた納豆をかける、それで卵焼きと漬物で御飯を食べる。
 母はその愛実を見てこう言った。
「愛実ちゃんは朝は絶対に御飯よね」
「ええ、やっぱりね」
「和食じゃないと調子が出ないっていうけれど」
「そうなのよ、昔から」
 白い御飯を食べながらの言葉だ。
「どうしてもね」
「パンは駄目なのね」
「何かね」
 パンについては難しい顔で言う。
「食べた気がしないし。力も出ないから」
「そう言うわね」
「お昼はパンでもいいのよ」
 その時はというのだ。
「けれど朝は絶対」
「一日のはじまりは」
「そうなの、ずっと朝は御飯だし」
「まあうちは食堂だしね」
 その白い御飯が出るところだ、それも理由である。 
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