SeventhWrite
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来訪者
「夢かよっっ!!」
読み始めて十分くらいした時に後ろから大声がしてあたしは普段本は読まないからそれで集中が切れてしまった。後ろから蘭がうるさいと言う声も聞こえた。
「ごめんなさい」
そしたらしぼれた声で謝る声がする。びっくりしたけど素直に謝ったから蘭もそれ以上何も言わなかった。
………えーと次のページは………あった!後ろの席に、ちょっと拝借。
水瀬君と木崎君が話している横で続きを読む。
………………あれ?
「なぁんだ、夢だったんだ、なんか残念」
美咲お姉ちゃんと同じ名前の登場人物が出てきたから気になったけど、あんまり登場しなかったな。
「というかなんで水瀬さんも読んでるの?」
木崎君は何をいまさら言っているのやら。
「隣の席と後ろの席の人が朝から自作の小説の話ばっかりするから、気になって水瀬君に読ましてもらったの。そしたら中々面白くてね」
そう言った直後に木崎君はこの世の終わりみたいな表情をする。
なんでショックを受けてるのかな?
「ふん、これが一般的な意見という事だなキサキ君」
隣の席で水瀬君がふんぞり返って言いました。やっぱり変わってるなぁ。
その言葉を受けた木崎君は頭を抱えそうなくらい難しい顔をしている。あたしが面白いって言っただけなのに何をそこまで思いつめているのかな?
「……どうせ万人受けしないさ……」
さっき以上にしぼれた声でした。
「なんでそんな事言うの?ふみ君」
するといつの間にかあたしの横に見慣れない(当たり前か)女の子が立っていました。後で聞いたのですが彼女は月村依都子という名前でした。
「依都子ちゃんまで……」
月村さんは幽霊の貞子みたいな長髪をしていて失礼だけど少し不気味な感じがする。そんな子がわざわざ話に加わってくるなんて少し意外だった。
まぁ今はそんな事より
「ええと、木崎君…だっけ、君ってなんか偏見が強くてガンコだよね」
名前が実はうろ覚えで自信が無かったから変な言い方になった。けど雰囲気が伝わるようにふぅやれやれといった感じで溜息をついた。
「もういいや、だったらもう読まないさ」
うわぁ……拗ねた~
「ふみ君って昔からこうだから、私のすすめる本もあんまり読んでくれないし」
……人の本のセンスにケチつけてることより月村さんと木崎君がそこそこ仲がいいことの方が気になるなぁ。
それについては納得できない事があるのか木崎君は勢いよく立ち上がる。
「ちょっと待てや、よんで数ページ目からのセリフが『お兄様、お兄様、お兄様』ってひたすら連呼する本(夢野久作著 ドグラ・マグラ)なんて読めるか!実際に妹がいるんだぞ!嫌な想像しちまうじゃねぇか!!」※ドグラ・マグラファンの方、再度申し訳ございません。
クラス中に響くほどの大声で木崎君は叫んだ。
まったく、学習能力の無い人。
「木崎!うっさい!」
蘭が再び顔を上げて手にしたシャープペンシルを木崎君の背中に投げ付けた。どうやらずいぶんご立腹みたい。
そして次の瞬間突如教室のドアが勢いよく開かれた。
バァーーーーーーン
そこに立っていたのはとても顔立ちがよくて清潔感もありそこそこ身長もある見た目では凄く好印象を受ける(女子に限る)ような少年が立っていた。とても印象的だし、きっともう一つのクラスか違う学年の人だろうな。
あたしも彼に対してあ、カッコいい…って思ったんだけど次の一言でひびが入った。ええ、凄く大きな修復不能なひびが。
「呼んだかい?愛しの綾文」
ん?今なんて言ったの彼?
一瞬思考が止まるけど彼の口上は止まらない。
「綾文の心の声を聞いて駆けつけてきたんだ、どんなことだろうと解決してみせるよ!」
………あぁ、なんて残念な人なんだろう……………
「………キモ………」
思わずそう呟いてしまっていた。
その後、木崎君とわたる君?は夫婦漫才のようなやりとりをしていた。そしてあたしの中の木崎君ともう一人の彼の株は駄々下がりだった。
「ねぇ水瀬君」
「何だ?」
「また続き書いたら読ましてくれる?」
「読者がいることは、書き手にとっては最高に嬉しい事なんだ。ぜひ、読んでくれ」
そう言った水瀬君はなんだか少しだけ大人っぽくて見惚れちゃった。
~~~~~~~~~~~~
その後はまたつつがなく午後の授業を終えて、質問された時に気になっていた部活をまわることにした。
この中学校は人数(一クラス三十人前後で全校生徒が大体百八十人)に比べて部活の数が多い、運動部が十一に文化系が四と合計で十五もある。一応パンフレットは渡されていてどんな部活があるかは把握済みなんだけど実際に見て廻って決めたい。
数箇所、適当に部活を周って候補を二つくらいに絞ってから帰路についた。時間ギリギリまで見学していて暗くなったら、帰れなくなるから。
別に夜道が怖いとかじゃないよ、まだ慣れていない土地だから道が分からないだけ。
「さてと、どっちだっけ?」
校門から歩いて数十メートル先の交差点であたしは立ち往生していた。
正面、畑やあぜ道が見える。
右、山しかない。
左、舗装された道路にちまちまと家が見える。
「よしっ!こっちね!!」
あたしは正面へと進んだ。
~五分後~
「あれ~?」
おっかしいな、蘭とあの交差点を真っ直ぐ進んで来た筈なのに。
途中で小学校に行ったせいか、どこをどう通ったか全く覚えていないあたしだった。
「そうだ、電話しよう!」
忘れてた、ポケットの中にマナーモードで携帯電話を入れてたんだった。
取り出すとバッテリーが一本になっていたけど三分くらいなら大丈夫ね、肝心のアンテナも二本立ってる。
「えっと、お父さんの番号は……」
最近登録したばかりのお父さんの番号を探した。
「ねぇそこの君、転校してきたばかりの杵島って子知らない?」
携帯電話の操作が聞き慣れない声で中断された。
「……だれ?」
目の前には見知らぬ、どこか分からない高校の制服を着ている青年が立ってあたしを真っ直ぐ見ていた。
ここは町外れのあぜ道で、人通りなんて無い。
意味も無く緊張して、落ち着かない。
「僕は大樹…峰岸大樹、杵島一美ちゃんを探してるんだ、僕は彼女の血縁でね、今日会う約束をしていたんだけど、見つからなくて」
何それ?あたし知らない………この人、何?
それに、大樹って………
「君と同じ学校に転校してきた子なんだけど、知らないかな?」
「知りませんね、あたしと別の学年の人だと思います」
あたしを探しているくせにあたしの顔を知らないあからさまに怪しい人に自分がその杵島一美だとは名乗る気は無かった。
「へぇ、確か繰賀中学校はクラスが三学年で六クラスの小さい学校だよね、他学年でも噂くらい聞いているんじゃない?」
何この人…しつこい。
「知らないって…言ってるでしょ」
「…ごめんね、疑ったつもりは無いんだけど、失礼したね」
彼はそう言うとあたしに軽く会釈し、通り過ぎて行った。
彼が曲がり角を曲がって姿が見えなくなったことを確認すると、一息ついた。なんなんだろうあの人、愛想はよかったけど何かを隠しているような目をしていた。それに大樹って名前、偶然…なのかな。今日会ったばかりの水瀬君が書いた小説の主人公と同じ名前だし。というか何であたしを探しているの?
あたしは持っていた携帯電話を操作して電話帳を開き名前を探す、今朝登録したばかりの……
「蘭、お願いがあるの、水瀬君の居場所分かる?」
この時、小説の登場人物と同じ名前の人が現れてあたしを探しているという不気味な事を解決する何かを水瀬君が知っていると直感していた。
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