ソードアート・オンライン〜Another story〜
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SAO編
第35話 白銀と漆黒Ⅳ
醜悪のサンタクロース、ニコラスとの一戦。
確かに、年一のBOSSと言っただけのことはあった。その何度も変わった攻撃パターン、防御に移行する瞬間。ランダム仕様の中にも、必ず法則性はある筈なのだが、それでも 変わり続けている。
だからこそ、リュウキは何度も視てそして解析の修正をし続けた。
弱点まず 見抜いたリュウキは、それを伝え、キリトの正確さと何よりかなりの反応速度で穿つ。
この世界で、最前線は勿論、それ以外でも様々な場所で プレイヤー達を見てきたが、この速度を上回っている者には会った事は無い。最早全プレイヤー中NO.1だろう。
そして、全てを見透かす《眼》を持つリュウキ、何よりも早い《反応速度》を持つキリト。
2人の最大の武器を合わせ、息のあった連携を見せる、魅せ、続ける事で、2人とも、かなりダメージを被ったが、ニコラスの討伐には無事に成功した。
以前までのキリトであれば、『生きていたな』と思わず言ってしまっただろう。あの日、皆を失い 己の命を軽んじてしまっている部分があったから。
だけど、今はそうは思っていない。約束を、したから。
リュウキは、何も言わず、ただ 頷いていた。
そして。まるで、最初からそうなる事が決まっていたかの様に。
その《アイテム》はリュウキではなく、キリトにドロップしたようだ。拍子抜けする程、あっけなく現れた。
アイテム名《還魂の聖晶石》
「キリト……」
リュウキは、キリトを見ると、キリトは頷いた。目の前にあるのは、求め続けてきたアイテムだ。そして、はやる気持ちを抑えつつ、その宝石をワンクリック。ポップアップメニューからヘルプを選択する。
そこには解説が書かれているからだ。あの謳い文句の情報が本当なら、書かれている筈だから。
「テツオ……ササマル……ダッカー……」
キリトは嘗ての仲間の名を呟く。目の前で砕け散ってしまった仲間の姿を。これで助けられる事ができるなら。年に1つしか得られないアイテムだとしても、例え、何年かけてでも。
《全員》を助け出すと心に誓っていた。
初めてのギルド。そのアットホームな暖かさをくれたギルド。直ぐに仲間と迎えてくれたギルドの皆を。
「ッ……!」
そして、アイテム詳細を確認した瞬間。キリトの表情に絶望が写されていた。
僅かに起こした身体も、また、膝をついてしまう。そのヘルプのところには、馴染んだフォントで簡素な解説が記されている。
可視化された詳細が書かれているウインドウは、リュウキも勿論確認した。
「………とってつけた……後付……だろ。これ」
リュウキも……思わず、そのアイテムを解説ごとぶった斬りたい衝動に苛まれた。その書かれていた説明とは。
『このアイテムのポップアップメニューから使用を選ぶか、あるいは手に保持して《蘇生:プレイヤー名》と発生する事で、対象プレイヤーが死亡してからその効果光が完全に消滅するまでの間(およそ10秒間)ならば、対象プレイヤーを蘇生することができます』
その、リュウキがいっていた後付という言葉。もう、それが何処なのか、判るだろう。(およそ10秒間)と言う一文だ。
その10秒間がアバターが四散してからナーヴギアがマイクロウェーブを発して生身のプレイヤーの脳を破壊するまでの時間だと考えられる。
「かやば………あきひこっ……」
リュウキ自身が、ここまで誰かに憎しみを殺意を感じたのは、何時だっただろうか。
人の命の尊厳を踏みにじるようなこの一文。恰も、『助けられる』そう匂わせ この文章を見せた時の絶望。
――……お前は……、この世界の何処かで見ているというのか?
――……鑑賞し、ほくそへんでいる……とでも言うのか?
――……なら……出て来いよ。
――……あの時に言っただろ……?『良いライバルになれるかもしれない』と。……だがあの時、言ったよな?
―――……良い思い出になるかどうかは保障しないと。
極長剣にリュウキの意志が宿ったかの様に、どす黒いオーラを放っている様な感じがした。
(お前はこの世界のどこか……絶対にお前はいるはずだ。そう……恐らくはこの城の最上階。その玉座に座して待っているんだろ……?)
「………そこまで必ず行く。……待ってろ」
ギリギリッ……と、柄を握る手に不自然に力が込もった。体全体に、熱が篭り激っている自分を感じていた。
そしてキリトの方を見る。キリトは、足元が……覚束無いようだ。それを見たリュウキは、決して今の怒りを忘れない様にしつつ、どうにか、自分の身体の奥底へと追いやると。
「行こう……キリト。」
キリトの肩に触れた。
「………………ああ。」
キリトは、頷くと、リュウキの手を借りつつ 起き上がった。おそらくはキリトも同じ気持ちなのだろう。その身体は震えている。そして、感じる。絶望よりも怒りの方が優っている事に。
そして、2人は クラインたちのいる場所へと戻った。
戻った先、森の中。そこには もう、あれだけの数がいた聖竜連合のメンバーはいなかった。その場に留まっていたのは、クラインたち風林火山のみだった。
そのリーダーのクラインのみがHPをキリトやリュウキに劣らずほどに減っている様に見えた。
そしてかなり、疲弊もしているようだ。
どうやら クラインは仲間を背負い、1対1のデュエルで決着をつけたんだと推察された。聖竜連合のメンバー達も、同じ攻略組である風林火山と全面戦争をする様な事まではしなかった様だ。
そしてクラインは、リュウキとキリトの帰還に、心底ほっとしたように一瞬顔を緩めていたが、恐らく2人の表情を見て察したのだろう。
直ぐに口元をこわばらせた。
「おまえら………」
割れたような声で囁く。そんな時 キリトは、クラインの膝の上に聖晶石を放った。
「……それが蘇生アイテムだ。過去に死んだ奴には使えなかった。次にお前の目の前で死んだ奴に使ってやってくれ」
まるで、1人で決めているかのような口ぶりだった、とクラインは思ったが。
「………オレに依存は無い。今の様に、ギルドを背負うお前にこそ、それは相応しいアイテムだ。……助けれえる命を助けてやってくれ」
リュウキも同じ思いだったようだ。そんな2人を見て、クラインはもう堪え切れなかった。
『希望が打ち砕かれた』そんな表情をしている、から。
「ッ……お前ら……リュウキっ キリトよぉ……! 絶対……絶対生きろよ……。最後まで……生きてくれェェ……ッ!」
泣きながら何度も生きろと繰り返すクライン。膝から崩れ落ち、その場で蹲る。それ以上は何も言えなかった。
リュウキは、今の滾る心情でクラインの事を考える余裕はなかった。
あの時の表情をしたキリトを見て、今までずっと自分とかぶって見えるキリト。今はまるで、自分の事の様にしか考えられないから。
そして、キリトも同じだったようだ。
2人はクラインに返事をせず……そのまま、街へと戻っていった。
迷いの森を抜け 街へと入ると、主街区の転移門前広場を目指した。そして、その帰ったキリトとリュウキの前に人影があった。待ち構えていたかの様に、直立不動で立っていた。
「……何処に行っていたの?」
小柄なその体。その表情は険しく、決して反らせる事なくキリトとリュウキを真っ直ぐ見つめていた。
「サチ……」
キリトは思わず声が出る。今の今まで、一言も発せず ただ無言だったキリトだが、サチを目の前にしガラリと表情を変えた。
「……行ってたんだよね。あのイベントBOSSのとこ」
サチは確信したように言っていた。2人の表情と、そしてもう1つ彼女には確信があったのだ。
「それは……っ」
キリトは何も言えないようだ。その言葉だけでも判る。それが間違いない事を。
「……キリト。それにリュウキ君も。2人とも、私に生きろっていってくれたよね? ……だから私にも言わせて」
サチは、この時漸く動き出し、2人の前に来た。
「お願い。もう苦しまないで、《黒猫団》……その、皆が死んでしまったのは、キリトのせいじゃない。……私達にだって、あの時考えが浅くて、あんな危険な場所に向かったって言う責任はあるんだから」
サチは、キリトの裾を握り締める。
「自分を、追い詰めないで。私達の事、想ってくれてるのなら、お願い……」
その体は震えていた。あの時のように……。
「リュウキ君も教えてくれた……よね。生き抜くことが弔いになるって……。それは、キリトにも言える事だよね……?」
サチは、至近距離でキリトの目を見つめた。
「そう……だ」
その時、後ろの木陰から誰かが出てきた。
「……ッ!」
キリトはその姿を見て、驚く。それは……今は亡きギルドのリーダー。《月夜の黒猫団》リーダー ケイタがいたのだ。
キリトに呪われた言葉をはき捨てた彼が。
「メンバーが………、あいつらが 死んだのは、お前のせいじゃない……」
搾り出すようなかすれた声でそう言う。
「すまなかった……。あと……。あの時、言えなかったが……。」
ケイタは、涙を流す。失われた者達の事しか、考えていられなかった。でも、いたんだ。
「サチを……助けてくれてありがとう……」
そこから先、キリトは何を感じていたのか……?はっきりとはわからない。だけど、キリトは救われた。リュウキは、そう強く思っていた。
明らかに、さっきまでの表情じゃないから。
「………」
リュウキは、その場から立ち去ろうとする。部外者、と言えばそうだから。
「リュウキ君」
サチは呼び止めようとするが、首を振った。
「ありがと、な……」
リュウキはそう呟く。想うのはたった1つ。『キリトを助けてくれて、ありがとう』
リュウキは自身に今だ渦巻いていた憎しみが、殺意が、納まってゆく。サチの心配する心や優しさに救われた。……心が軽くなった。
そして、リュウキは手を上げながら振り向かずそのまま離れていった。キリトは、小刻みに体が震えてはいるが。きっと、オレと同じように軽くなった。
――……心が……軽くなった。そう思いたい。
こうして、1つの戦いが、物語が幕を下ろしたのだった。
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