タンホイザー
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第三幕その四
第三幕その四
「多くの者がその恩恵と救済を得た」
「では君はどうだったのだ?」
「そう、君は」
「私もあの方を仰いだ。幾千もの人に恩寵を与えられ罪を除かれたあの方の御前に。そして頭を地につけ我が罪、悪しき快楽の罪と懺悔のいやささりし渇望についても申し上げた」
「そしてどうなったのだ?」
「君は」
「これだ」
彼等に杖を指し示して騎士達に告げた。
「これがその返答だった」
「杖が!?」
「それは一体」
「あの方は仰った。ヴェーヌスベルグに留まった罪はこの杖が新緑に飾られることがないのと同じように地獄の熱き刻印から救われることはないと」
「駄目だったのか」
「そう、許されなかった」
項垂れて歌う。
「私には最早救いはなく恩寵の歌も忌々しく響く。だから」
「だから。何だ?」
「何だというのだ」
「私は求める」
彼は叫ぶ。
「あの泉への道を。愛の女神の場所を」
「馬鹿を言え、はやまるな」
「そうだ、思い止まれ」
騎士達は彼の左右を取り囲んで必死に制止する。
「君にはまだ希望がある」
「それを忘れるな」
「希望だと」
絶望に覆われた顔で彼等の顔を見返すのだった。
「私に希望があるというのか。この杖に」
「それは」
こう問われると言葉を失うしかなかった。
「だが。しかしだ」
「君はここで求めれば」
「愛欲の女神よ」
タンホイザーはまた呼びだした。
「どうか私を貴女の場所へ。ヴェーヌスベルグに」
「な、何だ!?」
「何だこの光は」
ビテロルフとヴァルターが周りを見て驚きの声をあげる。
「薄く明るい光が」
「しかもこの霧は」
薔薇色の霧であった。香りまである。タンホイザーはこの光と霧を見ていよいよ顔をあげた。
「この光と霧なのだ、これだ」
「!?まさか」
「この光と霧こぞが」
ラインマルとハインリヒはその二つの中で顔を蒼白にさせていた。
「呪わしきあの場所への」
「誘いだというのか」
「この優しい香りこそが。私が今行くべき場所」
タンホイザーは虚ろな声で語る。
「さあ、君達にも見える筈だ」
「み、見ろ!」
ヴォルフラムがここで辺りを見回して仲間達に叫ぶ。
「あの女達は」
「まさかあれは」
「恐ろしい。この世に真にあったのか」
「あれこそニンフ達」
タンホイザーは虚ろな声で騎士達に語る。
「水の乙女達に海の乙女達が」
「異教の精霊が」
「ここに出て来たのか」
「春の国ヴェーヌスベルク。永遠の愛欲の泉」
「来ると思っていたわ」
ここであの神が姿を現わしてきた。妖艶な姿を見せて。今タンホイザーの前に浮かび上がってきたのだ。
「不貞の人。あの神に許されなかったのね」
「如何にも」
暗い顔でヴェーヌスに語る。
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