タンホイザー
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第二幕その四
第二幕その四
「これを明らかにしてもらいたいのだ」
「歌手達にですね」
「如何にも。そして」
彼はさらに告げる。
「この答えを最も価値高く為し得る者には褒美が与えられる」
「褒美が」
「それは我が姪より与えられるもの」
傍らにいるエリザベートを見ての言葉であった。エリザベートもそれを受けて静かに、だが確かな動きでこくりと頷いてみせた。
「その価は思いのまま。私がそれを許す」
「何と」
「何という素晴らしい褒美なのか」
何でもよいというからだ。だがこれは今のヘルマンの喜びをそのまま告げたものであるのだ。タンホイザーの帰還を喜ぶ彼の心を。
「それではだ」
「はい」
ヘルマンの言葉に小姓達が応える。すぐに金の杯を持って来て歌手達の前を回る。歌手達は次々に紙に何かを書きその紙を折ったうえで杯の中に入れる。小姓達は続いてそれをエリザベートの前に持って来る。エリザベートはその中の一枚を取ってそれを小姓の一人に優しく手渡す。そこにあったのは。
「ヴォルフラム卿」
「ヴォルフラム=フォン=エッシェンバッハ殿です」
「おお、ヴォルフラム殿が最初か」
「これは面白い」
小姓達が告げた名は貴人達が声をあげるに充分なものであった。
「さて、どうなるか」
「最初からこれは聴きがいがあるというもので」
「でははじめて下さい」
「ヴォルフラム卿」
「如何にも」
ヴォルフラムは小姓達の言葉を受けて静かに、だが毅然とした端整な動作で立ち上がった。そして今生真面目な様子で歌うのであった。
「この貴き戸惑いを見渡し崇高なる光景に我が心は熱せられる。勇と誠、そして賢ある方々が集い壮麗にして鮮やかに緑のかしわの森の如く」
「かしわか」
タンホイザーがそれに微かに反応する。
「モミではないか」
「愛らしき花の香高き花輪にまどう。我が目はこの光景に酔い痴れ、歌はその優雅の前に止まってしまう。だは眩き天上の群星の一つを見上げ遠き彼方より魂は敬虔に沈む。そして見よ」
言葉が変わった。
「私の心に奇蹟の泉が現われ私は驚いてこれを見る。その泉から心は恵み豊かなる喜びを汲み情けは得も言われず蘇る。私はこの泉を穢すことはない」
さらに歌っていく。
「恥を知らぬ勇により手を触れることはない、崇める心で身を捧げ最後の血も喜びて流そう。さあ、この言葉のお知り下さい。愛のそのその清き本性を私がどう解しているのかを」
「素晴らしい」
貴人達の多くがヴォルフラムを賞賛する。
「何と素晴らしい歌だ」
「全くだ」
そして他の貴人達もそれに続く。
「流石と言うべきか」
「やはりヴォルフラム卿だけはある」
「見事だ」
「そして美しい」
「端整ですらありますな」
「如何にも」
口々にヴォルフラムの歌を賞賛するのであった。他の騎士達も納得した顔で頷いている。だがタンホイザーだけは何故か今の歌にシニカルな笑みを浮かべていた。
そして。今立ち上がり彼に対して言うのであった。
「ヴォルフラムよ」
「タンホイザーか」
「まだ彼の番ではない筈だが」
人々は彼が立ち上がったのを見てひそひそと言い合う。しかしその間にもタンホイザーはヴォルフラムに不敵な笑みを浮かべて言うのであった。
「君は愛の姿を不当に歪めた」
「私の歌が違うというのか」
「そうだ」
自信に満ちた声で告げるのだった。
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