| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

後宮からの逃走

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第三幕その二


第三幕その二

「起きろ、起きてくれ!」
「何だ何だ!?」
「どうしたんだ!?」
「脱走だ!」
 オスミンは出て来た一同に対してまた叫ぶ。
「奴隷達が脱走するぞ!」
「何っ、脱走だと!」
「それは大変だ!」
「逃がすな、塞げ!」
「逃がすなよ!」
 四人が呆気に取られているうちに忽ち宮殿にいる者達が出て来た。そうして四人を取り囲んでしまったのだった。本当にあっという間であった。
「やっぱりな」
 オスミンはベルモンテを見て納得した顔で頷いていた。
「御前もグルだったか」
「グルだと!?」
「そうだ。おかしいと思っていたんだ」
 ベルモンテに顔を向けていった。
「何でこんなところに来てしかもこいつと顔見知りだ」
 今度はペドリロを見ての言葉である。
「そうしたらこの通りだ。そうだな」
「くっ・・・・・・」
「おい」
 ベルモンテが忌々しげに沈黙したのを見てからオスミンは周りの者に声をかけた。
「太守様を呼んできてくれ」
「太守様をですか」
「そうだ」
 表情を消して告げるのだった。
「すぐにな。いいな」
「はい、それでは」
「これでよし」
 こう言ったうえで彼は。四人を前にして高らかに言うのであった。
「そうれ!何という大勝利だ!」
「くっ!」
「何てこった・・・・・・」
「御前等をとっ捕まえてその首を絞めてやれるんだからな!」
 歯噛みするベルモンテとペドリロを見て言う。
「笑って踊って飛び跳ねて」
 実際にそうならんばかりの勢いである。
「歓喜の歌でも歌いたいよ。これで御前等を厄介払いできるからな」
「厄介払いというと」
「そうです」
 ブロンデが真っ暗な顔でコンスタンツェに告げる。
「この男の言う通りです」
「私達は縛り首ですか」
「こっそり隠れて抜け出そうとは不届きなハーレムの鼠共。しかしアッラーはそれを見過ごされることはない」
 オスミンはアッラーの名前さえ出す。
「悪の報いを今受ける。こんな嬉しいことってあるものか!」
 オスミンがそう叫んでいるとそこに。呼ばれてやって来たセリムが来た。他の者達は彼の後ろに集まっている。ベルモンテ達は相変わらず囲まれている。
「どうしたのだ?この騒ぎは」
「不届き者を捕らえました」
「不届き者!?」
「そうです」
 オスミンは恭しく主に対して述べた。
「この者達がです」
「むう」
 セリムはここで四人を見た・とりわけコンスタンツェを見て顔を曇らせるのだった。
「そなたまでいるとはな」
「私はどうなっても構いません」
 コンスタンツェは覚悟を決めた顔でセリムに言うのだった。
「ですがこの方は。ベルモンテだけは」
「その建築家か」
「いや、コンスタンツェ」
 だがここでベルモンテはコンスタンツェを護るように前に出て言うのだった。
「僕が君を護る」
「ベルモンテ・・・・・・」
「太守殿」
 ベルモンテもまた意を決した顔でセリムに対して言うのだった。
「僕が彼女の身代わりになりましょう」
「そなたがか」
「はい。僕も貴族です。嘘は言いません」
 その誇りにかけてというわけである。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧