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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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役者は踊る
  第二九幕 「確かな絆を信じて」

 
前書き
「篠ノ之」を「篠ノ乃」と書き間違えていたことが発覚しました。既に修正しましたが、もしも残党を発見したらコメントでどの話にあったかをご報告ください。 

 
前回のあらすじ:過去は過ぎ去っていくが、決して無かったことにはならない


ここはIS学園の一室。
ここで、残間兄弟とは全く別の形での“再会”を果たす少年の姿があった。

『ベル坊、本当に無茶してないんだろうな?』
『アングロ、疑う気持ちは分からないでもないですが・・・』
『その辺にしとけよ、ベルが困ってるぞ?』
「アングロ、アラス、コーラ・・・心配し過ぎだよ」

少年の名はベルーナ。家族とも友人とも離れ、単身日本に在学中の少年のような青年である。
そんな彼の前には一つのテレビ電話機能付PCが置いてあった。今回母国の友人と話すために山田先生から特別に用意してもらったこのPCは、個人使用のものとは違って学園の万全なセキュリティが敷いてあるため盗聴や通信傍受などをされる心配は少ない(無いとは言い切れない)。
画面に映っている3人の友人はいたく元気そうであり、ベルーナも懐かしさから口元を緩める。
何時も優しく、決して無理強いはしてこない好青年、アラス。気丈で無表情、しかし実は心配屋の少女、アングロ。一見無邪気に見えて、その実人の事をよく見ている青年、コーラ。

母国では孤立していたベルーナに歩み寄り、“友達”と呼べる関係までになった大切な親友たちだ。数少ない友達の中でも唯一ベルーナが「積極的な友好関係」を持つ人たちでもある

「伯父さんは・・・元気?」
『体調は問題ありませんが、君が居なくなってからため息が増えました』
『白髪も1割増しだな・・・今日は丁度用事かあるらしくってよぉ、今度手紙送るって言ってたぜ?』
「そう・・・なんだ」

少しばかり気落ちするベルーナ。だがすぐに気を取り直す。
受け答えするアラスとコーラの後ろではアングロが“やはり無理にでも学園に・・・!”とか“候補生・・・候補生の権力があれば・・・”などと若干気になることを呟いている。
アングロは普段はとても落ち着いた女性なのだが実はかなりの心配性・・・特にベルーナに関しては異常なほど過保護な面を見せる。何でも死んだ弟と面影を重ねているらしいが、詳しい事は話してくれなかった。
激しい独り言に我慢できなくなったのか、コーラがとても鬱陶しげに声をかける。

『・・・おいアングロ、さっきからブツブツうるせーぞ』
『何だと!?お前はベル坊が心配ではないというのか!強風に吹かれれば倒れ、直射日光に当たれば倒れ、人ごみとすれ違っては倒れてしまう儚い子なんだぞ!実際誰かがついていてあげないとすぐふらふらになるし、辞書を持ち上げるだけで手がプルプル震えるし、とてもじゃないが異国の他人にベル坊は任せられん!というか任せん!朝に起きれないベル坊を起こしてあげる私の役目は誰にも渡さんぞ!!』
『こらこら君は熱くなりすぎですよ。・・・しかしベル、彼女の懸念は私も気になる所です。日常生活は本当に問題ありませんか?出来れば嘘をつかずに答えてください』

嘘をつかずに、をわざわざ入れているのは今まで何度かアラスに隠し事をしてあっさりばれた経験からきている。何かを隠そうものならこちらの細かい癖や心理学的観点からの指摘で徹底的に追い詰めて真実を引きずり出してくる。遠まわしに「隠し事など私の前には無意味です」と言っているようなものだ。だが特に隠すようなこともないし、普通に答えればいいだろう。

「困った時はルームメイトの人が助けてくれる。先生たちも良くしてくれている」
『そうか、そいつを聞いて一安心だ!ところでルームメイトって誰だ?男?女?』
『何言ってるんですかコーラ。仮にも教育機関が年頃の男女を同じ部屋に住ませるわけが・・・』
「・・・女の子」
『『な・・・何ですと!?』』

当てが外れて驚愕するアラスとアングロ。そう言われてみれば確かにこれはおかしい。まだ精神が未熟な若い男女を同じ部屋に住ませれば、その分間違いの起きる可能性は高まる。だが、あれだけ便宜を図ってくれたIS学園の先生方なのだからこれにも自分の及びもつかない意図がある、若しくはミノリを余程信頼しての事だろう。
(実際の所は前者である。佐藤さん含む何人かのスパイ候補がクロかどうかを見分けるためのエサ扱いだったりする。もちろん身の安全を守るための備えもしてはあるが)

『嘘・・・嘘よね、ベル坊?まさか朝に起こしてもらってるなんてことは・・・!?』
「・・・なかなか自力で起きれないから、良く起こしてもらう」
『嘘だ・・・嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
『いけません!アングロの溢れ出る庇護欲が歪んだ形で暴走しています!』
『取り押さえろー!!』
『ベル坊はっ!ベル坊の寝顔を見ていいのはぁぁぁぁ!!』

どたん!ばたん!ばきん!

何やら画面外で大乱闘が始まったのを音で確認しながら、ベルーナは悟られないよう大きく安堵のため息をつく。


(・・・良かった。皆いつも通りだ)

IS適性の発覚後、3人は伯父と共に全力で僕を守ろうとした。とてもメディアの前に出られる精神状態ではないベルーナの心の傷を理解し、道理の分からない自分勝手な大人たちから庇ってくれたのだ。
マスコミはもちろん政府関係者にも一歩も引かず、ベルーナに益がないと判断したものはその全てを突っぱねた。24時間ひっきりなしに訪れる様々な人間をありとあらゆる言葉を尽くして追い払い、夜になればストレスと不安に震えるベルーナを優しく励ました。文字通り寝る間も惜しんで皆は頑張っていた。お為ごかしなどでは断じてなく、伯父と3人は身を削ってでも守ろうとしてくれたのだ。
嬉しかった。自分のような存在を本気で心配してくれる人間がいる事が、誇らしかった。

だからこそ、ベルーナは皆の頑張りが長続きしないであろうことにすぐに気付いた。やる気の問題ではなく肉体の問題だ。学生である3人はもちろん、もう若くない伯父が倒れるのは時間の問題だと悟ってしまったのだ。

―――これ以上皆に負担はかけられない。ここを出て行かなければ―――

だからベルーナは政府との対談に応じた。多量の精神安定剤を摂取しながらも身を削って話をし、特別出来のいいわけではない頭を必死に振り絞って考え、IS学園に逃げ込むことを決めた。皆の反対を振り切って、だ。
だから少しだけ不安だった。
散々迷惑をかけた挙句にいう事を聞かずに勝手に日本へ言った僕を、嫌いになってしまったのではないかと。
だが、ふたを開けてみればそんな思いは全くの杞憂で、3人の中では僕は相変わらず保護対象のようだった。

それがなんだか可笑しくて、クスッと小さく笑う。思えば日本に来てから笑ったのは、これが初めてかもしれない。

『ハッ!ベル坊が笑った声がした!!』
『何!?万年仏頂面のベルが哂っただって!?』
『問題ありません。このやり取りは録画してありますから嗤った瞬間もばっちり取れてますよ』
『『お前天才か!!』』
「・・・『わらう』の漢字が間違ってる様な気がする」

・・・というか、僕が笑っちゃいけないのか。いいじゃないか偶には笑っても。人間だもの。
それから4人は自身の身近で起きたことについて談笑した。IS学園内の情報には制限が掛かっているものもあったが、その辺りについてはちゃんと触れずに会話できたと思う。
向こうではベルーナが行ってしまった後もしばらく面倒事が多かったそうだ。急に親族を名乗る人達が訪れたり(しかもそのほとんどが遠縁にも程があるくらい遠い)頭のおかしい女性権利団体が殴りこんで来たり(もちろん警察の御用になったそうだ)で一週間が過ぎるほどだったという。おかげで3人は伯父の家に実質泊まり込みだったとか。まぁ、簡単に言えば僕の帰る場所である伯父の家と伯父自身を守ってくれていたわけだ。もう感謝の言葉もない。
ところで日本には“要人保護プログラム”というのがあるらしい。イタリアも導入すればいいのに・・・いや、それはそれで迷惑かけそうだからやめておこう。



『・・・時にベル。あなた、何か私たちに言うことがあるんじゃないですか?』
「・・・え?」
『おっと、言い方が悪かったですね。あなたが前髪を弄る時は大抵何かを言おうとして伝えあぐねている時です。なのでそう推測したのですが・・・』

アラスの言うとおり、伝えたいことがあるのは確かだった。それはわざわざ報告するほどの事でもないのだが、友達である3人には伝えておきたかった。

『なんだなんだ?彼女出来ましたの報告とか?』
『か、かの・・・お姉さんは許しませんよぉぉーーー!?』
「落ち着いて、アングロ。もっと別の事だから・・・」

冗談めかすコーラとまた暴走しかけているアングロを落ち着かせ、一度深呼吸する。
それは僕にとって言葉にするのに少しばかり勇気のいる宣言。いずれは向き合わなければならないと思っていた事柄。



「・・・僕は、ISに乗れるようにならなきゃいけない。だから・・・トラウマを克服する」



3人が同時に押し黙った。それだけの覚悟が、言葉には込められていた。

ミノリ達が命の危険に晒されたと聞いたとき、僕はこう思わずにはいられなかった。
すなわち“この学園にいたからと言って身の安全が必ずしも保障されるわけではないのだ”ということだ。
今まで争いが嫌いだから、PTSDだからとずっとISという存在から目を背けてきた。だが、あんな事態が起きた以上、自分だっていつ狙われるか分からい。下手をすれば自分の周りにいる人間も死んでしまうかもしれない。
それを指をくわえて見続けるなど、絶対にしたくない。鬱陶しかったり変人だったり妙にうるさかったりする彼らが、血に染まるなど考えたくない。―――囮でもなんでもいい、人の死を退ける力、ISを持たなければならない。

4年前に起きた、忘れ得ぬ悪夢。未だ自分の心を閉じ込める茨の檻。あの事件以来、僕の世界は変わった。僕は心に傷を負い、家族も友達もすべて失って顔も知らない伯父の元へ駆けこんだ。EMDRなどの治療は受けたがそれでも効果は薄かったため半ば諦めていたトラウマの克服・・・それは、ベルーナが過去と向き合うことを示していた。
しばし押し黙った3人はしかし、思い思いの言葉でベルーナに語りかけた。

『ねぇ、事情は分からないけどどうしても克服しなきゃならないの?』
「・・・うん。もう決めたから」
『そう。ベル坊がそこまで言うんなら、私も止めないわ・・・納得したわけじゃないけど』
『おいおいどっちなんだよ?・・・ま、俺としては無理して倒れたら承知しねえって感じかな?』
『全く以て同感です。いいですかベル?お願いですから無理なリハビリをして倒れたりしないで下さいよ?そんなことになったら今度こそ伯父さんの胃に穴が開いてしまいます!』
「分かってる。でも、やる」

これは何を言われても譲れない。もうするんだと心に決めたことだ。
どうせどこまで逃げても自分の陰から逃げられはしない。そしてここから先は何処から危険が飛び出すか分からない危険区域(デンジャーゾーン)。鎧も装備していない戦士様はあっという間に化物に殺されてしまう。
ミノリの顔を思い浮かべる。学園に行ってから知らず知らずのうちに甘えてしまっていた、あの同居人に抱きしめられた時のぬくもりを失いたくない。
彼女だけではない。オリムラだってホンネだってヤマダ先生や他の皆だって、一人として死んでもいいと思える人間はいない。
だから・・・誰かが傷つくぐらいなら、自分が盾になる。

「人の英知が生み出したのがISなら、人を護れるはずだ・・・僕も、皆も」
『分かっています。私たちにベルの意志を止める権利はありませんから、後悔の無いようにいきなさい』
『そして我慢できなくなったら帰って来いよ』
『むしろこちらからいきます!』
『『茶々を差すな!!』』

どうも長いことあってなかったせいで情緒不安定になっているアングロに苦笑しながら、ベルーナは別れの言葉を送る。名残惜しくはあるが、もうそろそろ時間だ。

「・・・伝えたかったのはそれだけ。じゃあ・・・またね」
『ええ、また』
『またなー!』
『叶うならば次は日本で会いましょう?』

通信が切られ、画面が黒く染まる。それを確認したベルーナはパソコンの電源を切り。そっと目を閉じる。
遠い地にいる友達との束の間の邂逅。
そして自分の進むべ道。
これからの事が上手くいくかは分からない。
だが、ベルーナはもう“振り返らなければいけない”。


それは歴史に残らない、小さな未来への分岐点。 
 

 
後書き
新キャラ3名。今はまだ出番のない彼らが再登場するのは果たしていつなのか。

やっぱり小説タイトル考え直そうかな?本編とあんまりマッチしてないし・・・
と前々から思っていたので皆さんにちょっとアンケート。暇ならご協力ください。

小説のタイトル(何もかも間違ってるかもしれないIS《インフィニット・ストラトス》)は・・・
①変えた方がいい(①の場合新タイトル案もお書きください)
②今のままでいい
③変えた方がいいが、タイトルは作者が新しく考えるべき
から1つ選んでください。出来れば理由も添えてお願いします。 
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