駄目親父としっかり娘の珍道中
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第27話 幾ら悲しい話でも人の事巻き込んだらはた迷惑な話にしかならない
激闘は一瞬の内に終了した。坂田銀時とフェイト・テスタロッサによる今世紀最大の決戦は、一時銀時がバッチリ決めてお開きになるかと思われたのだが、結局最後の最後にて銀時がやらかしたお陰で完全にぶち切れたフェイトとの第2ラウンドへと発展してしまった。
しかも、その第2ラウンドがこれまた見るに耐えないドロドロの泥仕合であった。
その為、面倒ながらも管理局メンバー、並びに江戸メンバー総勢で銀時とフェイトを拘束して無理やり連れて帰る事になったのである。
そして、場面は変わり、此処はアースラ艦内のブリッジ。今その中で散々暴れまわっていたフェイトと銀時は二人セットで縛られていた。
「おい! 何で俺がこんな金髪変態女とワンセットで縛られなきゃならねぇんだよ!」
「同感よ! 早くこの縄を解きなさいよ!」
縛られて身動きが取れない二人がそれぞれ騒ぎたてる。かなり喧しい事この上なかった。
先ほどの銀時のあのカッコいい台詞は何処へ消えたのやら。今ではもう見る影すらない。
「ギャーギャーうっせぇよてめぇら。これ以上騒ぐんだったら騒音罪で二人纏めて斬首にしても良いんだぞぉゴラァ!」
「土方さん、出来ればここで斬首はしないで下さいね。ブリッジが汚れてしまうんで」
ブリッジが汚れなければ斬首をしても良いのか?
心底そう思えてしまうリンディの発言であったりした。何はともあれ、こうして無事にフェイト・テスタロッサを捕獲出来たのは良しとするべきであろう。
「おい、金髪変態女! さっさと家の娘の居る場所を教えやがれ!」
「教えてどうするつもり? なのははもう私達の家族も同然よ。今更連れ戻そうって言うの?」
「何時家の娘がてめぇの家族になった? そんなのお父さん断じて認めてませんよぉ!」
銀時が聞いたのでは恐らく埒があかないだろう。何せ銀時とフェイトはいわば磁石と同じような物だ。近づけば反発しあう存在。相性最悪と言えた。
「フェイトちゃん、お願いなんだ。なのはちゃんの居場所を教えてよ」
「嫌です。あの時は言葉の弾みでそういっちゃったけど、絶対に言いません!」
「其処を何とか! 何でもするからさぁ。あ、でも眼鏡は割らないからね」
必死に新八の説得が続く。が、やはり無駄でもあった。銀時の時でもそうだったが、誰が相手でも頑として首を縦に振らないのだ。
このままでは時間の問題であった。
「しゃぁねぇ。おい沖田」
「待ってやしたぁ」
言葉を弾ませた感じで沖田がフェイトの前に歩み寄る。物凄く嬉しそうな笑顔のまま沖田がフェイトの前まで迫る。
「い、言っておくけど拷問したって絶対に場所は言わないからね!」
「あっそう。それじゃこれを見てもそう言えますかいぃ?」
そう言って沖田が取り出したのはA4サイズ位の大きさはあるであろう。それ位のサイズはあるなのはの顔写真であった。
そして、もう片方の手から取り出したのは真っ黒な油性ペン。
それを両手に持ちとても嬉しそうに微笑む沖田。
「な、何をする気?」
「別に俺はお前さんをどうこうしようたぁ思っちゃいませんぜぃ。只、お前さんの大好きななのはって子にちょいとご協力して貰いまさぁ」
突如、沖田が油性ペンのキャップを取る。そして、迷う事なくそのペンをなのはの両眉に塗りつける。細く、可愛らしかったなのはの眉が一瞬にして激太の昭和チックなゲジ眉になってしまった。
「いやああああああああああ!」
それを見た途端発狂しだすフェイト。フェイトにとってなのはLOVEは狂気じみている面がある。その為例え顔写真とは言えこんな事をされると相当ダメージが大きいらしい。
「さぁて、お次はこんなのはどうですかぃ?」
お次はなのはの顎に古代の中国武将の様なちょび髭を書き加える。
「や、やめてええええええええええええ!」
更に絶叫しだすフェイト。だが、そんな事で止める沖田ではない。
「はてさて、今度はこんなのどうですかいぃ?」
更に更に、続けて真っ黒な隈髭を書いたり、口の下に出っ歯を書いたりなど、とにかくなのはの顔写真にありとあらゆる落書きを書き加えていく。そしてその度にフェイトの断末魔が木霊していく。
「も、もうやめてええええええええええええ! これ以上、これ以上私のなのはを汚さないでえええええええええええ!」
「別に俺は何時でもやめても良いんですぜいぃ。あんたが大人しく俺達のいう事を聞くんだったら大人しくやめてやっても良いんですがねぃ?」
沖田のとても嬉しそうな笑みが見える。なんとも汚らしい交換条件であった。
「ひ、卑怯よ! それが貴方達のやり方なの?」
「おんやぁ? まだ足りないみたいですねぃ。それじゃもっと書き加えるとしますかいぃ?」
今度はなのはの茶色の髪を黒い油性ペンで真っ黒に塗り始める。
更にそれだけでは飽き足らず、今度は巨大なアフロへと書き換えてしまう。
「あっはっはっはっは! こりゃマジでお似合いなアフロでさぁ!」
「ぶはははは! やべぇ、マジで腹痛ぇ! お前、俺を笑い死にさせるつもりかよ!」
本来なら泣いて止める筈の銀時が、沖田の落書きを見て大爆笑してしまう始末。本当にこの男はなのはの父親なのか疑わしくなってしまった。
「分かった! 言う、言うからもうこれ以上なのはを汚さないでええええええええええ!」
仕舞いには大泣きして哀願する始末であった。そんなフェイトを見て沖田が大層嬉しそうな笑みを浮かべだす。
「最初からそうすりゃ良いんでさぁなぁ。てこずらせやがって」
無事に拷問を終えた後、使用していた落書きだらけの顔写真をフェイトの目の前で粉々に破り捨ててしまった。
その瞬間、フェイトはまるでムンクの叫びみたいな顔をし、そのまま失神してしまったのであった。
「おいいいいぃぃぃ! 変態女気絶しちまったじゃねぇか! どうすんだよお前ぇ!」
「あり? ちぃとやりすぎちまったみたいでさぁ」
やり過ぎたと言うのに全く反省の色がない沖田。とりあえずこのままだと聞き出せないので必死に目を覚まさせる事にした。
「おら、とっとと起きろやこの変態女! お前が目覚めるまで何回でも何十回でも殴りまくってやるぞぉゴラァ!」
とりあえず手っ取り早い方法として弱体化した状態の神楽でひたすらにフェイトを殴り続けると言う暴挙に走った。無論アルフが発狂しだしたので江戸メンバー全員で抑えたのは言うまでもない。
「う、うぅ……」
どうにかこうにか目を覚ましたのか唸り声を上げる。そして、その次に感じたのは両頬に伝わる激しい痛みであった。
「い、痛い……何これ? 私何時の間にか虫歯になっちゃったの?」
「違うアル。私がひたすら殴り続けただけアル」
「鬼! 悪魔!」
再度泣き叫ぶフェイト。だが、泣いて許される程銀魂は甘くない。
「おら、さっさとお前の家の場所を吐けや! でねぇとまた沖田に例の拷問して貰うぞぉゴラァ!」
「言う言う、言います言います! だからもうアレは止めてぇ!」
泣くほど辛い拷問だったのだろう。やはり拷問の類は沖田に任せて正解だったようだ。
***
フェイトが坂田銀時に敗北し、その後空しい戦いを演じたが結局管理局に捕まってしまった光景は既にプレシアに知れ渡る結果となっていた。
「フェイト……最後の最後で結局貴方は使えない子だったみたいね。まぁ良いわ、どの道他の方法で残りのジュエルシードは手に入れられるだろうし」
玉座に座りながら一人で呟くプレシア。目の前に映っているフェイト達の映像を一旦消し、別の映像を映し出す。
それはこの庭園内にあると思われる個室であった。その個室の中で一人深い眠りにつく少女の姿があった。
なのはである。
「本当に、この子は良い拾い物をしたわね。とことん利用させて貰おうかしら」
***
「うぅ……酷い目にあったわ」
顔色は悪くなり、目の下には隈が出来上がってる状態のフェイト。
そんなフェイトを無視するかの様に回りでは慌しく動き回っていた。
「おぉいてて……ったく、素直に吐きゃ良いのによぉ。強情を張るからこうなるんだよ」
そんなフェイトの横で自由になれた銀時が手をブラブラさせながらそう言っていた。
まぁ、縛られた原因は銀時にもあるのだが。
「ちょっと銀さん。其処で余裕こいてないで手伝って下さいよぉ!」
「んだよぉ、銀さんこう見えて結構頑張ったんだよぉ。その上また俺の事酷使するつもりかよぉ。どんなブラック企業だてめぇら! 少しは社員を労われコノヤロー」
「あんたに言われる筋合いはこれっぽっちもありませんよコノヤロー。それよりも早く見つけないといけないでしょ? だったら銀さんも手伝ってくださいよ」
新八の言うことも一理はある。このままマゴマゴしていたら江戸へ帰る事も出来ないのだ。一刻も早くこのフェイトの根城を探し出し、なのはを連れ出して江戸に帰りたい所だ。
「艦長!」
ふと、オペレーターのエイミィが声を張り上げる。表情が強張っている事から何か重大な事態が起こったのは明白に思える。
「どしたぁ? 不幸のメールでも拾ったかぁ」
「そいつぁいけねぇや。そんな時は全部土方さんに押しつけりゃ大丈夫ですぜぃ」
「てめぇらは黙ってろ。で、一体どうしたんだ?」
ドSコンビを黙らせて話を進める土方。流石はフォローの名人である。
「発信源不明の通信が来てるんです。モニターに映しますか?」
「そうして頂戴」
了解を得て、スクリーンに映像が映し出される。
最初に映ったのは薄暗い部屋であった。それなりに広い部屋を象っていたのは西洋の時代を彷彿とさせる玉座であった。
そして、其処に一人の女性が鎮座している。
紫色の長髪をした綺麗な顔立ちの女性だ。だが、何処となくその女性の顔からは不気味さが見て取れた。
「か、母さん!」
「え? マジ!? あの別嬪さんお前のお袋さんなの? てっきりキャバ嬢かと思ったよ銀さん」
所詮は銀時の発想である。
「母さん、御免なさい……」
【その様子だと、負けたみたいねフェイト】
「はい」
とても申し訳なさそうに項垂れるフェイト。
「あのぉ、すんませぇん。お宅がこのフェイトって子の親ですかぁ?」
【えぇ、その通りよ。それが何か?】
「おめぇ! もうちっと娘の教育しっかりしろやこのド阿呆がぁ!」
【えぇ!】
急にモニター越しに切れる銀時に流石の女性も驚きを隠せなかった。無論回りのメンバーもまた然りである。
「娘の教育すんのは親の務めだろうが! それ放棄して何椅子にふんぞり返ってんの? 裸の女王様気分ですかコノヤロー!」
【べ、別にそんなつもりじゃないわよ! 只、部屋の間取りを適当に作ったらこうなっちゃっただけよ】
「おやおや言い訳ですかぃ? 見苦しいですねぇ醜いですねぇ。心も腐ってる奴は言動も腐ってんだよ。ついでに吐く息も臭いんじゃねぇのか? 歯ぁ磨けコノヤロー」
【黙りなさい! 貴方みたいな死んだ魚みたいな目をした男に言われたくないわ! それにちゃんと歯は磨いてるわよ! 毎食の後と寝る前と起きた後にしっかり磨いてるわ!】
「どうせ上っ面だけ磨いてるんだろ? マウスウォッシュ使えマウスウォッシュ。ついでにキシリトールガム噛んで息リフレッシュしろコノヤロー」
等と、女性と銀時の間でそれはそれは醜い言い争いが展開したと言う。が、あえて此処では記載しないでおく。
それを見た読者の皆様がうつ病になられたら困るし。決して面倒だからではないのであしからず。
【ま、まぁ良いわ……それよりも管理局の貴方達に交渉をしたいのだけれど、宜しいかしら?】
「んだゴラァ。自慢じゃねぇが銀さんはこう見えても交渉スキルは高いんだぞぉコノヤロー」
【あんたじゃないわよ! 其処の艦長さん、宜しいかしら?】
「おい、無視かテメェー!」
散々暴れ回る銀時はとりあえず置いておき、女性とリンディの交渉が開始された。
「それで、要件は何でしょうか?」
【単刀直入に言うわ。其処に居るフェイトと、貴方達が持っているジュエルシードを即刻渡して頂戴】
「なっ!」
いきなりな発言であった。その発言に流石のリンディも驚くのは無理ない。
「って、それ交渉じゃありませんよ! 余りにも一方的過ぎますよ」
「ざけた事言ってんじゃねぇぞこのクソババァ!」
新八や神楽は勿論、回りからも非難の声が上がる。それも分かる。
女性の持ちかけてきた要求は明らかに度を越えた代物だったからだ。
折角今まで集めてきたジュエルシードとフェイト・テスタロッサの引渡しを要求してきたのだから。
「てめぇ、今の自分の立場が分かってんのかぁ? てめぇは散々犯罪紛いな事してきたんだぞ。その上そんな場違いな要求するなんざ正気の沙汰とは思えねぇがなぁ」
「トシの言う通りだ。それ程の要求をすると言うのだから、そちらも相当の物を寄越すんだろうな?」
真選組の鋭い睨みが利かされる。幾多の戦いを制してきた男達の眼光だ。まともに見れば確実に震え上がるであろうそれを目の当たりにしながらも、女性はまるで鼻を鳴らすかの様に気にしていなかった。
【えぇ、勿論よ。そうね……其処に居る銀髪の天然パーマ】
「オイィィィィ! お前今人の髪型見てそう言っただろう! マジでむかつくんですけどぉ。親子揃ってマジでむかつくんですけどぉ!」
怒りのボルテージが更にあがっていく。もう上がり過ぎて単体で大気圏突入を成し遂げたあの偉大なお方に匹敵する位に顎がしゃくれだす銀時であった。
因みにそのネタが分からない人はお父さんかその辺に居るおじさん等に尋ねてみましょう。
さてさて、話がかなりそれてしまった感じがするので話を戻すとしましょう。
【貴方が必死に探している小さなお嬢さん。その子は今私の手元にいるわ】
「何……」
【返して欲しい? だったら言う通りにした方が身の為よ】
「てめぇ、侍を脅すたぁ良い度胸してんじゃねぇか。夜道に気をつけた方が良いぜ。後ろからバッサリやられるかも知れねぇからよ」
【ご忠告有り難う。それで、どうするつもりかしら? 交渉を呑むのか呑まないのか?】
上目遣いでいらだつ言葉を並べ挙げた後、女性は勝ち誇った顔をしていた。心底腹立たしいと言う気持ちが沸きあがってきた。
だが、下手に逆らう訳にはいかなかった。
女性が言っていた子と言うのは間違いなくなのはの事だ。どうやらあの女はなのはの価値に気付き交渉の材料にしてきた、と言う所だろう。
全く以って腹の黒い女であった。
「どうするんですかぃ旦那ぁ?」
「ちっ、本来ならあんな腹黒女の要求なんざ死んでも呑みたかねぇよ。だが、今の俺等にゃどうする事も出来やしねぇ」
通信を送ってきたのは女性の方だ。となれば既に向こうは準備を整えていると言っても良いだろう。
なのはを渡す準備も。そして、殺す準備も。
今下手にあの女には逆らえない。冗談や精神を逆撫でする発言も出来ない。今、交渉のリード権を握っているのはあの女なのだから。
「分かりました。貴方の要求を呑みましょう」
「艦長!」
リンディの決断にほぼ全員が驚きの顔を見せた。当然の反応だろう。
たった一人の少女の命の為に次元世界を崩壊させるかも知れない危険な代物を提供しようと言うのだから。
局員としては正気の沙汰とは思えない発言でもあった。
「あんた……」
「私も一児の母ですから、貴方の気持ちは痛い程分かりますよ。それに、貴方が私と同じ立場だったらそうした筈でしょ? 銀さん」
「やれやれ、お見通しって事かよ」
先の先まで見透かされたようで少し気恥ずかしかったのか、銀髪の頭を無造作に掻き毟る銀時。下手な照れ隠しであった。
「貴方の要求は承諾しました。それで、どの様に受け渡せば宜しいですか? プレシア・テスタロッサ」
【既に私の事は調べがついてるようね。まぁ良いわ。私が指定するポイントに来なさい。そして、ジュエルシードをフェイトに渡して甲板に連れてきて頂戴。それだけで良いわ】
「分かりました」
【くれぐれも、変な気は起こさない方が身の為よ。可愛い娘が大事だと思うなら……ね?】
その言葉を最後に通信は途切れてしまった。先ほどプレシアの映っていたモニターには砂嵐しか映っておらず雑音だけが辺りに響き渡っていた。
「ちっ、つくづく胸糞悪い女だぜ」
「全くだ。あんなの俺のお妙さんに比べたら正しく月とスッポンだな」
自信満々にそう言う近藤。だが、側から見るとあんまり違わないように思えるのは何故だろうか?
「艦長、プレシア・テスタロッサから指定ポイントの座標が提示されました。その……どうしますか?」
「無論、そのポイントへ移動します。今の私達にはそうするしかないんですしね」
本来なら即座にプレシアの居る拠点に局員を送り込んで強制逮捕に踏み切りたかったのだが、それが出来ない状況を作り上げられてしまった。
下手に局員を送り込もうなら即座にプレシアはなのはを人質にとるだろう。そうなれば本末転倒も良い所だ。
完全に出鼻を挫かれてしまった。
「クロノ、貴方が所有しているジュエルシードを彼女に渡して頂戴」
「……分かりました」
頷き、クロノはフェイトの前に歩み寄る。待機状態だったデバイスを起動させ、その中に封印していたジュエルシードを取り出す。
管理局が持っていた3個のジュエルシードが全てフェイトの手元に置かれる事となった。
フェイトは手元に置かれたジュエルシードを丹念に見つめる。もしかしたら中に偽者が混じっている可能性も否定できなかったからだ。
持ち帰ったは良いが一つは偽者だった。なんて事になったら笑えない。
「確かに、全部本物みたいだね」
「勿論だ。こんな短時間で偽者なんかつくれる筈がない」
皮肉の様にクロノはそう言い返した。それを冗談と捉えた人間は恐らく居ないだろう。
その証拠にその場に居た誰一人として笑った人間は居なかったのだから。
「フェイトさん、私達はこれから貴方のお母さんの指定したポイントに向かいます。そしたら、甲板に上がってください。後は向こうがやってくれると言ってましたから」
「はい、分かりました」
頷くフェイト。だが、未だに疑問が残った。
「だけど、あの鬼婆が素直にいう事聞くとは思えないけどねぇ」
「使い魔らしからぬ発言だね」
「当たり前だろ? 私の主はフェイトであってあの鬼婆じゃないよ」
アルフの言い分も一理はある。果たして向こうがそう簡単になのはを返してくれるとは思えないのだ。
だが、今は従う他ない。主導権は向こうが握っているのだから。
***
プレシア・テスタロッサが指定したポイント。それは彼女が根城としている時の庭園の正に目と鼻の先であった。その目の前にアースラは到着する。
ポイントに到達するなりエンジンを停止し、その場に停泊した。
甲板の上を小さな人影が歩いている。フェイトだった。
フェイトが一人で甲板の上を歩いてきたのだ。無論、フェイトだけじゃない。
甲板からは見えないのだが、入り口付近に銀時達が待機していた。
なのはが居る以上下手な手出しが出来ない。だが、なのはがこちらの戻れば話は別だ。
直ちに乗り込んでジュエルシードを全て確保した後に、プレシア・テスタロッサを逮捕する。
そう言う腹積もりだったのだ。
(良いかてめぇら、息を殺しておけよ。少しでも気配を悟られるな)
(合点でさぁ。土方さんが心配しなくても俺は何時でもあんたの寝首を襲えますぜぃ)
(こんな時位そんなネタ言うの止めろよ!)
何時どんな時でも沖田は沖田であった。
そんな沖田に土方は溜息を吐きつつ、視線を戻す。視線の先ではジュエルシードを手に持ったフェイトが甲板の上に立った。後はプレシアがなのはを連れてこちらに来て、交換を終えれば事は仕舞いだ。
誰もが息を殺してその場を見守っていた。
刹那、突如上空で雷鳴が響いた。
何事かと誰もが頭上を見上げる。雷雲だった。
巨大な雷雲がアースラの頭上に展開していたのだ。
「不味い! すぐに彼女の確保を!」
クロノが叫んだ。それと同時に皆が一斉に駆け出す。完全に嵌められてしまった。
プレシアは初めから交渉に応じる気などなかったのだ。
雷撃がアースラの各所に直撃する。火花が起こり、辺りに衝撃が伝わってくる。
突然起こった振動の為に殆どの者がよろけてしまいだした。まともに立っている事すら困難な状況だったのだ。
「か、母さん……何で?」
そんな中、フェイトは一人信じられないと言った顔をしていた。そんなフェイトの向かい一筋の雷撃が降り注がれる。
その雷撃はフェイトに直撃した。全身を激しい痛みが襲う。体が焼け爛れる感じだった。
雷撃が止むと、体から煙を噴き上げながらフェイトは倒れ付した。
彼女が持っていたジュエルシードはその雷撃が全て持ち去って行ってしまったのだ。
「フェイト!」
「あのクソババア! よくも俺達を嵌めやがったなぁ!」
アルフは即座に倒れたフェイトの元に向かい、銀時は前方に見える時の庭園に対し怒りを露にした。両拳を握り締めて歯を食いしばり、ただただ怒りを募らせた。
つづく
後書き
次回【バトルってのは何でもかんでもド派手にやれば良いってもんじゃない。空気を読んで節度を守って正しくルールに乗っ取ってやりましょう】お楽しみに
ページ上へ戻る