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アイーダ

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第四幕その三


第四幕その三

「我等が上に降り立ち永遠の光の輝きを以って我等を力づけ給え。我等の唇で貴方達の裁きを知らせ給え」
 神々への誓いである。神官達の誓いはそのまま神々への誓いになる。そういうことであった。つまり裁きには絶対の力があるということなのである。
「ラダメーーーース、ラダメーーーース」
 神官達が彼への尋問を開始した。その声が神殿の外にまで響き渡る。
「そなたは我がエジプトの秘密をエチオピアにもたらせたのか」
 ラダメスに問う。
「どうなのか?」
「間違いではないのか?」
 神官達は誘導にかかった。彼等もできることならエジプトの誇り高き英雄を救いたかったのだ。彼等もまたラダメスをよく知っておりその人柄も能力も愛していたのだ。
「間違いならば言え」
「過ちを認めればこれまでの功により罪は問われぬ」
 彼等はこうも言ってきた。しかしラダメスは答えない。
「答えぬのか?」
「罪になるのだぞ?」
 念を押す。しかしラダメスは答えようとはしなかった。
「それでは御主は」
「罪になる」
 彼等もそう判決せざるを得なかった。神殿の中からのその言葉にアムネリスは倒れ伏した。
「そんな、このままでは」
「王女様」
「御気を確かに」
 侍女達が彼女を助け起こして言う。しかしその言葉は耳には入らない。ただ暗雲の中で響き渡る絶望的な裁きの言葉に顔を蒼ざめるだけであった。
「このままでは」
「脱走しようとしたのか?」
 神官達はまたラダメスに問う。
「そなた程の勇者が」
「信じられぬが」
 神官達はここでも助け舟を出した。ランフィスも同じであった。
「そんな筈がないな」
 彼はラダメスに対して問う。
「そなたのような勇敢な男が」
「その通りだ」
 他の神官達も言った。
「これは何かの間違いだ」
「そなたは」
 しかしラダメスはこれにも答えない。やはり沈黙を守ったままだった。
「答えぬのか」
「ならばこれも」
「また・・・・・・罪が」
 アムネリスはまた絶望に覆われる。ラダメスは答えようとはしない。あくまで罪に服そうとする。わかっていたことだが彼女に受け入れられるものではなかった。
「最後の裁きだ」
 ランフィスはラダメスに対して告げた。
「そなたは国を裏切ったのか?ファラオも」
 あえて名誉とは言わなかった。ラダメスの名誉を守ってのことだった。
「どうなのだ?」
「今までのことも含めて言ってみよ」
「黙っていては何もならんのだぞ」
 必死にラダメスの言葉を引き出そうとする。それは絶望的な努力であった。そう、絶望的なものであった。やはりラダメスは答えなかったからだ。
「やはりか」
「では致し方ない」
 神官達も諦めるしかなかった。彼等は言った。
「判決を下す」
「裁きが。遂に」
 アムネリスは顔を上げてその言葉に顔を向ける。向けずにはいられなかった。
「ラダメス、そなたは地下の墓所に生きたまま埋められる」
 ランフィスが裁きを彼に下した。
「だが将軍として、エジプトの英雄としての名誉はそのままとする。その証として剣を最後に与えよう」
 そこで自害をせよとのことだった。せめて名誉の死を与えたのである。
「わかったな。では裁判は終わりだ」
「被告人ラダメス将軍は死刑」
「地下墓所で自害せよ」
「自害・・・・・・死!」
 アムネリスはその言葉に思わず立ち上がった。
「そんな・・・・・・どうしてあの方が」
「王女様、仕方ありません」
「将軍が望まれたことですから」
「私は望んでなぞいません!」
 泣いて侍女達に叫ぶ。
「あの方の死なぞ。誰が望みますか!」
「ですが」
「それでも」
「わかっています」
 頬に滴り落ちる涙をそのままに応える。歯を噛み締めていた。
 
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