アイーダ
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第三幕その六
第三幕その六
「自らの罪を裁きます。それでは」
「よせっ、止めろ」
「私と一緒に」
「アイーダ、貴女の愛はわかっている」
ラダメスはアイーダに顔を向けて言った。毅然としながらも優しい顔で。
「貴女の気持ちも。だが私は」
「エチオピアには行かれないのですね」
「この世で我等が結ばれることはない」
ラダメスはこう告げた。
「だから。さらばだ」
「ああっ!」
ラダメスは大きく笛を吹いた。吹き終わると笛を持つ手をゆっくりと下にやった。そうして穏やかな顔のままでアイーダとアモナスロに対して言った。
「さようなら」
「どうして・・・・・・どうしてこんなことを」
「愛を捨てて罪に服するというのか」
「そうです。だからこそ」
「見事だ」
アモナスロはラダメスのその行動を見て言った。だがその顔は苦いものになっていた。
「貴殿のような勇者がエジプトにいたこと、そしてわしの為に消えねばならんとは」
「これも運命です」
遠くから兵士達の声が聞こえてきた。
「敵か!」
「誰だ!」
「謀反人だ!」
ラダメスは兵士達の声に顔を向けて叫んだ。
「早くここへ!」
「わかりました将軍!」
「今そちらへ!」
兵士達の声が近付く。ラダメスはそれを背景にアイーダとアモナスロに向かい合った。さっきまで夜だというのに明るかった紫苑の世界は何時の間にか何処までも暗くなっていた。闇になっていた。
「さあ、行くのです」
「あくまでここに留まるか」
「そうです。ですから」
アモナスロに応えて彼に行くように言う。アイーダを見て微笑んでいた。
「アイーダ、貴女も」
「ラダメス様、どうして貴女は」
「所詮私達はそれぞれの国の運命から離れられぬ身」
微笑みのまま涙を流すアイーダに告げた。
「これでよいのです」
「そんな・・・・・・」
「アイーダ」
アモナスロが娘に対して声をかけてきた。
「御前まで失うわけにはいかぬ。行くぞ」
「お父様、私は」
「行くのだ、この若者の心を知れ」
そう娘に言う。彼はラダメスの心がわかったからこそ逃げることを決意したのである。
「よいな」
「・・・・・・わかりました」
アイーダも遂に諦めた。彼女もラダメスの心がわかっていた。そして父の言葉もわかっていたからだ。それで従わない程彼女は勝手な女ではなかった。
「それでは」
「さらばだ」
「はい」
アモナスロはアイーダを連れて別れた。すぐに闇の中へ消えた。
「追え!」
「逃がすな!」
ようやくやって来た兵士達が彼を覆うとする。アムネリスとランフィスもそこに来ていた。
「エチオピアの人質が逃げたか」
ランフィスはラダメスのところにやって来て言った。
「将軍、御無事か」
「ええ」
ラダメスは一旦は彼に対して頷いた。
「ですが謀反人を捕らえました」
「謀反人!?それは何処に」
「将軍しかおられませんが」
兵士達はラダメスの言葉に辺りを見回す。松明の光に映るのはエジプトの者だけである。
「それは私だ」
「馬鹿な」
ランフィスもアムネリスも兵士達もそれを否定した。
「貴方が謀反人なぞ」
「おたわむれを」
「いえ、だからこそ私は今笛を吹いたのです」
しかしラダメスはその彼等に言う。
「私は敵の王に間道のことを教えました。これこそが私の謀反です」
「馬鹿な、ではあの捕虜は」
「アモナスロ王だったのか」
「はい」
そうランフィス達に頷く。
「ですから罪に服しましょう」
「嘘よ、そんなことは」
アムネリスは剣をランフィスに差し出すラダメスを見て言う。
「将軍、貴方がそんな・・・・・・」
しかしラダメスは答えない。そのままランフィスにその身を預けるだけであった。彼は今覚悟を決めていたのであった。それはアムネリスにもどうしようもないものであった。
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