アイーダ
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第一幕その二
第一幕その二
「麗しい女神のような清らかなアイーダ、光と花で飾られたようなそなたは私の想いの全てなのだ、命の輝きそのものなのだ」
こうまで言う。
「勝利を収めたならばそなたの祖国の地と美しい空を返してあげたいものだ。王家の髪飾りも玉座もそなたの為にあれば。どれだけいいだろうに。アイーダよ」
そのアイーダのことをただ想うのであった。想いながら神殿を後にする。
遠くにピラミッドが連なって見える。もう夕刻であった。夕陽の中にピラミッドが連なっていた。王の墓である。他には神殿や見事な石の館も見える。メンフィスの街は実に見事であった。
今彼がいる神殿の入り口も同じだった。神の彫像や花で飾られている。その前にいるとそこにみらびやかな白い服を着て黒く長い、ナイルの波のように美しい髪をした女が静かにやって来た。
「王女様」
「将軍」
ラダメスは彼女の前に来て畏まって片膝をついた。その王女は勝気そうな強い目をしていて高い鼻を持っていた。背はそれ程ではないのに強いオーラを放ち周囲を圧していた。その目は黒い、ブラックルビーの目をしていたがその周りにエメラルドの化粧をしている。口は大きく奇麗な形をしていた。彼女がエジプトの王女アムネリスであった。
「ここにいらしたのですね」
「はい」
ラダメスは頭を垂れたまま王女に答える。
「お話していたのはイシスの大神官殿ですね」
「その通りです」
ラダメスはまた答えた。
「そうですか。将軍」
「何でしょうか」
「エチオピア軍がここに近付いているのは御存知ですね」
「ええ」
アムネリスの言葉に頷く。その時顔を上げたが慌ててまた垂れた。
「失礼」
「いえ」
だがアムネリスはそれを許してきた。
「構いません。いえ、お立ちなさい」
「宜しいのですか?」
「エジプトの誇る勇者を跪かせるわけにはいきません」
そう言ってラダメスを見た。その目は何処か熱いものがあった。
「ですから。よいですね」
「はい。それでは」
ラダメスはその言葉に頷いた。それからまた述べた。
「お言葉に甘えまして」
立ち上がってきた。そうして神殿の前でアムネリスと向かい合ったのであった。
「それで将軍」
アムネリスは立ち上がったラダメスにまた声をかけてきた。
「その勇者はおそらくエチオピア軍を破ることになるでしょう」
「はい」
ラダメスはその言葉にも頷く。
「間違いなく。勝利の栄光を手に入れられるその者は幸福であります」
「欲しいものは思いのままです」
「そうですね」
「そう」
ここでまた思わせぶりにラダメスを見てきた。
「全てが。思いのままなのです」
「それでは」
「名誉も富も。そして」
アムネリスは今自分が言う言葉に思わず息を飲んだ。だがそれでも言った。
「愛さえも」
「愛さえも」
「そうです」
また熱い目でラダメスを見やった。
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