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SAO――とある奇術師は閉ざされた世界にて――

作者:亜流科那
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一章 六話 とある二人の黒い人達

アスナが店を出たのを見送った俺は、大きくため息をついて椅子の背もたれに体を預ける。

「ハァ、どーすっかなー」
無論ボス戦のことだ。
「明日ってのがまた急なんだよなぁ」
ぼやく。

と、背後に近づく巨大な影。

まさか街中にモンスターがポップしたのかと思って、慌て振り返る。

「なんだ、エギルか。」
そこにいたのは、イカツイ黒人商人、エギルだった。

「なんだ、とはなんだ」
文句を言っているが、気にしない。

「てかテメー、店主の癖に影のかの字もなかったじゃねーか。どこいってたんだ?」
「ん?まあ、ちょっくら仕入れにな。」
言って、鼻歌でも歌い出しそうな雰囲気でウインドウを操作しだす。
「客を放ったまま、無用心な・・・」
呆れたような俺に、エギルはしれっといい放つ。
「ま、お前らなら大丈夫だろうと思ってな。」
アスナはともかく、俺が信用されている理由がわからない。

どうも俺は、人間不信らしいのだ。
今でこそこうして数人の”知り合い”とは気軽に話せるようになったが、デスゲーム開始直後など、商人プレイヤーに声をかけるのすら相当の気力と覚悟を必要としていたのだ。
それこそ、アイツを除いて・・・

「ま、大目に見てやってくれや」
唐突なエギルの言葉に、俺は首をひねる。

「あの娘だって必死なんだ。今回はどうも参加者が少なそうだからな」
”あの娘”のところで、話題がボス戦のことだと気づく。

エギルが続けた。
「お前も知ってるんじゃないか?”ハーフポイント”五十層じゃ、かなり犠牲が出たらしいからな。怖じ気づいて、今回は様子を見ようってやつも多いんだ」

二十五層、五十層の”クォーターポイント”では、モンスター及びダンジョンの急激なレベルアップがされていた。その二層だけで、三百人近い犠牲者が出たというのは、俺も聞いている。

「二十五層で軍の半壊、五十層では一時前衛がたった一人、だっけか」
頷くエギル。質問を続ける。
「前回がチートだったから、今回もそうかもしれないってか?」
「ああ、そういうことだ。アスナも心当たりの奴らの間を駆け回って参加を頼んだらしいが・・・いまだに四十二人レイドすら組めてないらしい」

レイドとは、ボスに挑む為に組む6人パーティー掛ける7のチームのことだ。
ボス戦には、その全席を埋めるのが定石だ。
それすら揃っていないとなると····

「・・・何かそう言われると参加しなきゃいけない感が・・・」
困って頬をかく俺に、エギルが慌てた。
「い、いや、別にそういうことを言いたいんじゃないんだ。そう簡単に割り切れるもんでもないだろうしな」
エギルは少し考えるような素振りをみせて、

「まあその、なんだ。迷って、どうにもならなくなったら俺達を頼れよ。俺のところに来にくかったら、キリトでも、アスナでもいい。同年代のほうが話し安いだろうしな。・・・とりあえず、俺達ならいつでも相談にのるからよ」
そう言って、巨漢はイカツイ顔に似合わない、愛嬌のある笑みを作った。









「りゃあああっ!」
もう何匹目だろうか。
馬程もあるネコマタもどきの頭を切り落として、蹴る。砕ける。

「お次はァ!?」
ふたのネコマタの胴体を真っ二つに。砕ける。

「お待たせしましたァ!」
ラストのネコマタを、四足全部切り取って行動不能に。
「ふははははは!我が力の前にひふれせ!叫べ!許しをこえ!」
どこぞの厨二病的チートラスボス状態になっているが、気にしない。
なぜなら、気晴らしだから。
鬱憤を晴らす時くらい自由にならねば、というのが俺の持論なのだ。

そんなわけで、身動きの取れないネコマタを、剣先でツンツンつついていたぶってみる。
うわ、いたそー

と、視界の端に見知った顔を見つける。
「よう、キリト」
視線と剣そ握る右手だけはネコマタに集中したまま、左手だけ振って声を掛ける。
案の定、俺を見とがめた黒づくめの剣士が呆れたように頬を歪めた。

「相変わらずムゴイことやってるな、ラーク」
「どーも、お褒めに預かって」
「いや褒めてないから」
いやー、今のを返してくれるって、律儀ですなあ。

ここは四十八層。至って普通の草原フィールドだ。その片隅の普通の狩場。
ここに大量ポップするネコマタは、敏捷型の癖に初動が遅く、力もなく、装甲も薄っぺらなため、俺と相性バツグン。そのうえ、経験値もそれなりと、俺のお気に入りの狩場だ。
スペースが小さく、一人しか戦えないため、一回二十分と攻略組による制約がついているが。

「ちょっと待っててくれよ。こいつが死んだらかわるから。」
言っている間にも、ツンツンツンツン。ネコがニャーッ!
ひときわかん高い悲鳴に、俺はニヤニヤ。
キリトが大きくため息。

「そういや、アスナとフレンドになったんだってな」
聞く俺。
「ああ、そうだけど」
答えるキリト。
素っ気ねー。もっと何かねーのかよ。
「アスナといえば、このごろアイツと良く会うんだけど、何なのかな」
・・・・アスナ、避けられてるんじゃない。ただ、こいつがバカなだけだ。
まあ、その辺りが面白いんだが。
そんな感じの感情を全部ひっくるめて、俺もため息のお返し。
「ハアアアアアアアーーーーーー」
あ、ネコマタ死んだ。

と、唐突にキリトが切り出す。
「ラーク、何かあったのか?」
「ん?」
もしかすると、さっきのため息が別の意味に捉えられてしまったのだろうか。

「いや、お前がここに来るの、何か上手く行ってない時が多いから、ひょっとして、と思っただけなんだけどさ」
ありゃ、俺の行動パターン、読まれてる?
「勘違いならいいんだけど」
低姿勢で引いていくキリト。
うーん。
少し考えて、俺は口を開く。

「何て言うか、友達の話なんだけどな。」
「あれ、ラーク、誰かとフレンド登録したのか?」
「黙って聞いてろ!」
ゴホン、とわざとらしく咳払い。続ける。

「もしさ、何か取り返しのつかないことをしちまってさ、誰かをむちゃくちゃ泣かせちまったらさ、お前なら・・・どうする?」

「熱でもあるのか?」
奇妙な物を見たような目。失敬な。
けど・・・・

「そうかもしんねえ」
珍しく真面目な俺に、キリトも冗談の類いではないと察してくれたらしい。
黒い少年は、少し目を閉じて・・・・
「そうだな・・・」
口を開きかけた。

その時だった。



「・・・・・先輩?」


この声、この呼び方。初めて会ったときとは、テンションも含む感情も違うが、この世界には、たった一人。
蒼い。本当に。蒼い空のように澄みきっている。
その顔には、驚きと戸惑い、迷い。
会いたくなかった。会うべきだと思っていた。

「”妖精”・・・・・」

「え、知り合い?」
キリトだけが状況についていけず、戸惑っている。
けだ悪い。構ってる暇ない。

無言。
視線と視線が交わる。
硬直。

どうする、どうする。
何を言えばいい。
くそ、わっかんねー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・ちっくしょ、なるようになりやがれ!!!!!

「悪かった!」
彼女が口を開く前に先手をうってさけぶ。

こんな事で許されるとは思っていない。
許されていいはずがない。
許されたいと思うことすらおこがましい。

けど、これしかできないから。
人付き合いの経験の少ない俺には、謝るしかないから。
だから、何度でも謝り続けよう。何度でも頭を下げ続けよう。
彼女の気がすむまで。
彼女が処刑を望むなら、それさえ受け入れるつもりで。

レッドを殺した事を謝るつもりはない。
これまでに殺してきた奴等にも、申し訳がたたないから。
けど、それで。それで何の関係もない彼女を傷つけてしまったのだとしたら・・・・

「・・・悪かった。」
何度でも。

「・・・・」
下げた頭の上で、彼女が何か言いかけた気がした。
けれど、すぐに口を閉じる。

そんなことが何度かあって・・・

「・・・・明日8:00です。」

絞り出すような声が聞こえた。

「明日8:00、四十五層に来てください」




 
 

 
後書き
作「うっひょわはーっっ!!」
ラーク「うぜえ」
「ぐわはっ」
「何なんだそのテンションの高さは」
「いやー、十二時間ぶっ通しの勉強会掛ける3日がやっと終わってさー」
「あっそ」
「反応うっす。まあいいや。てか、ギャグにまで残酷気味なの混ざってきたよね」
「ああ、確かに。ネコマタのやつ」
「ああ!そうだ!」
「何だよ」
「この際、残酷気味な描写を軽い文章でそう感じさせないという技術を極よう!」
「・・・一瞬でも残酷描写はやめる、とか言い出すのを期待したさっきの俺がバカだった。
つーか残酷”気味”なのってとこに作者のひととなりがにじみ出てる気がする・・・」

「そんなわけで、」「御愛読、御感想、」「よろしくです!」 
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