カンピオーネ!5人”の”神殺し
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そろそろ戦闘に入りたいな
『既に、私が自由に動ける時間は少ない。今は君たちを人間なんだと認識出来ているが、あともう少しでそれも不可能になるだろう。・・・その前に、私は自分を眠らせる。自分だけでは絶対に起きることの出来ない眠りだ。・・・もし、この事件が解決したら、私が衰弱死する前に起こしに来て欲しいものだな。』
間一髪で病院を脱出することに成功した護堂たちは、小さな洋服店に忍び込んでいた。それというのも、あまりに急いでいたので、護堂が未だに全裸のままだったのを誰も気がつかなかったからだ。・・・いや、どちらにせよ着替える時間など無かったのだが。
しかし、そのままの格好で街を歩き回るわけには行かない。この時間では、どこの洋服屋も閉店しており、仕方なく彼らは、防犯カメラなどが設置されていない小さな個人営業の店に忍び込んだのだ。勿論、商品のタグを切り取ってから、その商品の金額をレジ前に置いてきている。やむを得ない事情から不法侵入はするが、流石に泥棒までするほど落ちぶれてはいない。・・・護堂の財布などは病院から持ってこられなかったので、全てエリカが払っているのだが。
さて、落ち着いた後で改めて自己紹介すると、驚いたことに、黒猫の主は、自らのことをルクレチア・ゾラと名乗った。
そう、護堂が探していた女性である。意外な場所で探し人を見つけた護堂は、これ幸いといつの間にか手元にあった石版を渡そうとしたのだが・・・
『それは既に君の物だ。君を主として認識している。その証拠に、病室に置いてきた筈のソレが、今君の手元にあるじゃないか。他の人間の手に渡ったりしたら、一体どんな災害を周囲に撒き散らすか分かったものではないよ。どんなことをしてでも、君の元へ戻ろうとするだろうね。』
と言って、彼女は受け取りを拒否した。
『その神器が、総一朗の孫である君を使い手に選ぶとは・・・。これも、運命というものかもしれないな。』
そう前置きした上で、彼女は神器に付いて話し始めた。
『この神器は、私が若い頃にとある遺跡で発見したものでね。正式名称は”神堕としの魔道書”という。・・・その名のとおり、『神を神足らしめる権能を簒奪し、使用する』神器だ。』
「なっ・・・!?」
その言葉に強く反応したのは、エリカ。
「権能を簒奪する・・・!?つまり、人をカンピオーネにする神器なの!?・・・なによソレ。規格外もいいところじゃない!!!」
神器とは、いずれも超常的な能力を持つものではある。・・・だが、ただの人間を、世界最強の存在であるカンピオーネに押し上げる神器など、どれほどの神秘を積み重ねれば再現出来るというのか?
『まあ、恒久的に奪う訳ではないようだがね。それに、神器に選ばれた人間でなければ、これを使いこなすことは不可能な上に、神の権能という超常の力を使うのだから、使用者にも相応の負担が掛かる。私は選ばれなかった。使用者に選ばれなかった私には無用の長物だったし、総一朗も困っていたからね。あの村に置いてきたのだよ。まあ、あの時、村に危害を齎していたのはまつろわぬ神ではなく、ただの神霊だったからね。あの程度の神霊ならば、四十年以上経過した今でも能力を奪い続けられたということだろう。』
「恒久的じゃなくても、十分に破格の性能よ!それを惜しげも無く置いてきたなんて・・・。」
やはり、この最上位の魔女と自分は違う・・・と、エリカは落ち込んだ。
「・・・・・・・・・。」
二人が神器について話し合っている最中、護堂は一言も喋らなかった。じっと目を瞑って、何かを考えている。
「・・・貴方、どうしたの?」
そんな護堂の様子に気がついたエリカが、話しかける。
「・・・これがあれば、この街の人たちを救えるのか?」
護堂の顔は、何かを決心した男の顔であった。元々、かなり整った容姿をしている上に、野球で鍛えたその身体と性格も相まって、彼は兎に角女性を惹きつける。今回の事件では、様々な問題が突然に降りかかったりして情けない姿しか見せていなかったが(主に全裸だったせいなのだが)、ここに来てこの覚悟の決まった表情を魅せられたエリカは、胸が高鳴るのを感じていた。
だが、彼が喋った内容には異議を挟む。それが、彼をこの事件へと巻き込んでしまった自分の責任だと理解しているが故に。
「貴方は何を言っているの!?例え神器があったとしても、それだけで倒せるほどまつろわぬ神というのは甘い存在じゃないのよ!貴方は、人を殺した事もなければ魔術も使えない、ただの一般人でしょ?」
エリカは、そこで一旦言葉を区切ると、護堂の顔に手を添えて懇願した。
「・・・お願いだから、ここを去りなさい。神器が、まつろわぬナイアーラトテップの権能を奪っているんでしょう?そのおかげで狂気に染まることがないと言うのなら、今のうちに遠くへ逃げるべきよ。・・・お願い、逃げて。」
そう言うエリカの瞳は、今にも涙が溢れそうに潤っていた。その瞳を正面から見つめる護堂だが、しかし・・・
「・・・それは出来ない。」
と、首を横に振った。
「ま、何で?きっと、もうすぐ【伊織魔殺商会】のカンピオーネたちがやってくるわ。こんな大事、どんな方法を使おうが、いつまでも隠しきれる訳が無いもの。私たちだって、本気で情報規制している訳じゃないし、明日か明後日には現れる筈よ!本来何の関係もない貴方が関わる必要なんてないわ!!!」
ナイアーラトテップの権能のせいで、感情を押さえつける理性が正常に作用していないのだろう。エリカは、本来であれば人前で涙を見せるような女性では無かった。そんな彼女が泣いている。感情のままに叫んでいる。それは、彼女がどれだけ本気で彼のことを心配しているかの証明でもあった。
「でも、その間に何人が犠牲になるんだ?」
護堂も、エリカが自分のことを心配して言ってくれていることは理解している。・・・だが、彼には彼の、引けない理由があった。
「それに、そのカンピオーネたちが現れるまでの間、エリカ、お前はどうするつもりなんだ?」
「え・・・?」
予想もしなかった質問。その質問に、エリカの思考は停止した。
「お前、時間稼ぎするつもりだろう。」
「っ!?」
バレている。
エリカは、例え相手がまつろわぬ神であろうとも、決して逃げ出さないと決めていた。いくら【剣の王】の命令でも、その理不尽な命令に負けて、【伊織魔殺商会】に連絡を入れなかったのは間違いなく自分たちだから。早期に解決出来る手段があるのに、それを選択しなかった自分たちに対して、彼女は深い怒りと絶望を覚えていた。
今も、店の外では寝静まった街が見える。
今は深夜だから、寝ている人間が多くて大事に至っていないだけだ。これが朝になって人が起き出す時間になってしまえば、被害は格段に広がってしまうだろう。そうなってしまえば、もうこの街はお仕舞いだ。何の罪もない女子供、昨日までは笑っていた筈の気のいいオジサンたちも、血の海に染まってしまうだろう。
『力あるものは、その力において責任を持たなければならない』。
彼女は、誇り高い人間だ。それを守れないことが、どれだけ彼女の心を傷つけてしまっただろうか?
「ほんの少ししか話していないけど、お前のことは何となく分かったつもりだ。お前は、この状況を放っておける人間じゃない。・・・そんなお前を置いて、男の俺に逃げ出せだと?冗談じゃないぞ。俺は、そんなに薄情者に見えるかよ?」
護堂は、本気で怒っていた。
「それにさ、コイツが言っているんだよ。」
苦笑して、石版を指差す。
「まつろわぬナイアーラトテップは、あの子だって。望んでこんなことしている訳じゃないんだって。・・・助けて上げて欲しいんだって。」
『神器の声を聞いた・・・!?そこまで相性が良いのか。』
隣では、黒猫が驚いていたが、護堂は無視した。
「あの子も、きっと悲しんでいる。・・・友達が悲しんでいるのなら、助けるのは当然だろうが?」
そう言って、彼は苦笑しながら頭を掻いたのだった。
後書き
勉強が全く進まないので、気分転換に。
エリカの性格が、原作とは結構違いますが、この小説ではこんな感じでいきます。
そもそも、原作エリカってあまり好きではないんですよね。目的のためなら手段を選ばないところとか。特に、アテナの時のゴルゴネイオンはちょっとどうかと思いましたし。
※別に、エリカアンチってわけじゃないよ?エリカ好きな人にはごめんなさい。
この小説では、エリカは他人の迷惑を考えられるようになってます。性格も、少しは丸くなるのかも?
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