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世界征服を剣のみで行おうとする猛者が降臨しました。

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第二話

ーーとてもじゃないが、減る腹。
 まだこの世界に来てそれほど経ってはいないのだが、これだけ身体を動かせば腹が減る。当たり前だ。

「ここら辺で食料は無いのか?」
「真っ直ぐ行けばどっかに着くんじゃないか?」

「わ、分かった。後、人がいるところでお前は話すな」
「えっ……」
「聞かないとこの剣捨てるぞ」
「分かった」
 いやぁ、最強の男(?)も弱点さえ知ればどうってこと無いな。
 光が見えてくる。勿論朝日ではない。街の光だ。コイツのカンは冴えている。まだ明るいから今は真夜中では無いのか。

 街の入り口に一人の影があった。がたいの良い男だ。

「お? お前、旅人か?」
「……ああ、まあな」

 その男は俺を見つけると、俺に興味を示してくれたようだ。丁度いい。宿の交渉でも……。
「おう、お前家はあるのか? 食料も」
「一文無しだ。魔物に奪われちまってな」
「そんな知能の高い魔物がいるとは……。うちに泊まりな」

「本当ですか!?」
「ついて来い」
 作戦成功だ。今日のお宿はこの人の家だな。

「俺の名前はクリスだ。お前は?」
「俺はな…………マキ」

 真っ赤な嘘。反省はしているが後悔はしていない。因みに本名は飯島
いいじま
誠司
せいじ


「珍しい名前だな。覚えておこう」
 と呟きながら歩き続ける。この男は、俺の名前が珍しく無かったら覚えようともしなかったらしい。
 街並、ってもここは村なのだろう。木で造られた家。あまり整備されていない道、柵で囲まれ、じっとしている、牛。遠くまで広がる、畑。村だな、これは。




「ここが俺の家だ」
 中でも少し目立っている家が、このクリスの家らしい。目立っている理由はその大きさだろうか。まさかクリス、村長か……?

「おじゃまします」
「ほら、入口近くのその部屋使え」

「あ、どうも」
 そこそこの大きさの部屋だった。予想通り木材の床であったが、ベッドもあって、しっかりしている。
「今日は遅いし、もう寝た方が良い。このおにぎりやるから。じゃあおやすみ」
「おやすみなさい」

「危ない」
 壁に立て掛けようとした剣が反応した。
「その飯を口に含むんじゃない」
「は?」

「それには毒が含まれている、死ぬぞ」
「いや、意味が分からないんだが」

「村ってのはそう言うもんだ。怪しむのが当たり前なんだよ」
「じゃあ何でこれが毒って分かったんだよ」

 マキと話している間に部屋の外でドタドタと物音が聞こえた。
「お前、話してるのがバレたみたいだな。俺は身体を動かせないからサポートは難しい。だがこれは分かる、このドアを突き破ってお前を餌にするつもりだ。死にたくなければ、窓を割って逃げるか、ここで待ち伏せにするか」

「うん、どうせ相手に背を向けたら負けなんだろ。なら相手を殺さない程度に懲らしめて、ここを俺の大帝国の入口にするんだッ!」

「おし、ここのドアだ! 気を引き締めろ。久し振りの客だ、絶対に殺すな! うおおおお!」
 相手も同じ考えか。戦うしかない。
 そんな事を考えている間にドアがあっという間に突き破られる。俺に向かって剣を振るその姿は哀れだ。

「何が殺すだ。身の危険を感じない程、バカなお前らはマキ様の大帝国の奴隷に相応しい」
 マキは俺では無く、この剣だ。しかしこの剣を俺が所有している以上、俺をマキと名乗って悪い事等無い、多分。

「おらぁ!」
 クリスまで物騒な顔つきで短剣を振り上げた。ギリギリで避けられたが、大きく後退りして段々壁際に追い詰められる。

 これはある程度の広さのある客室でも狭いと感じるな。
 外で戦闘を行うのが堅実かも知れない。マキに言われた通り、窓を突き破った方が良かったか。

「だがもう遅い!!」
 クリスに対し、剣を振る。勿論切り刻む様な事は絶対に出来ないから、少々弱気で。
 案の定避けると共に少し引き下がった様に見えた。ここからどうするか。

「おいマキ、どうするんだよ」
「俺は二つの逃げ道を話したぞ。窓を突き破るか、待ち伏せするか。お前は待ち伏せを選んだ。必ず勝機はある」

 全くアドバイスになってない。大帝国の入口は止めて、こいつらを斬ってしまう事にしよう。
 目を瞑りながら相手を斬る。斬った時、何かの感触。ゴブリンを斬った時と同じだ。コイツはまさか……、魔物か?
 ゆっくり目を開けると、そこには青い液体を出しながら、野獣の姿となったクリスが居た。
「グォォォォォォ」

「斬れ。お前がやられる」

 マキの助言で目が覚めた。こいつは魔物。即座に背後に回り、剣を振る。
 遂に倒れたクリスに驚き、他の村人は何処かへ消えてしまった。
「コイツは盗賊のゴブリンだな。普通のゴブリンの数十倍の知能を持っていて、人間に化ける。だからこの村はゴブリンが占領してたって事だな。それにしてもお前、色々と上達したな。俺は剣だから背後に回るとかはお前の実力だし」

「え、俺強い? いやぁ、やっぱ俺強いよねぇ。じゃあこの村を俺達の物にしてしまおう」
「ここをか?」
「ああ」

「ならば、この辺り一帯を制圧しなきゃいけない」

 制圧……? そんなに物騒な場所だったのか。
「制圧って、どこらまでだ?」
「ここら一帯はゴブリンが占拠している事が、この戦いで確実になった。近くにある幾つかの村はゴブリンだらけであろう。そこでこの村を拠点として、準備を整えてから他の村も潰して行けば、問題無い」

 この剣、詳しいっ。

「分かった。飯食って寝たら探索を再開するぞ」 
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