ソードアート・オンライン〜Another story〜
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SAO編
第31話 クリスマス・イベント
~2013年12月19日 第49層・ミュージエン~
雪がしんしんと降り注ぐ夜。リュウキはミュージエンの街に来ていた。
その街の中心、転移門広場には巨大なクリスマスツリーのオブジェクトが存在している。現実世界でもクリスマスに近づいているから、季節限定の仕様なのだろう。
そのツリーの傍に、一定の間隔で備え付けられている小さなベンチにリュウキは座り、メッセージを確認した。そして、確認すると同時に、ストレージに入れていたアイテムをオブジェクト化させる。それは1枚の情報誌だ。
「なるほど……」
そのメッセージの相手はアルゴ。今、アルゴから譲って貰った情報2つだ。
その情報とは、クリスマスに出現すると言うフラグMobの事。クエスト等の攻略のキーとなっているモンスターだ。
それは、数日、あるいは数時間に1回と言うペースで出現するが、中にはたった一度しか倒す機会の無い場合もある。いわば準ボスモンスターの様なモンスターだ。そして、層が上がれば上がる程、当然の如く強さも比例してゆく。
もし、そのモンスターを相手にするとすれば、BOSS攻略に準じた大パーティで挑むのがこの世界では常識であり、鉄則でもある。 リスクを最大限に下げる為にも。
「……アイツの考えは判りきっている。……こんな事、考える奴は少ないからな」
リュウキは、その情報誌を見ながらそう呟いた。
この情報誌もアルゴから譲ってもらった物である。この情報を仕入れてもらった理由。
それはこのイベントのフラグBOSSの噂が立った時、その情報の真偽を買った男がいた。それは《キリト》だ。
アルゴに訊いたのは、キリトがその真偽を訊いたかどうか? それをアルゴに訊いたのだ。
鼠の名前は伊達ではなく、金銭次第で誰が、どんな情報を買ったのか、それをも売る。勿論プレイヤーを見てから 売るか否かを決めるが、基本的に売れる物は、金になると判る物なら、例え自身のステータスでさえ、平気で売るのだ。
鼠の仇名は伊達ではない。そう思うのは当然の事だろう。
「……だが、今回はオレにとっては好都合だ……ってな」
リュウキは、装備フィギュア一覧から、武器を選んだ。これからある場所に、出かける為だ。その場所に、行けばキリトがいる。
基本的に圏外に出ていればフレンド登録をしている相手のマップ追跡は出来ない。
でも、例え確認出来たとしても、位置情報を確認するまでもない。今の時間帯にキリトがいることはもう判り切っていた事だから。
リュウキは、アイテムストレージから、もう1つアイテムをオブジェクト化させた。それは青い結晶。転移結晶だった。
~第46層・アリ谷~
名の通り、その谷に現れるモンスターは大アリの軍団である。
数は非常に多いがそれは決して雑魚ではない。安全マージンを取るっていたとしても、数に物を言わせられ、無数のアリに囲まれてしまえば、忽ちHPゲージが 安全値から、注意値になる事もざらだ。
それが、最前線で戦っている攻略組であったとしても。
だが、それでも 今現在 この場所は最も効率の良い狩場となっている。
この層のモンスター、アリは 確かに攻撃力は高い。 だが、それに反比例しているのか、防御力、そしてHPが思いの他、低く設定されているのだ。
加えて、1度にPoPされる数も多い。だから 相手の攻撃さえ受けなければ、短時間で大量に倒す事ができる。
……勿論、それはパーティプレイでの狩り方だ。
ソロの場合は囲まれる可能性が高い為、決して効率が良いとは言い切れない。アリに囲まれでもすれば、その高い攻撃力でHPゲージを一気にもっていられるからだ。
そして、人気スポットゆえに1パーティ1時間までと言う協定が張られている。
そんなところだから、時間帯によれば、プレイヤーの数も多い。だけど、リュウキの目的の人物を探すのは訳ない事だ。
なぜなら、その人物は殆どがパーティを組み、並んでいるのに1人で並ぶから。
そんな事をするのは自分が知る中でも1人しかいない。
……キリトだ。
そして、読み通り キリトは戦っていた。無数のアリをたった1人で。
「ぐっ……ッ!!」
キリトは、アリたちの酸性の粘液を被弾してしまい、バランスを崩す。当然、自分自身の脳でプレイしているも同然だから、ずっと集中し続ける事は不可能だし、集中力が切れれば、動きに切れは無くなり、被弾する可能性が増加する。何時間もぶっ通しでしていたらそれは必然だろう。
そして、キリトの隙を狙い、再び飛びかかるアリが1匹。……が、その攻撃がキリトに届く事はなかった。
「ギョエエエッッ!!」
背後から襲いかかろうとしていたアリが、衝撃で吹き飛ばされ、硝子片となって砕け散ったからだ。
キリトはそれを見届けると。
「……まだ 1時間たってないだろ?」
キリトは、振り向かずにそう言った。誰が来たのか、判っていたから。
「それはすまなかったな。……随分無茶な狩りをしてると思ったら、つい手がでた」
片手剣を肩に担ぎそう言っているのは、リュウキだ。その太刀筋や突然乱入してきた事、色々な要素で、相手が誰なのかを、キリトに教えていた。
もう、長い付き合いだから、其れくらいは判るのだ。
「だが……、所要時間は、後1分も無いだろ? そろそろ〆だ」
リュウキがそう言うと、キリトは頷き その場から離れた。離れ、安全エリアに到着したその瞬間、その姿は襤褸切れの如く、真冬の地面に突っ伏していた。
「……オレが入らなかったら、お前」
リュウキは、突然倒れたキリトを、そんな姿を見せたキリトを見て厳しい表情を作った。結構ギリギリのタイミングだったのではないか? と。
だが、キリトはそれを訊いて軽く笑った。
「大丈夫だ。あれくらい、十分、捌けるさ。……確かにリュウキが入ったから時間は短縮できたけどな」
そう言っているキリトを見て、それが決して強がりでは無いのは判る。だから、とりあえず安心する事は出来た。こう言う嘘をつく男は無い、と言う事もあるだろう。
そんな時だった。
「ったくよー! ほれっ」
リュウキの他に、来訪者が1人いた。 後ろから、キリトに向かい回復ポーションが跳んできたのだ。キリトは、それをしっかりと受け取ると、ありがたく頷き、栓を親指で弾くとむざぼる様に呷る。
その味は苦味のあるレモンジュースの様な味。
疲れきった体には途方も無く美味く思えるのだろう。そして、そのポーションを渡した相手は、リュウキ同様、このデス・ゲームが始まった時からの付き合いである人物。
ギルド≪風林火山≫のリーダー・クラウンだ。
そのスタイルは相変わらずのモノだ。
バンダナのシタで無精髭に囲まれた口元。そして、その髭に囲まれた口をひん曲げて言った。アルゴの様にある意味愛着が沸く様な髭じゃない事は判る。
「リュウキの言うとおりだろ? いくらなんでも無茶しすぎじゃねェのか、キリトよ。おめぇ、今日は何時からここでやってんだ?」
「ええと……夜8時くらいか?」
その戦い通して時間を聞いたリュウキは、改めて軽くため息をした。
「……話の通りだな。相変わらず無茶をする」
そう言い、ため息をした後、『やれやれ』と言っている様な感じでキリトを見ていた。
「って、無茶を通り越してんだろ! 8時だったら、6時間は此処に篭ってるじゃねえか! こんな危ねぇ狩場でんな無茶しやがって、気力が切れたら即死ぬぞ!」
クラインは興奮したように顔を近づけてくる。キリトの傍にはリュウキも居るから、必然的リュウキにも近づく事になる。
「……おい。むさ苦しい。……顔を近づけるな」
だから、リュウキは剣の柄で、クラインの額を押さえつけた。ごつんっ! と言う音を出しながら。勿論、流石にHPを削ったりはしていない。……あしからず。
「むげっ! それどころじゃっねえだろっ! 危険性なら、リュウキが一番判ってんじゃねぇのか!?」
「……キリトは簡単に、くたばったりしないだろ……。それにそこまで考えなしでもない。強かさだって、持ってるんだ」
キリトを視ながらそう言う。あのギルドの壊滅の件の詳細を詳しく知っているリュウキからすれば、わからない事も無い事だが。
「ああ、……平気だ。それに、待ちがいれば、1、2時間休めるから、強ち無茶でもないさ」
キリトはそう言うけど、その説明では納得する訳もない。ある訳がない。
「……それは嘘だな」
その話を訊いて、リュウキは腕を組んでそう言い返した。
「……なに?」
キリトは少し驚いていた様だ。一瞬で、バレてしまったから。
「……こんな時間帯で、そんなに待ちがいる訳が無いだろ? ……と言うか、それが目当てだろうが、長時間、狩場に篭る為に。いくらクラインが馬鹿でも、抜けてても、そんな説明だったら納得しないぞ?」
「だ~~れが !馬鹿だ、抜けてる、だ!! コラァァッ!」
クラインは、リュウキに突っかかってくるが、軽く回避していた。
手を伸ばしても、回避される。2度、3度と回避された所で諦めた。……その華麗なステップを目の当たりにしたクラインはため息を1つする。
「はぁ……、確かにオメーらが強すぎるって言うのは初日から嫌って程知っているけどな、そういえば……お前ら今レベルはどれくらいになってるんだ?」
クラインは、キリトとリュウキの両方を交互に見ながらそれを訊いていた。基本的に個人情報と言う事になる為、安易に答えないし、訊かないのだが 相手が相手だから、2人とも問題視しなかった。
「今日で上がって69だ」
キリトは自身のHPゲージの下に、表示されている自身のレベルを見て答えた。先ほどの狩りで レベルが上がったのだ。
そして、リュウキも軽くため息を吐き答える。
「………83だ」
あまり、ステータスは言うものじゃない。色んな目で見られるからだ。だが、先ほどの説明でもあった通り、ここにいるメンバーなら、公開しても問題ないだろうとリュウキは判断し答えたのだ。
「……リュウキ。そんな上にいたのか……? オレより14も離れているとは思わなかった」
キリトは驚いているようだが……それでも悔しそうな顔をだしたとしても、妬ましそうな嫉妬の様な表情はしていない。 そこが他のプレイヤーと違って良い所だと思う。勿論クラインもそうだ。
「……それ言ったらオレはどうなるんだよ。……キリトはオレより10は上だし、リュウキに関しては20は上かよ。攻略組ギルドの頭、なんだけどなぁ。……んん? それにリュウキはいったい何処でレベル上げをしてるんだよ。キリトの様に無茶してるように見えねぇし」
クラインは、何だか不思議な子? を見るような顔をしていた。それを訊いたリュウキは。
「別に……。てきとーにやってるよ。これと言って拘りの場所はない」
そう、あっけらかんと答えるリュウキを見て2人して同時にため息をしていた。
「はぁ……、相変わらず常軌を逸してるな。もう、お前らを見てたら、よっぽどの事が起きたとしても、そんなに驚かない自信がある。……キリトは勿論だが、リュウキも色んな意味で」
クラインから、なにやら失礼な言葉が聞こえてきたが、軽く無視しようとリュウキは判断をし、口を噤んだ。
そして、クラインは続ける。
「ってかよぉ、ここ最近、キリトはよくこの狩場で見かける。 レベル上げの仕方が常軌を逸してるっだ感じだぞ? マジで。なんで そんな無茶をしなきゃならん! ゲームクリアの為。……なんてお題目は聞きたかねえぞ? お前ら2人がどんだけ強くなったとしても、BOSS攻略のペースはKoBとかの強力ギルドが決めるんだからな。安全対策だ。そこはぜってー、覆らねぇぜ」
「……ほっとけよ。オレはレベルホリックなんだよ。経験値稼ぎ自体が気持ち良いんだ」
クラインに返答するキリトのその笑みは若干自虐的だった。
「って、な訳でも無ぇだろが……。 そんなボロボロになるまでする狩りが、どんだけキツイか、それくれぇオレだって知ってるつもりだ。 それがソロなら尚更、幾ら70や80、レベルがあったとしても、この辺じゃソロだったら、まだまだ 安全マージンなんてあってないようなもんだぞ。 綱渡りも良い所だ、 向こう側に転げ落ちるギリギリの線でレベル上げを続ける意味が何処にあるんだって聞いてンだよ」
話を横で訊いているだけで、よく判る。
この男は、クラインは 本当に仲間想いの強い男なのだ。クラインはSAO以前からの友人達が中心となって結成したギルド≪風林火山≫のリーダー。あの運命の日、仲間の為に残った。……仲間を見捨てる事ができなかった、それだけでもよく判る事だ。
そして、メンバーの殆どが過干渉嫌いの無頼派であり、それはリーダーのクラインも例外ではない。良い奴ではあるが、そんな男がここまで言ってくる。
その理由は、はっきりとした。
「なるほど。クラインも知ってた、と言う事か? ……キリトが、何を狙っているのかを」
リュウキは確信が言ったようにそう聞いた。
まさかの相手からの言葉に、クラインは思わず動揺してしまう。
「んな! お……オリャぁそんなつもりじゃ……」
だが、動揺し、そんな表情をする時点でoutだと思うが、とリュウキは思ったが、キリトが代わりに返答をしていた。
「……ぶっちゃけて話そうぜ? ほら、リュウキの様にさ。それに、『オレがアルゴからクリスマスBOSSの情報を買った』って言う情報を、『お前が買った』……と言う情報をオレも買ったのさ」
そのキリトの言葉を聞いて クラインはもう一度目を見張る。なら、全てがバレていても仕方が無い。
「んだと……! くそっ、アルゴの野郎。……鼠の仇名は伊達じゃねぇな……」
「……何を今更。 今気づたんなら、遅すぎだろ? アルゴの性質くらい付き合う前から把握するもんだ」
クラインの愚痴を訊いて、リュウキは、素早く突っ込んでいた。そのくらいの覚悟が無ければ、あの情報屋とは付き合っていけないのだから。
「ちょっとまて! なら、リュウキ! おめーにも聞きたいことがある!」
クラインは、話題逸らしをするかの様に、リュウキに指を突きつけた。『話題逸らしたな……?』 と言おうと思ったが、それを止める。少しだけ、クラインの言う『聞きたい事』が気になったから。
「………?」
「アルゴの情報だ! キリトのヤツ以外にも、オレはリュウキ、お前の事もアルゴから聞こうと思ったんだ。だが、なんでお前の情報だけ極端に無いんだよ!」
突然、クラインがそう叫ぶように聞いていた。
確かにそれに関してはキリトも不思議に思っていた事だ。だけど、売ってない理由を直接本人に聞く。……そんな事をしたら、リュウキの情報を買おうとしている。と言う事があからさまにバレてしまい、あまり良い印象を与えない、寧ろ悪い印象しか無いだろう。
リュウキは、クライン問に、とりあえず答えず苦笑いをしていた。横で訊いていたキリトも同様に。
――……良くも悪くも、真っ直ぐで単純。
それが、この男の良い所なのかもしれない。とも リュウキとキリトは思っていたのだった。
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