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SAO――とある奇術師は閉ざされた世界にて――

作者:亜流科那
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一章 四話 とある妖精の激昂

「何やってるんですか?」

二度目の質問。

取り敢えず俺が剣を降り下ろすのを止めたため、ある程度冷静に状況を把握したのだろう、多少怒気が混じっている。

が、弱い。

「何って、レッド狩りだけど?」
おどけたように言う俺に反応して、圧力が強まる。

本格的に怒らせちまったか。

ああ、でも元がかわいいからにらんでもあんまし怖くないんだよな。

などと考えていると突然、俺を取り囲んでいた圧力が霧散した。

不思議に思っていると、衝撃の一言。

「・・・・先輩?」

はい?

いつの間にか気絶していた足元の男が、ドサリと崩れ落ちた。






”蒼の妖精”フェイトと言えば、SAO二十指に入る有名人だ。

このゲームでは珍しい、美人・・・・というよりはかわいい系の女プレイヤーであり、攻略組の中でもそれなりの実力を持っている。
俺と同じく敏捷極振りのステータスで敵を翻弄するその姿から、妖精の名がついたという。

その童顔によって、ロリコン層から絶大な支持を得る彼女は、当然のように新聞などにもよくでるため、俺も顔を知っているのだが、

「”奇術師”ラークさんですよね!」
”奇術師”・・・俺の昔の通り名だ。
「・・・そうだけど」
「やっぱり!」

「・・・俺はあんたを後輩に持った覚えはないんだが」
「それはそうですよ。だってこれ初対面ですし。」

なんだそりゃ。
でもま、これで彼女の勘違いが確定したな。俺は名前も知らない女子の後輩に知られているようなアイドル体質ではない。

「祭居中学校ですよね!”サーカスの息子”って、結構有名だったんですよ~!」

・・・・俺だ。俺だな。

つか、あっちのことはSAO内ではご法度だろ。

ま、なつかれても面倒だ。

「人違いだろ。」
「え、でも、奇術師ですよね。」
いったい世界に何人サーカスの息子がいると思ってんだ。

つか、

「今の俺が”奇術師”に見えるかよ。」
言って、足元の男を指差す。

思い出したように怒気が迫ってくる。

つか、先輩に会ったくらいで忘れるか?フツー

「でも、殺してないんですよね」
「いや、三人殺したよ?」
「・・・ッ!」

見開いた目が、すぐに細まる。小さな手が、短剣に伸びる。

おお怖い。

「この人たちは・・・ッ」
怒りに震える唇も、俺をビビらせるには足りない。

「へえ、もしかしてこいつらと知り合い?」
「だったらどうしたんですか」
「いやさ、ちょっとこいつらのこと教えてくれないかなーと」
「教えると思います?」

あー、むりそう。

「じゃ、いいや。またいつか会おうよ」
「待ってください」
その場を去ろうとする俺を、声が留める。

「何でこんなことするんですか?」
それは、今日この場のみのことというよりは、”罪人殺し”としての俺に聞いているようだった。

「んー、なぜなら、そこにレッドがいるから」
「ふざけないでください」
うん、もう一回ふざけたら短剣が飛んできそうだ。
よし、出来る限りの真面目な顔を・・・・・



「・・・・昔、レッドに大切な人を殺された」
思いがけずひび割れた声が出て、自分でも驚く。

「まだ小さくて、無邪気で、何も知らなかったのに・・・面白半分に、殺されたんだ!」

ああ、何でだろう。手のひらに爪が刺さって・・・・

クソ、そんな同情したような顔してんじゃねーよ。

「だから俺はレッドを殺すと決めた。目についた奴は全員。・・・奴等がやったように、面白半分になぁ!」

「だったらッ!」
蒼づくしの少女が叫んだ。

「だったらあなたはこの人達を殺しちゃいけなかった!この人達は・・・・!大切な人を失って、寂しかったんでしょう!?苦しかったんでしょう!?なら・・・」
「分かったような口きいてんじゃねえよ!!」

あー、何苛ついてんだ、俺。もっとクールに、いつもおどけてんのが俺のキャラだろが。

・・・けど、たまには衝動に身をまかせてみるのも悪くない・・・か。

「俺はもう昔の俺じゃねえんだ!もう、レッドを殺すくらい、何の抵抗もねーんだよ!」
「じゃあ、何でそんなにつらそうなんですか!」

ああ、いちいち勘にさわる。

・・・あ、良いこと思いついた。

多分この少女を激昂させることになるだろうが。

てか、俺、本格的にただの人殺しかもしれん。

「何を・・・?」

気絶した男の方へ歩いていく俺に、蒼の少女が疑問の声をあげる。
尋常じゃない空気を感じたのだろう。

「へッ」
俺はもう何も言わない。何でこんなことをしているのかも分からない。
思考停止状態のまま、剣を抜く。
それを軽く握った手を、男の真上に。もちろん刃は下。

「やめっ・・・!」
蒼いのが叫んでいるが、気にしない。
手を開いたら、剣はまっすぐ落ちていった。



サクッ、と。



音をたてて、剣は男に刺さる。

鈍く光る刃が、残っていた男のHPを消滅させた。

「は、はは、はははははは・・・・・は?」
放心したように笑っていた俺は、背筋に冷たいものを感じ、先ほどまでとは比べ物にならないプレッシャーの方向を恐る恐る向く。



一迅の蒼い風がふいた。
首を的確に狙った光速の突きを、足の力を抜いて、尻餅をつく形でなんとかかわす。

「ヒ、ヒィ」
自分のものとは思えない情けない悲鳴をあげつつ、慌て剣を拾う。

その間にも剣撃の嵐が俺を削っている。Hp表示はもうイエローに入っている。

絶え間ない衝撃に耐えつつ、立ち上がる。

どうにか反撃を・・・

「くっ!」

そんな暇、全く見当たらない!

前方からの斬撃をギリギリのところで受ける。と、次の瞬間には、もう背中に回り込まれて、ダメージを受けている。
右、後ろ、上、左・・・目で追うのもやっとの動き。

何で、何でだよっ、敏捷値だってレベルだって、たいした差はないはずなのに・・・・ッ

HPが赤に入った。周囲を切り裂く風の音、地面を蹴る靴の音が、スッと消え・・・

「・・・うぅ・・・・」
極限の集中状態の中で、俺は小さなうめき声を聞いた。

それが、少しずつボリュームを上げていって・・・

「うわああああああ!!」
泣いているのだと気づいた。

俺が、ではない。蒼の少女が、だ。

何でーー

俺は、ダラリと下がり、全く動かなくなった自身の両腕に驚愕する。

左腕が、飛ぶ。
視界端に部位破損の表示が点灯する。

今更ながらに逃げようと思って俺は、指一本動かなくなっていることに気づく。

視覚だけが極限までに解放された状態で、俺は一切抵抗できず、切り刻まれていく。

スローモーションのようにゆっくりと流れていく剣光と、涙が俺の目に焼き付く。

HP残り数ドット。
あと一撃で、俺は死ぬ。

その最後の一撃が、迫る。

クソ!動け····動けよ体!動かなきゃ、死ぬ・・・・!動・・・・・!



世界が、止まった。



真っ白な刃は、俺の首もとで止まっていた。

彼女の短剣が、手からこぼれた。

蒼の少女が、崩れるようにうずくまる。

「うああああああああ!!!」

洞窟を震わせる彼女の叫び意識の片隅にいれながら、俺は呆然と立ち尽くしていた。







「ああああっ!クソっ!」

俺は荒れていた。

まあ、そう客観的に見れているのだから、たいしたことはないのかもしれないが。

とりあえず、俺は五十一層主街区”アルゲード”にあるホームへ帰ってきていた。

「クソ、クソ」
言葉にしようがない苛つきを、部屋の隅にたまった新聞の束にぶつける。
広げて、ちぎる。丸めて、投げる。

「だあああああっ」
床に寝転がって、子供のようにバタバタしてみる。

「うるせえぞ!」
ボロアパートのゴツゴツしたオッサンが、薄い壁をガンガン叩いて怒鳴ってくる。

本来は、SAOの壁は音を通さないのだが、このボロアパートは例外だ。家賃がそこらのホームの二十倍は安い代わりに薄壁鍵無しが標準装備だ。

とりあえず、自暴自棄タイム終了。短けえな。

ま、あのオッサン怖えし。
この前なんか、注意を聞かなかっただけで、筋力だけで左足に部位破損引き起こしやがった。
・・・え?何を言いたいのか分からない?
・・・・・素手で足、引っこ抜きやがったんだよ!!!

ああもう!無言で叫んで両手を振り上げる。その勢いで後ろのベッドに仰向けに倒れこむ。

「目の前で殺したのは・・・やり過ぎたかな」

薄暗い部屋で、ポツリと呟く。

正直、あんなに泣かれるとは思っていなかった。

あの男は、少女にとってそんなに大事だったのだろうか。

「いや、ちょっと違った気がするよなぁ」
少女のあの叫びは、どちらかといえばアベンジャーズ全体に向けられたものだった気がする。
あくまで気がするだけだが。

それに、結局アベンジャーズの正体についても分からず仕舞いだ。
いや、本人達レッドと名乗っているのだから、レッドギルドではあるのだろうが、あのレッドの少なさ納得のいくものではない。


もしも、あいつらがレッドじゃなかったとしたら・・・・
俺はこれまで、復讐という動機で自分の行動を正当化してきた。
何人も、殺してきた。レッドなら良い。レッドなら殺しても気にする必要はない、と。
だがもし今回のように、レッドを殺したことで、悲しんだ人がいたとしたら。




「・・・・ああ、クソ」

閉じたまぶたから、何か熱いものがつたった気がした。 
 

 
後書き
作「いやー、やっときましたよ!」
ラーク「何がだよ」
「改心の兆し!ここまで長かったなぁ」
「まだ四話めだろ」
「その四話が長かった!作者みたいなキーボード恐怖症の人間にとったら、たった一話の投稿が寿命を半日削るようなものですから」
「じゃ、投稿止めればいいじゃねえか」
「うぐっ・・・・・それよりも君!」
「はいなんでしょー」
「気味良く殺られてたねー」
「うっせえ。なんでそんなに嬉しそうなんだよ」
「だってねえ、今まで殺しまくって作品の雰囲気を悪くしていた張本人が、あれだけ情けなく殺られてたらねぇ」
「うざってえな・・・・くらえ!”バーチカルタクティカル”!」
「フハハハ!単なるキャラクターが世界の創造主たる作者に勝てると思っているのか!昔一度食らったこの”B(物理)H(反射)シールド”の存在を忘れたか!」
「ぐおおおおお!・・・・クッソ!さっきの俺、バカだった!」


ラーク「流石オマケ、手抜きだな。」
作「うっせえやい。・・・・・えー、こんな感じで多分一番暗い筈のパートが終わりそうです。こっからは原作キャラバンバン使ってオリジナルしていきますので、御愛読、御感想の程、よろしくです!」 
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